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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
724/726

724 憩いの一時

 ウォルトは畑仕事の休憩中に呟く。


「今日は……相当暑いなぁ…」


 じりじりと日が照りつけて、頭部の毛皮が熱を持つ。ほっかむりを突き抜けて皮膚に届いている。身体の熱はローブおかげで軽減できているのに、それでも暑さを感じる。ココまで気温が高い日は生まれて初めて。


「大丈夫かな?」


 こんな猛暑の日に、4姉妹が遊びに来てくれる予定。来る途中で倒れたりしないといいけど。



「ウォルト!ただいま!」

「ただいま」

「ただいまです!」

「兄ちゃん、ただいま」

「おかえり」


 昼前に4姉妹が来てくれた。意外に平然としてる。


「今日は暑いけど、大丈夫だった?」

「ウォルトがくれた涼しい服着てる。マジで助かってるよ」

「そっか。役に立ってよかった」


 ……ん?


「ウイカ?」

「ウォルトさん」


 ウイカは人差し指を口に当てて、『言わないでほしい』というジェスチャー。とりあえず黙っておこう。


「暑いから中で飲み物でもどう?」

「直ぐに頂く!」


 皆で住み家に入り、魔法で冷やした飲み物を淹れる。特にリクエストされなかったから、さっぱり飲める茉莉花茶にしてみよう。


「ウォルトさんの淹れるお茶は美味しいです」

「褒めてくれてありがとう」


 ウイカが手伝ってくれてるけど……強烈だ。


「あの……ウイカ?」

「なんですか?」

「前にあげた冷感の服を着てるよね?」

「凄く重宝してます」

「…暑くない?」


 なぜか到着したときからウイカは氷の魔力を服に流してなかった。気になって訊こうとしたけど遮られて、だから……ボクの好きな臭いが台所に充満してる…。


「ふふっ。ウォルトさんは好きなんですもんね」

「まぁ…そうなんだけど」

「ふぅ…。今日はかなり暑くて、黙ってても汗かいちゃいます」

「…ちょっと!ウイカ!?」


 羽織ってる薄い上着を脱ぎだした。

 

「1枚脱ぐだけでかなり涼しいです」

「………」

 

 汗ばんで、顔も紅潮して……刺激が強い…。


「…あっ!やっぱり!」

「お姉ちゃんがやってる!」

「ウイカさんが抜け駆けしてた!」


 サマラ達が台所に現れた。


「ウォルトの驚いた声でピンときたよね!」

「お姉ちゃんは自在に涼しさを変えられるから!」

「気付いてよかった~!兄ちゃん!油断しすぎ!」

「油断の意味がわからない」


 4姉妹といて気を張ったりしない。添い寝する時以外は。


「ウイカさんは頭脳派なの!こっそり長所を活かしてくるから!」

「ふふっ。チャチャの思い過ごしだよ~」

「じゃあなんで汗だくなんですか?!バカみたいに暑いのにっ!」

「汗かいたほうが飲み物が美味しいから。ウォルトさんのお茶を最高の状態で飲みたかったの」

「ありがとう。楽しみ方は自由だね」

「ぐぐっ…。わかった!」

「ちょっ…!」


 チャチャが一気にシャツを脱いで下着が丸見え。見ないように目を背ける。


「あっつぅ~!」

「チャチャ!暑かったら着ていればいいんだ!」

「嫌だっ!負けたくないから!」

「なんの勝ち負けなんだ?!」

「よぉし!アニカ!」

「ですね!」


 サマラとアニカも脱ぎだした。もうワケがわからない。



 とりあえず居間に移動したけれど…。


「ふぅ~っ…!」

「はぁ~っ…」

「あっつぅ~い…!」

「ふっ…!ふっ…!」


 汗ばんだ4姉妹がテーブルを囲む。飲んだお茶がそのまま汗として出てるんじゃないか…ってくらいに暑そう。


 我慢比べみたいになってるな…。


「服を着ないなら、部屋を魔法で冷やすよ」

「ダメダメ!だって、効いてるでしょ!」

「なにが?」

「ウォルトは興奮してるでしょ!」

「してない。心配してる」

「嘘だぁ!」

「皆が薄着だとドキドキするのは確かでも、ボクが人夫として働いてた頃、頑丈な獣人が暑さで倒れるのを何度も見た。そのくらい暑さは危険なんだ。だから心配してる」


 張り合うのは別にいいけど、やり過ぎるのはよくない。興奮してる場合じゃない。


「できれば張り合うのはやめてほしい」

「よし!やめる!」


 全員冷感服を着てくれた。


「ありがとう。ホッとした」

「好かれようと思ってやってるのに、嫌われたら意味ないからさ」

「続けても嫌いにならないよ。第一、ウイカは狙ってやってないと思うし」

「狙ってるっての!」

「お姉ちゃんのこと、わかってないですね~!」

「兄ちゃんはウイカさんに甘い!」

「ふふっ。皆は気にしすぎなんです。ちょっと暑かったら汗かきますよ」

「そうだね」


 ウイカは4姉妹の中で1番アピールが下手なんじゃないかと思う。いつも控え目で、皆の暴走を止めるような役割を担ってくれてる。わざとじゃないんじゃないかな。

 

「この顔見てっ!幼馴染みが騙されてるよぉ~」

「お姉ちゃんは、クローセにいた頃とは全然違いますよ!フクーベで男性と絡んでより逞しくなってるんで!」

「兄ちゃんにとってはずっと変わりないんでしょ?細かいことを気にしないから」

「そうかな?ウイカはウイカだし、皆もそうだよ」


 出会った時から基本的に変わってない気がする。


「ふふっ。ウォルトさんは第一印象を重視します。第一印象がいい人には基本的に好意的で、逆だと親しくなろうとしない。最初のイメージが基本的に変わらないから、後から好意的に接してくるような人を信用しないところもあります」

「その通りだね。間違ってない」


 直ぐに掌を返すような人物は信用ならない。ボリスさんのように、理解できなくても少しずつ歩み寄れるなら信用できる。


「ウイカはね、そこを利用してるんだよ」

「変わってないと見せかけて、実は違うところをアピールしてるんです!」

「兄ちゃんは簡単に騙されるんだから」

「騙すとかそういうことじゃないんじゃないか?ボクはアピールされたら嬉しいよ」

「ふふっ。ですよね」

「くっ…!ウイカは観察眼に優れてるから、塩梅を掴むのが抜群に上手い!」

「冒険でも押し引きの判断はお姉ちゃんに任せてます!」

「兄ちゃんの細かい心理を読んでますからね。姉妹なのに、押してばかりのアニカさんとは雲泥の差です」

「こらっ!チャチャ!さてはバカにしてるな?!」

「してませんよ。一撃の破壊力だけは目を見張るモノがあります」

「だけって言うな!」


 わいわい騒ぐ4姉妹。ウイカは一目置かれてるってことでいいのかな?


「私って特徴ないんですよ。サマラさんみたいに天真爛漫な幼馴染みでもないし、アニカみたいに明るく肉感的でもない。チャチャのような急成長も望めない。だったら自分の持ってる武器で勝負しないと」


 う~ん。共感しかない。


「また出た!ウォルトも納得しまくってる顔!」

「お姉ちゃんには、めっちゃ美人っていう誰より凄い特徴ありますから!」

「アニカさんの言う通り!すぐ騙される!」

「ウォルトさんは容姿とか気にしないよ。だって、一目惚れとかするタイプじゃない。キャロルさんは凄い美人だけど、実際は好きになってないし」


 その通りで、ボクなりの審美眼はあっても特徴の1つだと思ってる。美人だとかどうでもよかった。


「ただ、ウォルトさんの美人の基準はサマラさんとキャロルさんだから、結構容姿には厳しいです」

「そんなことないよ」

「あります。なぜかというと、好きだと思える美人が2人だけだったからです。印象が強すぎて、美人といえばサマラさんとキャロルさんが真っ先に浮かびませんか?」

「そうだね」


 訊かれたら最初に浮かぶ。


「容姿の魅力ではサマラさんには勝てません。悔しいですけど」

「いやぁ!照れるね!」

「私達の中で勝てる可能性があるのは…チャチャです」

「私が?」

「魔法で成長した姿を見たとき、サマラさんも言ってたし、私も思った。チャチャはもの凄い美人に成長して、2人に匹敵する」

「えへへ…。嬉しいです」

「アニカは美人と系統が違うかもしれないけど、ウォルトさんが好む容姿なの。可愛い女性で最も好きな容姿はアニカ。なぜなら、やっぱり初めて出会った可愛い女性だから。間違いない」

「そうかなぁ!でも、違う方向から攻めるのはありだよね!他にも武器あるしぃ!」

「ウォルトさん。私の言ってること、間違ってませんよね?」

「うん。そうだね」


 実は、たった今気付いていたりする。よくよく考えるとそうかな…と納得だ。


「ウォルトさんは女性の容姿を気にしないって言いますけど、勘違いですよ。好意的だったり、女性らしさを感じた瞬間は意識してるんです。相手が嫌いな人種だと無視してるだけで」

「……確かにそうかもしれない」


 好ましい人は綺麗とか判断できる。嫌いだったり無関心な人だと容姿を判断できない。…というか、嫌いというのが先に来て憎らしいとしか思えない。実はおかしなことなのか。


「もはやウォルト博士じゃん」

「まだまだです」

「さすがの観察眼だね!見習う!」

「アニカの方が知ってることもあるよ」

「やっぱりウイカさんが出てきましたね…。薄々気付いてましたけど、最大のライバルかもしれない」

「そんなことない。皆手強いよ」


 やっぱり4姉妹ではウイカが長女っぽいんだよなぁ。サマラは悪ふざけが多いから、どちらかというとミーナ母さんっぽいというか。


「なに?ウォルト、文句あるの?」

「ないよ」


 別に文句はない。次女の方がしっかりしてる姉妹もいると思うし。


「私とウォルトさんって似てると思うんです」

「ボクとウイカが?」

「私はサマラさんやアニカ、チャチャに劣るところばかりで、でも負けないように頑張ります。ウォルトさんもそうじゃないですか?」

「確かに。劣るからこそ努力してる」

「一緒ですね」

「そうだね」


 理解してくれて嬉しい。


「ウイカって、見た目は聖女だけど中身は悪女系だよね」

「ギャップ狙いもありますよ!ウォルトさんが弱いから!」

「言い寄ってくる数々の男達を、笑顔でいなすウイカさんは強者です。膝から崩れてるの見ましたよ」


 ウイカは微笑んで会話を聞いてる。嬉しそうな匂いをさせながら。こんな時に思う。ウイカは出し抜きたいとかではなく、ただ皆で競うのが好きなんじゃないかって。


「負けたくないです」

「え?」

「ウォルトさんは、私が皆と仲良くしたいと思ってるでしょう?」

「うん」

「合ってます。でも、負けたくないです。ウォルトさんも、ラットさんやマードックさんに勝負で負けたくないですよね?」

「そうだね」

「姉妹でも友人でも、勝負は話が別です。認めてるからこそ認められたいし、勝ちたいですね」 


 ウイカは静かに闘志を燃やすんだな。他の3人とは違う。でも、秘める熱量は負けてない。


「私、欲張りになったんですよ」

「見えないね」

「フクーベで冒険者になって、治癒師になりたいって努力して、ウォルトさんの恋人も目指してます。職人みたいなこともしたり毎日が楽しくて、もっと色々できるんじゃないかって思ってます」

「きっとできるさ」


 ウイカは皆よりスタートが遅かっただけ。なんだってできる。


「なんかさぁ、ウォルトはウイカだけ対応が違うよね」

「そんなことないよ」

「じゃあ、私がウイカの真似するから答えてみて。……私、やりたいことが沢山あるんだよね」

「やってみれば?」

「ほらぁ!!全っ然違うじゃん!」

「いやいやっ!サマラとボクは昔からこういう感じだろ!」

「ウイカの時は「ふっ。きっとできるだろう…」とか格好つけてさっ!」

「そんな言い方してないだろ!」


 どこのキザ猫だ。


「私達からすると、サマラさんとウォルトさんの関係が羨ましいです。ね?」

「うん!ウォルトさんはサマラさんにだけ強く言う!特別感あるよね!」

「幼馴染みって強みなんですよ。兄ちゃんだから特に」


 自然と強い口調になってしまうのは、確かにサマラに対してだけだ。

 

「ボクは普通にしてるだけで、それぞれ口調や反応は違うだろうけど、区別はしてないよ。自然にそうなるんだ」

「ふぅ~ん。アニカの胸だけはしょっちゅう見て区別してるけどねっ!」

「そんなことない!」


 …はずだ!


「私はいつでも歓迎です!脱げと言われたら脱ぎますよ!」

「言わないから大丈夫!」

「私は知ってます…。ウォルトさんは、私の胸とサマラさんのお尻…お姉ちゃんのうなじとチャチャの太腿が大好きだということをっ!!」

「力説することじゃないんじゃないかなぁっ?!」


 わかっていたとしても…言わなくていいことがあるっ…!


「それぞれ好きなパーツがあって、こっそり愛でているつもりでしょうが、私が不動の1位であることは間違いありません!1日平均6回は見られてます!」

「数えないでほしいっ…!」

「優越感に浸りたいんです!誰だって好きな人の視線は独り占めしたいじゃないですか!」

「そういうモノかな…。師匠として大問題だよね…?」

「修練の時はどんなに近くても絶対に見ません。そんなウォルトさんが欲望丸出しで見てくるから嬉しいんです!」

「丸出し…」


 どんな顔してるんだろう…。自分では見えないから怖いな…。


「兄ちゃんは超絶奥手だから、ちょっとしたことが嬉しいんだよ。気にしなくていいから」

「そっか」

「逆に、なんでそんなに我慢強いのか知りたいくらいだよ。小さい頃、「いやらしい!」ってサマラさんにぶん投げられたの?」

「ひどっ!そんなことしてないよねっ?!多分!」

「されてない」


 初めてできた友達に嫌われたくなかった。変な目で見たことはない。


「冗談だけど、私達は嫌わないからね。我慢される方が嫌だよ」

「我慢してないよ。恥ずかしいだけで…」

「時間がかかっても、ハグみたいに慣れて。大体、抱き合ったりしてるのに見るのは恥ずかしいってある?」

「あるよ。下心があるかないかは大きな違いだ」

「何回も言ってるけど、こっそり見られる方がいやらしく感じるよ」


 皆頷いてる。


「だから堂々と見ていいって言ってるの」

「わかった」


 堂々と見よう。…………なるほど。


 確かに、堂々としていれば下心もあまり湧かない。


「ん~?」

「ちょっと違いますね」

「そういうことじゃないんですよ!」

「兄ちゃんは、いい塩梅が苦手だもんね。私の言い方が悪かったかも」

「なにか間違ってるかな?」

「興奮しないと意味ないじゃん」

「そんなこと言ったって、いつも鼻息が荒かったら嫌だろ?」

「面白い。ふんふん言ってるウォルトを見たい」

「ボクが嫌だ」

「毎回こういう話になるけど、いつまで経ってもチラ見しかしてこないもんねぇ~」

「でも……見る頻度は増えてるよ」


 バレてると思うから白状しよう。


「正直なところも好きだけどさ~」

「ちょっとずつしか進まないところがウォルトさんらしいというか」

「魔法の修練と同じですね!」

「やっぱりサマラさんにぶん投げられた説が濃厚で、兄ちゃんは欲望を表に出せない身体になったんですよ」

「違うってぇ~!濡れ衣だぁ~!」

「ボクは男女問わず相手にされずに育ったから、欲情するってことがなかったなぁ。むしろ、サマラを好きになったことで知ったかもしれない」

「ほらぁ!私の魅力のおかげじゃんか!」

「誰にも言ったことないけど、ボクは一時期他人の顔が判別できなかったんだ」

「えっ?!どういうこと?!」

「両親や友達、ハルケ先生達やガレオさん以外は人形みたいな作り物に見えた。おかしくなってたんだろうね」


 短い期間だったけど、精神が壊れていたのかもしれない。自分ではどうしようもない現実逃避だったと思う。


「あの頃と違って今はちゃんと見えてる。だから、見ていいって言われたら嬉しいよ」

「よかったね~。しかも4人から言われてるんだよ」

「初めての話、頂きました」

「嬉しいよね!私は、いずれ奴らに怒りの鉄槌を下すけども…」

「私もやってやるって…」


 また下の2人が黒い目をしてる。


「ダメだよ。普通に返してくれると思って言ったんだ。ふと思い出しただけで」

「そうそう。ウォルトは同情するのもされるのも嫌いだから!」

「さすが幼馴染みだ」

「でしょ!理解が深いよ~!任せなさ~い!」

「幼馴染みといえば…かなり前のことだけど、お腹が痛いのに「頭が痛いんでしょ!」っておでこを冷やしてくれたり、殴られて口の中が血だらけなのに、熱々のスープを飲めって言ったり、熱が出たとき「おでこ熱すぎ!死んじゃう!」って水をぶっかけられて悪化したりしたのも懐かしいなぁ…」


 サマラは大抵関係ないことをやってくれたけど、気持ちだけは嬉しかった。


「……あのさぁ」

「ん?」

「私がバカって言いたいんでしょ!!」

「うわぁっ!なんでだっ?!」


 テーブル越しに迫る右拳を躱した。


「皆に笑われたじゃん!長女として恥ずかしい!やらかしたことばっかりバラしてっ!」

「ボクは嬉しかったんだ!幼少期の微笑ましいエピソードだろ?!」

「マジで余計なことばかり覚えてる…!1回記憶を飛ばす!」

「うわっ!やめろって!!」


 サマラに家の中を追い回される。3人は笑ってばかりで止めてくれない。


 冗談を言い合えると仲がいいって話はどこへ行ったのか。結局、狭い家の中でサマラから逃げ切れるはずもなく、捕まってぶん投げられた。

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