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召喚のみでやってきます!  作者: オスめこ
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ようやくスタート


真っ暗な状態が数秒程続き、その後ぱっと眩く光が目を覆った。

暫く光が目に焼き付き、焦点を当てるようにぼやけていた景色が整っていく。


そこはまさに中世ヨーロッパのような巨大な街並みーではなく、古ぼけた農村のような場所だった。

天気こそ快晴で気持ちの良い青空が広がるも。喧噪などは聞こえてこず、皆畑仕事に忙しいのか村の中には人はあまりおらずまばら。木造建築の薄汚れた一軒家が乱雑に立っており、道は恐らく整備などはせず、踏み固めて出来たのであろう、地面がむき出しでそこかしこに雑草が元気よく生えていた。しかし、そんな風景などどうでもよくなるほどの衝撃があった。


「すげぇ。マジですげぇ!VRここまできたんだなぁ!」


そう、まさしく入り込んでいるというか、匂いや日光から感じる暖かさなど、しっかりと景色と五感がリンクしているのだ。最初のPVやキャラクリなどは、興奮や焦りなどであまり気が付かなかった。というよりoffだったのだろうか。そう思えるほど、先ほどまでいた場所とはかけ離れたリアルさを感じる。

たとえるなら4DXの映画みたいな。いや、あれは確かに温度変化や水しぶきなど臨場感あふれる映画鑑賞だが、それよりも遥かに凌駕していると言っていい代物だろう。まさに入り込んでいる。


ひとしきりはしゃいだ後、村での重要な施設やこれからの方針、依頼受注の方法などをぶらぶらしながら確認していく。このゲーム、公式で上げている情報は驚くほど少なく、またUIも不親切極まりない。とりあえず舞台は用意したから好きに生きろとばかりに投げっぱなしにされていた。体力や魔力などは数値化などされておらず、自身がどれだけの体力があるかなどさっぱり分からない。適当に歩いているだけでも疲労は溜まってくるし、どれだけ呪文を唱えられるかなど試してみないと分からないのだ。


「いやこれおっさんの体力だとわりとキツイなぁ…?あれ、声が違う?」


未だ他者と交流はゼロ。発言など独り言をぽつぽつと呟くばかりだからか、自身の声が変わっているのにようやく気付いた。まあお察しの通り、こちらもおっさんの声帯から出るはずのない可愛げのある高めの声である。ボイチェンしたら案外近い物になるかもしれんが。


村の中に一つだけ他とは違う、石造りを基調としたどっしりとした建物があった。1戸建てで大きさこそ近くの民家に近いが、美しい魔女と杖が描かれている紋章が掲げられているあたり、ギルドのような物だろう。小さな身長の為かなおの事大きく見える建物に、少しだけビビりながらも扉を開いた。


「お邪魔しま~す…う"ぇっ」


扉を開けた瞬間


本当に今まで嗅いだ匂いなのかと疑問を思うほどに強烈な悪臭爆弾が鼻に突っ込まれた。

生ごみを一週間寝かしたような。おぞましい匂いが一気に身体に纏わりついてくる。よく吐かなかったとこの時ばかりは自身を褒めたっていいだろう。それぐらい臭い!


「・・・・・ッ!」


「あっはははははっ!坊主新米か?初めてか?ローチに殺虫霧を吹っかけたみてぇな反応するじぁねえか!」


急いで鼻を摘まんで我慢していると、近くに立っていた小柄な老人が爆笑しながら俺を招き入れてくれた。


「まったく本当に久しぶりだぜ。おらシャキッとしな坊主…いや嬢ちゃんかぁ?まあとにかく、匂いは消してやるよ≪クリア≫」


爺さんがちょいと杖を振ると、即座に悪臭は掻き消えていった。さっきまで本当にあったのかと思わんぐらいの即効性である。


「おお~すごい!消えてる。どうも御親切にありがとうございます!ちなみに性別はありません」


「ああ、エピセルかい。なるほどなるほど…まあよろしくな新入り。色々聞いてぇし、お前さんからも聞きたいことは山ほどあるだろうが、取り合えず着いてきな。先ずは契約からだ」


のしのしと目の前を歩いていく老人を追いかけつつ、改めて建物内を確認すると、外観よりも中は幾分広く感じた。酒場のようにテーブルがいくつか、奥まった位置にカウンターがあり、鉄の鍋やら奇妙に光るキノコ、俺の手よりもでかい爪みたいな素材など、色々なものが隅っこやテーブルに転がっていた。不思議なことに窓は2か所、それも小さく、多少の日光を入れるだけのはずなのに、室内は電気を使用しているかの如く明るく、それでいて光源らしきものは存在しなかった。


キョロキョロと周りを見つつカウンターまで到着すると、受付嬢のような方が羽ペンをサラサラと動かして、帳簿のような何かに書いている。これまた美人な方だ。フォーマルな衣装で清潔感があり、純金でできているのだろうか、動くたびに時折キラリと光るモノクルが、手練れた役人感あふれている。

しいて違和感を感じる部分を上げれば、もふっとしているところだろうか。いわゆるケモノ系の方で、キツネのような風貌をしていた。


「カスミナ。新人が迷い込んできたぞ。右も左もわからんようだから、契約して色々教えこんでくれや。ちょっくら黒酒飲んでくるからよ」


「新人研修はあなたの役目ですよ。ゴル。契約を終えるまでここに居て下さい!」


おほんと咳払いしつつ、ニコリと微笑みながらこちらと向き合った。あちらのほうが長身のため、見下ろされる形だが。


「こんにちは。可愛らしい魔法使いさん。【世界魔術師共同連盟機構・ワールドタンジー第81支店】へようこそいらっしゃいました。探究者として生きてゆく上で、我々の存在は必定と言ってもよいほど大きな存在です。あなたが何を成すのか。何を目指して生きてゆくかは存じ上げませんが、その手助けとなることは間違いありませんよ」


「えーとあの・・・まるで私がここに来て入団することが分かっているみたいに聞こえるのですけど・・・」


「ええ。分かっておりますよ。新たな魔術師の誕生とは、そういうものですから」


よく分からないが、確信めいた発言をされてしまった。色々書類を記入していくのかとちょっぴり憂鬱な気持ちになっていると、とんでもない発言を告げられる。




「ではこれから、魔物と戦って頂きます。ご準備してくださいね♪」






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