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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
78/706

78 ダナンの願い

暇なら読んでみて下さい。


( ^-^)_旦

 ある日のこと。


 新作の花茶作りに精を出していたウォルトの耳がピクリと反応する。



 捉えたのは徐々に大きさを増す蹄の音。ダナンさん達が来たのだろうと、作業を一時中断してお茶を淹れるべく準備に向かう。

 しかし、近づいてくる蹄の音は一向に減速する様子はなくむしろ勢いを増すばかり。カリーも元気そうだ。


 台所で暢気にお茶を淹れていると…。


「こらっ!!止まらんかっ!!」


 ダナンさんの声が耳に飛び込んできた。次の瞬間。


 ドッカァ~ン!!


 城門を突破するかのごとく玄関のドアを突き破って2人は現れた。玄関を覗き見れば、枠を残して木っ端微塵に吹き飛ばされている。カリーは凄く元気でとても死んでいると思えない。


「お久しぶりです。カリーは今日も元気だね」


 何事もなかったかのように笑顔で語りかけると、カリーは思い切りダナンさんを振り落とし、駆け寄って身体を擦り寄せてくる。


「ヒヒ~ン!ヒッヒ~ン!」

「元気そうだね」


 顔や首を優しく撫でてあげる。急いで起き上がったダナンさんが頭を下げて謝罪してきた。


「ウォルト殿!申し訳ありません!久しぶりに来たというのに、いきなりご迷惑をお掛けして!」

「大丈夫ですよ、ドアは直せばいいんですから。それより怪我はありませんか?」

「…ウォルト殿は人がよすぎますぞ」


 言ってる意味がわからない。別に人がいい言動をしたつもりはないけど。なんの気なしに首を傾げると、側に寄り添って真似をするように首を傾げるカリー。


 その様子を見たダナンさんは、頭にきた様子で声を荒げる。


「カリー!お前はっ…!!なぜ止まれと言っとるのに止まらんのだ!恩人に迷惑をかけてしまったではないか!」

「ヒヒ~ン!ブルルルッ!」


 カリーは『うるさいわね!蹴り飛ばすわよ!』と言わんばかりに嘶き、歯を剥き出しにしてダナンさんを威嚇する。


「私の言うことを聞かないのは昔からだが…あまり迷惑をかけるとウォルト殿に嫌われてしまうぞっ!!」

「ヒヒーン!?」


 カリーは『なんだって~!?』と言わんばかりの焦りよう。その後、ボクにすり寄って小さく嘶く。


「ヒヒン…?」


『そうなの?』と言わんばかりに。


「そんなことで嫌いになったりしないよ。楽しみに会いに来てくれたんだよね?」

「ヒヒーン!!」


 おそらく『さすが!わかってるぅ!』と言っているのだろう。


「ウォルト殿。カリーを甘やかしてはなりません。悪いことをしたら叱らねばどんどん増長してしまいます」

「甘やかして…はないと思いますが。確かにドアを蹴破ってはいけませんね…。カリー」

「ヒヒン?」

「今後、人の家のドアは蹴破っちゃだめだよ。わかったかい?」

「ヒヒン…」


 叱られるのはどうやら堪えたようで、項垂れたカリーは素直に『ごめんなさい…』と言っている気がする。

 それを見たダナンさんは、うんうんと頷いて満足げな表情をしてるような気がするけど、全身甲冑なのであくまで雰囲気。


「我が家は別に蹴破っても大丈夫だから」

「ヒヒ~ン!」

「ウォルト殿…。ダメですぞ…」

「とりあえず、玄関はこのままにしておけないので…」


 手を翳して玄関に隙間なく『強化盾』を張っておく。こうすれば風や虫の侵入を防いでくれる。


「しばらくこのままで大丈夫です。立ち話もなんですから中へどうぞ」

「かたじけない」 

「ヒヒーン!」


 連れ立って居間へと向かった。途中だったお茶を淹れ終えてダナンさんに差し出す。カリーには冷たい水を用意してあげると喜んでくれた。


「最近は、どこかへ行かれたんですか?」

「旧王都のフクーベの街に行きました。大きく変化しておりましたが、街並みはどことなく王都の面影が残っておりましたぞ」

「そうですか。街の人に驚かれたりは?」

「大丈夫です。暑いのに甲冑を来ている変人だと思われたでしょうが。街に行けるようになったのも貴方のおかげです。感謝しかありません」

「今のカネルラが平和なのはダナンさんやカリー達の尽力のおかげです。こちらこそ感謝しています。手伝えることがあったら遠慮なく言ってください」

「ウォルト殿…」


 ダナンさんは黙り込んでしまった。ボクは殊勝な獣人じゃないけど、ダナンさんやカリーの話を聞いて感謝してる。あまり言うべきじゃないのかな。


 話題を変えようとしたときダナンさんが口を開く。


「ウォルト殿に折り入って頼みたいことがあるのですが…」


 なにやら申し訳なさそう。


「なんでしょう?」

「恥ずかしながら、フクーベの街に立ち寄って、街は大きく様変わりしているはずなのに昔のことを思い出してしまいまして…。その…」

「はい」

「見てみたいと思ってしまったのです」

「なにをですか?」

「平和になった今の王都を…」


 ダナンさんとカリーは、カネルラの民や国王を守りたい一心で蘇り、王都に向かおうとしていた。正気に戻って王都に行きたくなるのは必然。

 

「それで、ボクに頼みたいこととはなんでしょうか?」

「もしよろしければ、私達と一緒に王都に行ってもらえないかと。恥ずかしながら道もわからず…。もちろん無理にとは申しません」


 要望に応えたい気持ちはある。ただ、ボクは王都に行ったことがないから道案内できない。フクーベから馬車に乗れば辿り着くけどカリーもいる。

 どうしたものかと言葉に詰まった姿を見かねたダナンさんが続けて口を開いた。


「今の言葉は忘れて下され。我々はいずれ自分の力で向かいます」

「いえ。一緒に行くのは全然構わないんですが、行ったことがないので道がわからないんです。お役に立てず申し訳ありません」

「謝る必要などありません。私の我が儘なのですから。私も昔の道なら覚えておるんですが、400年も経つと変化しているでしょうな」


 ダナンさんの言葉に引っかかりを覚える。


「昔の道なら…。そうだ…。ダナンさんは【キシック】という村をご存知ですか?」

「キシックは私の故郷です。久しぶりに聞く懐かしい名です。なぜそんなことを聞くのです?」

「王都に行けるかもしれません。ダナンさんは、キシックから王都に上京してきたんですよね?」

「その通りですが…」

「フクーベは旧王都の跡地に創られた街。そして、かつてキシックだった場所に所在しているのが…」

「…まさか」

「今の王都です」

「なんとっ!キシックが王都に?!信じられません…。かなりの田舎でしたが…」

「カネルラの歴史ではそう伝わっています。道が大きく変わっていなければ、ダナンさんの記憶を頼りにフクーベから王都に向かうことができるかと」

「それならば行けるかもしれませんな…」

「フクーベから馬車で4時間程度と聞いているので、ボクがカリーと併走すればもっと早く着くかもしれません」


 床に座ったまま黙って話を聞いていたカリーも、立ち上がって「ヒヒン!ヒヒン!」と笑顔で首を擦り付けてくる。まるで『一緒に行きたい!』と誘っているみたいだ。そんなカリーの顔をゆっくり撫でてあげた。


「しかし、本当によろしいのですか?無理して付き合う必要は…」

「ボクも死ぬまでに一度くらいは王都に行ってみたいと思っていたので、今回はいい機会です。それに、旅をするなら人が沢山いるほうが楽しいといいます。ね、カリー」

「ヒヒーン!!ブルルル!」

「あははは。くすぐったいよ」


 カリーは興奮が収まらないといった様子で、顔を舐め回してくる。可愛いなぁ。

 


 ダナンはじゃれ合う2人を見つめながら推察する。


 おそらくウォルト殿は亡霊である自分達が対処できないような事態に直面したとき、力になりたいと考えているに違いない。我々に…心置きなく王都を見てほしいと考えている。

 自分達が生きていた時代にも、これほどまでに優しい獣人はいなかった。強さこそが正義で優しさなど微塵も必要ない。それが獣人という種族だと思っていた。この御仁に会うまでは。


 何度も繰り返しダナンは思う。この心優しい獣人に出会えて本当によかったと。



「王都にはいつ向かいますか?」

「我々はいつでも構いません。しかし、その前にやることが残っております」

「やること…ですか?」

「ドアを直さねばなりません」

「確かに。このまま出て行くのは無理ですね」

「ヒヒン…」


 心苦しいのかカリーは項垂れている。落ち着かせるように首の辺りを撫でながら伝える。


「早くドアを直して一緒に王都へ行こう。カリーも手伝ってくれるかい?」


 カリーはコクリと頷いて、フンス!と鼻息を荒くする。3人で使えそうな木材を探しに森へ行くことにした。

 ドアに加工できそうな一枚板など、そこら辺に落ちているはずもなく、大小様々な枝や折れた樹木の中から使えそうなモノを選定して拾い集めていく。


「ウォルト殿。端切れでもよいのですか?」

「構いません」


 積荷を住み家に運ぶのはカリーの仕事。何度か繰り返して必要な量を確保して、速やかに修理にとりかかる。


「このような端切れでドアが直せるとは思えないのですが…」

「大丈夫です。任せて下さい」


 器用に取り外して、横倒しにしたドアの枠の中に採ってきた木材を隙間なく収めると、右手を翳して詠唱する。


同化接着(アロア)


「おぉ!なんと!」

「ヒヒーン!?」


 並べられた木材が溶けるよう隙間を埋めながらお互いに融着し、1枚の板へと変貌を遂げる。溶け合っても色はそのままなので、少々前衛的なデザインになってしまったものの立派なドアが完成した。出来栄えには満足。


「どうでしょう?」

「いいですな。なんとも言えぬよさがありますぞ。いやはや驚きました」

「ヒヒン!」


 作業を終えたダナンさん達は、今日はもう遅いので住み家に泊まっていくことになった。

 夜の内に話し合って明朝王都へ出発することに決めたボクらは、同じ部屋で眠ることに。

 ダナンさんとカリーは霊体なので、食事や睡眠は必要ないけれど、眠ること自体は可能でちゃんと毎日寝ているらしい。


 カリーが、鼻息荒く『ウォルトと一緒に寝たい!』とせがんだので、ダナンさんはベッド、ボクとカリーは毛布を敷いた床でそれぞれ眠った。

読んで頂きありがとうございます。


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