12話 生徒会室絶叫1
➖教室➖
午後の授業が終わり僕は疲れ果てていた。初日なのにもうすでに授業に追いつけていないし何を言っているのかが分からなかった。よくここに受かれたと心の底から思うよ。
「雨歌、そろそろ行くぞ」
「もう行くの? ウチ荷物持ってくるから待って」
「もう少し時間をずらしたらどうだ? 津堂」
「私もそう思います。五,六分しか待ってないじゃないですか」
梨奈姉さんからは少しだけ時間を潰して来てねと連絡が入ったのでこうして教室にいるんだけど……このメンツが集まったのかが分からない。狗谷くんは部活に入っているんだからそっちに行けばいいのにと思ってはいる。佐藤さんと妖狐さんに関してはなんでいるのかが全く分からない。
「妖狐は俺が呼んだ。他は勝手にいるだけだから無視するぞ」
妖狐さんを伊月が呼んだって珍しいことがあるんだね。仲が悪そうにしていたからてっきり嫌いな部類の人だと思っていたんだけどね。他の二人がいても多分大丈夫だとは思うけど、流石に連絡を入れていた方がいいかもしれないからいれておこっと。
「荷物取って来たよ」
「よし行くか」
妖狐さんが戻って来たタイミングで伊月が行こうと言うので打ちかけのままスマホをポケットに入れて席を立った瞬間片腕で抱え込まれた。一瞬何がおこったのかが分からなかったので伊月の顔を見ようと見上げると担がれている妖狐さんと目が合った。凄く嫌な予感がするので伊月に降ろすように言おうと声を出した。
「伊月やめ」
「えっ!? ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
言い終わる前に伊月が走り始めてしまった。しかも結構なスピードで走るもんだからすれ違う教師や生徒の人たちは驚いて廊下をあけてくれる。慣れてない人からすればヤバいのではないのかと思えるほどの速さなので心配になったから妖狐さんの方を見ると気絶していた。妖狐さん……走り出したとき叫んでたもんね、そりゃ気絶するよ。
➖生徒会室➖
伊月のおかげですぐに来れたけども妖狐さんは涙目で物凄く睨んでいる。伊月は睨まれているとは思ってないようで何やってるんだ? という顔をしていた。睨まれていることぐらいは気付いてあげようね。僕は慣れているからいいけど、妖狐さんみたいな慣れていない人にはやらないように言い聞かせておかなきゃ次も絶対にする。
「二人は振り切ったみたいだな」
振り切ったとしてもここの生徒なんだし、生徒会室には来れるとは思うよ。時々深く考えずに行動に移してから後悔することが昔からあるのにまだ直ってなかった。それに気付いた時の反応が面白いからそのままにしておいてもいいんだけどね。
「入るか」
「入るかじゃない。ウチがこんなにダメージを受けているのに無視するな」
「お前……妖狐のくせに弱ぇな」
「アンタのせいだろうが!!」
生徒会室の前で騒いでいるものだから役員の人が様子を見に来て事情を話したらそのまま中へ入れてくれた。ちなみに丁度狗谷くんと佐藤さんは到着して一緒に生徒会室に入った。
「ねぇ雨歌なんで人が増えているの?」
「それに関しては僕だって聞きたいよ」
狗谷くん達は梨奈姉さんに自己紹介して何故ここに来た理由も話していた。狗谷くんは「生徒会に少しだけ興味があったから」という理由で佐藤さんは狗谷くんについて来ただけと言うことだった。妖狐さんは伊月に一緒に来てくれとお願いしたから来てくれたらしい。
妖狐さんと仲良くなりすぎじゃない? 伊月ってあまりそういうことは言ったりしなかったのに妖狐さんに対してはしたってことはもしかして好意がある!? もしそうだったとしたら親友で幼馴染の僕が応援しなきゃな。よし、頑張ろ。
「来ちゃったものは仕方ないとしても事前に連絡を入れなさい」
「入力まで済ませてあったのに送るのを忘れてた」
「あんたって子は……」
今の凄くお母さんみたいだったなと心の中で呟く。梨奈姉さんに言ったら怒るよね。そういえば碧兄さんの姿がないけど、一体どこに居るんだろうとキョロキョロしていたら伊月が僕の肩を叩いて、書類の山を指差す。その方を見ると書類の隙間からゲッソリとした顔の碧兄さんが見えた。放課後になってから十数分しか経っていないのになんで疲れ切ってるの? それに他の役員さんはそんなに書類は多くないのに何故?
「あれね、教師や生徒の意見と苦情の書類を碧がまとめているの」
「中学のもあるからあの量になってるのか」
「それもそうなんだけどね」
「ゴ—――姐さんはしないので」
「出来ないことはないのよ」
梨奈姉さんはそう答えた後に、問題点をいくつか挙げていった。まず書類に目を通しても完璧に処理できない人の方が多い。次に教師に見られるのを嫌がる生徒がいるので生徒会役員でしか書類に目を通せない点。高校はこういう問題を処理できる生徒は居ても確実ではないのと、中学では処理を出来ない生徒が多いらしい。なので完璧で確実に処理ができる碧兄さんに仕事が行く。
「教育したら?」
「してはいるけど無理なの」
「なるほどな。ほらお前らも目を通せ」
伊月が取って来た書類に目を通すと……全く意味が分からなかった。内容が『学校にゲーム機を持ってきたら教師に没収されたので授業でゲームをする時間を作るように進言して』とわけの分からないものが書かれていた。碧兄さんがその生徒に提案を書いていた。『ならその学年のテストの平均点数を九十九点にしてそのまま落とさずにしたら進言しよう』と書かれていた。無理なことを提案して諦めさせるんだね。
「なあ不澤、これ深刻なんじゃないか?」
「どれ」
狗谷くん持っている書類は中学校の女生徒からのSOSで親からの虐待で苦しんでいているので助けてくださいという内容だった。流石にこれは生徒の役目ではなく教師に任せるべきではないのかなと思っていたけど、何やら判子が押してあり解決済みとあった。まさかと思い先ほどのを見るとこれも解決済みとあって裏には学年の平均点数が上がったと書かれていた。何この学校……怖い。
「あ! 懐かしいのですね。それアタシのなんです」
「この虐待のがですか」
「そうなんですよ。碧先輩には助けてもらいました」
伊月が持ってきたのってどれも過去のものなの? それに今喋りかけて来た女性先輩が二年生でこれを碧兄さんが解決したということは当時高一だった? おかしいのはこの学校だけでなくて碧兄さんもだったみたい。各々が確認をし終わったところで梨奈姉さんが僕らに指示を出す。
「アンタらはパソコンに過去の書類をまとめたものを作って欲しいの」
「姐さん、俺はできるが他はそうじゃない」
「伊月はそのまま一人でやってもらうから」
「ってこと二人1組になるのか」
伊月が周りのことを気遣いながら梨奈姉さんと話をする。伊月……姉さんのことをゴリラと言いかけて睨まれたからって姐さん呼びはちょっとどうかと思うけども姉さんが少し嬉しそうに髪の尻尾をブンブンと振っているように見えるからいっか。本人が気にしてないなら僕が何かを言うのはおかしいからね。などと考えていたら僕たちに付いてくれる先輩が決まったようだった。
狗谷くんにはゴリゴリマッチョマンの五三郎先輩が付き、佐藤さんには虐待を受けていたの先輩で名前が夢藍というらしい。あの先輩はいい人そうだけど少し距離を置こう。生徒会でしか関わることはないだろうけど。妖狐さんは伊月と同じで一人でするみたいだ。僕のペアはもちろん緋華さんだった。これでも婚約者だし当たり前だし、何も問題ないと思っていたけど、僕と隣の席になった途端に顔を真っ赤にして縮こまってしまった。いつもと違うので物凄くやりにくいし、何も教えてくれないどころか緋華さんが一人で終わらせて行っている。
「あの僕もやるので教えてくれません」
「私がやるから」
「雨歌、俺がやり方を教えるからこっち来い」
緋華さんはやり方を教えてくれないので伊月の方に行こうと立ったら腕を掴まれた。目でどこにも行かないでと訴えてくるので負けて座ってしまった。中学のときに伊月から緋華さんに甘いと言われて否定したけど今の出来事で分かったけど、僕は緋華さんに甘かったです。僕が悪かったから「あの時否定しておいて?」と言っているような顔で僕を見ないで。
(雨歌くんは恥ずかしくない?)
緋華さんがモジモジしながら小声で喋りかけてきた。何に恥ずかしがっているんだろうなこの人は。僕は何もしてないし緋華さんも何もしてなかったよね。生徒会の人たちが冷やかしてくるわけでもないから別に何も恥ずかしくなんてないので緋華さんが何に対して恥ずかしがっているのかが分からない。
「ほらお昼休みに屋上で」
お昼休みだけ屋上が開放されるみたいだったので緋華さんと二人だけでお弁当を食べていたのはもちろん覚えている。屋上は誰もいなくて二人っきりで談笑しながらお弁当を食べて恋人繋ぎをしてその勢いでキスをしたくらいだし何もしてな—――え? キスしたの? 思いっきりしてるじゃん何やってるのさ僕は。確かに緋華さんが恥ずかしがるわけだよ。自然な流れ過ぎて何もしてないと思ったけどしてた。
「その……あの時はすいません」
「全然大丈夫だよ。私も受け入れていた訳だし」
「婚約しているとはいえ、キスをしてしまうだなんて」
「う、雨歌? キスって接吻のことか」
伊月に聞かれたので頷いた瞬間に生徒会室の全員〈僕と緋華さんを除く〉が絶叫した。そこまで驚くことはないと思うけどなあ。書類の山で死にかけていた碧兄さんは僕たちの話を聞いて絶叫したあと気絶した。相当疲れていたんだなと思いつつ無視しておく。




