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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
98/706

98 二度あることは三度ある

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 オーレンとアニカがクローセに帰省して3日目の夜。


 昼は自警団、夜はオーレン達が村を警備することで村の平和は守られていた。昼の襲撃では多少の怪我人が出るものの、アニカの『治癒』で回復できないような怪我はなく大きな問題は起きてない。


 この3日間で、俺とアニカが互いに気付いたことを照らし合わせてみる。


「襲撃は夜の方が多いな」

「昼は3日で1回ペースなのに、夜は毎日来るもんね!多いときは3回来たし!」

「しかも夜の方が出現する数も多い」

「同じ方角から現れる!」

「まるで『巣』でもあるみたいだよな」


 魔物はどうやって生まれているのか?なぜ生まれてくるのか?という疑問には諸説ある。


 元々は魔神と呼ばれる存在が下僕として生み出したとか、はたまた魔王の使いであると云われてるらしい。

 どっちも今では存在が確認できない。その昔、勇者と呼ばれる存在が討伐して、世界を平和に導いたという物語が語り継がれている。それが事実なら魔神も魔王も存在していない現代に魔物が生まれ続けているのはなぜかという疑問が残る。


 現代で最も可能性が高いと言われている説は、迷宮(ダンジョン)内で生まれたのち、外界に飛び出しているというもの。理由は不明だけど、ダンジョン内で魔物が生まれるのは冒険者達も確認している事実で、最も有力な説。

 それと似たような説で、世界各地に【魔巣】がありそこで発生しているという説がある。要するに、魔物発生装置のようなものが存在していて破壊すれば魔物の発生も阻止できるという理屈だけど、実際に目にしたという話は聞かない。


「仮に魔巣が突然生まれたとして、私達に壊せるのかな?ダンジョンの方が可能性高いと思うけど!」

「どうだろうな?ただ、この辺りにダンジョンはないだろ。俺が知らないだけか?」


 過去にも聞いたことがない。子供の頃に聞いていたら「行ってみたい!」と駄々をこねていたはず。


「村から離れたとこには、あまり行ったことないから意外にあるかもよ。明日村長に訊いてみよう!」

「そうだな。魔物が増えた原因を探らないと状況は変わらない」

「撃退してる内に落ち着くのが1番だけどね!」


 話は終わり、今日も今日とて魔物の襲撃を阻止した。休憩中にアニカに訊いてみる。


「なぁ、アニカ」

「なに?」

「ウイカは…俺のことなにか言ってたか?」

「別に。なにも聞いてないけど?」

「そうか…」

「お姉ちゃんが気になるの?」

「いや。俺がなにかヘマしたって前に言ってたろ?理由はわからないけど謝らなきゃなと思って」

「わかってないのに謝られても困るだけだと思う。お姉ちゃんは優しいから、なにも言わないだろうけど」


 そうなんだよなぁ。ウイカは小さな頃から優しくて可憐なんだ。同年代の男達の憧れ。


「ウイカはアニカと違って優しいよな」

「その台詞は聞き捨てならんな。どういう意味よ?」

「そのままの意味だよ。ウォルトさんもきっとアニカよりウイカ派だろうな」

「なっ!な、な……」


 爆弾を放り込んでやった。


「優しくて美人のウイカに会ったりしたら、いくらウォルトさんでもヒゲが垂れ下がるかもしれない。『はぁ~。美人だニャ~』って顔するんじゃないか?」


 揶揄うような視線を送ってみる。


「ウォルトさんに限って…そんなことない…」

「そうか?ウォルトさんは大人の男だ。美人が好きだと思うぞ。一目惚れだって充分あり得るな」

「………」

「信じるか信じないかはお前次第だ。まぁ、2人は会うこともないだろうけど。俺はお前の恋が終わる瞬間を見たくないから、そうならないよう祈ってるし」

「………」


 アニカはなにも言わない。珍しくやり込めてやった。ふっ…とニヒルな笑みを浮かべ、いい気分のまま村を巡回しようと足を踏み出そうとした……ら、足が上手く動かずバランスを崩してうつ伏せに倒れ顔面を強かに地面に打ちつけた。


「ぐあっ…!痛ってぇ~。なんだ?」


 顔を手で押さえながら動かない自分の足を見ると、バッキバキに凍りついてる。


 まさか…!見上げると仁王立ちのアニカが拳を鳴らしてる。伝説の生き物『鬼』のような表情で俺を見下ろしていた。一瞬で背筋が凍る。


「アニカ…!ちょっと待てっ!!話を聞けっ!ウォルトさんはそんな男じゃないっ!冗談だって!」


 必死に弁明するけど、全く反応を示さずにジリジリと間合いを詰めてくる。


「俺が悪かったっ!謝るっ!」


 これはマジでヤバい!調子に乗りすぎた!


「なにが…?」

「え…?」

「なんで謝ってんの?さっきも言ったよね?理由もわからずに謝っても意味ないって。ちなみに、今から私がやることにも特に意味はない」


 ゆらり…と傀儡のような動きで俺の傍に移動したアニカは、うつ伏せの俺の背中にストンと座り込む。


「ぐふぅっ…!!」

「こうするのも久しぶりだよ…。スケ三郎さんを殴ったとき以来だ」


 誰だよ?!


「スケ三郎って誰?!なぁ、アニカ!」

「あの時はウォルトさんに止められたけど…今日は気が済むまで思う存分やれる…」

「アニカ、やめ…」


 村にはポコポコとなにかを殴りつける音と、声にならない呻きが響いた。



 ★



 翌朝。


 顔を腫らしたオーレンと、対照的にスッキリした表情のアニカは揃って村長の家を訪ねた。


「オーレン、どうしたんじゃその顔は?」


 心配そうに訊いてくる。


「『鬼』の女みたいなのが現れたんだよ」


 キッ!とアニカに睨まれる。事情を察してくれたのか村長はそれ以上追及することはなかった。


「2人してなんぞ聞きたいことでもあるのか?」

「そうなの。村長はこの辺にダンジョンがあるって聞いたことない?」

「ダンジョン?聞いたことないのぅ……いや、待てよ。昔、立ち寄った冒険者から聞いたことがあるぞい」

「詳しく教えてくれないか?」

「そうじゃな。確か…」


 村長が言うには東に結構歩いた場所にダンジョンがあるらしい。20年ほど前にクローセに立ち寄った冒険者が発見したらしいけど、少し覗いただけで深くは踏み込んでいないと。

 浅い階層に生息する魔物はさほど凶悪ではなかったらしい。特に誰が行くワケでもないからすっかり忘れてたみたいだ。


「ふ~ん。…ということは、そこから出現してる可能性もあるね」

「魔物が強くないとしても、誰も攻略しないダンジョンなら数は増える一方かもしれないな」

「様子を見に行ってもいいかも。どうする?」

「どのくらい遠いかだな…。村長、大体の距離はわかるのか?」

「確か…1時間半くらいと言ってた気がするがのう」

「往復で3時間か…。厳しいな…」

「ダンジョンに入って調べることを考えると、長時間村を空けることになる。襲撃されたときが怖いね」

「自警団に任せて行ってきたらどうじゃ?お前達が来る前でも、どうにか耐えておったんじゃぞ」

「う~ん…。そうは言ってももっと強い魔物が出たらと思うとなぁ」

「やっぱり村が心配だよ!このまましばらく様子を見よう!」

「そうだな。数も減っていくかもしれない」

「それで構わんぞい」


 話がまとまったところで、バキバキッ!となにかが壊れる音が響いた。


「な、なにっ?!」

「なんだっ!?」


 外から叫び声が聞こえる。


「うわぁぁ~!」

「なんだコイツはっ!?」

「きゃあぁぁ~!!」


 即座に反応した俺とアニカは、家を飛び出して声のした方へ疾走する。声のする場所に辿り着いた俺達の眼前には驚くべき光景が。


「なんで…コイツが!?」

「嘘でしょ…」


 粉々に破壊された村の柵と、そこから侵入しているムーンリングベアがいた。村人達は混乱して逃げ惑っている。


「はぁぁっ!!」


 剣を抜きながら魔物に向かって駆け出す。間合いに入るとすかさず斬りかかった。


「お前の相手はこっちだ!オラァァッ!!」

「今のうちに家に入って!絶対外に出ちゃダメ!早くっ!」


 交戦している内に、アニカが小さい子供や年寄りを誘導して避難させてくれる。俺が時間を稼がなくちゃならない。いや…。倒してやる!


「…3回目だぞ!俺達に恨みでもあんのかっ!村に居たときは出たことないくせによぉ!オラァァァッ!!」

「グルァァァ!!」

「オーレン!全員避難できた!私も手伝う!」

「よし!やるぞっ!」


 すかさずアニカも戦闘に加わる。ムーンリングベアは強い。コイツの討伐は俺達より格上の冒険者が受けるクエストだ。

 けど、俺達も以前より腕を上げて強くなってる。コイツの習性も覚えていて、まともに食らえば致命傷になる攻撃も落ち着いて捌く。間違いなく経験が生かさせてる。


 連携して倒しきってやる!村の皆を傷付けさせやしない!


「オラァァァ!!」

「このっ!『火炎』!」

「グアァァォ!ガアァッ!」


 一進一退の攻防が続く。確実にダメージを与えて弱っているのは間違いない。村人達も家の窓から闘いを見守ってくれてる。新人冒険者だけど、皆が不安になるような無様な闘いはできない。


 戦い続け、俺達の息も上がってきたけどさすがに魔物も息絶え絶え。さらに気合いを入れる。


「油断せず一気にいくぞ!」

「当然!」


 このままいけば倒せる。そう思ったのも束の間、バキバキッ!と離れた場所の柵が壊れた。


「…マジかよ」

「…そんな」


 壊れた柵に視線を向けると、村に侵入しようとするムーンリングベアが見えた。一見して目の前の個体より大きい。かなりの巨体だ。興奮しているのか大きな咆哮を上げた。


「オーレン!とりあえず、コイツを倒さないと!」


 アニカが氷結で魔物の動きを止める。


「わかってる!最後だ!オラァ!」

「ガアァァァァッ!ゴブッ!…ガァ…」


 渾身の一突きで喉を切り裂いた。絶命した魔物はズシンと倒れる。


「はぁ…はぁ…」


 動きすぎて息が苦しい。けど、そんなこと言ってられない。遠方のムーンリングベアは、のそりと村に侵入すると俺達に気付いて突進の構えをとる。


「来るぞっ!」

「わかってる!」


 まだ距離はある。呼吸を整えながら身構えた。魔物は巨体を縮めて力を溜め、爆発的な脚力で間合いを詰めてくる。


「はっや…!」


 倒した魔物より格段に速い。タイミングよく横に跳んで突進を躱した…はずだった。


「ぐぅっ…!!」

「きゃあぁぁ!!」


 魔物は前足を横に広げて躱した俺達を捉える。衝撃で吹き飛ばされた。地面を滑るようにして止まる。魔物も動きが止まった。


「…つぅっ!!」


 辛うじて腕と剣でガードしたけど…腕が嫌な音を立てた。動かすと鋭い痛みが襲う。おそらく骨が折れたかヒビが入ったな…。とんでもないパワーだ。


 アニカを見ると、ガードが間に合わずにまともに衝撃を受けたのか吹き飛んで動けずに横たわってる。


「アニカ!大丈夫かっ?!」


 大声で呼びかけても返事がない。気を失ってるのか。


「グルルルゥッ…!」


 魔物は鼻息荒く、倒れているアニカに照準を合わせた。そうはさせるかよ!


「お前の相手は…こっちだっ!」

「ガァァッ!!」


 間合いを詰めて斬りかかっても、剣を握る手に力が入らない。


「がはぁっ…!!ぶぇっ…」


 軽々と爪で弾かれて腹を殴り飛ばされた。吐血して鉄の味が口の中に広がる。寒気が走るような気持ち悪さ。危うく食べた物を戻しそうになる。


「グルルル……。ガァァッ!!」


 すぐにでも動きたい!…けど、痛みで動けない。こっちを一瞥した魔物はゆっくりアニカに近づいていく。


「やめろ…」


 そして…横たわるアニカに向かって前足を大きく振りかぶった。凶暴な爪がギラリと光る。


「やめろぉぉぉぉっ!!!」


 阻止する術はない。必死に吠えても身体が言うことをきかない。アニカを引き裂かんと爪が振り下ろされて思わず顔を背けた。


「グルァァァッ!!!」


 魔物は爪を振り下ろした。




 けれど…なんの音もしない。恐る恐る魔物に目を向けると、そこには振り下ろしたはずの前足を失った魔物の姿。そして…。


「あぁ……。うぁ…ぁ…っ!!」


 気を失ったままのアニカを大事そうに両腕に抱え、魔物と正面から対峙する白猫の獣人ウォルトさんの姿があった。

読んで頂きありがとうございます。

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