79 いざ王都へ
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
朝食を済ませて出発の準備を終えたボクらは、新調した玄関のドアを開けて外に出る。天候にも恵まれて絶好の旅日和になった。
「いい天気ですね」
「まさに。では、参りましょう」
いつものごとくダナンさんがカリーに騎乗しようとするも、カリーはひょいっと軽やかに身を躱してはボクを見つめる行動を繰り返す。
なにがしたいんだろう?
「どうやら、カリーはウォルト殿を背に乗せたいようですな」
「ヒヒ~ン!♪」
笑顔のカリーは『その通り!』と言った風で尻尾を振ってる。
「カリー。気持ちは嬉しいけど、ダナンさんを乗せてくれないか?」
「ヒヒン…?」
悲しげな表情で『嫌なの?』と言っている気がする。
「違うよ。ボクはカリーと一緒に森を駆けたいんだ。きっと気持ちいいよ」
「ヒヒ~ン!」
理解してくれたかな。『そっちのほうが楽しいかも!』と言っている気がする。
「でも、一度乗ってみてもいいかい?」
「ヒヒン!」
『カリーの背に跨がると、霊体なのに毛並みがふわふわで気持ちいい。カリーも満足そうな表情。
「白猫の獣人と白馬の組み合わせが凄く格好いいですな。お似合いですぞ」
「褒めすぎですよ。ね、カリー」
「ヒッヒン!ヒヒ~ン!」
『わかってるじゃない!たまにはいいこと言うわね!』とダナンさんに言っているようだ。満足してカリーから降りる。
「ありがとう、カリー。凄くいい体験ができたよ。競走するワケじゃないけど、一緒に駆けよう」
「ヒッヒーン!!」
「ダナンさん。まずはフクーベに向かいましょう」
「はい。よろしくお願い致します」
騎乗したことを確認して駆け出す。カリーも声高らかに嘶いて後を追うように駆け出した。
「なんという速さ…。さすがですな」
木々の間を縫うように駆けると、カリーも楽しそうに併走する。息を切らすこともなく余裕の走り。カリーは疲れを知らない。このスピードなら10分とかからずフクーベに到着する。魔物に絡まれることもなく、予想通りの時間でフクーベ近郊に到着した。
「ダナンさん。今回はフクーベに寄らないつもりですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですぞ。道を思い出しますのでお待ち下さい。ココが旧王都として…見えるのがタケ山…。ということは方角は……。わかりましたぞ、道は向こうです」
ダナンさんが指差した方角へ向かう。ボクの記憶でもその方角に向かう馬車が出ていた。王都行きだったかは定かじゃないけど、経験者のダナンさんも言っているし間違いないだろう。
フクーベを迂回するように進むと道が見えてきた。馬車が通れるように整備された比較的新しい街道。
「おそらくこの道を進めばキシック方面へ行けるはずです。途中で幾つか別れ道があるかと思いますが、故郷の方角は間違えようもありません」
「頼もしい限りです」
「ヒヒ~ン…?」
カリーは懐疑的な目でダナンさんを見ている。いわゆるジト目。『ホントにぃ…?』と言っているかのよう。
「なんだその目は!私を疑っとるのか!?道もわからんようでは故郷に帰れんだろうが!…まったく」
「ヒ~ン?」
心外そうなダナンさんだけど、それでもカリーは納得してない様子。そんなカリーに話しかける。
「もし道を間違えても、旅の期間がちょっと延びるだけだよ。楽しいんじゃないかな」
「ブルルル!ヒヒン♪」
頬擦りしながら『確かに!』と言ってくれた気がした。
「じゃあ行こうか。また、しばらく駆けるよ」
「ヒヒン!」
王都へ向かって疾走する。街道は道幅が広く、整備されて走りやすいことも手伝って快調に飛ばす。
途中で、フクーベに向かう馬車とすれ違っても、従者もボクらを気に留める様子もない。しばらく駆けた先でまた次の馬車が目に入った。なにやら立ち往生してる。どうしたんだろう?
気になったので、駆けるのをやめて近付いてみると、曳馬が座り込んでいて従者が心配そうな顔。
「どうかしたんですか?」
余計なお世話と思いながら尋ねると、従者事情を説明してくれる。
「急に馬が歩かなくなってな。見た目には怪我しているようにも見えないし、なにが原因なんだか…」
「ボクが診てもいいですか?」
「アンタは獣医か?」
「いえ。でも、見ての通り騎馬と一緒にいるので気付くことがあるかもしれません」
「そうか。申し訳ないがよろしく頼む」
頭を下げた従者の横に座り込んでいるのは、綺麗な栗毛の牝馬。名前はリンというらしい。カリーも同じ馬種として心配なのか、傍で見つめている。
カリーやリンは、馬の獣人の先祖と云われる【馬】じゃない。容姿が似ていることから馬種と呼ばれ、馬から分かれて進化した存在と云われている。
カリーのように機動性に優れた【トルーパー】や、リンのように力強く馬力を備える【バンエイ】、体躯が一回り小さな【ポニー】などが存在する。ただし、人間のように細かい分類を気にしない種族からは一括りで馬と呼ばれていて、逆に人間は肌や髪の色が違って細かく人種が分かれるらしいけど、獣人は全てを【人間】としか認識していないのでお互い様。
確かに見た限りでは外傷はない。でも、明らかに様子がおかしい。同じく動物を祖先に持つ存在として、困っているならなんとかしてあげたい。リンと目を合わせて優しく語りかける。
「リン。ボクは猫の獣人のウォルト。少しだけ触れてもいいかい?」
「ブルルル…」
『いいよ』と言われた気がして微笑む。おそらく間違ってない。
「ありがとう。ちょっと診せてもらうよ」
顔から背中、尻尾付近まで触診してみても痛がる様子はない。お腹も大丈夫そうだ。…となると、残されたのは脚だけど…。綺麗に折り畳まれた脚に触れながら観察すると、前脚に触れたときピクリと反応した。
スラッとした脚の付け根から、蹄までを隈なく触診すると、蹄の付け根辺りで痛みを感じているみたいだ。
「挫跖かもしれません」
「挫跖?」
「石を踏んだりした衝撃で、蹄の内側が出血するんです。見た目ではわかりません」
「そんなことがあるのか。知らなかった」
がっくり肩を落とす従者。気付けなかったことを悔いているのだろう。優しい従者だ。
「よければ痛み止めの薬を塗ってみましょうか?ちょうど持ち合わせがありますし、効いてくれたらフクーベまでは行けると思います」
「すまないが頼めるか?」
「わかりました」
リュックから塗り薬を取り出し、一掬い手に取って優しく患部に塗布しながら『治癒』を使う。塗ったのはただの傷薬。
しばらくすると、リンは目をパチパチさせて立ち上がった。前脚を動かして痛みを確認してる。
「おぉっ!立った!薬が効いてくれたのか」
「もう大丈夫だと思います。フクーベに着いたら獣医に診てもらって下さい」
「恩に着る。そうさせてもらうよ」
丁寧に礼をする従者の後ろからリンがボクに頬擦りしてきた。
「大丈夫?もう痛くない?」
優しく首を撫でると、「ヒヒン!」と元気に嘶いて顔を舐めてくれた。
リンに顔を舐められまくりながら、「いりません」と断った薬代を従者に無理やり渡されて困ってしまったけど、ダナンさんに「礼を受け取るのは大事なことですぞ」と諭されて受け取ることにした。
馬車を見送ったあと、気を取り直して先に進もうとしたけれどカリーの様子がおかしい。
「ぬぉっ…!!カリー!?」
突然フラついたカリーは、バランスを崩してゆっくり倒れ込む。騎乗していたダナンさんは、身体を投げ出されてガチャンと地面に崩れ落ちた。
「カリー?!大丈夫?!」
「ウォルト殿!!大丈夫ですぞつ!」
駆け寄ろうとして、ダナンさんに手で制される。
「大丈夫?どういうことですか?」
「そのままでお待ち下され!カリー……お前という奴はっ…!」
ダナンさんは起き上がってカリーに近寄る。けれどカリーはピクリとも動かない。心配だけど、ダナンさんの言う通り黙って待つ。
ダナンさんは、右手に構えた槍の穂先を寝そべるカリーのお尻に押し付けた。ビックリしたのか、それとも痛かったのかカリーは跳び上がってすかさずダナンさんを威嚇する。
「ウォルト殿。こういうことです」
「どういうことですか?」
全く理解できない。
「私にはわかります。カリーは…仮病を使ったのです」
「仮病?なぜ?」
「ウォルト殿に治療された曳馬が羨ましくなって自分も…と考えたのでしょうな。我が相棒ながら浅ましい」
そんなことあるかな?ボクは治療ごっこをしてるつもりはない。
「カリー。本当かい?」
「ヒヒン!ヒヒヒ~ン!」
大きく首を横に振って『違うの!ダナンは嘘をついてる!』と言っている。
「カリーは違うと言っています」
「ほぅ…。ならば聞くが、どこが悪いのだ?」
「ヒン?」
「どこかに異常があるから倒れたのだろう?ウォルト殿に調べてもらって、もし嘘だと判明したら…」
「ヒヒン?」
「嫌われてしまうだろうな。ククッ…!」
「ヒヒ~ン?!」
ダナンさんは珍しく悪い表情をして…いるかもしれない。甲冑なので判別できないけど、笑い声に合わせて肩が上下している。カリーはひどく動揺した様子。
「大体、我々は既に死んでおるのだ。体調に異常をきたすワケがなかろうが!バカたれ!」
「ヒヒヒーン!?」
ダナンさんの正論にカリーはガックリ項垂れた。反論できないようなので、近付いて頭を優しく撫でる。
「カリー。心配かけちゃダメだよ。噓はよくない」
「ヒヒン…」
カリーは反省して謝っている。『怒ったの?ごめんね…』と言っているっぽい。
「怒ってないけど心臓に悪いよ。カリーのことが大事なんだ」
「……ヒン」
「なにが羨ましかったのかわからないけど、カリーの体調も診てみようか?」
「ヒヒン!?」
そそくさと移動したカリーは、通行人の邪魔にならない道端にコロンと寝転ぶ。さて、望み通り診察してみよう。
★
ウォルト殿がカリーを診察する様子を離れて見守る。
なにが楽しいのかわからないが、カリーはとても幸福そうな面持ち。ウォルト殿の人のよさに若干呆れてしまう。
だが、昔ならあり得ない光景。生前カリーは私以外の誰にも懐かなかった。いや、私にも懐いていたか怪しい。仕方なくだったかもしれぬ。
そんなカリーが、知り合って間もないウォルト殿には異常なほど懐いている。なにが此奴を突き動かすのか予想もできないが、生前なら考えられない。撫でようと近寄った者を誰彼構わず蹴り飛ばすような暴れ騎馬なのだ。
とんでもないじゃじゃ馬だがそこが可愛くもある。私にとって戦死する最期の時まで共に闘った戦友。
カリーは…遅れてきた幸せを噛みしめているのかもしれぬ。真に心許せる者と死した後に巡り会ったというだけのこと。目に余る行為は容認できないが、少しだけ御仁の好意に甘えさせて頂こう。
私の胸中など気にすることもなく、横たわって楽しそうに脚をパタパタさせるカリーはなんとも言えず幸せそうだ。
読んで頂きありがとうございます。




