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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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86 闘技絢爛

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 先に闘技場に到着したウォルト一行は、闘士のみが上がることを許された石畳の舞台上に立っている。


「圧巻ですな…。こんなところで闘えるなど昔では考えられませんぞ」

「フィガロも闘った舞台…。凄いなぁ…」


 伝説の獣人フィガロはボクにとって憧れの存在。同じ舞台に立てただけでも王都に来た価値がある。


「そろそろ来ると思うんだけどな~。アイリス達、遅いね。カリー」

「ヒヒン」


 リスティアとテラさんはカリーに跨がっている。待ちきれない様子のリスティアと、若干緊張した様子のテラさんは対照的。やはり闘いに不安が残っているんだろう。


「お待たせしました!」


 凜とした声が響き、入場口からアイリスさんが入ってきた。ボバンさんと、その他数名の騎士達があとに続く。アイリスさんの姿は初めて出会ったときと全く同じ。


 足早に歩を進めて舞台に上がるアイリスさんとボバンさん。表情は引き締まって、既に臨戦態勢といった雰囲気。見学の騎士達は、観客席の最前列に陣取る。

 

「ダナン殿!お待たせしました!」

「アイリス殿。この度は私との闘技絢爛を受けて頂き感謝しております」

「いえ。偉大な先人と闘技絢爛を行えるなどあり得ないこと。騎士の名誉です」

「買い被りですぞ。ですが…私も『家族』が心配しておるので全力で挑ませて頂きます」

「望むところです。では…」

「始めるとしましょう」


 2人を舞台上に残して、ボクらは舞台から下りる。新旧のカネルラ騎士は対峙してそれぞれの武器を構えた。


「これより執り行うはカネルラ騎士による闘技絢爛!双方は己の持てる技能の全てを互いに披露せよ!臨むにあたっては畏怖の念を持たず、ただ互いを高め合うべく死力を尽くすものなり!」


 ボバンさんが通る声で口上を述べると、「「(おう)!」」2人は同時に応える。


 そして闘技絢爛の幕が上がった。



「ハッ!」


 初手は、間合いを詰めたダナンさんの刺突がアイリスさんの頭部を狙う。躊躇など微塵も感じさせない。

 驚くこともなく最小限の動きで横に躱したアイリスさんは、槍の傍を滑るように間合いを詰めて胴を薙ぐ。ダナンさんは槍を縦にして受け止めた。


「素晴らしい反応と切り替えの速さ…。お見事です」

「ありがとうございます。だが…まだです!」


 アイリスさんが闘気を纏い、止まった剣を無理やり押し込むと槍がしなる。折れてしまいそうだ。


「甘いっ!ふんっ!」


 槍に闘気を流して弾き返したあと、ダナンさんは目にも留まらぬ速さの刺突を繰り出す。

 距離をとって躱そうとアイリスさんは後方へ跳んだが、その内の一突きがグン!と伸びて頭部を狙う。


「くっ…!」


 辛うじて首を捻って躱し、大きく距離をとる。ダナンさんの手元を見ると、槍の柄を石突が隠れるほどギリギリまでずらして握っていた。


「咄嗟に握りをずらして間合いを伸ばすとは…」

「躱すとはさすがですな。ハッ!」


 上に下にと切り結ぶ。槍の遠い間合いに防戦一方のアイリスさん。それからしばらく闘技場には剣と槍のぶつかりあう音だけが響いた。

 見学している騎士達からも感嘆の声が漏れる。特に、ダナンさんの槍の技量に感心している様子でざわついてる。


「ウォルト君。ダナンさんは強いな」


 隣のボバンさんが口を開いた。同じ場所で観戦している。


「ボバンさん。ウォルトでいいです。今はダナンさんが押していますが…」

「なにか気になるか?」

「アイリスさんは徐々に槍の動きと間合いに対応しています。このままだと…」

「そうだな。いずれ見切られるだろう」


 勢いに押されて徐々に後ずさるアイリスさんは、防御に徹しながらもなにか狙っているように見えるけどボクにはわからない。


「フンッ!」


 渾身の一突きを繰り出したダナンさん。アイリスさんは穂先を上に払うように剣で打ち上げた。


「むうっ!?」


 体勢を崩したダナンさんの懐に滑るような運足で入り込むと、打ち上げた剣を返す刀で斬り下ろす。


 ダナンさんは、素早く後方へ跳んで躱したはずだったが…。


「ぬぅっ!?」


 躱したはずの袈裟斬りが微かに届いていたのか甲冑の胸の部分にヒビが入る。


「闘気を剣に纏わせて刀身代わりに斬りつけるとは…。伸びた間合いを見切れなかった」

「浅かった。さすがです」


 ふぅ…っと息を吐いて、構え直したダナンさんが告げる。


「アイリス殿。現代に槍術を学んでいる騎士はおりますか?」

「数名おります」

「では……この技能を知っていますか?」


 まだ遠い間合いから左足を前に出して半身に構えたダナンさんは、目に見えるほどの闘気を纏う。


「クラン槍術……『螺旋』」


 左足を大きく踏み込むと同時にその場で刺突を繰り出した。穂先から竜巻が発生したかのように螺旋の闘気が放たれる。


「なっ…!くっ…!」


 アイリスさんは闘気を纏い、相殺して凌ぎきった直後だった。


「ぐぁっ…!」

「お見事です。『螺旋』を凌ぐとは素晴らしい」


 アイリスさんの腹を槍の石突が捉えていた。鎧の弱い部分を正確に突いている。ダナンさんは『螺旋』を放った直後、闘気を隠れ蓑に間合いを詰め、槍を逆に持ち替えて刺突を放っていた。

 衝撃でアイリスさんの上半身がくの字に折れる。片膝をつくと、ダナンさんは離れて再び槍を構えた。


「ダナン殿…。情けは無用です…」


 今攻撃されたらアイリスさんは防ぐことができない。なのに、ダナンさんは静かに槍を構えているだけ。


「情けなどかけるはずもなし。闘技絢爛ですぞ。私は貴女の技能をまだ見ていない。それとも、もう終わりなのですか?」

「互いを高めるための仕合…。ダナン殿…。私は…まだ全てを見せていません!」

「そうこなくては」


 ダナンさんの厚意に甘えてしっかり呼吸を整えたアイリスさんは、腰を落として抜刀の構えをとる。纏う闘気が徐々に膨らんでいく。


「むぅっ…?!凄まじい闘気量…。その若さで大したものです」

「貴方達の後進が…カネルラを守るタメに編み出した闘気術…。とくとご覧あれ!」


『騎神乱舞』


 アイリスさんが放った闘気の刃が襲いかかる。とても躱しきれる数ではない。ダナンさんは闘気を纏わせた槍を縦に持ち替えて、体の正面で高速回転させた。


「クラン槍術『旋風』」


 回転する槍で闘気の斬撃を弾くが、それでも完璧に防ぐことはできない。容赦なく斬りつける斬撃にダナンさんが吼えた。


「ぬぉぉぉぉっ!!散れぇぇいっ!!」


 甲冑を削られながらもダナンさんは耐えきった。


「むっ…!?」


『騎神乱舞』のあと、ダナンさんの眼前からアイリスさんの姿が消えた。


「はぁぁ!うぉぉぉっ!!」

「後ろかっ!」


 回り込んで背後から攻撃を仕掛けた。ダナンさんも見事に反応して反撃に転じる。しばらく切り結んだのち、互いに距離をとる。


「目にしたことのない見事な技能…。カネルラ騎士の魂を…身を以て感じました」

「ありがとうございます。私などまだまだです」

「まだいけますな?」

「無論です」


 闘技場には2人の声と切り結ぶ音が響き、殴り殴られる鈍い音も響く。


「ぬぅん!ふんっ!」

「はぁぁっ!…っらぁ!!」


 闘いを見学している騎士達が呟いた。


「引退した騎士って話だけど…凄すぎだろ…」

「槍術、めちゃくちゃ格好いいな…」

「来てよかった。凄い技能だ」


 ダナンさんのことを「引退した騎士」とボバンさんから告げられている騎士達は、アイリスさんと互角の闘いを繰り広げる古甲冑の凄さに驚いているみたいだ。

 


 闘技絢爛は続き、実力伯仲の闘いを繰り広げるアイリスさんとダナンさんは互いに傷を増やすばかり。ボクには残された闘気量が互いに残り僅かに見えるけれど、実際はどうだろうか。舞台上の両騎士は静かに言葉を交わす。


「アイリス殿…。老いぼれはもう闘気が残っておりません。次が最後の一撃となります」

「私もです。全身全霊をかけて放ちます」

「当代の騎士の実力……とくと拝見致しました。お見事でした!」

「光栄の極みです。……いざっ!!」


 2人の纏う闘気が膨らんでいく。


 そして…。


『螺旋』

『騎神乱舞』


 残された闘気を振り絞り全身全霊を込めた技能を放った。



 ★



「う…。ん…」


 眠りから覚めてゆっくり周囲を見回すと、記憶にある部屋。ココは…闘技場の医務室だ。私は…敗れたのだな…。だが一片も悔いはない。


 アイリスは、誰も居ない医務室のベッドに横たわったまま、偉大な先人の騎士に想いを馳せる。


 ダナン殿は強かった。惚れ惚れするような槍捌きと磨き抜かれた闘気術。闘いの中で感じた気高い騎士の魂。どれをとっても私より上。得難い経験をさせて頂いた。カネルラを守り、殉職した先人との手合わせなどできようはずもない。


 私は…ダナン殿に示せただろうか?遺志を継いで、カネルラを守るに足る騎士だと認めてもらえただろうか。出し惜しみなく私の全てを見せることができた。それだけは間違いない。


 ボーッと天井を眺めていると、カチャッとドアが開いた。視線を向けると、ウォルトさんが笑顔を浮かべて部屋に入ってくる。ベッドの横に置かれた椅子に微笑みながらふわりと腰掛ける。本当に…所作が柔らかい獣人。


「闘技絢爛、お疲れ様でした。素晴らしい闘いでした」

「ありがとうございます」

「痛むところはありませんか?」

「大丈夫です。貴方が魔法で治療してくれたのですか?」

「はい。ボバンさんから「『治癒』で治療してやってほしい」と頼まれました。そうでなくても治療しましたけど」


 ウォルトさんに向かって、スッと頭を下げる。


「申し訳ありません…」

「何で謝るんですか?」

「私が…団長にウォルトさんは魔法が使えることを教えてしまったのです…」


 口の軽い女だと思われても仕方ない。森で1人暮らすウォルトさんは知られたくなかったはず。


「別に構いません。ボバンさんは信じてくれているようでした。ボクは、疑われたり好奇の目で見られるのが嫌なので信用できる人にしか教えません。ボバンさんは貴女が信用する騎士なのでは?」

「そう言ってもらえると…」

「そんなことより、動けそうなら闘技場に戻りませんか?皆が心配しています」

「ダナンさんのことも気になります」

「では、失礼します」

「えっ?」


 ウォルトさんは、背中に手を添えてゆっくり上体を起こしてくれる。


「痛くないですか?」

「は、はい」


 凄く温かい掌。柔らかくて気持ちいい。


「では…続いて失礼します」

「え、えぇっ!?」


 足を伸ばしている膝裏に手を差し込んで、一気に抱え上げられた。いわゆるお姫様抱っこ状態になってしまい口をパクパクさせる。ゆっくり足から床に下ろされた。


「痛みはどうでしょう……って顔が真っ赤です!熱が出たのかもしれません!安静にしないと!」


 この人は……なにを言ってるの?俯いて顔を隠したままボソリと呟く。


「貴方のせいです…。いつもいつも予想もしないことをして私の心を乱す…。…いい加減にして下さい!」


 側に置かれていた剣を掴み、抜いて斬りかかる。


「あ、あぶないですって!!」


 もう…ワケがわからない!とにかく恥ずかしいっ!


「アイリスさん?!やめましょう、…うわっ!!すぐ寝ないとダメですって!」

「やかましい!許さん!」

「なんでですか?!」


 とにかくぶった斬ってやる…!


 感謝などどこへやら、疲れ果てるまで部屋を駆け回った。


 私は悪くない!

読んで頂きありがとうございます。

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