76 初めての魔道具作り
暇なら読んでみてください。
( ^-^)_旦~
マードックと共に『獣の楽園』に潜って数日経った。
納品で訪ねてきたナバロさんに、魔道具の製作に関する本が手に入らないかお願いしていた。ボクが依頼できる商人はナバロさんだけ。
「内容が高度な本でなければ手に入るかもしれないよ」とのことで、期待していたところ念願の1冊を手にする。
表題を『魔道具製作の基礎』といういかにもな本は、魔道具製作に関する基礎的事項を網羅した初心者向けの1冊。
元々工作の類が好きで、嬉々として本を読みながら嬉しさを抑えきれない。巻末の数頁に、様々な魔道具の一覧と大まかな作成方法が参考として載っている。その中にコカ・トーリスの羽根を使って作成する魔道具があった。
どうやら魔力を増幅する効果を持つ魔道具ができるらしい。魔導師なら誰もが欲する魔道具だ。マードックが羽根を渡した相手も魔導師だろう。
記念すべき最初の魔道具を是非作ってみたいと思い準備を始める。実はコカ・トーリスの羽根を1本だけ渡さずに保管しておいた。
マードックに渡すとき、数は足りるだろうと思っていたのと、綺麗な羽根だったので観賞用にずっと魔力を流し続けて保管していた。
他の材料はなんとかなりそうなので、確認を終えたところで素材の採取に森へと出掛けることにした。
滞りなく材料を採取して帰宅すると、製作意欲を抑えきれず即座に机に向かい、魔道具の製作を開始する。
対象の魔道具は材料と工程が正解であればどんな形に仕上げても問題ないようで、身につけられる腕輪型に加工することに決める。腕輪は魔法使いの装備っぽいし、魔力を増幅するなら手首に着けるのが最善だから。
本を熟読して、『ふ~む』『なるほど』と試行錯誤しながら作り上げていく。基礎の本だけあって、一覧に載っている魔道具の細かい解説は端折られているけど、なんとかなりそう。
製作も佳境に入って、一息ついたところで思った。魔道具製作はめちゃくちゃ楽しい。
どう例えたらいいだろう。1つ1つの作業が非常に細かくて、それでいて魔力の付与に繊細さが求められる。間違えたら後戻りはできず全て台なしになる緊張感。
普通の獣人であれば5分と持たずに投げ出しそうな作業だけど、ボクは楽しくて仕方がない。
適度に休憩を挟みながらお茶を飲んで人心地つくと、いよいよ最後の工程にとりかかる。間違えると全てが水の泡だ。とてもやり甲斐あるなぁ。
…と、ある問題に気付いた。最後の工程に書かれていた『コカ・トーリスの羽根を魔力で溶け込ませるには、炎、水、氷の魔力を同時に同量で付与する』という説明には困ってしまう。
2つの魔法は両手から同時に付与することができるけど、あと1つをどうするか…。口から魔力は出せないし、足も纏うのが精一杯。アニカに手伝ってもらうのが間違いないけど今日は来る予定もない。
手詰まりだ。なにかいい方法はないかな?
ここまできて失敗したくない。貴重な羽根が失われてしまう。…と、上手くいきそうな案が思い浮かぶ。同時に付与する必要があるのなら、最初から混合しても大丈夫なんじゃないか?
理論上は、魔力を均等に混合して付与することで同様の効果が得られるはず。一発勝負になるけど、この方法なら1人でも可能。集中してやってみよう。
まず、炎と氷の魔力を両手に発現させて練り合わせる。分量はピッタリ同量。この辺は得意な魔力操作が活きるところ。
混合した魔力は左の掌で保ちつつ、右の掌には水の魔力を同量発現させてさらに練り込むと、完成した紫色の魔力の塊が浮かぶ。
腕輪の形に加工した鋼の切れ端にコカ・トーリスの羽根とゆっくり溶け込ませていくと、黒ずんでいた鋼は鮮やかな橙色に輝く鋼へと変化を遂げた。成功したのかな…?
手に取って見つめてみても、色が変化したことしか変わりないように見える。実際に魔法を使ってみるしか確認できる方法はなさそうだ。今から修練場に行って確認してみよう。
気付けば外は夕焼け色に染まっていた。熱中しすぎて時間を忘れていたみたいだ。行くのは明日にしよう。
いつものように『炎』を使ってみる手もありだけど、あえて明日の楽しみにとっておくことにした。
★
次の日。
弁当を作って浮かれ気分で森を歩き、真っ直ぐ修練場に向かっている。スケさんたちに会うのはアニカと行ったとき以来だ。
修練場まであと少しというところで、なにやら騒ぐ声が聞こえた。複数の女性の声、何事かと駆け足で現場へ向かう。すると、3人の冒険者らしき女性達と対峙するスケ三郎さんの姿があった。
「そっち行ったよ!」
「わかってる!」
「すばしっこい!やるわね、コイツ!」
スケ三郎さんは軽やかに攻撃を躱しながら的確に反撃している。動きにかなり余裕がある。
「姉ちゃん達じゃ俺には勝てねぇよ。出直してきな」
「ムカつく~!」
「一斉にいくよ!」
「了解!」
前衛系と思われる3人は、各々の武器を手に一斉に攻撃を仕掛けた。ちょっと危ないかもしれない。
「…へっ。甘いんだよ!」
全ての攻撃を華麗に躱したスケ三郎さんは、剣の腹で防具の上から打撃を加えて倒しきった。見事な動き。やられた女性冒険者らしき者達は座り込んで悔しそうにスケ三郎さんを睨んでいる。
「なっ?俺はまだやられるワケにはいかねぇんだ。勝たなきゃいけねぇ奴がいるんでな…」
「スケルトンが勝たなきゃいけない相手…?」
女性冒険者は意味がわからないという風に訊いた。
「ムカつくムッツリスケベの白猫がいるんでな…。アイツに勝つまでは負けられねぇ!」
スケ三郎さんの背後から話しかける。
「ムッツリスケベの白猫って、まさかボクのことですか?」
「…よぅウォルト。『ニャんだとぅ?』ってツラしてんな。ココで会ったが百年目…。爆殺されかけた恨み……晴らさでおくべきかっ!」
「スケ三郎さんがいきなり現れたんです」
完全な濡れ衣に呆れた。
「うるせぇっ!!問答無用だっ!行くぞ、オラァ!!」
いきなり斬りかかってくるスケ三郎さんの斬撃を冷静に躱して、チラッと横を見る。
「あっ。スケさん」
「なにっ!?」
視線を外したところで足払いをかけてうつ伏せに倒すと、そのまま背中に乗っかって女性陣に笑顔で告げる。
「このスケルトンの被害者の方ですね。気が済むまで殴って下さい。遠慮はいりませんので」
「こらっ!卑怯だぞっ!お魚咥えたドラ猫め!」
「ボクは魚を咥えたりしません」
這いつくばって喚くスケ三郎さん。言うにことかいて誰がドラ猫なんだ。女性冒険者達は混乱している風だったけど、「どうぞどうぞ」と笑顔で再度促したら「ありがとうございます」と丁寧に礼をした。
その後しばらく、ポコポコとなにかを叩くような音と何者かの呻き声が森に響き渡った。
修練場に着くと、スケさん達に呼びかけて出てきてもらう。
『今日はどうしたんだ?』
「試してみたいことがあって来ました。魔力を増幅させる魔道具を作ってみたんですけど」
ボクの言葉にスケ六さんが反応した。
『魔力を増幅させる?コカ・トーリスの羽根か?』
「スケ六さん、知ってるんですか?」
『おう。俺は魔道具職人もやってたからな。一度は作ってみたいと思ってたけど、生きてる内には無理だった』
「コレが作った魔道具です。多分大丈夫だと思うんですけど、どうでしょうか?」
スケ六さんに作った腕輪を見てもらう。
骸骨だから目がないけど、じ~っと見つめたあと『驚いたな。よく出来てる』とお墨付きを貰った。
効果を試そうと皆に待避してもらって、腕輪を装着する。壁に向かって手を翳したら嫌な予感がした。
「前にも同じ状況があったような…」
呟くとスケさん達も反応する。
『あったな…』
『あった…』
『まさか、また…』
『アイツ、どこ行った?』
『死ねばいいのに…』
ざわつく中、スケさんが『構わずやっていい』と言うので、かなり加減した『火炎』を放った直後、目の前の土が盛り上がる。
「まさかっ?!」
『やっぱり!』
各々が思ったのも束の間、ピョ~ン!とスケ三郎さんが勢いよく飛び出してきた。加減したにもかかわらず、想像以上の…『火焔』を超える地獄の業火がスケ三郎さんに襲いかかる。ボクの予想を遙かに超える威力。
「ウォォォルトォォ~!!テメェのせいで女に弄ばれる第2の嗜好の扉が開いたぜ!このクソ猫野郎~!!」
「スケ三郎さん!なんで、いつも目の前に現れるんですか!?」
『懲りない奴だ…。南無…』
スケさんは手を合わせて祈る。
『『『『火葬だな!灰になれ!スケ三郎!』』』』
「ちっ…!また魔法かよ!」
迫り来る業火を躱すと予想したけれど、スケ三郎さんは剣を構えてニヤリと嗤った。
「テメェの炎ぐらいじゃ今の俺は焼けねぇんだよ!つまんねぇ焚き火かってんだ!」
その場で独楽のように高速で回り始めた。激しい炎を吹き飛ばす技をいつの間に身に付けたというのか。
そして、炎はスケ三郎さんを直撃する。
数秒後。炎が霧散した後にスケ三郎さんの姿はなく、ただ桃色の灰が小山のように残されていた。
「スケ三郎さん…」
『気にするな。またすぐに復活する』
『そうだよ!カッコつけて結局燃え尽きてんじゃん!バカだろ!』
『嗜好の扉がどうとか意味不明なこと言ってたな。骨のくせに』
『最近、調子に乗りまくってたからいい気味だ!永遠の火葬だ、バカ!』
カラカラ笑う皆に『とりあえず回収しといてくれ』とスケさんが指示を出す。
『『『『へ~い』』』』
どこからともなく箒と塵取りを持ってきた皆が、せっせと灰を集めて壁際にポイッと投げ捨てた。
なんか…寂しいな。
心に決めた。修練場に来て魔法を使うときは、まずスケ三郎さんをふん縛って動けないようにしてからにする。
読んで頂きありがとうございます。