表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフの魔導師  作者: 鶴源
74/689

74 狼と猫。それぞれの想い

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

 マルソーに戦利品を渡した後、マードックは家で飲み直していた。


『獣の楽園』の5階層に到達という、偉大な獣人の先人達と同等の偉業を成し遂げたというのに表情は晴れない。

 グイッと酒を飲み干してグラスを置くと、ふぅ…と大きく息を吐いて今日の冒険を回想する。



 サマラの件で闘った時から薄々気付いてた。アイツの実力はまだ底が見えてねぇってことに。


 あの時は殴り合いだったが、アイツが詠唱した『火炎』の威力と、完璧に回復させた『治癒』に魔導師としての実力の片鱗を見た気がした。


 もしかすっと想像以上の力を持ってんじゃねぇか…?と疑って、試すようにけしかけたエッゾに勝って、多分王女の護衛だった女騎士にも勝ってやがる。

 アイツが強さを示すことで、俺の夢『獣人だけでの最高峰ダンジョン攻略』も現実味を帯びた。


 今回の冒険の目的は、マルソーの魔法を強化してホライズンを強くすること。それが狙いでアイツに頼んだ。アイツの実力を確認するのは、あくまでついで。

 ガッカリするかもしれねぇと疑いながら、マルソーと同じくれぇはやるかもな…と予想したら、予想を遙かに上回る魔法を目の当たりにして度肝を抜かれちまった。


 アイツの力に気付けなかったのは、優し過ぎる性格が邪魔してっからだ。魔法の威力が常識外れすぎて対人戦じゃ使えねぇし、俺とやったときも威力を抑えてたのは間違いねぇ。

 余程怒らせねぇと対人戦じゃ本気は見れねぇ。それに、今日見た魔法でも本気じゃねぇに決まってる。あれだけ余裕ぶちかましてる魔導師なんぞ見たことねぇ。

 

 認めたくねぇが、アイツは化けモンだ。


 獣人っつうのもそうだが、魔法がぶっ飛んでるとしか言えねぇ。もう、大魔導師とか言われてもおかしくねぇレベル。

 けど、アイツは「こんなの誰でもできる」と意味不明なこと言いやがる。腹の底からそう思ってやがる。そういう男だって知ってる。


 アイツは羽根を手に入れる保存方法に自力で辿り着いた。今思えば、羽根を抜いてローブに入れるときに『保存』の魔法をかけてた。

 フクーベに戻る前に、綺麗に布で包まれた羽根を渡されて正直ビビった。説明もしねぇで「1ヶ月は保つけど早めに渡してくれ」と笑って渡されて初めて気付いた。


 あの鳥公は強かった。けど、アイツはいつでも倒せたに違いねぇ。苦戦しているように見えたのは、頼まれた羽根を採るのにあの手この手で保存方法を模索してただけ。

 鳥公を倒した後、アイツが魔力に余裕がないから戻るっつったは嘘だ。嘘吐くときの癖が出てたからな。


 アイツの性格を考えれば、踏破されていない階層に踏み込むのを躊躇ったか、目的を達成すること以外に興味がなくて帰ることにしたのどっちか。まぁ、先に行きたくなかったで間違いねぇ。


 先に進まなかったことに後悔しかねぇ。だが、アイツにその気がねぇなら諦めるしかなかった。あのダンジョンは…俺の力だけじゃ自殺しに行くようなもんだ。


 手酌で並々と酒を注ぎ、一気に飲み干してグラスを勢いよくテーブルに叩きつける。


「認めたくねぇ…」


 ギリッと奥歯を噛み締める。俺の夢を達成するのにアイツの存在は必要不可欠。ただ『俺が連れて行ってやる』と思ってた。

 今となっちゃ単なる驕り。今の俺の実力じゃ連れて行ってもらう立場になるのが目に見えてる。


 アイツがとんでもねぇ魔導師なのは疑いようがねぇ。問題は俺自身。もっと力を付けねぇと「一緒に行くぞ」なんてこっ恥ずかしくて口に出せるか。

 獣人に魔法の才能なんてあるわけねぇんだ。今のアイツの実力は、俺には想像できねぇ様なことばっかやってきたんだろうよ。

 

 だったら…俺も同じ様にやるだけだ。




「珍しく真面目な顔して飲んでるじゃん」


 たまたま部屋から出てきたサマラが暢気に話しかけてきやがる。


「…お前の番候補のせいだ」

「はぁ…?…あっ、まさかまた行ってきたの?!」

「お前……まだアイツと一緒になりたいと思ってんのか…?やめんなら今の内だぜ」

「急になに?やめないし!…はは~ん。さてはまたウォルトに負けたね?」

「負けてねぇ…。ダンジョンに行っただけだ」

「ダンジョン!?ウォルトに危ないことさせるなって言ったでしょ!?ちょっと!聞いてんの?!」


 ……うるっせぇな…!コイツはなにもわかっちゃいねぇ!!


「うるせぇ!!お前の心配は的外れなんだよ!!認めたくねぇけどアイツは俺より強ぇ!!いずれフィガロと並ぶような獣人になるかもしれねぇ!!お前は……本当にそんな奴の番になる覚悟があんのか!!」


 甘く考えやがって…!とんでもねぇ野郎の番になるだと…?ふざけんな!


「なに言ってんの?ウォルトがフィガロみたいな獣人になる?意味わかんない」


 コイツに言っても無駄か。


「ウォルトが強くても弱くても関係ない。私が好きになったのはそこじゃないから。強くなったからって、なにか覚悟がいるワケ?」

「……ちっ!」

「なにがあったか知らないけど、死ぬほど悔しがってるのはわかる。他の誰かを「自分より強い」なんて言えないことは知ってるけど、私にあたらないでくれる?」


 酒を煽ってグラスを置いた。


「寝るわ」


 ちっ…。クソダセぇな…。

 


 ★



 初の冒険を終えて住み家に戻ったウォルトは、マードックに魔力で形成した羽根を渡して見送った後、ゆったり過ごしていた。淹れたてのカラムの花茶をすすりながら回想する。



 予期せず冒険に行くことになったけど、帰ってきた今でも嫌な気持ちは全くなくて、むしろマードックに感謝してる。まるで夢が叶ったような…そんな高揚感を覚えた。

 魔法を覚える前の自分には夢のまた夢だった。単なるひ弱な獣人が、世界でも有数の難度を誇るダンジョンに潜るなんて考えられない。

 マードックも魔法に期待して誘ってくれたことはわかってるけど、ボクの働きは満足いったかな?


 やっぱりアイツは凄い。


 そんなことを考えながらコップを置く。過去、修練で何度もダンジョンに潜ったけど、誰かと共闘するのは初めてだった。隣で見たマードックの強さに何度も溜息をつきそうになった。

 自分が魔法を使える珍しい獣人であることは充分理解してる。運よく師匠に出会って、魔法を使えるようになったおかげで今日のような冒険ができる獣人になれた。そのことに感謝しかない。


 けれど…ボクはマードックのような獣人になりたかった。己の肉体を武器に雄々しく闘う逞しくて頑強な獣人に。

 幼い頃からずっと身体を鍛え続けてる。でも、軽く鍛練しただけの獣人の力に及ばない。いくら鍛練しても獣人の底辺であり続ける事実を辛く感じる。


 マードックの闘う姿は心を高揚させた。これぞ獣人と誰もが認める闘い。

 後先も考えず、己の肉体を武器に魔法で空中に飛ばされながら殴りつける心と身体の強さ。見る者が見れば馬鹿げた行為だと嘲るだろうけど、ボクの目には強く頼もしく映った。


 疾走するマードックに付いて駆けたとき、『身体強化』を纏って全力で追走したのに追いつけなかった。

 腕力だけでなく、脚力、体力、頑強さ、どれも獣人の中で飛び抜けて強い存在。鍛え抜かれた身体能力だけであれだけのことを成し遂げる強さに、羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。


 マードックの強さを思い返しながら花茶で喉を潤すと、また別のことに想いを馳せる。


 コカ・トーリスの羽根を無事に渡せてよかったな。冒険者ではないけど、初めてクエストというものを達成したような気分を味わった、

 オーレン達が「冒険は楽しい」と言っている理由が少しだけ理解できた気がする。見知らぬ誰かの役に立って、不思議な充実感がある。


 消える羽根を目にしたときは、正直どうしたものかと落ち込みそうになったけど、なんとか上手くいってくれた。

 羽根が魔力で形成されていることは、魔法障壁に刺さって消滅しなかったことで気付いた。羽根に魔力を巡らせ続けることができれば、保存は可能だろうと仮説を立てて上手く嵌まってくれた。

 

 それにしても、あの羽根を使って作成する魔道具はどんなモノだろう?とても気になる。今後は魔道具の製作もやってみたいと心踊らせながら、冷静に考えると教えてくれる人もいないし研究できる資料すらない。

 師匠の文献に初心者向けの本はなかったと思う。ナバロさんに魔道具関連の書籍が手に入らないか駄目元で訊いてみよう。


『獣の楽園』の5階層に到達できたのは自分でも驚いた。何十年と踏破に挑戦した話すら耳にしないダンジョンの最高到達地点にたった2人で到達し、あまつさえ未踏の階層に踏み込もうとする勢いがあった。

 きっとマードックは先に進みたかったと思う。冒険者なら未知の領域に興味があって当然。でも、ボクはコカ・トーリスが出現しなかった場合に限って先へ進むつもりだった。

 採取を引き受けた以上は中途半端なことをしたくなかったからで、すんなり達成できたら直ぐに戻ると最初から決めてた。

 驕りかもしれないけど、魔法を操る獣人の存在は『獣の楽園』にとって反則でしかない。魔法を使って先に進んだとしても、己の肉体のみで攻略に挑んだ者達、命を散らした勇敢な獣人達は認めてくれないだろう。


 別れ際、マードックに「ボクと行ったことは内緒にしてくれないか?」と伝えたけど、守ってくれなくても問題ない。誰かに賞賛されると思ってないし、肉体のみで挑んだ勇気ある獣人達に敬意を表したかった。

 歪んだ考えじゃないかと自分でも思う。マードックには「自分の力で攻略してんだろ。素直に喜べや」って言われそう。


 それにしても、ダンジョンの入口で感じた優しい波動は一体なんだったんだ?『獣の楽園』には、もう一度行ってみたいと思わせるなにかがある。もしそうなったとして、次は迷わず突き進めるような自分になっているのだろうか?


 自問自答して、心地いい疲れを感じながらゆっくりと瞼を閉じた。

読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ