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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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85 まだ見ていないもの

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦~

 リスティア、アイリスの両人と再会できたウォルト。


 アイリスさんは、ひとしきり泣いて冷静さを取り戻した。恥ずかしいのか今はボクから見えないようボバンさんの影に隠れている。


「お前な…上司を壁扱いするのはやめろ」

「団長のせいでもあるんですよ…」

「なぜだ?」

「王女様を呼びに行くと伝えてくれていたら、もっと落ち着いて会えたのに…」

「知らん」


 ボバンさんの背中をポカポカ叩いているけど、分厚い筋肉を纏う身体はビクともしない。


「私が王女様に伝え忘れることも予想していたんですね…?」

「舞い上がるだろうと思ってな」


 さらに強く叩かれながら平然としてる。見た目通り頑強な騎士だ。


「ねぇ、ウォルト。今日はなんで王都に来たの?」

 

 リスティアから当然の疑問。


「ダナンさん達が王都に行ったことないって話を聞いて、ボクも行ってみたいと思ったんだ。来たことなくて」

「そうなのです。恥ずかしながら王都を訪れたことがなかったもので、ウォルト殿に付き合って頂きまして」

「そうなんだね。王都はいい街だよ!ダナンもカリーも楽しんでいってね!」

「お心遣い痛み入ります」

「ダナン、固いよ!王女だからって遠慮はいらないから!」

「そう申されましても…」


 ダナンさん達とリスティアは控室に来る途中にお互い自己紹介を済ませている。あとは、アイリスさんだけなんだけど…まだ顔を見せてくれない。しばらくは無理そう。


「ダナンとカリーに訊きたいんだけど、2人はもうこの世の人じゃないんだね」


 なんの脈絡もなくリスティアが告げる。遂に顔を出したアイリスさんは、『信じられない…』という表情のまま固まってしまった。

 いきなりのことで、ダナンさんやテラさんも驚いている。ボバンさんだけが動じている様子がない。


 リスティアに人の内面を見抜く眼力があるのは知ってるけど、気になったので訊いてみる。


「いつから気付いてたんだい?」

「会った瞬間だよ。なんでかわかるんだよね。加護の力かなぁ?」

「なんと…。王女様は加護の力を秘めておられるのですか…?」

「うん。ダナンも知ってるの?」

「私が仕えていた方も…加護の力をお持ちでした」


 リスティアはダナンさんが何者か気付いているだろう。伝えておこう。


「ダナンさんはクライン国王に仕えていた騎士なんだよ」

「そうなんだね」


 ダナンさんと共に事情を説明する。元々クライン王政時代のカネルラ騎士と騎馬であったことや戦争により命を落としたこと。

 400年の時を超え、カネルラを守るタメに動物の森でこの世に蘇ったこと。しばらく暮らしている内に今の王都を見たいと思い訪ねたことを。


「カネルラが一番大変だった時代だね。ダナンもカリーも、カネルラのタメに闘ってくれてありがとう」


 リスティアは2人に向かって頭を下げた。感謝の言葉を告げられたダナンさんは俯いて小刻みに震えている。表情は読み取れないけど怒っているようには見えない。カリーは複雑そうな表情。


「王女様。私は騎士の使命に従っただけなのです…。そのような御言葉を頂き、身に余る光栄でございます…」

「ヒヒン」


 リスティアは、いつの間にか少女ではなく王女の表情を浮かべていた。


「何度でも申し上げます。命を賭してカネルラのために闘った貴方達の献身に幾千万の感謝を。歴代の国王及び王族に代わり、第29代国王ナイデルの長女リスティアが御礼申し上げます」


 凜とした空気を纏うリスティアの姿に、動物の森で別れた日を思い出す。やはり彼女はカネルラの王女なんだと改めて気付かされた。

 

「有り難きお言葉…。もう…この世に思い残すことはありません。いつでも昇天できます」

「ダナンさん…」


 カリーがなにか言ってくれると思っていたけど黙って俯いている。カリーもダナンさんと同じ気持ちなのかな…。


 言葉を紡げないでいると、黙って話を聞いていたボバンさんが口を開いた。 


「ダナン殿。まだ逝くのは早いのではありませんか」

「ボバン殿…。どういうことですかな?」

「貴方がカネルラ騎士であることは、鎧や立ち振る舞いから気付いていました。おそらく我々の尊敬する先人であろうことも」

「素晴らしい洞察力です。私はそんな立派な者ではありませんが」


 ボバンさんは続ける。


「貴方は、今の世でまだ見ていないものがあるはずです。とても重要なことであると私は思料致します」

「それは…なんですかな?」

「当代のカネルラ騎士団の実力(ちから)です。命を賭けて守護したカネルラを、現代の騎士団には守る実力があるのか。逝く前に見ておきたいと思いませぬか?」


 ダナンさんは思案している。


「騎士団の実力……是非とも拝見致したく…」

「無論です。ダナン殿がよければ直に感じて頂くのがよろしいかと」

「直にですと?」


 ボバンさんはなにが言いたいのだろう?


「アイリス」

「はい」


 アイリスさんは、ダナンさんの話を聞いている内に驚きはすっかり消え失せ平常心を取り戻していた。


「お前がダナン殿に実力を見せろ」

「私でいいのですか?」

「うむ」


 ボバンさんはダナンに向き直る。


「ダナン殿。アイリスは騎士団でもかなりの強者。仕合……いや『闘技絢爛』を是非とも」


 ダナンさんの手がピクリと反応する。


「闘技絢爛とは…。懐かしい響き…。時を超えても変わらぬモノがあるのですな…。であれば是非もありません。しかし、アイリス殿はよろしいのですか?」

「異存ありません。王女様、よろしいでしょうか?」

「いいよ!私も見たい!」


 ボクは聞いたこともない言葉。理解できたのは、昔から変わらぬ騎士の伝統を執り行うということだけ。


「じゃあ、1時間後に闘技場に集合でどう?アイリスは準備がいるよね?」

「はい。ありがとうございます」

「私も構いませぬ」


 アイリスさんは準備へと向かい、ボバンさんはしばらく留守にするので城の警備について調整に向かうと言う。闘技場の使用についても許可を貰う必要があるらしい。


 残されたリスティアとボクらは、このまましばらく待機することになった。


「ダナンさん。闘技絢爛ってなんですか?」


 テラさんが尋ねる。ボクも気になった。


「闘技絢爛は、カネルラ騎士同士が互いの闘技を披露したい時に行う仕合のことだ」

「普通の仕合となにか違うんですか?」

「ただの仕合と違うのは、自分の持てる技能を全てさらけ出すことが前提。手加減は無用。いわゆる真剣勝負。カネルラ騎士団には…『闘技絢爛で命を落としても異義を唱えない』という不文律がある」

「相手が死んでも構わないってこと?!なんでそこまでする必要があるのっ!?」


 テラさんは声を荒げた。当然の反応だと思う。


「元々は団長などに対する下克上が原型だと云われている。反乱分子を粛清する意味もあったのかもしれん」

「呼び名は格好いいけど……ただの殺し合いじゃない…」


 テラさんは俯いた。


「そうではない。騎士同士が各々の誇りをかけて磨き上げた技能を見せ合うのだ。その結果…」

「どちらかが死んだら殺し合いだよ!どう違うのっ!?相手が死んでも「いい勝負だった」で終わりなのっ!?そんなのおかしいよっ!!」


 大きな声を張り上げる。さっきまでの明るいテラさんじゃない。


「そう言われると…。参ったな…」


 ひどく怒った様子のテラさんにダナンさんも困惑している。まさか、ここまで怒りを露わにするとは思わなかったんだろう。

 正直、ボクもなぜそこまでする必要があるのか理解できない。でも、伝統だというのなら騎士にとって意味があることなのだろう。


 張り詰めた空気を解くように、リスティアが助け船を出す。


「ダナン。テラは心配なんだよ。ダナンが死んじゃうかもって。でもねテラ。心配いらないよ」

「王女様…。なぜ、そう言えるのですか?」

「私とウォルトがいれば心配いらないよ。私は加護の力でダナンを治療できる。だから、信じてくれないかな?絶対にダナンを死なせたりしない」

「……わかりました」


 完全に納得してない表情だけど、王女であるリスティアの言葉を信用してくれたのか少しだけ冷静さを取り戻したように見える。


 テラさんは「ふぅ~」と深く息を吐いて続ける。


「ダナンさん、ゴメンね。王女様の言う通り大丈夫なんだろうけど…。もしかしたらと思って。アイリスさんは凄く強いし…」


 ダナンさんはテラさんの頭に優しく手を置いた。


「心配してくれて嬉しい。こんな老いぼれだが私の闘いを見ていてくれ。闘技絢爛という懐かしい言葉に…蘇った老体が高揚している」

「うん…。頑張って」


 出会ったばかりだというのに、2人はすっかり打ち解けて年の離れた親子みたいだ。


「ところで、ダナンさんは準備することはないんですか?」

「特にないですな。いつでも行けますぞ。むしろ、アイリス殿を待たせては失礼。我々は先に向かいましょう」

「そうですね。では、行きましょうか」

「ヒヒン!」

「私はカリーに乗っていく!テラも一緒に乗ろう!」

「はい!」

「ヒヒン♪」


 …と、ふいに気付いた。


「リスティア。国王様に外出の許可はもらったのかい?」


 ジト目で見つめると、ギクッ!と動きが止まる。やっぱりか。


「もらったよ!大丈夫!」

「嘘はダメだ。待ってるから行っておいで。心配をかけちゃいけない」

「ごめんなさい…。直ぐに許可をもらってくるね!待ってて!」


 ボクは表情や言動で嘘を見破る能力は皆無だけど、親しい者は匂いで心理状態が判別できる。何度か抱擁して匂いを記憶しているリスティアから嘘をついてる匂いがした。油断も隙もない。


 会話を聞いていたテラさんが呟く。


「ダナンさん…。見た…?」

「うむ。ウォルト殿が王女様を叱るとは…驚いた」

「親友っていうのは本当なんだね」

「どうやらそのようだな」



 ★



 国王ナイデルは、会議を終えてルイーナとともに自室で寛いでいた。


 懐妊中のルイーナは既に安定期に入っており、今のところ体調を崩すこともなく、ゆっくり日々を過ごしている。

 今日の会議の内容や、世間話に花を咲かせていると、バーン!と扉が開いた。「何事か!?」と驚いて見やると、息を切らしたリスティアの姿。


「リスティア?どうしたのだ?」

「お父様!城下町への外出の許可をもらいたいの!」

「いきなりすぎる。理由はなんだ?」

「親友の付き添い!」

「親友だと?誰だ、それは?言ってみろ」


 リスティアではなくルイーナが口を開く。


「遅くならない内に戻るのよ」

「おい。ルイーナ」

「ありがとう!お父様、お母様、ご機嫌よう!」


 リスティアは身を翻して部屋を出て行こうとする。

 

「ちょっと待てっ!!護衛は…」

「ボバンとアイリスも一緒に行くから大丈夫!心配いらない!」


 言い残してあっという間に姿を消した。いつものことながら嵐のような娘だ。ボバンもアイリスもいなくなって城の警備は大丈夫なのか?

 多少不安が頭をよぎったが、リスティアはなにかしら手を打っているだろうと楽観的に考えることにした。あぁ見えて隙のない娘だ。


 それにしても…。


「リスティアを制御できる人間がこの世に存在するのか…?」


 勢いづいたら止まらない爆弾娘。国王の俺ですら無視する。右手を額に当てて頭を抱えた。


「ナイデル様。私が勝手に許可を出して申し訳ありません」

「いや、構わな…」

「…と、申し上げたいところですが、危うくこの国が傾くところでした」

「どういうことだ?」


 俺の問いに答えずルイーナはくすくす笑う。


「全く意味がわからん。あと、扉を開けたら閉めろと教えねばならんな」


 身重の妻には任せず自ら扉を閉めに向かう。


 大きく溜息をつきながら扉を閉めると、深く考えるのはやめて愛する妻との歓談を楽しむことに決めた。

読んで頂きありがとうございます。

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