キャラクリ終了
「取り合えず開いてみるか…」
メニュー画面の端に小さく主張するメールアイコンにそっと触れると、もちろん差出人はさっきもあったばかりのAIエンプレスだった。丁寧な挨拶から始まり、デバイス登録時の契約事項や注意事項、基本的な使用方法の活用がつらつらと記入されており、(主に契約部分だが)とんでもない長文が記入されていた。
「おいおい、ここら辺は購入時にもう読んでいるっての」
若干イライラしつつ最期まで流し読むが、なんとこのアバターに関する事にはどこにも書かれていない。ありきたりなメッセージのみである。
「はあぁ!?なんだこれなんでっ…」
今度は時間をかけてゆっくり読み進めるが、それでも記載はなく、ただただ無駄な時間ばかりが流れてゆく。本当はこの時もっと集中して読むべきだったのだろう。だが目の前にぶら下げられたゲーム欲に勝てなかった。よせばいいのに気が付けば俺はメニューを閉じていた。
「…まあこういうのは後で変更とかできるだろ!一応MMOだし!」
能天気に考えてスタートしまったのである。いや、通常のMMORPGなら大半はキャラクリの変更は可能だし、課金や最悪新規アカウントで変更できるため、どうにでもなると踏んでいたのだ。このやる気に満ちた状態で、さっきのホームまで戻るのも億劫だったのも拍車をかけて、脳内の俺がGOサインを出していた。
「しかしまあ、顔どころか身体とかもいじるのは無理か。髪型も無理!?色もダメ…おおぅ」
このアバターを作った野郎、余程気に入っているのか、触れるなとばかりに些細な変更も出来ない。
本当は召喚を主としてやっていくので、骸骨やら影のあるイケメンなど悪役っぽいものを作りたかったのだが、仕方がない。やっていくしかないだろう。
このゲーム、人間以外にも、思いつく限りの様々な種族がいる。エルフやらクリーチャーやら、それこそ何でもだ。まさしくロールプレイには最高なので、本来なら皆思い思いに作るのだろうが、俺の見た目は華奢で可愛らしい女の子…ではなく、無性別だった。人間ではなく、エピセルという種族らしい。
「もういいか。んじゃその他決める事はー最初の魔法ね。召喚で」
こういったゲームで、一つのスキルだけで進んでいくのは間違いなくキツイだろう。これが火力だったり、回復一辺倒など求められる物がシンプルなスキルならいい。パーティーを汲んで弱点を補い、求められた役割を遂行するだけだ。しかし召喚。召喚である。今まで経験したゲームの大半で強スキルではなかった。器用貧乏か壁役、雑魚処理など、補助的な役割が多いのだ。しかもこのゲーム、攻略サイトもろくにない。そりゃ購入層がどう考えても限られている以上仕方がないのだが、どれが地雷なのかも分からないのだ。まあだからこそ気に入ったのだが。
「まさしく手探りだよなぁ。テンプレなんて考えなくていい。これこそ自由にできるってもんだ」
初期で貰える呪文は一つ。それ以上は購入したり、冒険して手に入れなければならない。俺は召喚呪文「スケルトン」を選んだ。最初に描いていた悪役ロールを忘れられなかったのだ。中二病くさいが、楽しんだもの勝ちだろう。恥など一切考えず選択する。
「お金は1000円で、ポーションが幾つか、あとは杖と、初期装備だけね。オッケー準備よし!」
確認できる事をぱぱぱっと終えて、いよいよキャラクリの終了を押す。
「あっそういえば名前…まあいいか。多分あいつがもう入力しているだろうし」
目の前にブラックホールじみた、黒い渦状の何かが広がっていき、そこに足を踏み入れながら思い出した。だが、きっとあいつは名前も決めているだろうと確信しており、それよりもいよいよ始まるゲームにドキドキしながら視界は真っ黒に染まっていった―