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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
96/706

96 クローセ村の現状

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 村長はゆっくり語る。


「外に誰もおらんかったじゃろ?」

「うん。まだ暗くもないのに誰もいなかった。なんで?」

「皆、寝とるんじゃよ」

「寝てる?こんな時間にか?」

「魔物が襲ってくると手紙に書いたじゃろ?昨日は夜中に襲撃されて、撃退するのに朝方までかかった。ここ最近は連日なんじゃ。夜の方が多いもんで昼間仕事にならん。皆の生活も完全に昼夜逆転しとる」

「皆、大丈夫なの?」

「今はなんとか大丈夫じゃ」

「どんな魔物なんだ?フォレストウルフとかじゃないのか?」


 ウルフくらいなら村の自警団は倒せる。俺達がいた頃からそうだった。


「色々じゃな。フォレストウルフもそうじゃが、その他にもいろんなのが来るわい」

「そうか…。大変だな…」

「襲撃が夜というのがいかん。数や強さは大したことなくても、視界も悪くて分が悪い。疲れが溜まって怪我人も出とる。せめて、男衆が何日かゆっくり休めたらと思って、お主らに頼んだんじゃが」


 アニカはスッと立ち上がる。


「事情はわかった!よし!オーレン、私達でやるよ!」

「そうだな。俺達が今日から夜の警備に就く。皆はゆっくり休むよう伝えてくれ」

「どんな手段で来たのか知らんが、お前達も疲れているだろうにすまんのう」

「なんで謝るの?クローセは私達の故郷だよ!頼ってくれて嬉しかったし!」

「アニカの言う通りだ。俺達は自分達の意志で帰ってきたから気にしないでくれ」

「そうか。そろそろ皆も起き出すじゃろう。それまでゆっくりするといい」


 立ち上がった村長は、お茶を淹れに台所へ向かう。戻ってくるまでに少し状況を整理してみよう。


「夜に襲撃があること自体は珍しくないよな」

「昔も結構あったよね。夜中は避難してた」

「あぁ。ただ毎日は異常だ。いくら弱い魔物でも、おちおち寝てられない。小さい子供だっている」

「魔物に目的があるとか?それがわかれば苦労しないよね」

「森に食料が不足してるのかもな。冬眠してるヤツがたまに村に来たことあるだろ?」

「あり得るけど、そうだとしてもなにか原因がありそうよね」

「「う~ん…」」


 そうこうしていると、村長がお茶を淹れて戻ってきた。


「とりあえずゆっくりせい。皆が起きるまでお主らの話を聞かせてもらおうかの」

「そうだな」

「しょうがないから教えてあげるよ!」

「アニカは偉そうじゃのぅ」


 フクーベでの冒険者生活について村長に話教える。ウォルトさんとの出会いの経緯や、今ではランクが1つ上がったこと。フクーベでの生活の様子まで。本当の祖父に話すかのように。


「そうか。最初の冒険でいきなり死にかけるとは…人生なにが起こるかわからんのぅ」

「でも、そのおかげで今の師匠に会えた。不幸中の幸いだったよ」

「魔法も剣も教えてくれるからね!私達の目標なんだよ!」

「ふむ。その内、師匠とやらをこの村に連れて来るといい。儂もお礼を言いたいからのぅ」

「村長は会ったら多分驚くな」

「間違いないね。あまりにも規格外だからね」

「なんじゃ?意味がわからんぞい」


 話に花を咲かせていると、玄関のドアが勢いよく開いた。


「なんじゃい?」

「村長!魔物だっ!ハウンドドッグ3匹だけど、まだみんな寝てる!」


 現れたのは俺達の幼馴染みであるトール。


「トール!俺達を連れて行け!」

「オーレン!?アニカもいるのか!いつ戻ってきたんだ?」

「話はあとだよ!とりあえず行こう!私達で退治する!」

「そうか!まだ柵の外だけど動き回ってんだ!」

「よし!」「行こう!」


 俺とアニカは、村長が淹れてくれたお茶をグイッと一気飲みして出て行こうとしたが……。


「「ブゥゥ~~ッ!!」」

「ぐはぁぁっ!!熱っつぅ~!!」


 あまりの熱さに、同時に村長の顔に吹き出した。熱湯にやられた村長は目を押さえて床で転げ回ってる。


「村長ごめん!けど熱すぎるだろ!常識考えろよ!」

「舌、火傷しちゃったよ!何事も丁度いいってのがあるんだからね!まったく!」

「お前ら、とにかく急げ!」


 若者3人は急いで家を出て行く。


 しばらくして、熱さが落ち着いたテムズが顔を拭きながらポツリと呟いた。


「あっつかったのぅ~。お茶は熱いからこそ美味いんじゃがなぁ…」




 俺達は全力疾走で魔物の現れた場所に向かう。到着すると、柵の隙間から顔を入れたり柵を爪で引っ搔いているフォレストウルフが見えた。


「フゥゥゥ!オラァッ!!」


 剣を抜きながら加速して、顔を出している魔物の頭部を剣で一突きした。眉間を貫かれ唸り声を上げる間もなく絶命する。

 仲間がやられたのに驚いたのか、残りの2匹は柵から離れて威嚇してくる。すかさずアニカが柵の間から両手を出して詠唱した。


『火炎』


 魔物に向かって放った魔法は躱されたけど、威嚇には充分だったのかしばらく唸り声を上げた後に森へ帰っていった。遅れてトールが到着する。


「はぁ…はぁ…。お前ら…走るの相当速くなってないか?」

「ん?そうか?普通だと思うけど」

「トール達は疲れてるからじゃない?」


 急ぎはしたけど、そんなことはないと思う。


「そうか…。あれ?魔物は?」

「1匹は倒したぞ。あとの2匹には逃げられた」

「この短時間で撃退したのか?」

「柵のおかげだよ!とりあえず、魔物の肉は回収しておこう!」

「そうだな。晩飯のおかずにするか」


 せっかく倒したからもったいない。魔物肉が美味いことを教えてくれたのはウォルトさん。


「お前らは…冒険者なんだな」

「なんだよ?急に」

「魔物の肉を食うのは抵抗あるんだよ」

「俺も最初はそうだった。けど、冒険中は貴重な食料になる。普通に美味いぞ」

「そうそう!現地調達できるしね!」

「そう言われたらそうか。…とりあえず2人ともお帰り」

「「ただいま」」


 笑顔で言葉を交わす。よく見ると、トールの身体には包帯が巻かれてる。


「トール。怪我の具合はいいのか?」

「大丈夫だ…と言いたいけど、地味に痛いぜ。噛まれたり引っ搔かれたりでな」

「ちょっと見せて」


 腕の包帯を解くと痛々しい傷が露わになる。アニカはトールに『治癒』を使う。傷が回復して綺麗になった。


「マジか…。もう治癒魔法も使えるようになったのかよ…」

「皆の傷も診るから案内して!」

「あぁ。そろそろ起きる頃だ。集会所へ行こう」

「集会所?」

「最近は夜の襲撃が続いてる。起きたら一旦集まって計画を練るんだよ」

「なるほど。じゃあ、怪我人が集まるってことね」

「そういうこと。だからそこで診てくれ」

「任せなさい!」


 近くの柵の出口から外に出て、魔物を回収したあと集会所へ向かう。集会所には直ぐに到着して、中からガヤガヤ声がする。トールが先陣を切って中に入った。

 

「お~い。みんな聞いてくれ~」


 皆の視線がトールに集まる。クローセ村は全員が家族のような関係で言葉遣いに忌憚がない。皆は元気そうだけどやっぱりあちこち怪我してる。


「応援が来てくれたんだ」


 俺とアニカが顔を出すと、「おぉ!」とどよめく男達。


「オーレンじゃないか!アニカも久しぶりだな!」

「おかえり。半年ぶりくらいか?元気そうじゃないか!」

「ちょっと見ない内に逞しくなった感じがするな。若者の成長は早い」


 初老、中年、青年から少年に至るまで、傷だらけの村の男達が笑顔で話し掛けてくる。中には俺とアニカの父親の姿もあった。


「ただいま!」

「みんな、お疲れ様」


 傷ついて…目の下にはクマができて身体がボロボロなのに笑顔で迎えてくれる。温かさに唇をグッと噛み締める。


「事情は村長とトールから聞いたよ。今日から俺とアニカが夜の警護に就く。だから、皆はゆっくり休んでくれ」

「オーレンの言う通り!ゆっくり休んで!」


 俺達の言葉にざわつく一同。「そうは言ってもなぁ…」と皆は困惑してる。俺の父親ミルコと、アニカの父親であるアーネスさんが口を開いた。


「気持ちは嬉しいが夜の警護は大変だ。せめて交替しながらじゃないと」

「お前達が冒険者になったといっても、まだ駆け出しだ。さすがに2人じゃ厳しい」


 他の男性陣も頷いてる。こんな状況で俺達の身を案じてくれるのは嬉しいけど、今はそんなこと言ってられない。


「心配してくれるのは有り難いけど、昼に仕事できなきゃ飯も食えないだろ?子供だっているんだ。その点、俺とアニカは違うから大丈夫」

「そうだよ!心配なら私達の闘いを見てほしい!皆が頼りないと判断したら言う通りにするから!」


 そこまで言うなら…と皆は俺達の実力を見て決めることにした。そうして、夜を迎えるまではアニカの『治癒』を受けることに。

 


「大したもんだ」

「魔法は凄いな」

 

 アニカの魔法に驚きながら、すっかり傷が治癒した村の面々。魔力回復薬を幾つか持参していから魔力に問題はない。

 そうこうしていると、いつの間にか村の女性陣も集会所に集まってきた。俺達の母親もいる。


「お帰り。アニカもオーレンも元気そうでよかったわ」

「ホントホント。みんな心配してたんだから」

「アニカ、ちょっと見ない内に綺麗になったんじゃない?オーレンもキリッとしたわね~」


 のんびりした雰囲気の女性陣。だが…俺は知っている。おっとりしてる女性が多いけど、村での生活は全てにおいて主導権を握っていて、本当に怖いのは女性陣だということを。

 

「オーレン達が警護してくれるなら心配いらないんじゃん?」

「そうね。任せていいかしら」


 アニカの母親ウィーさんと俺の母親ミシェルが揃って口を開く。


「おい、ミシェル。2人がいくら冒険者でもまだ駆け出しだぞ」

「オーレン達が大丈夫って言うならきっと大丈夫なのよ。ちょっと過保護なんじゃない?」

「むぅ…。そうは言ってもな…」

「そうそう!皆も疲れてるんだから素直に甘えなよ!キツいんでしょ?」

「ウィー。アニカも俺達に魔法を使って疲れてるんだぞ。俺達は逆に傷も治って…」

「傷は治っても疲労は休まなきゃとれないよ。だから休めって言ってくれてるんだから。魔法は万能じゃないでしょ?」

「むぅ…」


 ウィーおばさんの言う通りで、ウォルトさんのような魔導師なら疲労回復も可能だけど、今のアニカでは傷を治すのが精一杯。

 豪快な見た目の割に心配性で優しい男性陣と、それを諭す実は男勝りでおっとりした風の女性陣。クローセにいた頃、ずっと目にしてきた光景に思わず頬が緩む。


「とにかく今日は俺達の実力を見てくれ。その後決めてくれたらいい」

「もし大丈夫と思えたらすぐ休んでね!」


 窓から外を眺めると、夜の帳が降り始めていた。

読んで頂きありがとうございます。

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