83 友人を訪問してみた
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
「凄く美味しい!ウォルトさんって、もしかして料理人ですか?!」
「単なる料理好きです」
墓地で出会ったダナン達を泊めるために、テラの家に移動して夕食をとっている。
テラの住居は王都の外れにある古い一軒家で、家の管理を兼ねて親戚の伝手で借りている。両親は息災だが王都では暮らしてない。テラだけが墓の管理と仕事の関係で、1人王都に住んでいる。
宿泊させてもらうお礼に、ウォルトから「夕食を作らせてほしい」と頼まれ、獣人の作る料理に興味があるので快く了承したテラ。
どんな豪快で衝撃な不味い料理が出てくるのかと期待していたのに、差し出された料理は予想に反してそんじょそこらの料理店では太刀打ちできないほど美味な料理。別の意味で衝撃を受けた。
「ごちそうさまでした!凄く美味しかったです!」
「お粗末さまでした。後片付けもボクがやります。ゆっくりしてて下さい」
「悪いですよ」
手伝おうとしたけど「ウォルト殿は好きでやっているから邪魔になる」とダナンさんに止められてしまった。この人は、どうやら私の知ってる獣人とは違うみたい。
「はぁ~…。食後の美味しいお茶まで淹れてもらって…。ウォルトさんは一家に1人は欲しい!」
「ヒヒン!」
「テラの気持ちはわからんでもない」
聞こえているのかいないのか、ウォルトさんは『うみゃ~!』とか言いそうな顔でお茶をすすっている。その横では、亡霊なのに器用に甲冑の隙間からお茶を飲むダナンさんの姿。
当然気になったけど、先祖と一緒にいること自体が常識では考えられないので、細かいことは気にしないことにした。したってしょうがない。現実に起こっているんだから。
「ところで、明日の予定は決まってるんですか?」
「ウォルト殿は、行きたい場所はないのですか?」
「そうですね…。できるなら、知り合いがいるので挨拶だけでもしたいんですが…」
「是非行ってみましょう」
「行っても会えない可能性が高いと思います。無駄足になるといけないので」
付き合ってもらうのは気が引けるのかな。気遣いのできる獣人。
「私もまさか未だ墓地が残っているとは思いませんでした。行ってみなければわかりませんぞ」
「そうですよ。明日4人で行ってみましょう!会えなければそのあと私が王都を案内しますよ♪」
「テラさんは仕事なんじゃ?」
「明日は休みです!なので気兼ねせずに!」
笑顔でグッと親指を立てる。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、明日行くだけ行ってみようと思います」
ウォルトさんが行ってみたい王都の場所ってどこだろう?ちょっと気になるなぁ。
とりあえず、今日はゆっくり休んでもらおう。
★
テラさんのお宅に宿泊させてもらった翌日。お言葉に甘えてボクが行きたい場所に付いてきてもらった。
「あの~、ウォルトさん…?知り合いのいる場所って…本当にここで間違いないんですか…?」
「おそらくいると思います」
ボクらはカネルラ王城の城門前にいる。場所は間違えようもない。さすがに王女であるリスティアには会えないと思うけど、アイリスさんなら会えるかもしれない。
騎士が王城に常駐しているかわからないけど、来るだけ来てみた。
「立派な城ですなぁ。昔の王城と比べても遜色ありません」
「ヒヒ~ン!」
「皆さんは待ってて下さい。守衛さんに確認してきます」
騎士であろう守衛に近付いて話しかける。
「こんにちは。フクーベから来たウォルトといいます。知り合いに挨拶に来たんですが、お会いできたりしますか?」
「王城へようこそ。その者と約束は取り付けてあるのか?」
守衛は体格のいい若い騎士。アイリスさんと同じ鎧を着ていて腰に帯剣してる。王城の守衛は城下町の門番と違って重装備だ。
よく見ると、ダナンさんが着ている甲冑も似たような造りだけど少し違う。これも時代の流れなのかな。
「急に来たので約束はしてないんです。やっぱり約束が無いと難しいですか?」
「人によるが…。ちなみに、誰に会いたいんだ?」
「騎士団のアイリスさんという方なんですが」
「アイリスの知り合いか」
「ご存知なんですか?」
「もちろんだ。騎士団で彼女を知らない者はいない。アイリスなら会えるかもしれない。だが、見ず知らずの君をおいそれと城に入れるわけにはいかん」
「では、アイリスさんによろしくお伝え願えますか。それだけで充分です」
「伝えておこう。フクーベのウォルトだな」
「よろしくお願いします」
丁寧に礼をして皆の元に戻ろうとした時、背後から声をかけられた。
「君はアイリスの知り合いか?」
振り向くと、守衛よりも大きな男性が立っている。鎧を着ているところを見ると、どうやら騎士。精悍な顔つきで、鎧を着ていてもわかるほど逞しい体躯をしている。
守衛にとって上司にあたるのか、素早く敬礼して「お疲れ様です。異常ありません」と報告を受けてる。
「フクーベから来たウォルトといいます」
「アイツに、何用かあってきたのか?」
「たまたま王都に来たので挨拶だけでもと思いまして。伝言をお願いしたところです」
「そうか。俺からも伝えておくが」
「いえ。一言で充分です。お気遣いありがとうございます」
丁寧に礼をして、待たせている皆の元へ向かうためにすれ違う。瞬間、騎士の体がピクリと反応した。
「ちょっと待ってくれ」
後ろから呼び止められる。
「なんでしょう?」
「フクーベから来たと言ったな?」
「そうですが、なにか?」
「あちらの騎士達は君の友人か?」
ダナンさん達を指差す。
「そうです」
「そうか。悪いが、少しだけ時間をくれ」
★
カネルラ王城の敷地内には騎士の訓練施設がある。即時対応を可能にするタメだ。
騎士の控室では訓練を終えた騎士達が所狭しと休憩していた。その中に汗を拭うアイリスの姿もある。
騎士団に所属している女性騎士は私だけ。女性専用の控え室などない。だが、長年の生活でお互いもう慣れている。
男性騎士達は気を使うこともなく着替えたり、上半身裸で汗を拭いたりしているけれどなんの感情も湧かない。
…と、気配を消して背後に忍び寄る1つの影。
「アイリス」
「ひゃっ…!」
気配なくいきなり声をかけられて驚く。振り向くとボバン団長。なぜか嬉しそうな表情を浮かべている。若干ニヤついているように感じるのは気のせいだろうか…。
「なんですか、団長。急に声をかけないで下さい」
団長は周囲に聞こえないよう呟く。
「お前に挨拶したいという者に城門で会ったから、伝えておこうと思ってな」
「私に?」
今日は誰とも約束などしていない。全く心当たりがないけれど。
「フクーベから来たそうだ」
「フクーベ?」
「ウォルトと名乗った。モノクルを付けた白猫の獣人だ」
驚きで固まってしまった。私の反応が予想通りだったのか、団長は満足げな表情を浮かべる。
「やはり、彼が噂の魔導師だな?」
「……そうですが、本当に…?」
まさか王城を訪ねてくれるなんて…。
「嘘など吐かん。少し時間をもらった。今は王都を観光しているだろう。しばらくしたらまた来ると言っていた」
「なぜ時間をもらう必要が?」
「まだ訓練が残ってるだろう?嗅覚の鋭い獣人に、汗臭いままで会っていいのか?」
「うっ…!」
団長の顔はかなりニヤついている…。いつもは厳つい顔してるくせに…。表情に少しイラッとした。
「…心遣い感謝します」
「守衛がトニーだったから、もう一度訪ねて来たら呼びに来るよう頼んである。それまでもうひと頑張りしてこい。俺はまだ行くところがある。じゃあな」
言い残して団長は去った。
ウォルトさんが私を訪ねてきてくれた…。なんとも言えぬ気持ちを胸に抱えて、残された訓練へと向かう。
休憩を挟んだあとのアイリスは、鬼気迫る表情で同僚を薙ぎ倒し訓練は予定より前倒しで終了することになった。
★
一方、その頃。
ウォルト一行は、ボバンの言った通り王都を観光していた。告げられたのは「騎士団はまだ訓練中であるから、2時間ほどしたらまた訪ねてくれ。その時に会えるよう取り計らう」とのことだった。
皆に伝えると、待っている間に王都を観光するということに落ち着いて、テラさんに案内をお願いすることに。
「ウォルトさんとアイリスさんが知り合いだったなんて意外です」
歩きながらテラさんが言う。それはそうだ。田舎者の獣人と女性騎士に接点が見出せないはず。
「少し前に縁があって知り合ったんです。王都には二度と来ないかもしれないので、会うなら今しかないかと。アイリスさんは有名なんですね」
「この間、武闘会で騎士と魔導師が闘う機会があって、アイリスさんは王都一の魔導師と言われる人を破ったんです!めちゃくちゃ格好よかったです!」
なるほど。アイリスさんは闘気を操る。魔導師相手でも互角に闘えるはず。
「ほぅ。昨日、闘技場で見た魔導師に勝てるのならかなりの実力者ですな」
「凄いですね。さすが近衛騎士です」
「ですが、先程の身体の大きな騎士…あの男は只者ではないですな。おそらく団長クラスではないかと」
「正解です!あの人は当代の騎士団長ボバンさんですよ」
「やはり…。内に秘める闘気が膨大で、抑えきれないといった雰囲気でしたぞ。おそらく我々の時代の騎士団長よりも強い」
「見ただけでわかるんですか?ダナンさんは凄いですね」
他愛もないことを話しながら、和気あいあいと観光を続ける。
★
一方、訓練を終えたアイリスは、反省会もほどほどに素早く浴場へと移動して汗を洗い流していた。
「ふぅ…」
唯一の女性騎士である私は、特別に王城内で訓練後の入浴を許可されている。団長の言う通り獣人は嗅覚が鋭い。そうでなくても、人に会う前に身を清めておきたいのは女性なら誰しもが思うこと。
…決して、ウォルトさんが相手だから汗臭いと思われたくないワケではない!断じて違うっ!!
身体を洗いながら、王都に何用があって来たのだろう?と思案する。王都観光に1人で来るような人ではないと思える。そうなると、誰かと来ている線が濃厚だと思うけれど。
まさか、観光デートとか…?
ふとそんな考えが頭をよぎるけれど、ウォルトさんは色々と普通じゃない。なにか、突拍子もない理由で王都に来ている気がする。
湯浴みしたのち、きちんと身なりを整え誰もいなくなった控室でソワソワしている。いつ呼ばれてもいいように準備を整えて、結構な時間が経っていた。
もしかすると、自分がそう感じているだけかもしれない。しばらく心ココに非ずだったけれど、ふと頭から抜け落ちていた重大なことを思い出す。
「王女様に伝えなければ…」
ウォルトさんと王女様は親友と呼び合う関係になられた。私だけが会うワケにはいかない。王女様が約束もなく一国民に会えるとは思えないけれど、来たという事実をお伝えするだけで違う。
控室を飛び出して、王女様の部屋へと向かう。
読んで頂きありがとうございます。