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18話 ご褒美? 1

➖帰り道➖

 まあ仕方ない事かもしれないけどさ、名前を聞いておけばよかったって言っただけでその場にいた全員から説教はひどすぎる。緋華さんも伊月も僕のことを助けてくれなかった。しかも帰り道が右隣に緋華さんで左隣に伊月が居て周りを注意深く見ている。後ろには何故か部長さん、狗谷くん、妖狐さん、佐藤さんがいる。


 みんな心配しすぎではないでしょうか。あのまま神隠しにあってたかもしれないと思うとこの人数での護送? は正しいのかな。今日のことは母さん達にも連絡をするって言ってたから帰っても説教があるだろうから寄り道をしたいけど、部長さんが心を読めるから簡単に阻止されるから寄り道はやめておこう。


 それに今一人になったらまた禍神が現れる可能性があるから誰かと行動していた方がいいか。大人しく家に帰ってした方がいっか。左肩が怪我している訳だし、血が少しだけだけどまだ出ているみたいだからね。まず家に帰ったらいつも通りに手洗いうがいをしてからガーゼと包帯を変えなきゃいけないかな。


「君、血が出ているの? リュック持とうか?」

「・・・右で持っているので大丈夫です」

「そう」


 こういう時厄介なんだな。悪意があるわけではないから何も言わないけど、緋華さんから圧が凄くなるからできれば小声でお願いしたい。ブレザーがあるから血は隠せているからいいけどシャツになったら血がついているんだろうなぁ。隠れて洗わなきゃいけなくなった。


 母さん達をこれ以上心配させないためにもお風呂場で手洗いになるなこれは。禍神に今度会ったら血が出るくらいまでは噛まないように言っておこう。会えるかは分からないけど何も言わないよりはマシだろうからね。一人で色々と考えていたら家に着いた。


 家に着いてからは狗谷くんと佐藤さん、妖狐さんは自分の家へと帰って行ったが、残りの三人は家の中まで入って来た。緋華さんと伊月ならまだ分かるけどなんで部長さんまでもが入って来たからリビングまで案内して、着替えてくるから母さんに相手をお願いした。母さんは「任せて」と目を輝かせて言った。説教はなさそうなのでホッとした。


➖自宅(部屋)➖

 ブレザーを脱いでシャツを確認すると血が付いていた。漂につけていても取れるかが心配になるくらいには付いている。出血の量が意外にも多いけど左腕を動かさなければ大丈夫な筈。問題はお風呂で絶対に痛いから入りたくなくなってきた。


「雨歌くん、大丈夫なのこれ」

「緋華さんですか。大丈夫で――」

「何を固まっているの?」


 また禍神なのかと思ったが、本物の緋華さんみたいで安心した。あなたに驚いて固まっているんですよとは流石に言えないのでとりあえず「顔が近かったので」と言ってはみるもそこまでは近くないので緋華さんから「もっと近づこうか?」と言れた。遠慮しておくことにします。


「手伝おうっか?」

「お願いします」


 新しいのに替えるのにテープを使うがなかなか貼れなかったりするので緋華さんに手伝ってもらう方が僕も助かるけど……息を荒くするのはやめてほしいと思う。上半身裸になってしまったのを少し後悔している僕がいる。伊月に頼む方がよかったかもしれないから今からでも伊月を呼んでもらおうかな。


「・・・血舐めてもいい?」

「ダメです」

「だよね。痛くはないの?」


 緋華さんは包帯を巻きながら聞いてくるので「痛いですが我慢はできます」と言った。緋華さんはふざけていても……いや、血を舐めてもいいかを聞いたのはふざけてないか。こういうところが無ければ普通にいい人なのでもっと惚れていたんだけど、それじゃあ緋華さんとは言えないよね。


 包帯が巻き終わったみたいなので部屋着に着替えようとするも緋華さんが居て着替えれない。部屋から出てもらうように言ったが出て行ってはくれない。後ろを振り返るとスマホで動画を撮る準備もしているけど、少しの間だけ出て行ってくれないかな。少しあれをやってみるかな? 僕は恋愛漫画でみたことがあることを試すことにした。


「緋華さん少し屈んでください」

「うん、分かった」


 緋華さんは僕の言うとおりに屈んでくれて僕は少し緊張しながら頬にキスをして耳元で「少しの間出て行ってくれたらご褒美をあげますよ」と言う。顔が赤くならないように伊月が変なダンスをしている所を想像しながら緋華さんの反応を待つ。何も言ってこないし、動かないので効果はあったみたいだけど何をしてくるかが分からないので少し怖い。


「なんでも?」

「僕に出来る範囲でなら」

「それなら一度でいいから呼び捨てにしてね」


 僕が返事をする前に部屋から出て行った。ご褒美はそれでいいのかと思ったけど、緋華さん本人が望んでいることだし別にいっか。とは思うんだけど呼び捨てにするのは少し恥ずかしいし遠慮してしてしまう。伊月はなんとなくで呼び捨てにしているらしい。


 一度だけ呼び捨てにするだけなのに凄く緊張している僕がいた。とりあえず着替えをなんとか終わせて緋華さんを呼び部屋の中に入ってもらった。いつもより緋華さんはソワソワとした感じで中に入って来たので少し笑いそうになった。僕だけが緊張しているわけではないようだ。


「ひ……緋華」

「抱き着きたいけど今したらダメだよね」

「リビングに行きましょう緋華さん」


 そう言って僕は足早で部屋を出ようとする。部屋を出るときに緋華さんに顔を見られないようにするために俯きながら緋華さんの前を通るが右腕を掴まれた。絶対に耳まで赤くなってしまっているせいでバレたんだ。


「雨歌くん、こっち見て」

「いやです」

「どうして? 私も今顔真っ赤だし」


 右腕を離してくれはしたけど流石に緋華さんの顔を見ようとは思えないんだよ。慣れないことをして恥ずかしいのでここから一刻も早く出て落ち着きたいのに……緋華さんの声が子犬の悲しそうな鳴き声のように聞こえてしまって体が言うことを聞かない。誰か来てくれないかと少し心で願っているけど、こういう時は誰も来ないのがお決まりだからなぁ。


 僕が振り返った方が早く出れそうなので振り返ろうとした時にドアが勢いよく開き海兎が僕に目掛けて思いっきり抱き着いて来た。突然のことで受け身をとれずそのまま後ろに倒れ、肩に激痛が走った。少し声が出てしまって緋華さんと海兎を心配させてしまった。


「海兎くん」

「ごごごご、ごめんなさい」

「大丈夫だから」


 海兎に対して凄く怒っている緋華さんを落ち着かせながら、海兎に少しだけ説教をする。過度に怒るのも良くないし甘やかすのもダメだからしっかりするところはする。海兎は海兎なりに僕のことが心配で早く帰って来たそうだからあまり怒らないけど。


 みんなに心配されないようにしなきゃいけないな。他人より劣っているからそれを補うために何かをしなきゃダメだな。とりあえず今は海兎を自分の部屋に行かせて、緋華さんはリビングに行ってもらって僕はここに少しだけここに居ようか。


「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫ですから心配しないでください」


 海兎は自分の部屋に行ったが緋華さんは僕の部屋から出て行こうとはしなかった。それは個人の自由なので僕は何も言わずにベッドの枕元に座った。緋華さんは僕を見ながらずっと立っていた。しんどいだろうからとどこでもいいので座ってもらうように言ったが座らずに僕を見ている。


 その目は何かを言っているように見えて僕は視線を逸らすが緋華さんはジッと見てくる。少し経って緋華さんはベッドに腰を下ろした。僕と緋華さんの距離は一人分空いていて太ももをぽんぽんと叩いている。もしかしてここに頭を乗せろって言っているのではと思いつつも行動には移さない。


「雨歌くんにご褒美」

「はへぇ?」


 今日は緋華さんから何かをしてこないと思っていたので驚いた。僕の体を無理矢理に倒し頭を自分の太ももに乗せた。緋華さんは僕の頭を撫でながら少し悲しそうな雰囲気をしていた。上向きになった僕からでは顔が見えないがなんとなく分かった。何か僕がしたのかなと考えてみるも何も出てこない。出てくるなら謝れはしたが出てこないのであれば謝れない。

何に対して謝るかもわかってないのに謝っても反省を出来ていないのと同じだと思っているから。


「君はがんばってるからね」

「がんばってないですよ」

「怖いでしょ? 痛いでしょ?」


 緋華さんは「どんな君でも私は愛すから頼って」と言ってきた。痛くても我慢するのは普通だし、怖くても耐えるのも普通だからがんばってはいない。何も出来ないからしているのはがんばっているとは言えないからご褒美をもらう権利はないので起き上がろうとするもおでこを抑えられて上がれない。


 意地でもこのままで居させるつもりだろうから起き上がるのは諦めた。大人しく緋華さんの膝枕で休ませてもらおう。受験勉強を頑張ったからそのご褒美ってことにしておけば、まあ大丈夫かな。何が大丈夫なのかは分からないけど。


「眠くなってきた?」

「そうですね」

「起こすから少し寝たら?」


 緋華さんが起こしてくれるみたいなので少しだけ眠ることにした。瞼が重くなっていき意識が遠くなっていく中で何かを言っている緋華さんの声が聞こえた。


(私はイ―――――だよ)


 睡魔のせいなのと小声で言ったので最初と最後の言葉しか聞こえなかった。緋華さんに聞こうにも起きているのが限界みたいなのでそのまま目を閉じた。


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