小枝に
小枝に、女性ものの手袋がはめられてある。綺麗に編まれた紅色の毛糸、そしてどこか儚げな小枝と相まって凛としてみえる。
〜
あまり笑わないが、美しくて、人を惹き付けては立ち去ってしまうような、そんな彼女が好きだった。
小枝に自分の手袋をはめた。穏やかな薄緑の。妙に丈夫そうな小枝のせいか、どこか手袋が情けない。図々しいとも言えるだろうか。
〜
あの人の元へ通う。
「 」 「そう…。」 彼女は笑わない。
あれからしばらく時が経ったが何も変わらない。爽やかな緑は丈夫な小枝とは相性がよかったのか、木偶の坊のように風に揺られている。
変わったことといえば、紅の毛糸が少しずつ、少しずつと綻んでいた。
〜
今日の彼女は一段と暗い。どうしたんだろう。いや、知らない。知らなくてもいい。
嫌われることを恐れ、彼女との間に溝ができないようにと考える。こわかった。なにかを誤魔化すかのように喋り続けた。
「 」 「そう…。」 彼女はまた、笑わない。
どっどど どどうど
やっとの思いで支えてきた小枝も今にも吹き飛ばされてしまいそう。綺麗だった紅の毛糸は乱れ、それは無常の心を持った花の散り際のようにも見え、より綺麗で美しく、それ以上の恐怖があった。
こんな綺麗に散らせてはいけない。最後ぐらいは…。全てを受け入れよう。気持ちも全て伝えよう。
今にも消えかけそうな紅を、今にも泣き出しそうな緑に結びつけた。
〜
彼女の病室へと急ぐ。
「・・・」 「そう…ありがと…」 彼女が少し、笑った気がした。
その晩は風が強く吹いた。
〜
彼女はもう、笑わなかった。