9 口は災いのもと
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
薬草採取を終えて住み家に戻ったウォルトとアニカは、ちょっと一休み…といきたいところだったが、大人しく留守番してくれたオーレンの様子を見に行くことにした。
…というのもアニカは心配だった。
アイツ…。大人しくしてるといいけど…。
ウォルトさんの後に続いて部屋に向かうと、近づくにつれて、「フッ!フッ!」という荒い息使いが聞こえてきた。
もしかして苦しんでる…?心配になって部屋を覗き込むと意外な光景が目に飛び込んでくる。
オーレンは……部屋の床で腹筋してた。熱中して帰ってきた私達にまったく気付いてない。包帯まみれで筋肉を鍛えるようなアホがどこにいるんだろう?
ココにいた。こんの…バカ兄貴分…。震えながら大きく息を吸い込んで、声を張り上げる。
「…安静にしてろって言われたでしょ!この…バカオーレン!!」
突然の大声に驚いたウォルトさんとオーレンは耳を押さえて縮こまる。ウォルトさん、ホントごめんなさい!!
オーレンに歩み寄ってゴンッ!と頭に拳骨を落としてやった。人の気も知らないで!
「痛ってぇ~!なにすんだよっ!!」
「うるさい!バカ!」
身を翻して部屋を出ると、ズンズンと居間に歩を進める。ジッとしとけって言ったのに……心配して損した!!
頭を抑えながら、ポカンとしているオーレンにウォルトが説明する。
「アニカは、森で採ってきた薬草で回復薬を作ってオーレンを治療してやりたいって言ってたんだ」
「アニカがそんなことを…。とこも痛くないから大丈夫だと思って…。暇だったしやってしまいました…。反省します…」
「言いたいことを言ってもう落ち着いてるさ。長い付き合いなんだろう?」
「兄妹みたいなものです」
「なら大丈夫。それより、そんなに暇ならオーレンも回復薬について勉強するかい。今から調合するんだけど」
「いいんですか?!やりたいです!」
「じゃあ、アニカに謝るところから始めようか」
「そうですね」
その後、オーレンが平身低頭謝罪してきたので私は溜飲を下げた。ただ、食いしん坊呼ばわりされた一件については、思うところがあるので「改めて話をする」と伝える。
「意外に根に持つな…」
「なんか言った…?」
「そろそろ始めようか」
私達の険悪な雰囲気に構わず、ウォルトさんは薬の調合を行う部屋に案内してくれた。中に入って驚く。
「すごい部屋…。全部素材ですか…?」
「そうだよ。作った薬も保管してるけどね」
調合室には、大小様々な硝子の瓶や秤なんかの器具が置かれていて、少し薬品のような匂いがするけど嫌な匂いじゃない。
据え付けてある壁一面の大きな棚には、見たこともない素材が所狭しと綺麗に陳列されてる。どこになにがあるか一目でわかるようにしてあるんだ。
「あんまり見られると恥ずかしいね。じゃあ、今から説明していくよ」
ウォルトさんは、採ってきた薬草類を袋から取り出すと作業台に置いて解説を始めた。オーレンと並んで椅子に座り真剣に耳を傾ける。
「回復薬を作る工程はさほど多くないんだ。難しいのは調合だね。油断して配合を間違えたりすると、薬を作ってたのに毒が出来上がったりするから注意が必要なんだ」
「薬が毒に?そんなことがあるんですか!?」
オーレンが驚いて聞き返すと、ウォルトさんは頷いて続けた。
「実際に見てもらったほうが早いかな」
私達の目の前で、緑と青の薬草を組み合わせて調合している。完成した2つの薬は、片方は緑を多めに配合、もう片方は逆に青を多めにしてた。
「薬を飲み比べてみて。飲むのはほんの少しでいい」
コクリと頷いてまずは緑が多い方の薬を少しだけ飲む。すると、身体が楽になったように感じた。
「なんだか疲れが癒やされるような…」
どうやらオーレンも同じ意見みたい。
「身体が喜んでるような気がします!」
「2人が飲んだのは簡単な回復薬なんだ。それじゃ、こっちを少しだけ飲んでみて」
差し出されたもう1つの薬を飲む。
「ゲホッ!なんだコレ!?」
「ゴホッ!ひっどい味!なんだか舌が痺れる~!」
「同じ素材でも配合によってこうも違う。だから正しい知識が必要だし、毒も使いようによっては有効なんだ。魔物に飲ませたり浴びせて弱らせるとか」
「「なるほど~」」
その後も、回復薬のみならず冒険に使えそうな解毒、麻痺解除などの状態異常を治癒する薬まで作り方を教えてくれる。
調合は簡単じゃないけど、ほんの少し効果ありといえる薬を作ることができるようになった。
「ウォルトさん。ちょっと聞きたいんですけど」
「なんだい?」
「変な物を食ったとき、腹痛に効く薬って作れますか?」
オーレンがちょっとふざけた感じで尋ねた。チラッとこっちを見てきたので、なにが言いたいか直ぐにわかった。
自分を置いて薬草を採りに行ったのが気に食わないのか、ただ揶揄いたいのか知らないけど…「根に持つな」と言われことを思い出して腹が立ってきた。どっちが…!
「オーレン…。ぶっ飛ばされたいの…?」
低い声で呟くとギクッ!と反応した。慌ててフォローしてくる。
「違う違う!!お前のことじゃないって!冒険してたら間違って毒キノコとか食べるときがあるかもだろ?!別に他意はないから!」
「あり得るかもね。最初からそう言いなよ」
取って付けたような言い訳だけど…今は追求するのはやめておく。真剣に教えてくれてるウォルトさんに申し訳ないから。
「そういうことなら教えておくよ」
笑顔のウォルトさんは、オーレンの要望に応えて腹痛に効く薬を教えてくれた。あくまでも軽度の腹痛限定だと付け加えて。
「ちょっとした腹痛なら安心だな」
「そうだね。なんでも食べたりはしないけど安心できる」
「嘘つけ!今までお前の悪食でどれだけ苦労したか…。変な木の実とか食ってお腹を壊した数も数え切れないだろ!ハハッ!ハッ…」
口に出したあと「しまった!」って顔をしてる。さっき回避したばかりなのに…直ぐに尻尾を出すなんて…。
ホントにアホで浅はかな兄貴分だ。
ウォルトさんは苦笑して、先に部屋から出て行く。「くれぐれも器具は壊さないようにね」とだけ告げて。
ご心配なく。そんなことは絶対しません。今から行うのは……ただの世直しなので。
その後、ウォルトが去った部屋から「ボグッ!」と鈍い音が聞こえたかと思うと、部屋から出てきたオーレンの頭には大きなたんこぶが2つ並んでいた。
読んで頂きありがとうございます。