16話 オカルト研究部の問題2
➖教室(1ー1)➖
「雨歌、お前授業が終わるたびに疲れていないか」
「僕の頭ではこれが限界なの」
「・・・テスト前には必ず勉強な。教えてやるから」
「はぁい」
問題は朝のこと以外では何も起きなかったのだけど、僕は授業中はノートに写すので精一杯で問題を一つも解けていなく伊月に解き方を教えてもらっていた。放課後になり狗谷くんが僕たちを呼びに来るまでは教室で待機しておくように言われたので今日の復習をしていた。妖狐さんも許可をもらったので一緒に行くことになり二人して伊月に勉強を教えてもらっている。
「不澤くんはそれでよく受かったね」
「コイツは物覚えが悪いだけで量をこなせばいけるからな」
伊月はそう言いながら僕の頭をペシペシと軽く叩きながら話している。少し鬱陶しいと思いながらも勉強を教えてもらっているので抵抗はしないでされるがままでいた。伊月は特別枠でいけたのにそれを使わなかったのは勿体ない。
緋華さんはどうしたんだろう。今日は一緒に行くって言ってたからてっきり教室に来るって思っていたんだけど、来ないな。迎えに行くべきかな? 連絡を入れて聞いてみよう。
「雨歌アレはどうした?」
「緋華さんなら今から連絡を入れようと思っていたけど」
「違う。そうじゃなくて、手紙のことだ」
「アレなら緋華さんに渡したよ」
お昼休みの時に緋華さんに見せたところ急いで盗られて処分しておくと言われた。僕的には別に持っていても邪魔なだけだったのでありがたいけど、何を焦っていたんだろう? 何も害がなかったから大丈夫だったのに。
お昼休みで伊月は後から合流してきたのでこのことを知らないでいた。言っておけばよかったと今になって後悔しているけど、何も気にしてないよね。
「まぁそれならいいけど、緋華がやった可能性はないのか?」
「ないかな。まず匂いが違うから」
二人が少し距離を置いたのは気のせいかな……気のせいってことにしておこう。緋華さんがイタズラで投げてきた可能性を考えて一応匂いを嗅いでみたけど、匂いは違かった。緋華さんの匂いはもう覚えているから嗅ぎ分けくらいならできる。探したりはできないけど。
「あの先輩だけじゃないの? おかしいの」
「雨歌もいかれているみたいだな」
僕から少し離れていったと思ったら、おかしいだのいかれているだの言ってる。伊月なら知っている筈なんだけどね、昔からマーキングとして自分の匂いを僕に付けていたことを。覚えないようにしたくても覚えてしまった。ここだけの話、中学三年の時に緋華さんの匂いがしなかったことで少し落ち着かなくなっていたことは誰にも話せない。
「待たせたな」
狗谷くんが教室に戻ってきたので僕達は荷物をまとめてオカルト研究部の部室に行く。向かっている際に緋華さんに連絡を入れていてすぐに返信が返ってきた。緋華さんは「向かっているところだから先に行ってて」と返してきていたので「狗谷くんに言っておきます」と返信だけした。
➖オカルト研究部➖
空き教室の一つを使わせてもらっているみたいなんだけど、看板が求人みたいになっていた。オカルト研究部「部員求む。アットホームな部活動!!」って書いてある。どこかの求人かな? と思えるのが部室の前においてあった。
「「「なにこれ」」」
三人して同じ反応をしてしまった。流石に伊月と妖狐さんもこれは予想外だったんだろうと思う。誰にも予想なんてできないとは思うけどさ、部員が集まらないのってこれも原因になっているのではないのかな。まあそれは後にしておくとして部室の中に入る。
「なあ、雨歌」
「伊月言わなくても分かるよ」
「ウチも二人の言いたいことはわかる」
書物や過去にまとめたであろう資料があちこちにちらかっていた。僕達で狗谷くんを見ると気まずいと思ったのか視線を逸らした。部室内を見渡してみるが部長の森前先輩の姿がなかった。不思議で首を傾げていると狗谷くんが説明してくれた。
「先輩は図書室で本を読み漁ってるから……不澤の婚約者さんにお願いした」
おそらく狗谷くんが、部長さんを呼びに行っている途中に緋華さんに出会ってお願いしたんだろう。それよりも緋華さんってちゃんと他の人とも喋ることに少し感激していた。僕やその周りの人達としか話しているところを見ていなかったので「緋華さんはコミュ力があまりないのでは?」と思っていた。
「まずはここの整理整頓していくぞ。狗谷は指示を出してくれ」
狗谷くんの指示で四人で書物や資料などを片付けてゆき、ある程度綺麗になった部室でゆっくりしながら緋華さんと部長さんを待つがくるのが遅い。伊月が我慢できなくなってしまったのか、電話を掛けなが
ら出て行ってしまった。取り残された僕たちはどうすれば?
「不澤くん、君って一体何者?」
「人間なので食べないでください。特に狗谷くん」
「え!? 俺なの?」
妖狐さんと僕が爆笑して狗谷くんは一人で「なんで笑っている?」って言って困惑していた。妖狐さんはいい人なのか、伊月が安心して膝枕されるわけだ。
ー伊月視点ー
緋華の奴が遅いので俺が電話を掛けることにした。緋華はいつもなら一度無視をしてから再度掛けてくる筈なのに2コールで出たので少し驚いたが気にしないようにしてからどこにいるかを聞き出してそこへと向かう。何故か焦っていたので少し違和感はあったが着いてから聞くことに。
➖中庭➖
図書室ではなく中庭にいる二人が見えたので急ぐ。近づいてくる俺に気づいて振り返ったは緋華がひどく冷たい目をしていたのでゾクッと寒気がした。いつも俺や他の奴に向けるような冷たい視線ではなく雨歌の元親に向けていたような視線だ。今にでも誰かを殺しそうな目をしている緋華は二度と見なくていいと思ったんだがな。
「何があった? 話せないのであればそれでいいが」
「伊月……どうしようもない」
「お前は雨歌の所にでも行ってこい」
「うん、わかった」
えらく素直に俺の言うことを聞いてくれたのはありがたい。いつもなら少しだけ駄々をこねるので面倒だった。雨歌に連絡を入れて緋華の今の状態を教えておいた。雨歌ならあの状態の緋華をなんとかできるので任せた。さてと、俺はこの先輩をどうにかしないとな。
「緋華をあそこまで出来るのは凄いですね」
「嫌味?」
「素直に凄いとは思いますよ」
嘘ではなく本心でそう思っている。緋華の奴、相当疲弊もしているみたいだしな。何があったらそうできるのかを教えてほしいくらいだ。そんなものには手を出す気はさらさらないが。
心を読む力で意識の奥まで観抜いたんだろうな。
「正解。よく分かった」
「アンタがさとり妖怪ってことを事前に知っていたからな」
「気持ち悪い?」
気持ち悪いな。流石に意識の奥まで観られるのは誰でも嫌だしな。アイツに何を言ったかは知らんし興味は今無くなった。観ているのではないのか? 目は閉じているってことは能力を使っていないってことか。
「聴こえている」
「あ~突然変異かアンタ」
0.0000001%の確率で種族の中に産まれるらしいが、ホントにいるとは思わなった。能力を抑える訓練を受けたとしても無理だなこれは。森前先輩は〈観る〉だけではなく〈聴く〉〈読みとる〉〈感じとる〉を種族の中で唯一できる存在になっているんだろうな。そういう存在は嫌われたり、不気味がられたりするな。
部長に問題があるわけだわな。こんなん惚れさせるとか無理だ。この人は三、四年しか両親から愛されていない筈だし、友達ができても気持ち悪がられてそれで終わりだ。雨歌には悪いがこれに関しては何も出来ないから諦めてもらうしか出来ないな。これだけは俺には絶対に無理だ、アイツの時みたいに。
「・・・君もそうなの?」
「んなわけないだろう。俺の家は普通だ」
「不澤雨歌を好きなの?」
考えていないことまで分かるのは厄介過ぎるな。雨歌に知られないのであれば誰にバレても別にいいが弱みを握られている感はある。それはそれでいいかもしれないな。
「話が長くなるかもしれないのであっちに座って話しましょう」
「一体何を考えているの?」
「使えばどうですか」
使われても問題ないようにすればいい話だから勝手に好きしてくれればいい。とりあえずベンチがある方へと先輩を誘導しながら、俺は何も危害を加えるつもりはないと証明するために両手を上げて座る。腹を見せてした方がよかったのかな? 腹くらい見せても恥ずかしくはないので言われれば見せよう。
「み、見せなくていい」
「そうですか。残念です」
「変態なの?」
おっと冷めた目で見られてしまった。数歩後ろに下がるのはやめていただけるとありがたいのですけども。先輩は俺に引きながら後ろ向きで下がっているためか、何かに足をとられて倒れていった。咄嗟のことで座っていた俺は反応が遅れて助けようとするが間に合わず先輩は頭をぶつけそうになる。
ふざけた感じでしようと思ったのが裏目に出て先輩に怪我をさせてしまったら雨歌に会わせる顔がないと、思って一か八か頭だけでも守ろうと先輩の方に滑り込みながら飛ぶとするも、すでに先輩は誰かに支えられていて俺はズッコケて顔面をうった。
「何をしているのさ、伊月」
「なんでいるんだよ」
「緋華さんに言われてきた」
あの状態の緋華を置いて来たのかコイツ。言われて来たって言っている訳だし元に戻ってからこっちに向かってきたのか。そんなことは後で確認するとして先輩は……顔を真っ赤にして頭から湯気が出て来ているんだが、何故? 雨歌に惚れたってことはないよな?
もし本当に惚れたのならこれで問題は解決したが俺は血を見たくないからやめてくれよ。緋華が怒り狂うのだけは見たくないからな。
「部長さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫」
「怪我をしている可能性があるので保健室に行きましょう。伊月案内よろしく」
はぁ仕方ないなと思いながら立ち上がり先頭を歩こうとした時に目に入ったけど、先輩をなんでお姫様抱っこしているんだ? 解釈違いなのでやめて欲しいのと緋華に見つかっても知らないぞ。先輩は雨歌の腕の中で縮こまっているように見えるし、気のせいかもしれないけど息荒くないかこの人
「伊月は大丈夫なの?」
「いける」
先頭に立ち歩きながら雨歌へ返事をするが一切後ろを見ないようにする。後ろを見たら、ダメだと本能が告げている。




