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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
90/690

90 慰労会と決意表明

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 ウォルトは充実した闘いを終えて安堵していた。


 リスティアとともに闘技場に戻ってきたボバンさんは、皆に元気な姿を見せる。すかさず、アイリスさんが駆け寄って声をかけた。


「団長。お疲れさまでした」

「すまんな。騎士団長の面目を保てず」

「いえ。存分に拝見しました」

「そう言ってくれると助かる」


 アイリスさんのあとに話しかける。


「ボバンさん。ありがとうございました」

「こちらこそ。君には驚かされっぱなしだった」

「身体はなんともないですか?」

「おかげさまで傷1つ残ってない。君は治癒師としても一流だな」

「とんでもないです。ボクはただの獣人です」

「俺は絶対にただの獣人に負けたりしない。いや、負けられない。君は強い。こんなことを言われても嬉しくないかもしれないが」

「いえ。ありがとうございます」


 …と、リスティアが口を開いた。


「ねぇ、ウォルト!今日はこのあとどうするの?」

「テラさんの家で慰労会を開いてもらうんだ。王都の食材を使って、料理を作らせてもらえるんだよ」

「ウォルトの料理!私も食べたい!」


 キラキラした目で見てくる。


「う~ん…。ボクも食べてもらいたいけど、リスティアは城に戻らないといけないんじゃないか?」


 騎士がいるとはいえ、王女が街を出歩いていることは普通じゃないはず。


「大丈夫だよ…!遅くなるって言ってあるし…!」


 目が泳いでるし、動揺の匂いを嗅ぎ取った。


「リスティア。嘘はダメだよ」

「許可をもらったら行ってもいいの?」

「テラさん。いいですか?」

「もちろんです!その時は、ボバンさんもアイリスさんも来て下さい。皆さんの慰労会ですから!ちなみに、城みたいに綺麗な家じゃないからそれでよければ!」


 ドンと拳で胸を叩くと、強く叩きすぎて咳き込んでいる…。おっちょこちょいだなぁ。


「じゃあ決まりだね!アイリス!ボバン!お父様に許可をもらわなきゃ!早く城に戻ろう!ウォルト、またね!」

「仰せのままに。では、また」

「ウォルトさん。ご機嫌よう」

「お疲れさまでした」


 住居の場所と時間を伝えて、笑顔で別れる。早速、食材を購入しに行こうと闘技場をあとにした。



 ★



 城へと戻る途中。リスティアはいつものごとく王都民から大人気。話しかけられ手を振り返し、丁寧に応えながら足取り軽く王城へと戻る。その後をついて歩く護衛騎士と化したアイリスとボバン。


「アイリス。ウォルトは獣人なのに料理も出来るのか?」

「宮廷料理人の作る料理と同等か、それ以上に美味しいと思います。王女様もご存知です」

「どこまで規格外な獣人なんだ。常識破りすぎるだろ」

「なので、王女様の気持ちはよく理解できます」


 団長がニヤつく。


「優しくて料理上手で強い魔導師。お前が惚れるワケだ」

「なっ…!?そ、そうですよ!なんだったんですか?!ウォルトさんに「どう思う?」って訊いたのは!」


 思い出して団長を責め立てる。途轍もなく恥ずかしかった。


「お前のことを美人で格好いいって言っただろう?褒められて文句があるのか?」


 とぼけた表情を見せる団長にイラッとしたけれど、話はまだ終わってない。


「そんなことを言ってるんじゃないです!変なことを訊いたらウォルトさんを困らせるでしょう!」

「俺は困らん」


 平然と言い放つ不遜な態度にかなりムカッ!ときた。そっちがその気なら…私も奥の手を出すことに決めた。


「開き直りましたね。わかりました。今度ポーラさんに言っておきます。団長に男性との仲をからかわれて本当に困っている。嫌がってもやめてくれない…と」

「お前っ…!!そんなことをアイツに言ったら俺がどうなるかっ…!」


 ポーラさんは団長の奥様。カネルラの元女性騎士で、幼少期から私の憧れる女性。普段はとても優しく慈愛に満ちているけれど、女性に対する酷い仕打ちや理不尽なことを決して許さず、怒らせるととんでもなく怖い。

 そして、騎士を引退した今でももの凄く強い。同じ女性騎士である私に目をかけてくれていて、娘のように可愛がってくれる偉大な先輩騎士。

 団長がこの世で最も恐れる人物だということくらい私でも知っているのだ。


「私は知りません。強く事実を述べるだけです」


 先程のお返しに平然と言い放つ。


「ぐぬぬぬっ…!」

「なにしてるの?早く行くよ!」

「了解しました」


 団長が耳打ちしてくる。


「また後で話す」

「私はポーラさんと話すだけなので、団長と話すことはありません」

「ぐぬぬぬぬぬっ…!」


 そうこうしていると城門に到着した。



 ★



 ナイデルとルイーナは、寝室でソファーに座り会話しながら寛いでいた。


 パタパタと聞き慣れた足音が聞こえてくる。


「帰ってきたようだな」


 勢いよく扉がバーン!と開いた。もはや馴染みの光景になりつつある。端から見ると、誰もこの部屋が国王の寝室だとは思わないだろう。開いた扉の前には、予想通り息を切らした愛娘が立っている。


「お父様、お母様、ご機嫌よう!ちょっと夜に街に外出したいの!じゃあね!」


 身を翻して部屋を出て行こうとする。


「ちょっと待て」


 リスティアの動きがピタリと止まる。


「やっぱり、勢いだけじゃ無理だよね…」とでも言いたげな顔をしているな。それはそうだろう。


「ダメだと言ったらどうする?」

「今日だけは…どうしても行きたいの!」


 俺の答えを待っている。いつもと違う熱い感情が見てとれた。


「…今日は特別だ。護衛は連れて行け。泊まりは許さん。わかったな。あと扉は閉めて…」

「ありがとう!ボバン達と行くの!お父様大好きっ!!」


 笑顔を見せて部屋を出ていった。


「扉は閉めていけと言ってるだろうに…」


 そっと扉を閉める。偉ぶるつもりはないが、娘の躾もできない国王ではいかんな。


 そんな俺の姿を見たルイーナは笑いを堪えきれないといった様子。結果、笑顔のルイーナを見て満足だ。



 ★



 食材を購入してテラの家に戻ってきたウォルトは、約束の時間までに準備を終えようと早速調理を開始する。


 テラさんに「手伝いますよ」と言われたけど、「今日は心労が大きかったでしょう」と断って1人で準備することに。


 料理は楽しいなぁ。決して1人で調理したいから断ったワケではない…。料理を並べ、約束の時間を迎えるタイミングで玄関のドアがノックされた。


 テラさんが向かうと直ぐにリスティアの声が聞こえた。


「テラ!来たよ!」

「お待ちしてました!どうぞ!」


 笑顔で招き入れる。既に準備していた料理を目にして、リスティアは大興奮。ボバンさんとアイリスさんも来てくれた。


「うわぁ~!久しぶりのウォルトの料理だ!美味しそう~!」

「確かに凄いな…」

「相変わらずですね」


 料理が全て出揃って、全員席に着いた。


「今夜は最高の闘いを繰り広げた4人の慰労会です!楽しんでいきましょう!乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

「ヒヒーン!」


 家主であるテラさんの乾杯の音頭で、慰労会は幕を開けた。


「むぅっ…美味いっ!アイリスに聞いていたがこれほどとは…。本職を凌ぐ味といっても過言ではない」

「美味しいぃ~!久しぶりに食べたけど、やっぱり美味しい!ウォルトは天才!」

「さらに腕を上げているような気がします。美味しいです」

「ウォルトさんは一家に1人いりますね!」


 口に合ってよかった。ちなみに、ダナンさんは食事が出来ないので、買ってきた酒をゆっくり嗜んでる。

 なぜ飲み物は大丈夫なのか?甲冑に水分は悪そうだけど、飲んでも漏れてこない不思議。酔うこともないだろう。生前の嗜好が受け継がれているのかな?


 談笑しながら慰労会は進む。ボバンさんとダナンさん、そしてテラさんの3人は一通り食事を終えて、別に作った肴をつまみながら落ち着いて酒を飲んでる。


「ウォルト、ちょっといいか」


 ボバンさんに話しかけられる。


「なんでしょう?」

「アイリスから聞いたが、俺の闘気を模倣したらしいな。なぜそんなことができる?」

「私も驚きましたぞ。ボバン殿の洗練された闘気も、貴方が模倣したことも。あの闘気は400年前には存在していません」

「魔法を習得しようとしてできるようになったとしか言い様がないです。闘気の模倣もたまたま上手くいっただけで」


 特別なことはなにもしてない。


「君の師匠か。さぞ高名な魔導師だろうな」

「いえ。おそらく無名ですし、本人曰く「魔導師じゃない」らしいです」

「魔導師じゃない?さすがにあり得ない」

「ボクも信じられませんが、誰からも呼ばれたことがないらしいです。だから自分は魔導師じゃないと言ってました」

「君が師匠超えを果たして悔しさ混じりに言ってるんじゃないのか?」

「絶対にないです。ボクは師匠の足元にも及びません」

「さっきも言ったが君は強い。謙遜しすぎだろう」

「私もそう思いますぞ」


 褒められて悪い気はしないけど、2人は揃って勘違いしてる。どう説明したら伝わるかな?


「たとえば、ボバンさんはボクの『火焔』をどう思いましたか?」

「凄まじい威力だった」

「ありがとうございます。アレが『火炎』なんです」

「どういう意味だ?」

「ボクの師匠ならあの炎を『火炎』で発現させることができます。もっと大きいかもしれません」

「…そんな者が実在するのか?」

「本当です。だからボクは魔導師じゃないんです。師匠に「お前のような魔法使いは腐るほどいる」っていつも言われてました。自分を魔導師だと思ったことは一度もありません」


 2人は顔を見合わせて苦笑する。


「師匠が魔導師でないのなら弟子はそれ以下ということか」

「納得ですな」


 伝わったみたいでよかった。


「話は変わりますが、ダナン殿は今後どうされるおつもりなのですか?」

「実は、決めあぐねておりまして」

「ほう。それは?」

「現代の王都を訪れて、現代の騎士の実力を知ることができました。ウォルト殿に昇天させてもらおうと…心残りはないと思っておったのですが……正直迷っております」

「であれば…」


 ボバンさんが言いかけて…。


「なぁんですってぇ~!私が許しませんよぉ~!!」


 話を聞いていたのか、テラさんが話に割り込んできた。顔色と口調からすると、大分酔いが回っていそう。


「なんで私に相談してくれないんですかぁ~?私達は家族じゃないんですか?!やっぱりタダの子孫の1人なんですかぁ?!」

「そんなことはない。テラに出会えて、私がどれほど救われたか…。本当の家族だと思っている」

「だったらぁ~…お願いがあるんですよぉ~」


 足取りが覚束ない。いつでも支えられるよう待機しておこう。


「お願い?私にか?」


 テラさんはコクリと頷く。


「ココに住んで、私とカリーと3人で一緒に暮らしましょう!そして、私は……」

「私は?なんだ?」

「カネルラ騎士になりますっ!!」

「「「えぇ~!!」」」


 皆が驚いた。なぜか言った本人も驚いてる…。


「酔ってるから言ってるわけじゃなくて、本気ですよぉ~」

「なぜなのだ?」


 テラさんは、キッ!と目つきを鋭くする。


「ダナンさん風に言うと……血が滾ってしまいましてな。アイリスさんみたいになりたいと思ってしまったのです!」

「テラ…」

「色々教えてもらえませんか?私は本気ですよ。ボバンさん、私でも騎士になれますか?」

「もちろんだ。年齢、性別関係なく誰にでも門戸は開かれている。もちろん入団試験は受けてもらうが」

「わかりました!ダナンさん!私は…ダナンさんが昇天しても関係なく騎士になります!でも、できるなら見届けてからにして下さい!私からのお願いです!」

「そうか…。騎士に…」


 背筋を正すボバンさん。


「ダナン殿。私からも貴方にお願いしたいことがございます」

「なんですかな?」

「カネルラ騎士団の教官に就任して頂きたい」

「騎士団の教官に…ですと?私は亡霊ですぞ。死者が教官を務めるなど」

「些細なことです。この世に生はなくとも、貴方は紛れもなくカネルラ騎士。現に今日も団員と交流していたではありませんか。貴方の知識と技量は騎士団にとって貴重な財産。国王様には私と王女様から進言致しますので、是非とも考慮願いたいのです」

「約束するよ!確約はできないけどね!」


 冗談でないことは間違いない。ダナンさんにとっては予想外の招聘だと思うけれど。


「王女様…。ボバン殿…。テラ…。少しだけ、時間を頂いてもよろしいですか?」

「よい返事を期待しております」

「急がないから、ゆっくり考えてね!」

「ですよぉ~!」


 話は終わり皆はまた食事を始めた。


 グイッと酒を煽ったダナンさんは、一点を見つめて考え込んでいる。その心中はボクには計り知れない。

読んで頂きありがとうございます。

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