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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
729/729

729  突撃取材

 今日はウォルトの住み家に珍しい来客が。


「サバトさん!お久しぶりです!」

「お久しぶりです、オーパさん」

「覚えていて下さって光栄です!」

「覚えてますよ。ツァイトさんもお久しぶりです」

「急に訪ねてすまない」


 フクーベ新聞社の記者2人が訪ねてきた。気付いた瞬間から魔法でサバトに変装している。


「今回は、花街におけるナムプールの王子殴打事件と、ハーグランドにおける監獄突破についてお話を伺いたくて来たのです!」

「そうでしたか。お茶でもいかがですか?」

「頂きます!実は喉がカラカラで!」

「お前……サバトを友達だと勘違いしてねぇか?」

「してません!上司が臆病者だと、取材の出来は部下の頑張り次第ですので、張り切ってます!」

「悪かったなぁ!」


 相変わらず仲がいいな。とりあえず住み家に入ってもらって、冷たいカフィとお茶を差し出す。


「美味しいです…」

「本当に美味い…。カフィ豆の煎り方が違うのか…?」

「ありがとうございます。飲みながら話しましょうか」

「簡単に取材に協力してくれるんだな…」

「話くらいなら構いません」


 この人達が公表したら、住み家周辺がざわつくはず。そんな気配はない。約束を守ってくれている。


「守秘義務はお任せ下さい!先輩は、自分の手柄として公表するかもしれませんが、私にとってサバトさんは命の恩人です!裏切れません!」

「しねぇよ!ふざけんな!」

「公表しないのに、取材してどうするんですか?お金になりませんよね」


 記者は話題や情報を伝えてお金を稼ぐはず。載せられない情報を取材しても時間の無駄に思える。


「気分を害するかもしれませんが、興味があるのです。事実を正確に国民に伝えるのは記者の使命ですが、ただ私が事実を知りたいだけでして」

「わかる気がします」

「さすがサバトさんです!なので気遣いは必要ありません!ちなみに…」


 オーパさんはごそごそと荷物を漁っている。


「手土産です!フクーベで流行っているお菓子なのですが、是非召し上がってください!」

「悪いな、サバト。菓子など食べないだろうに。俺はやめろと言ったんだが…」

「もの凄く嬉しいです。ありがとうございます」

「なっ…!」

「ほらぁ~!取材先に手土産持参は基本ですよ!だから先輩はダメなんです!」

「くっ…」


 初めて見るお菓子だ。後で頂こう。


「まず、なにから話しましょうか」

「花街でナムプールの王子が白猫の獣人に殴られたとの情報を掴みました。加害者はサバトさんですか?」

「その通りです」

「なぜなのか伺ってもよろしいですか?」

「ちょっと長くなりますが…」


 エバイル病の感染が二度目の所業であることや、ナムプールに知り合いがいること、単に頭にきてやったことを簡単に伝えた。オーパさんは一生懸命メモをとってる。


「なるほど。おおよそ掴めました。暴力による発散行為、ということでよろしいですね?」

「その通りです」

「そして、衛兵に拘束され、直ぐに釈放された…と。理由はなぜでしょうか?」

「相手がボクに殴られてないと言い張ったみたいですね」

「魔法で脅したのですか?」

「いえ。おそらくボクに負けると思ってなくて、獣人同士のケンカではよくあるヤツです」

「乱暴者の下らない不文律というか、意味のない強がりですか」


 まさにその通り。


「オーパ…。お前、よくそんな風に訊けるな…」

「気を使えという意味ですか?この方は望みません。むしろ体のいい言葉を並べると答えて頂けませんよ。先輩はベテランですが、経験がありすぎて凝り固まっているところがあります。ですよね?サバトさん」

「ボクに訊かれても…」


 ただ、思う通りに訊いてくれた方が答えやすい。


「外交問題になりかねない…とお考えになりましたか?」

「殴ったあとに少しだけ」

「相手が国王だとしても殴りましたか?」

「たらればですが、誰が相手でも同じことをします」

「他の解決方法を模索するという選択はなかったのですか?」

「問題を解決したいとか、したくないという話ではないので」

「なるほど。気が済むか済まないかの話ですね」


 こんな普通の受け答えでいいのかな?事情聴取とあまり変わりない。


「サバト。騒ぎを起こして注目されるのは嫌じゃないのか?」

「嫌です。でも、自分がやったことは言い逃れできません」

「なぜフクーベに来ていたんだ?」

「お答えできません」


 友人との関係は勘繰られたくない。迷惑がかかるかもしれないから。


「先輩…。サバトさん本人に興味があるのはわかりますが、私達は親しいとはいえない間柄ですよ」

「わかってるよ。ただ、俺はサバトのファンだからな。悪かった」

「サバトさん。こういう人をどう思いますか?」

「ボクのファンは変人だと思われるので、やめたほうがいいです」

「そんなことないぞ!お前のやってきたことは、誰にもできないような…」

「ツァイト先輩っ!!」

 

 ツァイトさんはバチーン!とビンタされて、椅子から転げ落ちる。痛そうだ…。


「サバトさんへの執着が、変態レベルですね。まったく」

「…いってぇ。正統に評価してるだけだ」

「冷静になりましょう。サバトさんが魔導師に影響を与えていたとしても、大多数の国民は知りえません。むしろ、事件を起こして巷を騒がせている方が多いんですから」

「お前、マジでハッキリ言うな…。サバト、続けさせてもらえるか?」

「構いません」

「ハーグランドのマサイトロック脱獄も、貴方の仕業なのか?」

「そうです」

「テムズという男がやったという情報を得たが、なぜ収監されていないのに脱獄したことになっているのか知りたい」


 知人に頼まれて、慕っている人を脱獄させる手伝いをしたことだけ伝える。もちろんステファニアさんやアムランさんの名前は出さない。


「厳重な警備で名を馳せる監獄から、よく脱出できたな」

「油断があったんじゃないかと。成功したのは、運も大きかったですね」

「死者はいなかったと聞いた。魔法で撃退しなかったのか?」

「しましたが、とある事情で怪我人はいないはずです。獄長を除いては」


 堀に投げ捨てたアイツは、打撲程度は負っているだろう。


「テムズという偽名は、どこからきたんだ?」

「答えられません」

「脱獄を依頼した者達はどこへ?」

「それもお答えできません」

「彼の国から情報提供を呼びかけられているが、どう思っている?」

「特にはなにも。ハーグランドから追っ手が来るなら、相応に対処します」


 2人の顔色が変わった。でも、直ぐに持ち直したように見える。


「相応に…とは、衝突を恐れないという意味でしょうか?」

「相手の出方次第ですね。知人を牢に帰せと言われたら断ります。話ができるなら対話しますし、獄長が来たら剥ぎ取ります」

「剥ぎ取る…?なにをですか?」

「全身の皮を」

「ひぃっ…!」


 化け物を見るかのような目で見られた。


「脱獄自体は罪に問われないと思っています。連れ出した知人は元々囚人ですらなく、いなかったことにされていますし。ちょっと武器は破壊しましたが」

「脱獄が成功したときのお気持ちは…?」

「安堵しましたし、嬉しかったですね。目的を達成できたので。引き受けた以上、成功を目指します」

「たとえば…私達の抹殺を依頼されたとして、成功させる努力を怠らないということですね」

「どんな依頼でも、引き受けたら完遂を目指します」


 2人の顔が引きつって見えるのは、気のせいか?たとえ話のはずだけど…。


「オーパさん」

「なんでしょうか」

「記録したメモは、なにに使うんですか?」

「え?」

「あまり形に残してほしくないんですが」

「き、気分を害しましたか?!すみません!直ぐに処分します!」

「必要ないです。会話した後で記録されても同じですし、止められません。気になっただけです」

「質問を忘れないように記録しているのです…。取材で何度も同じことを訊いたりすると、相手に嫌がられるので、そういったことを防ぐ意味でも…」

「なるほど。わかりました」

「このまま続けてもよろしいのですか…?」

「構いません」


 場の空気が重くなったような気がする。理由はわからないけど、ちょっと薦めてみようか。


「そろそろお昼時ですし、食事されますか?」

「頂きたいです!」

「手間がかかるだろうに、いいのか?」

「お2人がよければ。手土産を頂いたお礼に」


 新鮮な魚の煮込み料理を手早く調理して差し出す。


「美味し~い!」

「マジで美味い…」

「よかったです」


 場の空気がちょっと軽くなった…気がしなくもない。


「では、改めて質問させて下さい。サバトさんは、カネルラで勝手なことをされたのが嫌で、ナムプールの王子に腹を立てたのですか?」

「知人が粗悪な精力剤の被害に遭ったのが理由です」

「失礼な言い方になるかもしれませんが、感情の赴くままに行動されますね」

「はい」

「報復を恐れないのですか?」

「恐れていたら、手は出ません」

「脱獄についても、依頼者と縁が深かったとか?」

「会うのは2回目でした」

「顔見知り程度…ということですか…」

「依頼されたのはきっかけであって、やりたいからやりました。捕まろうと、たとえ死んでいたとしてもその人のせいではありません。素性を調べるのはやめて頂けますか」

「調べませんが…」


 オーパさんは納得してない表情。困ってる…みたいな。

 

「もう質問することもないんじゃないですか?」

「サバト。事件と関係ないことになるが、俺の質問に答えてくれないか」

「言える範疇なら」

「この場所は、森でも奥地とはいえない。人に会うことがままありそうだ。嫌じゃないのか?」

「たまにしか会いませんし、ほぼ一度きりなので嫌ではないです」

「大きな街で暮らすことを考えたことは?」

「短い期間ですが、住んでいたことはあります」

「フクーベか?」

「はい」

「だから土地勘もあるんだな」

「まぁ、そうですね」

「また住むことは?」

「ないと思います。絶対とは言い切れませんが」

「カネルラから出て行く予定はないよな…?」

「ないです」

「よかった。それと、前から思ってたんだが、大火傷を負ったのは知っている。自分の治癒魔法で治療できないのか?辛そうに見える」


 …なんて答えよう。魔法で作り上げた姿だからなぁ…。


「過去の失敗や、弱さを忘れないように…ですかね」

「教訓として残しているのか」


 そんな立派な理由ではないけれど。師匠にやられたことを忘れないように…ってことにしておこう。


「白猫の面を被っているのは、動物が好きだからなのか?」

「親友からもらったモノで、動物も好きです」

「親友…。カネルラの魔導師について、どんな印象を持っている?」

「素晴らしい魔導師ばかりで目標にしています」

「再び武闘会に出ることは?」

「ありませんが、もう一度だけ何出るかもしれません。約束しているので」

「約束ということは…カネルラの魔導師と交流しているんだな」

「知人が数人います」

「どんな付き合いを?」

「魔法について教わることがほとんどですね」


 ツァイトさんも、段々と困ったような、納得いかないような表情に変化してる。真面目に答えてるんだけどな。


「基本的なことだが、出身は?」

「カネルラです」

「好きな食べ物は?」

「魚料理全般です」

「嫁や子供はいるのか?」

「いません」

「得意な魔法は?」

「炎系ですかね」

「過去に見た最高の魔導師は?」

「ボクの師匠です」

「なんという名前の魔導師か訊いても?」

「教えられません」


 本当に事件と関係ないことばかりだな。答えやすくて助かるけど。


「なぜ話し方が丁寧なんだ?」

「礼儀に厳しい人から教わりました」

「何歳なんだ?」

「ご想像にお任せします」

「先輩…。ファンからの質問になっていますよ」

「ファンだから仕方ない。フィガロのようで、人となりが気になる。サバトは知らないと思うが」

「獣人フィガロのことを言っているのなら、知っています」

「なにっ!?実物を見たことがあるのかっ!?」


 長命なエルフと勘違いされてるからだな。


「名前や噂を知っているだけです」

「そうか…。昔からフィガロのことが気になっていてな」

「気になる理由があるんですか?」

「フィガロは、間違いなく世界で最も有名な獣人だ。カネルラ出身者で、世界中に名を知られているのはフィガロだけだろう。男ってのは強い奴が好きで、ガキの頃から種族は違っても凄いと思ってた。今でも新聞社の歴史資料から勝手に考察してたりする。…って、サバトには関係ないことだな。すまん」


 ……聞き捨てならない。


 新聞の歴史はかなり古い。新聞社には、価値のある資料が多く眠っていそう。

 フィガロが活動していた時代の空気を感じられるような……中には読むだけで心躍る記事があるんじゃないだろうかっ…!!


「…ツァイトさん」

「なんだ?」

「フィガロについて、知ってることを教えて頂けませんか。興味があります」

「お安い御用だ。気になるのなら知る限り教える」


 大半はボクでも知っている内容だったけれど、中には貴重な話も。


「当時の取材によると、フィガロは無口だが、人を寄せつけない獣人ではなかったらしい。話しかけることに成功した記者は何人もいる。だが、一度も返答はなかったみたいだ。剛力に違わない筋肉の鎧を纏い、容姿は人間に近くて、思いのほかハンサムだという記事が残されてる。姿を写真に収めたいと努力した記者もいたが、戦場で遠くから撮った写真しか存在しなくて、豆粒のようにしか映ってない。綺麗な写真を撮るには、しばらく静止する必要があって、ほぼチャンスはなかったと」


 興味深い話が多くて、静かに興奮している。話題性もあったんだろうけど、記者はどうにかフィガロの記録を残そうと悪戦苦闘したのか。


「…と、簡単にはこんなところか」

「ありがとうございます。貴重な話が聞けました。もしよければお礼したいのですが」

「話を聞いてるのは俺達の方だ。気にしないでくれ」


 そうはいっても、親しくもないのに話を聞いただけでは申し訳ないなぁ。

 

 ……そうだ。


「ちょっと待ってて下さい」


 以前作った魔道具をとってきて手渡す。


「記者といえば、ペンを使いますよね。よければもらってくれませんか」

「あまり見ない形だな。木彫りで味がある」

「ペン尻の小さな魔石を指で押すと、魔力に反応して魔法で固めたインクが溶け出る仕組みになっています」


 使い方を実践して見せる。


「インクを付ける必要がない。凄く便利だ。ありがとう」

「先輩だけいいなぁ…」

「オーパさんにもあります」

「私もなにか頂けるんですか!」

「頂いたお菓子のお礼に。オーパさんは、年季の入ったペンを愛用されているようなので、こちらを」

 

 掌サイズの薄い硝子板と、小型のペンを手渡した。


「コレは…?」

「硝子の上でペンを走らせると、文字が書ける魔道具です。魔石で簡単に文字を消すことができて、繰り返し使えますし、裏からは見えません。ちょっとメモしたい時は使えるかと」


 実際に使ってみせる。


「とてもお洒落です。板の表面じゃなくて、硝子の中に文字が浮かぶんですね」

「ペン先の動きに反応して、硝子内を流動している透明な魔力が色付く仕組みです。『堅牢』を付与しているので、落としたりしても割れません」

「ありがとうございます!大切に使わせて頂きます!」

「大したモノではありませんが、お2人に渡せそうなモノがコレくらいしかなくて」

 

 喜んでもらえてよかった。

 

「サバトがフィガロに興味があるとは思わなかった。社に戻ればフィガロの姿絵があったりと、面白い資料も結構…」

「本当ですかっ!?フィガロの姿絵がっ?!!」

「あ、あぁ…。画家じゃなくて記者が描いた似顔絵だから、似てるのか似てないのかも定かじゃないが……あるにはある」


 ……見たいっ!!


「今度、ウチの新聞社に来るか?見せてやれるぞ」

「ほ、本当ですかっ?!貴重な資料ですよねっ!?」

「極秘資料ってワケじゃない。世界各地でいろんな姿絵が残されてる。ただし、なぜか統一感がないのが特徴なんだ」


 ボクも不思議に思ってる。フィガロは出会った人全てを抹殺したワケじゃない。戦場にも数多く現れてるから、顔を見た人は星の数ほどいそうなのに、なぜか決まった姿絵が存在しない。

 カンノンビラに建つ銅像もそうだけど、まるで何人もいたかのようで、フィガロの謎の1つ。


「ぼやけるという説があるんだ」

「ぼやけるとは?」

「フィガロの顔を見ると、なぜか視界がぼやけてハッキリ記憶に残らないって記録がある。不思議だろう?」


 姿を認識されないよう妨害していた…?獣人の力を操ったとしても、可能なのか…?


「サバト。暇なときに新聞社に来てくれ。誰にも会いたくないなら、深夜がいい。俺が泊まり込みの日は決まってる」


 何日か夜勤で泊まるらしく、決まっている日を教わった。忘れないようにしよう。


「サバトさん!私が泊まりの日でも構いませんよ!」

「お前の泊まりは1人じゃないだろ。まだ若造のくせしやがって」

「そうでなくても、深夜に女性が1人きりの職場は訪ねません」

「くっ…!紳士ですね…!中年独身で身軽なことを逆手にとり、自分だけサバトさんと親交を深める気ですか!先輩は卑怯ですっ!」

「独身で悪かったな!お前もだろ!」

「フィガロについて、私も調べておきます!今後はいつでも訊いて下さい!」

「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、今日もボクの顔を見せましょうか…?」

「いやいやいやいやっ!やめてくれっ!」

「結構ですっ!失礼だと思いますが、何日か食事が喉を通らなくなってしまうのでっ!」


 大袈裟だけど、よっぽど気持ち悪いと感じるんだな。…というか、ボクの変装に気付いてないふりをしてくれてるのかもしれない。


 それならそれでいいか。とにかく、今度フクーベ新聞社を訪ねよう。

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