1話 入学1
➖自宅(部屋)➖
朝、アラームが鳴り響く。アラームを止め時間を確認したら四時半だったのでもう一眠りしようとした所で部屋のドアが開けられた。
「雨歌兄さん、起きて」
入ってきて僕の布団を引っ剥がしたのは義理の妹の不澤空だ。年は12歳で今年中学生になったばかりの足が八本ある女の子。
何故足が八本あるかと言われたらスキュラの血が入っているからなので、何もおかしな事はない。
この世界は異種族……ドワーフやエルフはいないがドラゴンや妖怪などの人外がいる。
何千年前から異種族との生活があったそうだから今の生きてる人達は何も違和感を感じずに生活を共にしている。何故だか転生者や転移者もいる。
「雨歌兄、まだ起きてこないのか?」
「海兎……私が雨歌兄さんを起こすって言ったでしょ」
義理の弟である海兎まで入ってきた。この二人は鬼とスキュラのハーフで双子で少しだけ仲が悪いので喧嘩をすることが多いので無視して部屋を出て、リビングに行くがパジャマのままだったことに気が付いた。
「おはよう」
と言いながらドアを開けリビングの中に入ろうとすると長女が凄い勢いで抱きついてこようとしたので避けた。
そのまま、壁に激突して痛みでのたうち回っている。
「雨歌、起きてきたか」
「おはよう、父さん」
義理の父は鬼で、バツ1の鬼である。再婚した際に今の母であるスキュラ族の涼音さんとの子が双子である空と海兎だ。
長女、次女、長男は鬼と人のハーフであるので人間より体は強靭で力が強い。
三女の空は母さんのスキュラの特徴が出ているが海兎は父さんの鬼の特徴が出ているので双子と言っても見分けは付く。
僕は家族とは血が繋がっていないのでただの人間で他人だったのだが、父さんが色々と頑張ってくれたみたいで僕が小学生四年の時に引き取られた。
「そういえば雨歌ちゃん」
「何? 母さん」
ちゃん付けはやめて欲しいと何度も言っているのだがやめてくれないからもう諦めた。
「緋華ちゃんと行くの?」
「いや、伊月と行くよ」
「緋華ちゃんと同じ学校に通えてよかったわね」
紫藤緋華はこれから通う学校の一つ先輩で僕のストーカーなのだ。ちなみに家族は公認済みなので通報をしてくれない。
例え僕が警察に相談したとしても父さんが息子の未来の嫁だと言いふらしている為に何の効果もない。
津堂伊月は僕の親友で緋華先輩とは種族は違えど親戚らしい。そして仲は悪くないがよくもないと本人達は言っている。
「緋華ちゃん、最近見ないわね。雨歌ちゃん何か知らない?」
「その……受験を頑張りたいから付きまとうのは我慢してってお願いした」
「そういうことね」
去年は受験生だったのでストーキングをされていたら集中出来ないから一年間は我慢してくれないかと頼んだら条件付きで承諾してくれた。
その条件と言うのは、学校がある日のお昼は一緒に食べる事、時々デートをすることだったので頼んだ側としてそれくらいならいいかなと思っていたが……外堀を埋められるのでは? と合格してから思い始めた。
「結婚はどうするんだ?」
「父さん、まだ早いよ」
「何を言っているんだ、高校卒業したら結婚をするのは一般的だぞ」
確かに高校卒業と同時に籍を入れる人は多いけど、一般的かどうかで言われると違うような気がする。
一人で盛り上がり始めた父さんを無視して席について朝食を食べようと箸を取った瞬間二方向から抱きつかれた。
「二人とも苦しいから離して」
先程まで喧嘩をしていたであろう空と海兎が凄い力で抱きついてきて苦しいのでそういうが、
「だってよ空」
「海兎に言ったに決まってるから」
両方に言ったのになんでどちらか片方だけに言ったと思ってるのかな? 懐いてくれたのは嬉しいけども度が過ぎてるんだよ。
「どうしたの、二人とも?」
「雨歌兄さんに抱きついてるの」
「同じく」
母さんが来たから救われると思っていたのだが、後ろから抱きついてきた。そうだった母さんは止める側ではなくやる側だったことを。
左に空、右に海兎、後ろに母さんというなんとも家族の仲がいい図が完成したが僕は抜け出そうと必死にもがくが力差があり過ぎてすぐにやめた。
「お邪魔しま……何やってんの?」
「伊月!! 助けて」
タイミングよく来た伊月に助けを求めはしたが家族の団欒を邪魔するわけにはいかないから遠慮しておくと言われた。親友で幼馴染に見捨てられ、目の前にある朝食を食べれずにいると今まで悶え苦しんでいた長女の夕夏姉さんが箸を取り僕の口の方へと持ってきた。
「ほら、あーん」
25歳にもなって弟に甘やかし過ぎだろと思いながら時間を見ると五時になっていた。入学式があるので早めに行かないといけないのに。
「母さん、空、海兎離してくれないなら今日の入学式に来ないで」
そういうと三人は離してくれて大人しく席に座って朝食を食べ始めた。無視されて夕夏姉さんはしょぼくれているので凄く大人しいからそのまましておくとする。
「ちゃんと起きれたんだな雨歌」
「空に布団を剥がされたから」
「ナイスだ、空ちゃん」
伊月と空はお互いに親指を立てている。僕が朝に弱いから起きてるかどうかを確認しに来てくれるのは正直に言ってありがたいが起きていない時に種族の特性を使うのはやめてほしい。
伊月は縊鬼と人間のハーフだが首を絞めるだけだが超能力が使える。正直に言ってズルいと思っている。
「雨歌、お前準備は出来てるんだろうな?」
伊月に言われて気が付いた……僕は準備を前もってしていなかったことに。時間に余裕があるからなんとかいけるだろう。
「さては準備してなかったな。ほら、さっさと支度をするぞ」
朝飯を食べ終わったのを見てから伊月に引き摺られて部屋に戻って準備をさせられた。
制服に着替えて、必要な物をリュックに入れて準備完了……なのだがどういう訳か伊月に写真を撮られている。
「なんで今撮ってるの?」
「緋華に送ろうかと」
「いや何故?」
「一年間我慢したんだからご褒美にな」
確かに一年間我慢はしてもらったからそれのくらいはいいかとはならんよ。そもそもストーカーだからね、我慢をして貰うために条件をのんだのに我慢をしてなかったらおかしいから。
「安心しろ、ちゃんと着替えているところも送ってやったから」
「当たり前だよ。普通は着替えているところを……今なんて?」
「着替えているところのも送った」
伊月携帯をすぐに奪い取り確認し送信を削除しようかと思ったが既に手遅れだった。
緋華先輩から保存した、ありがとう。という返信が来たのを見て諦め携帯を返した。
「どんまい」
いつか絶対に顔を殴ってやる。身長差が40cm近くあるので殴ろうとしても簡単に避けられてしまう。
そんな会話をしていたら準備が終わり家を出て学校に向かう。
「そんなに睨むなよ」
「絶対に殴るから」
「無理だろ、その身長で殴るのは」
僕の身長が143cmで伊月は182cmだったからなんとかすればいける。例えばジャンプしたりしゃがませたりしたらこっちの勝ち。
「身長がちっさくても緋華嫌いになったりしないから安心しろ」
「・・・そんなことはわかってるし、伊月はもう嫌い」
少しやり取りに疲れてきたので嫌いと言って、固まっている伊月放っておいて、学校へと歩き出そうとする。
伊月は僕に嫌いって言われて凹んでいるけどどうしてだろ?
保育園からの付き合いだから嫌われたくないって事なのかな?
「なあ、雨歌。嫌いってのは嘘だよな?」
「話しかけないで」
「本当にごめん。お詫びに今度勉強見てやるから」
勉強を見てくれるのは正直言って凄くありがたいんだけど、そんなので許したら僕が甘い奴だと思われてしまうので許さないでおこう。
「それじゃあダメか……なら行きつけの喫茶店の新作パフェを奢ってあげるから」
「・・・嫌いじゃないよ」
よほど嬉しかったのか、伊月が抱きついてきた。気恥ずかしいから誰かに助けて欲しいが通行人は暖かい目で見てくる。
出来れば助けて欲しかったと思いつつ伊月のことを剥がそうとしながら、学校に遅刻すると言う。
「遅刻は別にしてもいいんじゃね?」
「良くないから」
ここから徒歩だと30分はかかるから遅刻しないように早く出たのに……
「入学式で遅刻とかはしたくないから」
「それは確かにそうだな。そりゃよっと」
納得してくれたのは嬉しいけど、なんで僕はお姫様抱っこをされているのかな? 疑問に思っていると急に伊月が走り始めた。
ジタバタとするのは危ないのでそのまま大人しく運ばれる事にした。
➖学校➖
「学校に着いたぞ」
「ねぇ、人間の身体能力よりも上なの分かってる?」
「分かってるぞ」
分かってるならもう少しスピードを落としてくれてもよかったと思うけど、運んでくれたのでそんなことは言えない。
「クラス見に行こうぜ」
「クラス表ってもう出てるの?」
「もう出てるぞ」
伊月が指をさした方をみるとクラス表が掲示してあって新入生達がいた。かなりの数の生徒がいるからクラス表を見るのは困難だろうな。
僕小さいから見えないだろうしもう少しだけ待って置こうかな。
「見に行くぞ」
「僕は背が低いからもう少し待つよ」
「俺が見つけてやるから行くぞ」
腕を掴まれて引き摺られてしまった。僕が引き摺られるを見慣れていない人達が大勢いるから目を見開いているじゃんか。
驚いている人を無視してクラス表が掲示されている場所まで運ばれ、伊月が探しているので僕はぼーとしていた。
「何をぼーとしているんだよ」
「暇だから他の人を観察してた」
「楽しかったか?」
「全然」
そんなやりとりをしてクラスに向かう。そういえば同じクラスだったのかな? まぁ伊月について行けば大丈夫か。
1年生は2階の教室で普通組、スポーツ推薦組、特別組がミックスになっている。特別組に関してはよく分かっていない。
「今回も同じクラスで1組だったぞ」
幼稚園から同じクラスだったので新鮮味がないな。伊月は少し嬉しそうにしているのは気のせいかな。まあ友達が一緒のクラスなのは嬉しいのは分かる。
廊下の曲がり角で人とぶつかって僕はそのまま尻もちをついた。
「すいません」
「こちらこそすいま……えっ⁉」
すごく驚いているけど、どうしたんだろう。別にこの人と会ったことがないのにこの人は凄く驚いて固まっている。伊月がぶつかってしまった人を睨みながら、僕を立たせてくれた。
ぶつかった人は何かをブツブツ言いながら何かを考えているように顎に手を置いた。
「親友の不注意でぶつかってすまないな」
「いや、ボクの方も悪かった。怪我はしていないか?」
「大丈夫です」
そう答えるとまたもや伊月に手を引っ張られてその場を離れる。その際、小声で彼はなんで生きてると言ってきた。
なんのことだろうと思いながら伊月に教室に連れていかれた。