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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
91/706

91 しばしの別れ

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 その後、慰労会は滞りなく終了した。リスティア達は帰る時間を迎え、辺りが暗くなったことと来てくれたお礼を兼ねて城まで同行することに。



「じゃあ、行こうか。ダナンさん、よろしくお願いします」

「お任せ下さい」


 眠ってしまったテラさんの介抱を任せて出発する。


「相談もなくダナンさんを誘ってよかったか?」

「気にしないで下さい。ダナンさんにとっていい話だと思いました」

「それならいいんだが」

「ウォルトはこうなるって思ってたんじゃないの?」


 隣を歩くリスティアが見上げてくる。「そうだね」と頷いた。リスティアの要望で手を繋いで歩いている。リスティアだと気付く王都民も誰も気にしない。誰とでもこうして歩いてるのかな。


「騎士団の皆さんと談笑してるのを見て、やっぱり騎士の輪の中にいるのが似合うと思った。表情は識別できないけど生き生きしてる気がしたんだ」

「ダナンさんは、実力もそうですが話しても教官のようで頼れる方です。だから団長も誘われたんでしょうけど」


 アイリスさんの言う通りだと思う。


「騎士団は、指導者と団員ともに優秀な人材を確保していかねば後進が育たない。世は平和でも騎士団は常に精強でなくてはならん。…しかし、ウォルトに訊きたい。頼まれたとしても、ダナンさん達を昇天させることができるか?」


 確かに心境は複雑。それでもボクに任せてほしいと思っている。


「実は、一度2人をこの世に引き留めています。だから、昇天することを望むならボクがそうしたいんです」

「そうか。静かに結論を待とう」

「あとはダナン達に任せよう!無理強いはよくないしね」

「ところでウォルト。君は宮廷魔導師になるつもりはないか?その気があれば推薦したい」


 宮廷魔導師は、王族付きの魔導師集団で、様々な分野で高度な技量を持つカネルラでも選りすぐりの魔導師達。


「有り難いお誘いですが、ボクは魔導師ではないですし、動物の森から動くつもりはないんです」

「アイリスから聞いていたが一応。気が変わったら、いつでも王城を訪ねてくれ」

「即採用だからね!反対されたら私がお父様をぶん殴って地下牢に監禁するから!」


 リスティアは、小さな拳でシュッ!シュッ!と殴る素振りをする。


「国王様にそんなことしちゃダメだよ。でも、ありがとう。あり得ないだろうけど、ボクが誰かに仕えるのなら君の元がいい」


 リスティアは立ち止まり、目を見開いて見つめてくる。ただでさえ大きな瞳がさらに大きくなってる。


「ゴメン。親友だからって調子に乗り過ぎだね」


 獣人を王城で雇うなんて有り得ないことを言ってしまった。絵空事だ。


「違う!約束してほしいの!」

「約束?なにを?」

「もし…動物の森を離れて誰かに仕えてもいいと思ったら、私のところに来て!私は…カネルラにいないかもしれないけど…仕えてもらえるような人間になるから!」


 繋いだ小さな手がギュッと強く握られる。真剣な眼差しで語るリスティアに、微笑みを返して応える。


「その時は喜んでお世話になる。役に立たなくても直ぐに追い出さないでくれると助かるよ」

「そんなことしないよ!約束だよ!絶対!」

「約束する」

「料理も作ってくれる?」

「リスティアがいいならボクは大歓迎だよ」

「言質とったからね!よぉ~し!カネルラでもどこの国でもいいから女王になるぞぉ~!」


 笑顔で小さな拳を振り上げる。


「王女様…。貴女が言う冗談に聞こえません…」

「甘いよアイリス!冗談じゃないからね!」


 そうこうしていると王城に到着した。まだ少し遠い場所でリスティアがお願いする。


「ウォルト!また会おうね!最後にぎゅっとして!」

「いいよ。またね」


 しゃがんで抱擁を交わす。本当に小さな親友。


「いい!やっぱりモフモフ毛皮は気持ちいい!」

「獣人にとっては最高の褒め言葉だよ」


 今夜はアイリスさんとボバンさんも城に泊まるらしい。城門で姿が見えなくなるまで見送って帰路につく。




 テラさんの住居に戻ると、ダナンさんとカリーが待っていてくれた。テラさんは自室でぐっすり眠っているみたいだ。


「ダナンさん、今日はお疲れさまでした。カリーも」

「ヒヒン!」

「ウォルト殿こそ。…少し話しませんか?」

「はい」


 酔い覚ましにと台所を借りてお茶を淹れる。ダナンさんに酔い覚ましが必要かわからないけど細かいことは気にしない。

 

「ふぅ…。落ち着きますな。ほんの数日前まではこんなことになると思いもしませんでした」

「ボクもです。でも、王都に来てよかったです」


 テラさんやボバンさんと知り合えたし、親友や知人とも再会できた。来てよかったと思う。


「そうですな。貴方にはなんと御礼を申し上げればよいのか」

「言われるようなことはしてませんが?」

「貴方のおかげで王都を見ることができ、王女様や騎士団と交流し親族にも巡り会えた。あの時、貴方がこの世に引き留めてくれたからこそ今がある。いくら感謝しても足りないのです」


 ボクが思うにそうじゃない。


「逆です。カネルラを守ってくれた貴方達にボクが恩返しをしています。こちらこそまだ恩を返していません。ダナンさん達はもっと好きに生きていいと思います」


 笑顔で告げると、ダナンさんはしばらく黙ったあと意を決したように口を開く。


「私は…騎士団の教官になろうかと思っております。いや、是非やってみたい。後進に私の技能と我々の時代の騎士達の魂を少しでも継承できたなら、同僚も救われるような気がして。それに…テラも騎士になりたいと言っておりました。私は……見届けたいのです」

「素敵なことだと思います。手伝えることがあれば遠慮なく言って下さい。そうだ、カリーは?」

「カリーも共に王都に残ることになります。『ダナンはすぐ道に迷うし心配だから』と言われましてな。ハッハッハ!」

「ヒヒ~ン?」


 ダナンさんは優しくカリーを撫でる。どうやらカリーの真意とは違うと言いたそう。でも、残ることに異論はないのかな。


「しばしのお別れとなります。ただ、カリーの顔の件もあるので定期的にお邪魔することになるかと」

「いつでもお待ちしています。カリーもいつでも遊びに来ていいからね」

「ヒヒーン!ヒッヒーン☆」


『言われなくても行くよ!』と言ってるみたいだ。カリーは1人でも来てくれそう。


 明朝王城へと向かい返事をすることに決めたボクらは、その後しばらく今日までの思い出話に花を咲かせた。



 ★



 次の日の朝。


 外は小鳥もさえずる晴天に恵まれたけど、家主であるテラさんの表情はあいにくの曇天模様。飲み過ぎで二日酔いらしい。


「うぅ~!気持ち悪い…。今日は昼から仕事なのに…。あっ、ありがとう、ウォルトさん…。頂きます…」


 酔い覚ましのお茶を淹れてテラさんに手渡す。朝食を終えて綺麗になった食卓で会話する。


「はぁ~…すごく美味しい…。五臓六腑に染み渡るというか…」


 いつぞやのダナンさんと同じことを口にする。やっぱり家族だ。


「ときにテラ。再確認するが騎士になりたいというのは本気なのだな?」

「もちろん本気ですよぉ…。今日から、入団試験のために体力づくりと勉強を始めます…」

「そうか。私も王都に残ることに決めた。手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ」

「そうですか……って。えぇ~!?ダナンさん、それでいいの?」

「うむ。カリーと話し合って決めた。騎士団にお世話になるつもりだ。だから……ココで一緒に暮らしていいか?」


 テラさんは、お茶を食卓に置いて満面の笑みを浮かべる。


「当然ですよ!水くさいなぁ!あ、痛ぁ~!」


 大きな声を出して頭痛が襲ってきたのかな。テラさんは反応が大袈裟で、見ているだけで退屈しない。やっぱり母さんに似てると思う。アニカにも似てるから、いつか機会があれば会ってもらいたい。


「テラさん、ダナンさん、頑張って下さい。フクーベから応援してます」

「えっ!?ウォルトさん、フクーベに帰っちゃうんですか!?いったぁ~い!!」


 懲りないテラさんは頭を抱えてうずくまっている。面白いけど懲りないなぁ。


「ボクは森の住み家に戻ります。また来ることがあったら必ず顔を出しますので」

「城に住めばいいのに…。王女様の親友なんだから…」

「それだけじゃ無理ですよ。それに離れていても親友なのは変わりません」


 ダナンさんのことについても可能な限り尽力してくれるはず。彼女がいるから心強い。


「ウォルト殿にはやるべきことがある。無理強いはいかんぞ」

「わかりましたよ…。じゃあ、私が騎士になれたら手合わせして下さいね…」

「そんなことなら喜んで」


 テラさんには本当にお世話になった。少しでも恩返しになるなら断る理由はない。


「では、ウォルト殿。私はカリーと王城に向かってボバン殿と話をしてきます」

「ボクも同行していいですか?最後に挨拶しておきたいので」

「もちろんです。では向かいましょうか」


 テラさんが「いってらっしゃ~い」と小さな声で見送ってくれる。仕事も控えているので留守番だ。



 昨日の今日で会ってもらえるか不安だけど、とりあえず王城に向かい王城の門に辿り着くと直ぐに声をかけられた。


「ダナンさん!団長に用事ですか?」


 今日の守衛はトニーさんではないけど、ダナンさんを知っているということは、昨日の見学者の1人だろう。


「そうなのですが、面会できますかな?」

「ちょっと待ってて下さい!直ぐに訊いてきます!」


 一旦哨舎に入って直ぐに戻ってきた。今なら予定もなく会えそうだとのこと。わざわざ呼んできてくれるみたいだ。

 しばらく待っていると、ボバンさんが現れた。昨日の疲れが残っているのか少し覇気がない。


「ダナン殿。もしや、返事のためにお越し下さったのですか?」

「はい。是非とも騎士団で教官として働かせて頂きたいと思いまして」

「それは朗報です。では、今日中にも騎士団の責任者であるアグレオ王子にお伝えしておきます。結果は午後にでもお伝えできるかと思います。しばらくお待ち下さい」

「よろしくお願い致します」

「ウォルトもなにか用事があるのか?」

「最後の挨拶に伺いました。今日の内にフクーベに帰ろうと思ってます。色々とお世話になりました」


 ボバンさんからは多くのことを学んだ。本当に凄い騎士で、この人と闘技場で仕合できたことは一生の思い出になる。


「次は負けないよう修行を積んでおく。ところで、王女様達には会わなくていいのか?」

「昨日はかなり連れ回してしまいました。大人しくしておかないと国王様に叱られるのではと思って。なので、伝言をお願いしても?」

「構わない。俺から伝えておこう」


 荷物の中から封筒を取り出して、ボバンさんに手渡す。リスティアとアイリスさん宛に1通ずつ。


「伝言です。お手数ですがお願いします」

「確かに預かった。…ウォルト。必ずまた会おう。マードックにもよろしく伝えてくれ」

「わかりました。その時はよろしくお願いします」


 ガッチリと握手を交わす。ボバンさんの掌はゴツゴツしていて剣を握る騎士の掌。


 互いに笑みを湛えていつかの再会を約束した。

読んで頂きありがとうございます。

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