8 獣人っぽさとは
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
採取する薬草は住み家からそう遠くない安全な場所に生えているとのことで、護身用のナイフを装備しただけの軽装で出掛けることに。
「いざとなったら、ボクがアニカを背負って逃げるから大丈夫。ムーンリングベアより駆けるのは速いからね」と気持ちを和ませてくれた。
私とオーレンが装備していた武器や防具は、魔物との戦闘でボロボロになって使い物にならなくなってしまった。
初心者向けの安物だったけど、それでもあの装備があったから命が助かったんだ。
「じゃあ出発しようか」
「はい!」
外に出て、並んで歩き出したところでウォルトさんを見る。
横に並んでみると、頭2つから3つ分くらい私より背が高い。背が低い方だと自覚してるけど、過去に目にしたことがある獣人の中では比較的身長が低い部類に思える。
獣人は、人間に比べると遥かに身体能力や体力に優れていて、筋肉量も多く、男女問わず体格がいい。街でも力仕事に欠かせない存在。
その反面、魔法や学業、研究などの複雑な術式や知識を必要とする分野は苦手らしくて、通説では人間やエルフに比べると計算や記憶など頭脳的な面で能力が劣ると云われてる。
それに、私が聞いた限りでの獣人男性のイメージは、『女性に対してだらしないうえに、気性が荒くて乱暴者が多い。とにかく強さ自慢が好き』ってことだったけど、そんな常識と照らし合わせるとウォルトさんは珍しいタイプの獣人に思えた。
ローブを着てるから体格はハッキリ分からない。でも、首から上を見た限りでは痩せ型に見える。そもそも、ローブを着ている獣人が珍しい。毛皮に被われていて暑さに弱く、かつ動きやすい服装を好む獣人は街でも涼しげな軽装でいる者がほとんどだ。
それに、少し会話しただけで感じるほど知的な人だ。落ち着いていて、優しく丁寧な口調と綺麗な言葉遣い。温厚で知識も豊富なのに、威張ることもなく淡々としてる。こんな人、人間でもそういないと思う。
「どうしたの?なにか気になる?」
声を掛けられて我に返った。ジッと見ていたから気になったのかな。
「素朴な疑問なんですけど、ローブを着てて暑くないのかな?と思って」
「こんな服を着てる獣人は珍しいよね。ボクは、他の獣人と違ってあまり暑さを感じないんだ」
「ってことは、実は寒がりとか?」
「そうなんだ。瘦せてて身体も細いし、色々と獣人っぽくないんだよ」
ウォルトさんは苦笑するけど…。
「そんなことないと思います」
「え?」
「街に出てきたばかりでよく知らないんですけど、人間と同じで色んな獣人がいるんですよね?確かに他の獣人とは少し違うように見えますけど、ウォルトさんみたいに優しくて物知りの獣人もいるんだって勉強になりました。私には凄く立派な獣人に見えます」
街に引っ越してから、『獣人の男性は言動がガサツな人が多い』と思ってた。多分間違ってないはず。
ウォルトさんは一瞬驚いたような表情を見せたあと、ククッ!と笑う。その表情がとても可愛くて見えて、毛皮を撫でてみたいなぁ…なんて、ちょっとだけ失礼なことを考えてしまった。
「私、おかしなこと言いましたか?」
「いや、全然。…おかしいのはボクの方なんだ」
言ってる意味がよくわからないけど、ウォルトさんが足を止めた。
「この辺りが薬草が自生してる場所だよ。早速だけど採取を始めるとしようか。説明しながら採っていくよ」
「わかりました!よろしくお願いします!」
その後、薬草の種類、効果、回復薬にするタメに必要な配合について実物を見ながら簡単に教えてもらう。
理解できないところはその都度質問する。無知な私に嫌な顔1つせず丁寧に教えてくれて、凄くわかりやすい。
「この草は薬草で、すり潰すと傷薬にもなるんだ。少し効果は低いけどね」
「ふんふん!」
「この草には、解毒作用があるよ」
「へぇ~!」
ウォルトさんって、まるで学者みたい。なんでも知ってそう!
一通り基礎を学んだところで、調合に必要な材料を採取してから家に戻ることになった。「次は住み家で実際に作ってみよう」と提案してくれたから。
「素材を集めようか」
「はい!よろしくお願いします!」
2人で採取した数種類の薬草を袋に詰めて帰路につく。住み家への帰り道でも冒険に役立ちそうな知識を幾つか教えてくれる。
迷いやすい森では帰り道が分かるよう目印をつけながら歩くことや、どうしても火を起こす必要があるときは、大きな木の下で炊けば煙は上りにくく場所を知られずにすむこと。
今が何時なのか太陽と方角さえ分かれば調べられることなど、冒険に使えそうな雑学を丁寧に教えてくれる。私は「へぇ~」「ふんふん!」「なるほど!」と真剣に耳を傾けた。
「アニカは素直に聞いてくれるから、教え甲斐があるね」とウォルトさんは笑う。
「やっぱりウォルトさんは森の賢者なんじゃないかと思ってます!」
「大袈裟だよ。今まで教えたことは、きっと冒険者なら知ってる人も多いし、森に住んでるから知ってるだけなんだ」
「まだまだ未熟者なので、なにを聞いても新鮮です!他にも教えて下さい!」
「ボクでよければ。でも、初心を忘れちゃだめだよ。成長しなくなってしまうから」
「はい!」
「今のは…偉そうにモノを言ってしまったね…。ゴメンね」
「大丈夫です!その通りなんで!」
その後も雑学談義は住み家に着くまで続いた。
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