柱との契約
「ではこれから、魔物と戦って頂きます。ご準備してくださいね♪」
「はい受付さん!私戦ったこともありませんし、魔法も使ったことありませんよ!てか準備って何をするんです?」
「ふふっ焦らなくても大丈夫ですよ。これは新人研修ですので、あちらにいるゴルが戦闘時しっかりとあなたをサポートします。まずあなたが準備することは黒の柱への契約ですので。こちらへどうぞ」
突如受付さんから魔物と戦えと挑戦状を叩きつけられた時は驚いたが、なるほど考えてみたらこれチュートリアルじゃん。いや焦った。魔法の使い方も分からず、この身一つで戦うことになるのかと。
受付さんに呼びつけられて向かうと、カウンターの裏手側、床に小さな扉が付いていた。ぱっと見では物置程度にしか見えないが、扉が開くと階段が続いており、奥に2m前後はある高さの黒紫色の柱が祭られるように立っている。小さな祭壇のようだ。
「それでは柱の前に立ち、触れて下さい。心配しなくても、直ぐに終わりますからね」
何か念じる必要があったり、触れた瞬間激痛が走るなど、嫌なことばかり想像したせいか、不安が表情に出ていたのだろう。受付さんに窘められてしまった。えいやっと心の中で気合を込め、右手で柱に触れる。
触れた瞬間柱全体が仄かに緑色に光ったかと思うと、手で触れていた場所の近くに、【ソーニャ】という名前、そして
【彼ノ者ハ 死ニ絶エ 此処ニ眠リ 此処ヨリ 生レ落チル】
という物騒な言葉が浮かび上がる。しばらくして、まるで蛍の光のように淡く文字が柱から離れ、溶けるように消えていった。
「はい。これで柱との契約は結ばれました。これで何時お亡くなりになっても大丈夫ですよ」
「いや、どういうことですか?もうなんか色々と説明してほしいのですけれど!」
「今は取り合えず、死んでも大丈夫とだけ覚えていてください。講義は戦闘を終えてから。そのほうが効率が良いのです。特にあなた方は。ね」
ほらほらと背中を押され、爺さんの元まで戻ってくると、机で干し肉のような物を齧りつつ酒を呷っていた。顔色は一切変わっていないが、少し離れたこちらまでアルコール臭が漂ってくるあたり、相当度数が高い代物だろう。
「ゴル。先ほど伝えた事をもう忘れてしまったのかしら?【ソーニャ】ちゃんの大事な初陣なんですから、真面目に業務に取り組みなさい。じゃないとあなたの大事なコレクション。全部火樽に変えてしまうわよ」
「んなことしたらこの村全焼しちまうぞ。……ああ分かった分かった!ちょいとくらい休憩したって良いだろうに。そら新入り。付いてきな。村はずれで試験開始だ」
「あの、ゴルさん。最初も言ったんですけど、まだ私魔法使ったことありませんよ。どうやって戦うのですか…?」
村はずれに向かう途中。まあ後で説明されるだろうが、移動中もちょびちょび酒を飲んでいる爺さんを見てると不安で仕方がなく、気が付けば質問していた。
「あん?心配しなくてもお前さんなら大丈夫だよ。お前、最初に授かった呪文はなんだ?武具?それとも元素かね?」
「召喚呪文の(スケルトン)です」
「ほお召喚ねぇ。中々渋い選択だなぁ新入り。まあ基礎の魔法を使用することは簡単だ。ただ念じればいい。お前さんが出したいと思うところに、イメージを描いて強く願ってみろ。そうすりゃできる」
なるほど、以外と簡単な方法である。その後も話を聞いていると、召喚魔法は初期は杖を使用しなくとも、召喚する使い魔達の能力にそれほど作用しないらしい。杖を使用したほうが召喚位置の設定がしやすいくらいだ。逆に武具魔法や元素魔法など、戦闘関連にゴリゴリな魔法は杖の性能が非常に重要とか。
村の規模も小さなものなので、数十分程歩いたところで人影のない場所についた。村周辺は森林に覆われており、天候こそ良い天気なのだが、森に近いためか周囲は薄暗い。小さなころから思っていたが、己の身長程ある草むらが苦手だ。何かが飛び出してきそうで恐怖感があるし、特に今は小さな体でファンタジーな世界に入り込んでいる身。魔物が草むらから飛び出してきても何らおかしくいのだ。
正直、召喚などのNPCを味方に出すスキルが好きなのは、こういった冒険する際に恐怖感が紛れるからかもしれない。
「うし。じゃあ始めるぞ新入り。俺がこの近くの魔物を呼びつけるから、お前はその間に召喚しちまいな。さっきも言ったが、位置を決めて強く願えよ。いいか。魔法を使う原動力ってのはな、はっきりいって根性だ。やる気だ。んじゃやるぞ!」
「分かりました!やってみます!」
爺さんが何か道具を用いて準備している中。
色々な不安や興奮が混じり、バクバクと心臓が高鳴るのを感じていく。末端が冷え込むような感じもするし、体の芯が熱くなる感覚も同時にあった。
「新入り!そろそろ来るぞ!」
集中し、胸いっぱいに空気を吸い込んで
―召喚―!
と叫び、この日遂に魔法を発動した。