戦闘後の醍醐味?
何とか魔物達を倒し見事入団の試験に合格した大久保。さてドロップ品はと品定めしようとすると…?
初戦闘を何とか勝利し、余韻と興奮冷めぬなか、次に俺を待ち受けていた仕事は、ひたすらに亡骸の解剖だった。計5体の犬畜生共を遮二無二捌けとのこと。先ほどの戦闘で大分疲労が溜まっていたため休憩を要求したが、水と焼き菓子を口に放り込まれて休憩終了となった。ひどい。
「頑張れよ新入り。ファングの方は使い道なんざ魔石ぐらいだが、フレイマーは中々有用だ。特に爪はな。炎の元素を手軽に手に入るから便利なんだよ」
何でも、この魔物の体内に生成されている魔石や魔物の臓器、皮膚や爪などの器官が、これから行う魔導書の加筆とやらに必要とか。この魔導書の加筆や装飾によって、今俺が使用している呪文が強化されていくらしい。新たな魔導書作成や力を持つアーティファクト(防具みたいなやつ)を作る際にも必要なため、兎に角材料と魔石の回収が重要なのだ。なのだが…
「はぁ…はぁ…」
爺さんから貸してもらったナイフを使い、むせ返りそうな血と獣臭を浴びて解体しているのだが、これが中々辛い。独り身生活の中、料理はそこそこできるし、魚を下ろす程度なら造作もないが、動物の解剖。おまけに犬種の解体などやったわけがないので、もう適当だ。何となくで捌けているが、最初大いにしくじり、胃や胆嚢らしきものを傷つけ自ら悪臭を放つ事となり、再三悪臭を嗅いでしまった胃袋は遂に耐えられずリバース。
これ現実の俺は大丈夫なのだろうか。死因:ゲーム中の寝ゲロによる気道狭窄とかダーウィン賞獲得も待ったなしだろう。
「うしうし、だいぶ慣れてきたか。次はスケルトンにやらせてみな。他の魔法を使って解決するにしても、使い魔にさせるにしても、何処にどうあるかをしっかりと理解していないと効率は悪い。どの魔法で回収しようともな。一通り解体方法は理解しとけ。そうすりゃ他の魔物でも応用が利く」
「こいつ終わったらっ…そうしますよ。そういえば、なんでこんなに急かすんです?多少休憩した方が効率良いと思いますけどー」
「別に虐めてるわけじゃねぇぞ。魔石ってもんは心臓とセットでな。生きている時は興奮時石から液体となり体中に巡り活力となる。そして血液と共に石に戻り再度結晶化するんだ。だが死んだあとは素早く剝がさないとただ液体を血管に垂れ流しちまう。価値を見出すにはさっさと取り出すしかないんだよ」
ぐびりと酒を飲みつつ講釈をしてくれるが、つまりただ魔物を倒すだけでは強くなれないようだ。なんて世知辛いのだろう。ゲームをしているはずなのに気分は完全に金曜の残業である。
「んじゃ…召喚 スケルトン!」
来いと願い杖を振るい、先ほどと同様地面に黒い魔法陣が写し出され、そこから骸骨が湧き出てきた。
先ほどのボロボロだった状態とは打って変わってピカピカの白骨だ。両腕もきっちり付いている。
「よし交代ー!後はよろしくねスケさん!」
『……』
束の間の休憩を満喫するため、ポイっとナイフを明け渡し簡単に指示をしたが、なんと躊躇なく心臓めがけてぶっ刺してしまった。魔石は心臓の周辺にあるため、個体によって場所が変わる。今回は当たりを引いたようだ。見事に粉々である。
「ああああああああ!!」
「…まあこんな風になるからちゃんと指示しな」
その後は反省し適度に指示を行い、フレイマーも有効と言われた爪や(奇跡的に無事だった)魔石を回収。1個は犠牲になったが、計四個魔石が手に入った。次はこれらを使用していよいよ魔導書のグレードアップを行うらしい。
だがこの小さな体で色々やりすぎたせいか、或いはおっさんの体力ゲージの短さか。いよいよ疲労困憊になってきた。もうこれ以上は無理だろう。そうゴルさんに伝えると、俺を抱えて村まで戻ってくれた。中身おっさんがアル中の爺さんに抱えられる。かなりの地獄絵図だが、如何せん頭と体が思考を手放せと訴えて止まず、気が付けば深い眠りに落ちていった―
こうして初日の初プレイは、大半が移動と解体作業で幕を閉じたのである。