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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
87/707

87 これが本命

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 どうにかアイリスさんを落ち着かせて一緒に闘技場へ向かう。危うく何度か斬られそうになったけど、どうにか免れた。


 顔が赤くなったのがボクのせい…?疑問に感じながら、あまり訊くと藪蛇になりそうなのでやめておく。若干の気まずさを感じながら互いに無言で闘技場へと向かった。


 闘技場に到着すると、見学していた騎士達が集まり輪になって騒いでいる。


「何事ですか?」

「ボクもわかりません。行ってみましょうか」


 アイリスさんと近づいて輪の中心を覗き込むと、中心にダナンさんがいた。騎士の皆さんと談笑している。


「すっげぇ~!大先輩じゃないっすか!」

「槍捌きが格好よかったです!」

「生き字引ですね!まさに生き字引!」

「既に死んでおるので死に字引でしょうな!はっはっは!」

「「「ははははっ!」」」

「…ん?アイリス殿」


 アイリスさんに気付いたダナンさんが話し掛けてきた。


「ご無事でしたか」

「お気遣いありがとうございます。あの~、この人だかりは?」

「闘技絢爛の後に、王女様に加護の力で回復して頂いたところ、皆に亡霊であることがバレてしまいましてな!ハッハッハッ!」

「はぁ…」

「そうなんだよ!アイリスは知ってたんだな!俺らはビビった!」

「いい闘いだった。どっちが勝ってもおかしくなかったぞ」

「ありがとうございます」


 記憶にないだろうけど、闘技絢爛は宣言通りに闘気を使い果たしたアイリスさんが倒れたことで幕を閉じた。けれど、ダナンさんも満身創痍で辛うじて立っていただけ。

 その後、ボバンさんの仕切りでアイリスさんはボクが医務室へ、ダナンさんはリスティアが加護の力で回復させる流れになった。

 甲冑だから回復できるか不安だったけど、難なく治療できたのは王族の慈悲の力だからだろう。少し不思議ではある。


 その過程で綺麗に修復されていく甲冑を見た騎士達は、『さすがにおかしい…』と気付いたらしい。

 騒ぐ騎士達にボバンさんが事情を説明したところ、最初は信じなかったものの回復したダナンさんが話す内容を聞く内に全面的に信用して、今や誰も疑っていないみたいだ。


 カネルラの大らかな国民性恐るべし。


「いやぁ~。俺も槍術に切り替えようかと思う闘いだった」

「確かに。ダナンさんの槍術には憧れるな」

「アイリスもお疲れさん。凄かったぜ」

「魂の込もった仕合だったぞ」


 和気あいあいと話す騎士団の面々。アイリスさんにも笑みがこぼれてる。これ以上一緒にいると会話の邪魔になるな。ダナンさんもそう思ったのか輪から外れる。


「ウォルト殿。行きましょう」

「はい」


 共にテラさんとカリーの元へ向かう。


「ダナンさん、お疲れ様でした!」


 テラさんが笑顔で出迎えた。


「心配をかけてすまなかった。恥ずかしくない闘いを見せられたと思う」

「ダナンさんはやっぱり凄いご先祖様だった。アイリスさんに勝っちゃうなんて」

「勝ったのではない。彼女より私が経験があるというだけのこと。現代に彼女のような騎士がいるのならカネルラは心配いらぬな」

「ヒヒ~ン!」

「…カリー。私は……やりきったぞ…」

「ヒヒン!」


 カリーも『お疲れ様!』と言ってくれている。そんなカリーをダナンさんは優しく撫でた。



 ★



 一方、闘いを見守っていたリスティアは…。


「ボバン。色々ありがとうね!凄くいい闘いが見れたよ!」

「私はなにもしておりません。アイリスを鍛えて頂き、ダナン殿には感謝しかありません」


 皆に囲まれたダナンやアイリスを見ながら会話する。初めて見たけど、本当に素晴らしい闘技絢爛だった。先人カネルラ騎士の凄さを感じた。


「温故知新だね。きっとアイリスも勉強になったよ」

「その通りかと。アイツもさらに逞しく成長することでしょう」


 そろそろ訊いてみようかな。


「ところで、ボバン。なにが望みなの?」


 ボバンの眉がピクリと動いた。


「私に頼みたいことがあるんじゃないの?」

 

 ボバンに視線を向ける。


「おわかりでしたか」

「さすがに気付くよ。私やダナンのために尽力してくれたのも、なにか考えあってのことでしょ?」

「察しの通りです」

「予想はできるんだけど一応訊くね。ボバンはなにがしたいの?」

「私はウォルト殿と一戦交えたいのです。つきましては、親友である王女様の許可を頂きたく存じます」


 私の問いに精悍な顔つきで答えた。


「だよねぇ~。この状況でボバンが私に頼むことといったらそれしかないよね~!」


 予想通りの返答につい笑ってしまう。今日のボバンからは、ダナンに対する尊敬の念とウォルトに対する興味が見て取れた。きっとアイリスから聞いて興味を持ってたんだ。


「事前に承諾を頂かなければ気分を害されるかと思いまして」 

「う~ん…。賛成はできないけどウォルト次第かな!」

「本人が了承すればよろしいのですか?」

「そうだね!お互いがよければ私は構わないよ!」

「承知しました。では、交渉してみることに致します」


 ボバンが一礼して去る間際に、一言だけ告げる。


「ボバン」

「はい」

「ウォルトは強いよ」

「存じております。だからこそ闘ってみたいのです」


 強面で通っているボバンは、子供のような笑顔を浮かべて立ち去った。



 ★



 見学していた騎士達は任務に戻り、静けさを取り戻した闘技場。ボクらは皆でダナンさんを労い今後の行動について話し合っていた。


「ダナンさんもお疲れでしょうし、あとは宿に泊まってゆっくりしますか?」

「まぁた他人行儀なことを!今日もうちに泊まればいいじゃないですか!」


 テラさんが誘ってくれるけど、あまりお世話になりすぎてはいけない。お礼もできなくて心苦しい。正直に伝えてみよう。


「テラさんの気持ちは嬉しいんですが、家族であるダナンさんはともかく、ボクは申し訳なくて…」


 テラさんの頬がぷくっと膨らむ。


「そんなこと言うなら今すぐ結婚しましょうかっ!?それなら泊まっても問題ないでしょう?!夫婦なんだから!!」

「そ、それは極端ですよ」


 突拍子もないことを言い出した。見た目はほんわかしてるけど、テラさんは言動が少々過激だ。全然怖くないけど、身振り手振りで『怒ってるぞ!』とアピールしてくる。

「気にせず泊まっていけ!」と言いたいんだろうな…。本当にいい人だし、凄い親近感を感じるな。テラさんはどことなくアニカや母さんに似てる。


「わかりました。今日もお世話になっていいですか?」

「いいんです!」


 決まったところでボバンさんが歩み寄ってくる。


「取り込み中、失礼する。ダナン殿。素晴らしい闘技絢爛を拝見致しました。突然の申し出を快諾頂き感謝しかありません」

「こちらこそ。現代のカネルラ騎士の魂、しかと胸に刻みました」

「恐縮です。以後も益々の精進を御約束致します」


 次にボクに向き直った。


「ウォルト。アイリスの治療を引き受けてくれて感謝する」

「大したことはしていません。色々とありがとうございました。リスティア達に会えたのもボバンさんのおかげです。なんのお礼もできなくて心苦しいんですが」


 あらゆることが上手く進んだのは、ボバンさんが手を尽くしてくれたおかげ。そのくらいはわかる。


「ならば、俺の願いを1つ聞いてもらえないだろうか?」

「ボクにできることなら」

「君にしかできないことだ。単刀直入に言おう。俺と仕合をしてくれ」


 空気がピリッと張り詰める。


「仕合?ボクとボバンさんがですか?」

「そうだ。俺は君と一戦交えてみたい」


 ボバンさんは真剣な表情。冗談じゃないことはわかる。ただ、目的がわからない。


「なぜボクと仕合を?ただの猫の獣人ですよ」

「アイリスから君の話を聞いて闘ってみたいと思っていた」

「ボクなんかと手合わせしても、得るものはないと思いますが」


 時間の無駄なような気がする。騎士団長はおそらくカネルラ最強の一角。最初は気付かなかったけど、近くで見ると危険な雰囲気を醸して強者のオーラを纏っている。


「君は強い。少なくともアイリスに勝った。おそらくダナンさんにも勝っているのではないか?」

「えっ!?」


 ボバンさんの言葉にテラさんは驚いてる。チラッとダナンさんを見て、ダナンさんはコクリと頷いた。でも事実じゃない。


「勝ってはいないです」

「そうか。俺はとにかく君と闘ってみたい。どうだろう?」


 う~ん…。参ったなぁ…。


「お断りしたいのはやまやまなんですが」

「悩んでいるのか?」

「仕合するなら闘技場(ここ)ですよね?」

「そうだが、なにか問題が?」

「ボバンさんにはお世話になりました。手合わせでいいのなら、フィガロが闘った舞台で自分も仕合してみたいという気持ちもあります」


 どう考えても無謀な仕合だ。瞬殺されて終わる可能性が高い。でも、憧れのフィガロが闘った場所で同様に仕合が出来る機会は二度とないだろう。お世話になったボバンさんへのお礼になるのなら応えたいと思うし、非常に迷うところ。 


「即答で断られると思っていたよ」

「この場所でなければ断ってるんですけど、ボクにとってフィガロは特別な存在なんです」


 しばらく悩み続けていると…。


「ウォルトさん」

「ウォルト殿」


 ダナンさんとアイリスさんが声をかけてくれる。


「アイリスさんは騎士の皆さんと城に戻ったんじゃ?」

「団長が帰ってこないのが気になって戻ってきました。私は…貴方と団長の仕合を観たいです。騎士として…。それに、ゆ、友人としても…」

「あっという間に終わるかもしれませんよ」


 2人の闘技絢爛のように皆が息を呑むような仕合にはならない。やるなら負けるつもりはないけど、秒で決着する可能性が高い。


「私もですぞ。貴方は騎士にひけをとらない獣人です。是非とも闘いを拝見したく存じます」

「買い被りすぎです」


 ボクはただの魔法を操る獣人で強くなんかない。自分が一番知ってる。


「私は、ダナンさんと剣を交え学ぶことが多くありました。ウォルトさんもそうなると思います」

「アイリス殿の言う通りです。当代騎士の技能を肌で感じ感無量でした。真剣な手合わせはいつの世もいいものです。己を高めてくれます」


 それぞれの言葉で気持ちを伝えてくれる。再び熟考して口を開いた。


「フィガロも闘った舞台で、カネルラの騎士団長と手合わせするなんて、この機会を逃したら一生ないと思います」


 ボバンさんと闘いたくはない。それはボバンさんに限らない。相手が誰であれ同じ。マードックともエッゾさんとも、アイリスさんとも闘いたくなかった。

 ただ…フィガロが闘った舞台に立って仕合ができるなんて理屈じゃなく興奮する。それほどまでに憧れる獣人。それに、アイリスさんとダナンさんの闘技絢爛を目にして気持ちが高揚してるのは確か。2人の素晴らしい闘いで感情が昂っている。


 思えば、アイリスさんとの手合わせで様々な気付きを得たことで魔法闘気も操れるようになった。たとえ短い時間であろうと、騎士団長との仕合で得るモノは大きいかもしれない。今後の修練に活かせそうだ。

 強くなんてないけれど、ボバンさんは仕合だと言ってくれた。それならば闘ってみようと思える。


「手合わせをよろしくお願いします」

「こちらこそ。無茶な要求を受けてくれてありがとう」


 ボバンさんはボクに頭を下げる。


「頭を上げてください。必要ないです」

「我が儘を言っている自覚がある。カネルラを守護すべき騎士団長が、縁もゆかりもない獣人に突然闘いを挑むなどあり得ない。もっと言えば、失礼極まりない」

「そうかもしれません」

「実際に会ってわかったが、君はマードックのように戦闘狂で血気盛んな獣人じゃない。仕合を受けてくれて感謝しかないんだ」


 ボバンさんの身体には、すでに闘気が揺蕩っている。頭を上げて意外なことを確認してきた。


「ところで、ウォルト」

「なんでしょう?」

「君はアイリスのことをどう思う?」

「団長!?なにを聞いてるんですか?!」


 意図は不明だけど素直に答えよう。

 

「尊敬できる友人です」

「そうじゃない。女性としてどう思う?」

「女性として……そうですね…。強くて高潔で、美人で凜としていて格好いい女性だと思います」

「な、な、な…」


 アイリスさんの顔が真っ赤に染まっていく。


「ふむ。それだけ聞けば充分だ」


 不服なのか照れているのかわからないけど、アイリスさんは頬を膨らませている。でも正直に答えた。ボクはお世辞は言わない。


「突然関係ないことを訊いてすまん。では、準備するとしよう」

「わかりました」



 ★



 ウォルトに頼まれてローブとモノクルを預かったテラ。


 舞台の上には、ボバンさんとウォルトさんだけが登り私達は観客席で見守ることになった。


「ウォルトさん…。やっぱり危ないんじゃ…」


 私の心配はダナンさんからウォルトさんに移ってしまった。どう考えても無謀な闘いだと思う。相手はカネルラ騎士団長で、ウォルトさんは優しくて料理上手な獣人。なぜボバンさんはウォルトさんに仕合を申し込んだの?

 でも…ウォルトさんはアイリスさんにもダナンさんにも勝ったって言ってた…。本当なのかな…?


「テラ、大丈夫だ。仕合は命のやりとりではない」

「その通りです。今から行われるのは、闘技絢爛のようなもの」


 全身甲冑のご先祖様と、闘い終えた麗しい女性騎士はそんなことを言うけれど…。


「さっきの闘いも普通の人間からすると充分命の奪い合いに見えたんですけどぉ~??」

「「………」」


 ジト目で放った私の言葉に聞こえないフリを決め込んで、舞台の上に揃って目を向けた。舞台上で対峙する2人が言葉を交わす。


「獣人の魔導師が存在すると耳にした時から、是非とも仕合いたいと思っていた」

「ボクは魔導師ではないです。ただ魔法が使えるだけで」

「俺はそう聞いていない。アイリスも王女様も君を素晴らしい魔導師だと褒めていた」

「そう言ってもらえるのは嬉しいです。でも、期待はしないでください」

「謙虚だな。まぁ闘えば直ぐにわかる。言っておくが…俺は負けるつもりはない」

「ボクもです。やるからには…負けるつもりはありません」


 遠すぎてどんな会話しているのか聞こえない。わかることは、ボバンさんは剣を構えてウォルトさんは素手で構える。

 どう見てもウォルトさんが不利だって思うのは私だけ?絶対に止めた方がいいと思うんだけど。


「2人とも悔いのないようにね!じゃあ、始めっ!!」


 王女様が発した緊張感のない言葉を合図に闘いの火蓋は切って落とされた。

読んで頂きありがとうございます。

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