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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
94/689

94 久しぶりのフクーベ

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 王都を後にしたウォルトは、足取り軽やかに街道を駆けて森の住み家を目指す。休息はとらず、往路の半分程度の時間でフクーベに到着した。

 真っ直ぐ森を突っ切って帰ってもよかったけど、たまにはフクーベにも顔を出そうと寄っていくことに決めた。


 まずはどこから訪ねよう。時間はまだ昼過ぎ。誰とも約束していないしなぁ…と考えたところでふと思いつく。


「ギルドに行ってみよう」


 フクーベに住んでいた頃から冒険者には無縁だと思っていたので、ギルドの場所は知ってるけど中に入ったことはない。

 もしかしたら、アニカ達やマードックに会えるかもしれないので、ひとまずギルドを目指す。場所は変わってないだろう。


 しばらく歩いてギルドに到着した。ちょっと緊張しながらギルドに入ると、いい雰囲気の建物だ。

 派手な装飾もなく、落ち着いた建物内には数名の冒険者らしき人達と受付の女性しか見当たらない。


「どうかしましたか?」


 ふんわりした髪の受付嬢に話かけられた。


「知り合いが来てないかと思ったんですが、いないみたいです」

「そうですか。ちなみに、どなたに御用ですか?」

「オーレンとアニカという冒険者なんですが」

「オーレン君達は、今朝クエストを受注しています。今頃はクエスト中じゃないかと」

「そうでしたか。ご丁寧にありがとうございます」


 頑張ってるんだな。会えなくて当然だけど、わかっただけでちょっと嬉しい。来てよかった。ペコリと礼をして、ギルドを出ようとすると、受付嬢に名前を訊かれたので答える。


「ウォルトといいます」

「もし今日ギルドに来たら伝えておきますね」

「よろしくお願いします」


 ギルドを後にする。さて、次はどこに行ってみようか。思案して選んだ場所は…。



 次にやってきたのは、サマラの働く衣料店アニマーレ。女性服の衣料店なので中に入るのを躊躇っていると、背後から声をかけられる。


「あれ?ウォルトさんじゃないですか?」


 声の主は以前サマラを訪ねたときに詰め寄ってきた同僚の1人。見覚えがある。


「お久しぶりです」

「もしかして、サマラちゃんに会いに?」

「はい。女性服の店なので中に入るのを躊躇ってしまって」

「気にしなくていいのに。けど、サマラちゃんは仕入れに行ってて今いないんですよ」

「そうでしたか。約束はしてないんです」

「戻ったら伝えておきますね」

「よろしくお願いします」


 いよいよ、行くところがなくなったな。


 手詰まりかと思ったけど、まだ行ってみたいところがあることに気付く。時間的にも丁度いいから聞き込みを開始する。目的地の所在は直ぐに判明したので、早速訪ねてみようと移動を開始する。



「う~ん…。ついてない」


 やってきたのは、【注文の多い料理店】。


 手持ちがあるので、ビスコさんへの挨拶を兼ねて食事して帰ろうと考えたけど、入口には『本日臨時休業』の札が掛けられている。


 本格的に手詰まりになり、しばらく悩んで出した結論は…。



 ー 1時間後 ー



 住み家に戻って『お茶はうみゃい!』と言わんばかりにお茶をすすっていた。


 やっぱり住み家は落ちつく。使い慣れた台所で湯を沸かし淹れた花茶を飲む。いつもの日常に幸せを感じるなぁ。


 よくよく考えると、皆は仕事をしてる。冒険、服飾、料理とそれぞれの仕事に誇りを持ってお金を稼いで暮らしているのに、仕事もしてないボクが友人の邪魔になるようなことをしちゃいけない。フクーベには、また余裕のあるとき会いに行けばいい。

 ちょっと寄ったついでに会えたらなんて自分の浅はかさを反省しつつ、友人達に影ながらエールを送った。



 ★



 その日の夕方。


 クエストを終えて、ギルドに報告に来たオーレンとアニカ。今日は遠出したこともあり疲れ切った。


「今日は疲れたな…」

「だね…」


 いつもはうるさ過ぎるくらい元気なアニカが大人しいくらい疲労が溜まってる。俺も今日は帰って飯食って寝るだけにしよう。


「さっと報告して家に戻ろうぜ」

「だね」


 ギルドに入って一目散に受付に向かう。対応してくれるのはエミリーさんだ。いつもオシャレで頼りになる綺麗なお姉さん。


「お疲れさま。クエスト終了?」

「はい。採取した素材です。確認お願いします」

「ちょっと待っててね」


 エミリーさんは依頼票の内容を確認しながら、素材をチェックしていく。


「依頼達成よ、お疲れさま…ってアニカちゃん疲れてるね」

「今日はめっちゃキツかったです」

「ゆっくり身体を休めてね。そういえば、2人に会いに来た人がいたわよ」

「俺達に?」

「誰だろ?」

「ウォルトって言ってたけど、知ってる?」


 名前を聞いた瞬間、エミリーさんの顔とほぼゼロ距離にアニカの顔があった。まるで瞬間移動したかのよう。まだ動ける元気があったのか。


「ホントですかっ?!ホントにウォルトさんが会いに来たんですか!?」

「え、えぇ…。白猫の優しそうな獣人だったけど…」


 アニカの気迫に気圧されるエミリーさん。吐息がモロにかかる距離。がっつり引いてる。


「それで?!ウォルトさんはなんと?!」

「来たことを伝えておくと言ったら、よろしくお願いします…って…」


 アニカは、ダン!と受付のテーブルを叩いた。


「なんて水くさいっ!!オーレン!私は探しに行ってくる!!」

「やめとけ。相当疲れてるだろ。もう帰ってるだろうし、フクーベに泊まってるならまた来るさ」

「黙らっしゃい!!フクーベで『女心がわからない男ダントツ1位』になったアンタに、私の気持ちがわかるはずないだろ!」

「嘘だろっ!??俺がフクーベでダントツなのかっ?!マジでっ?!」


 そんなバカなっ…!


「もはや、カネルラで1位と言っても過言じゃない!…そんなの今はどうでもいい!先に帰ってていいから!うおぉぉ~っ!!」


 疲れていることなど微塵も感じさせない走りで、ギルドを飛び出した。残された俺とエミリーさんは開いた口が塞がらない。


「凄い勢いだね…。オ ーレン君。ウォルトさんて…もしかしてアニカちゃんの…?」


 頷いて苦笑する。


「エミリーさんの想像通りです。アイツはウォルトさんのことになると周りが見えなくなってすぐ暴走しちゃうんですよ」

「そう。獣人なのに礼儀正しくて、優しそうな人だったね」

「ウォルトさんは俺達にとって恩人なんですよ」

「そうなのね。見つかるといいけど。…あと、入口のドアが壊れたみたいだから報酬から引いておくわね」

「はい…。すみません…」


 アニカが勢いよく飛び出したからドアの蝶番が壊れてる…。もう少し落ちついてほしいもんだ…。


 

 ★



 一方その頃。


 アニマーレに仕入れを終えたサマラが戻ってきた。女性とはいえ獣人であるサマラは、人間の何倍もの筋力を備えていて、仕入れや力作業は嬉々としてこなしている。


「ただいま戻りました!」

「おかえり~。お疲れさま。いつもありがとね」


 店長である兎の獣人チャミライさんが労ってくれる。


「いえいえ。しっかし今回は荷物が多かったですね」

「新作がたくさんあるのよ。ホントありがと。あっ、サマラちゃんにお客さんが来たよ」

「お客さんですか?」


 心当たりはないけど、誰かな?


「聞いて驚け~。ウォルトさんだよ。2時間くらい前だったかな?」

「そうですか~、わざわざウォルトがね~。それは会っておきたかった……………って、えぇ~!!」

「気付くの遅っ!」

「ホントですか!?」

「嘘ついてどうするのよ。そんな嘘ついたら後が怖いわ」

「確かに…。いくらチャミライさん相手でも手が出るかも」

「シャレにならんわ!!サマラちゃんの拳で撃沈する男達を何十人と見てきたんだからね!とりあえず伝えたよ」

「なにか言ってました?」

「約束してないのに来たって言ってた。来たことを伝えとくって言ったら、よろしくお願いしますって」

「なるほど」


 少しだけ思案する。


「今日はもう仕事終わって探しに行ってもいいよ?」

「きっと、なにかのついでに立ち寄っただけだと思います」

「まだフクーベにいるんじゃない?」

「もう帰ってますね。ウォルトの行動は大体読めるので」

「そっか。じゃあ、もうひと頑張りしようか」


 私は何事もなかったように仕事を再開した。




「「「お疲れさまでした~」」」


 閉店してそれぞれ帰路につく。私はウォルトのことを考えながら。


「ふんふふ~ん♪」


 思わず鼻歌を奏でちゃう。ウォルトが会いに来てくれて嬉しかった。タイミングが合わずに会えなかったけど、その気持ちが凄く嬉しい。

 フクーベにいい思い出がないはず。私がウォルトの立場なら訪れたくもない。でも、私情を抜きにして会いに来てくれた。


 多分会いに来たのは私だけじゃない。アニカやマードックにも会いに来たはず。だって律儀だから。これは間違いない。

 会えなかったら「迷惑になるから」って直ぐに帰ってるた。そうでなければ、ウォルトの性格からして伝言を頼むはず。何年の付き合いだと思ってるの♪


 思考を読み切ってご機嫌で街を歩いていると、汗だくになって肩で息をしながら聞き込みをしてる女の子がいた。少し前に知り合ったアニカだ。


 少し進んでは街ゆく人に話し掛けて、丁寧に礼をしてはまた次の人に訊く行為を繰り返してる。


 まさか…ウォルトを探してるの?アニカの元へ小走りで向かう。膝に手をついて、肩で息をしてる。


「アニカ」

「はぁっ…はぁっ……サマラさん!お久しぶりです!」

「久しぶりだね…。どうしたの?」

「人をっ…探しててっ…!会いに…来てくれたみたいなんですけどっ…会えなくて…。まだフクーベにいるかもと思ってっ…!」


 笑ってるけど、呼吸が乱れて汗の量も尋常じゃない。無理してるように見える。


「疲れてるんじゃないの?無理はダメだよ」

「大丈夫です!その人に会えたら疲れも吹き飛ぶのでっ!」


 ふらっとバランスを崩して倒れそうになった。素早く身体を支える。


「今日はやめよう。その人も、自分を捜してアニカが倒れたら悲しむよ」


 ウォルトは獣人とは思えない気遣いをする。自分がこなきゃよかったって思う。


「でも…」

「自分が会いに行かなければよかったって自分を責めるんじゃないかな?気にして、さもう会いに来てくれなくなるかも。そんな優しい人なんじゃない?」

「…そう…かもしれません。それは…嫌です…」

「今日会えなかった分の気持ちも次に会うときに上乗せすればいいんだよ。それに…会いに来たことを素直に喜ぶだけで相手は嬉しいんじゃないかな?今度教えてあげれば?」


 凄く喜んでくれるから。


「そう…ですね。楽しみは次に取っておきます!」

「うん。それがいい」

「あっ!そういえば、この間教えてもらった服で会ってきました」

「おっ!どうだった?」

「バッチリでした!ドキッとしたって言ってもらえたんです!サマラさんのおかげです!ありがとうございました!」


 やっぱりね!よかったぁ!


「どういたしまして。自信はあったけど、ホッとした~」

「そうだ!お礼もしたいですし、よかったら今から食事でも行きませんか?」

「私はいいけど、アニカは疲れてるんじゃない?今度でもいいよ?」

「いえ!大丈夫です!」

「でもね…」


 苦笑してアニカの服を指差す。


「汗が凄いからゆっくりお風呂に入って休んだほうがいいよ。また今度にしよう」

「確かに…。じゃあ、また今度よろしくお願いします!」

「そんなに疲れてて1人で帰れる?家まで送ろうか?私も話したいし」

「いいんですか?私は嬉しいですけど、結構距離ありますよ?」


 場所を聞いて、「帰り道の途中だから問題ないよ」と伝える。ホントは逆だけどね。心配だから。


 その後、連れ立って仲良く会話しながら帰っていたら、あっという間にアニカの家に到着した。


「今日はありがとうございました!食事行きましょうね!」

「うん。楽しみにしてる」


 互いに笑顔で手を振りながら、アニカは家に入っていく。ドアが閉まるまで見届けて、ふぅ…と溜息をついた。


 私は大事なことを忘れてた…。アニカに教えられたなぁ…。長い付き合いで、ウォルトのことを誰よりも理解してる自信がある。多分本人より私の方が知ってる。

 だから優越感に浸ってたのかもしれない。今回も『帰ったことすら私はわかってるよ♪』と余裕すら感じてた。


 でも、アニカは違った。会えるかもわからないウォルトをずっと捜してた。まだ、街にいるかもしれない。ただ会いたいという一心で。


 疲れた身体に鞭打って、倒れそうになるまで探してた。ひたむきな行動に動揺して、心打たれたよ。

 会えない時間が長かったからかな…って、言い訳だね。多少会えなくても、今まで待ち続けた時間に比べればなんてことないと思ってた。


 アニカに負けてられない!私も初心を忘れないようにしないと!

 気合いを入れ直して、可愛い友人でありライバルでもあるアニカに感謝しつつ帰路につく。


 心は穏やかに、けれど闘志を燃やしながら。

読んで頂きありがとうございます。

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