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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
721/727

721 ハーグランドへ

 ある日のこと。


 ウォルトが結界を展開しながら更地で魔法修練に励んでいると、何者かの侵入を感知した。


 人数は1人。渡してある魔石の反応がないから4姉妹じゃない。歩幅やテンポからして、キャロル姉さんやナバロさんでもなさそう。

 

 ちょっと修練を中断して確認に行ってみよう。冒険者の可能性もあるし、プリシオンやアリューシセから来た輩の可能性もある。いつものように冷静に向かおう。あらゆる事態に対応できるように。


 対象に歩み寄っても接近するボクに気付く様子はなく、ゆっくり移動している。そろそろ視界に入るな。


 ……あの人は……アムランさん。


 ということは、おそらくサバトに用だ。魔法でサバトの風貌に変装して待ち受ける。


「………サバトさん!」

 

 気付いてくれた。


「お久しぶりです。アムランさん」

「覚えていてくれましたか……。貴方を探していました…。ふぐっ…!」


 アムランさんの瞳から急に涙が溢れる。


「何卒……私に力を貸して頂けないでしょうかっ!!」


 目の前で深く頭を下げられた。匂いと共に気持ちが伝わってくる。


「頭を上げて下さい。まず話を聞かせて頂けますか」

「はい…!ステファニア様が……幽閉されてしまったのです…!」

「なぜですか?」


 ステファニアさんは、『輪廻の悪女』と呼ばれる凄まじい力を持つ治癒師。老若男女や身分、敵味方すら関係なく治療するとアムランさんから聞いた。ボクも実際に目にして、能力と信念に憧れる治癒師。


「…ステファニア様は、ずっと教会とハーグランド上層部の両方から目を付けられていました…。とにかく指示に従わないからなのですが、国民からは支持されていて疎ましく思う者達も手を出せずにいました…。ですが…今回は思いもよらない事態が生起したのです…」

「どういったことでしょう?」

「治安の悪いハーグランドでは、紛争が絶えません。そんな中、ステファニア様はいつものごとく戦場に向かわれました」

「誰彼構わず治療するタメですね」 

「その通りです。そして、今回も指示を無視したことで窮地に立たされました」

「なにがあったんですか?」

「今回の内戦には反抗勢力の大物が参加していたのです。正規軍が追い詰めた大物を、ステファニア様が治療して見事に捕り逃がしました」

「いつもと変わらないのでは?」


 ステファニアさんは細かいことを考えず、ただ怪我人を治療しているだけ。政治的な思惑や陰謀など関係ないはず。怪我人をただ治したんだろう。


「今回は相手が悪かったのです。ステファニア様が回復させた大物は、善良な市民を狙ったテロを起こしました。大都市で無差別殺戮を実行したのです」

「目的は?」

「おそらくですが……ステファニア様の排除です。戦闘員の戦意を奪う治癒師は目障りで、どれほど綿密に作戦を立て、行動を起こしても失敗に終わる。反抗勢力からすれば状況は1つも変わりません。正規軍にとっては、敵の戦力を知れるなどの利点がありますが」

「なるほど。ステファニアさんはなぜ幽閉されるに至ったんですか?罪は犯していないと思えます」

「本件でステファニア様の治療が別の危険性を孕むことが世間に認知され…悲しいことに国民からの信頼が薄れたのです。変わらず支持してくれる国民もいる中で、分け隔てない治療は時として危険だという意見が挙がり、ハーグランド上層部からの要望を受けた教会は、ステファニア様を幽閉することを決定しました」


 ちょっと聞き捨てならない。


「教会は、国や政治と無縁の独立組織だと聞いています。なのに連携するんですか?」

「元々煩わしく思われていたのです!反抗勢力を制圧したい正規軍と、国に影響されないと宣言していながら…裏で繋がっている教会は以前からステファニア様を疎まく思っていた!「国民の意見だ」と納得させて幽閉し、事を進めるつもりなのです!」

「事を?全面戦争ですか?」

「これ以上は…ご容赦下さい」

「わかりました」


 複雑な関係性は聞いてもわからないし興味もない。言いたくないならそれでいい。


「もう少し質問させてください。まず、力を貸してほしいと言いましたが、具体的にどうしてほしいんですか?」

「幽閉されている場所からステファニア様を救いたいのです…。恥ずかしながら、私1人では到底不可能で…。助力して頂けませんか?」

「他の知り合いには頼めないんですか?わざわざカネルラまで来た理由がわかりません」

「私が知る方ではサバトさんが最も強く、あらゆる魔法を操ることから可能性を感じました!御迷惑なのは百も承知です!」


 期待されるような万能な魔導師ではないけれど。


「幽閉ということは、時期が来れば解放される前提でしょうか?」

「私は…ステファニア様の命が危ないと思っていまして」

「なぜ?」

「誰も信用できません…。ハーグランド王族も教会も。奴らは、利が生まれたなら敵すら味方に変えるような連中です!」

「ステファニアさんを抹殺すると、利益を得る者がいるということですか」

「はい。ステファニア様は、誰がなんと言おうと多くの内戦を停戦に導きました。だからこそ、内戦に参加した者やその家族の感謝を発端に広まり、国中に名を知られています。ですが…内戦が物語るのは国を巡る争いが絶えないということ。治療しているだけなのに幾度か命を狙われていて…私が護衛として同行しているのもそのタメです。「存在が邪魔だ」「自分勝手な偽善者」と街中で斬りつけられたこともあります。本人は意に介していませんが」

「そうでしたか」


 保守側にとっても、革命を起こす側にとっても邪魔者ということか。


「現在、監獄に幽閉されています。しかも、凶悪犯や政治犯が収容されている場所にっ…!獄中での殺人も日常茶飯事だと言われる無法地帯です!正気の沙汰ではありません!教会に収監場所の移動を訴えても取り合ってもらえず、現在の生死すら不明で…。既に刺客を送り込まれていてもおかしくない!酷い目に遭ってるんじゃないかと毎日気が気じゃなくてっ…!」


 また泣き出してしまいそうな顔をした。


「事情は大体掴めました。1つ訊きたいんですが、アムランさんはステファニアさんの護衛なだけですよね?脱獄を手助けするような真似はマズいのでは?教会の意に反する行為に思えます」

「私は……戦場でステファニア様に命を救って頂きました…。以降、教会に所属して姉のように慕っています…。まだあの時の恩を返しきっていません!正直に言いますが…教会の意向などどうでもいいです!」


 言葉から強烈な意志を感じる。


「わかりました。ステファニアさんを連れ出せばいいんですね?」

「て、手伝って頂けるのですかっ?!ハーグランドまで行くことになりますが?!」

「かなり遠いんですか?」

「幽閉されている場所はカネルラの西の国境近くです。国境からフクーベまで馬車で3日かかりました」

「ハーグランドの地図とか持ってますか?」

「簡略的なモノでよければ」


 アムランさんから地図上の位置を教えてもらう。


「ココからだと、さほど遠くないですね」

「は…?」

「できれば早く帰りたいので助かります」


 馬車は決まった時間しか出ないし、寄り道したりする。魔法を駆使して直線で行けば数時間で着きそう。


「サバトさん…。頼んでおいて訊くのは失礼かと思いますが……なぜ引き受けてくれるのですか…?」

「外国からこんな辺鄙な場所まで来て、真剣に頼まれたら力になりたいと思います。それに、ステファニアさんから稀有な治療法を教わりました。おかげさまで魔法の幅が広がったので」


 あの人の聖なる力は多くの人を救う。その辺の治癒師とは信念も技量も違う。治癒師として長く活躍してほしい。


「助力はできる限りで構いませんが、命を失う可能性も高いんですよ…?」

「承知で頼んでるんですよね?他に手段がなくて、切羽詰まっているからじゃないんですか?」

「そ、そうなんですけど…」

「そのくらいは理解してますし、嫌なら断ってます」

「…感謝します!ありがとうございます!」


 匂いと言動から嘘は吐いてないと判断した。


「ボクに感謝する必要はありません。腹ごしらえして向かいましょう」


 一緒に住み家へと向かう。




「お、美味しいです!」

「ごゆっくり」


 ご飯を食べてもらいながら魔伝送器でリスティアに連絡してみよう。


 ……出ないな。昼は忙しいか。ハーグランドの情報を少しでも集めておきたかったけど、アムランさんを頼ろう。

 4姉妹にも連絡すると、アニカが出てくれた。ちょっとハーグランドに行くことを伝えたところ、理由も訊かず「無事に帰ってきて下さい!」とだけ言われた。シンプルな気遣いが嬉しい。

 準備を怠らずに必要になりそうなモノを『圧縮』して持っていこう。サバトのお面もちゃんと被らなくちゃいけない。



 食事を終えたアムランさんと外に出て、今後の行動について簡単に伝える。


「今からアムランさんを背負ってハーグランドに向かいます」

「え…?背負って…?」

「おそらく最も早い手段なので。いいですか?」

「は、はい。わかりました」

「風貌が目立つので、魔法で姿を消して行きます。おおよその位置は記憶したので、近くまで来たら道案内をお願いします。では、行きましょう」

 

 アムランさんを背負って駆け出す。


「うぁぁっ…!速いっ…!」

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫ですっ…!」

「少しずつスピードを上げます」

「え…?わぁぁっ!!」

 

 久しぶりに『身体強化』を使って駆けるな。歩幅が広がるから木や障害物がないほうがスピードに乗れるので、時間短縮にはコースの選定が重要。

 横の移動が少なく、それでいて足場がいい道筋を一瞬で判断しながら駆けるのは楽しすぎる。判断を誤ったら衝突や転倒で大怪我するかも…という緊張感がたまらない。いつか魔法を付与したボルトさんと競走してみたいな。

 


 自分の感覚で休みなく駆けること3時間程度。脳内地図では西の国境近くまで移動できた。ちょっと確認しよう。


「外壁がないカネルラには、関所のような場所はないと認識してます。アムランさんも馬車や徒歩で街道から普通に入国したんですよね……って、あれ?」


 背負ったまま振り向くと、アムランさんは白目を剝いて気を失っていた。



 ★



「……はっ!」

「目が覚めましたか?」


 目を覚ましたアムランの眼前にはサバトの顔があった。


「わ、私、どうしてました?!」

「気を失っていました。昨夜眠れなかったんですか?」

「そんなことはないんですが…」


 いつの間にか気を失ったんだ…。とんでもなく怖かった…。


 疾走は信じられないスピードで、木に衝突する寸前で躱したり、小さな崖を一気に飛び越えたりと心臓に悪い状況の連続で心が耐えられなかった。


 この人……本当にエルフ…?魔法で身体強化していたとしても、あのスピードは尋常じゃない。獣人でも驚き。とにかく魔法が凄いからあり得るとは思うけど…。

 人間だと余計にあり得ない。体型からしてドワーフやハーフリングってことはないと思うし、身体能力に優れたエルフと考えるのが……普通よね…。


「国境近くまで来ました。地図でいうと…この辺りです」


 サバトさんは私の地図上を指差す。真実ならかなりの距離を走ってきたのに、息も切らさず平然としてる。距離と方向感覚にもかなり優れていないとできない芸当。

 でも、疑う理由がない。この人は下らない嘘を吐きそうになくて、「信じないなら御自由に」って言い放ちそう。


「もう少し北に進むと、私が使った街道に出ます」

「ハーグランド側に関所や検問所のような施設がありますか?」

「この街道にはありません。カネルラから攻撃されることはまずないですし、大きな街道では唯一です」

「わかりました。では、一気に行きましょう」

「まさか…また走るんですかっ?!」

「はい。時間がもったいないので。問題ありますか?」

「ないです…」

「じゃあ行きましょう。街道では少しペースを落とすので、道案内をお願いします」

「はい…」


 黙って背負われる。ハーグランドに着いたら疲れて動けないとか……無用な心配?


「この先を…右です」

「はい」

「次は左です。そして、直ぐ右です」

「了解です」


 もうハーグランドに入国した。街道では上手く人を避けて、魔法なのか足音まで消してる。走りながら息遣いもずっと静かで、すれ違っても気付かれる気配すらない。


 この人……なんなの…?凄腕潜入員かなにか…?

 

 

 やがて監獄の見える高台に到着した。まだ遠いけれど外観は丸見え。


「アレがカネルラとの国境近くにある監獄、『マサイトロック』です」

「森に囲まれていて、塀がかなりの高さですね。周囲の堀も深そうです」

「脱獄対策です。成功率はかなり低く、成功したのは片手で数えるられるほどだとか。しかも、結果全員が捕まって処刑されたと」

「なるほど」


 平然としたサバトさんの言葉からは、やる気や恐怖が感じられない。大丈夫かな…?


「私達が目指すのは地下です。噂によると、そこにステファニア様は幽閉されているはず」

「わかりました。まずは作戦を聞かせて下さい」

「潜入するには塀を越えるのが手っ取り早いんですが、まず無理です」

「魔法を使って外に足場を作れますが」 

「大勢の監視員がいて、魔法対策も行われているようです」

「そうなると、正面突破もアリですね」


 ……え?


「…そうなります。というか、それしか考えられないです。サバトさんの魔法で、あの強固な門を吹き飛ばせないでしょうか?」


 監獄だけあって、普通なら開けることすら不可能に見える鉄の大扉が入口を塞いでいる。この人の魔法なら、破壊するのは無理でもこじ開ける可能性はありそう。


「敷地に侵入したら、混乱に乗じて一気に地下を目指すつもりです。玉砕覚悟で…作戦と呼べるようなモノではないんですが…」


 綿密に計画して、潜入を企む方が安全なのはわかる。でも、監獄の情報を探ったら「おかしなことを考えるな。捕縛されるぞ」と忠告され、剣術くらいしか取り柄がない私には…命を賭けることしかできない。


「なんの後ろ盾もなく、行き当たりばったりで本当に申し訳なく思います…」

「わかりやすくていいです。ただ、気付かれないよう潜入を目指してみませんか?」

「妙案がありますか?」

「ないんですが、その作戦だとアムランさんが危険すぎる気がして」

「気遣い感謝しますが、私はどうなっても構いません。覚悟はできています」

「だとしても、貴女がいなくなるとボクが必要な情報が得られなくなる可能性が高い。なので、少しずつ監獄の情報を集めながら潜入したいです」

「情報を集めるとは?」

「たとえば…ココから監視用の櫓が見えますよね?」

「はい」


 距離が遠すぎてかなり小さいけれど、辛うじて監視員がいるのが視認できる。


「試しに魔法で眠らせてみます」

「え?」


 サバトさんは手を翳して集中している。


「櫓を見ていてください」


 櫓の監視員が崩れ落ちた。それも、全て同時に。


「上手くいきましたね」

「なにをしたんですか…?」

「『睡眠』と『麻痺』を魔力弾のように圧縮して、監視員を狙い撃ちました」

「本気で言ってます…?」

「この程度の距離なら狙撃できます。目標をハッキリ視認できるので」


 聞いたこともない…。この距離で魔法を複数同時に当てるなんて…。しかも戦闘魔法じゃないのに…。


「今のでも少し情報が掴めます。櫓は魔法障壁で防護されていない。外壁の上空にも現状魔法を防ぐ結界は展開されていないことがわかりました。今から監獄に近付けるといいんですが、地上にも警戒してる者がいるはずなので、発見したら眠らせたいと思います」

「なるほど」

「姿を消して行動しますが、当然監獄側は隠蔽を見破ってくるはず。どうでしょう?」

「う~ん…。予想できません」

「正面突破もいい案ですけど、門に辿り着くまで発見されなければ、よりいいですよね」

「それは確かに…。わかりました。身を潜めながら接近しましょう」

「はい」


 サバトさんと徒歩で森に入ると、巡回している警戒員らしき者達がいて、その全てを魔法で眠らせ麻痺させて動けなくした。


「結界内に動いている反応はないものの、油断大敵です。相手は有名な監獄ですから」

「はい…」


 この人……凄すぎない…?


 一瞬だけ森に結界を張って見張りの位置を特定したらしいけど、端から見ると魔法を使ったかも怪しい。

 今は眠った警戒員の装備や持ち物を確認してる。冷静に情報を入手して、次に役立てようと。


 私も手伝いながらテキパキ調べるサバトさんに気になったことを訊いてみよう。さっき感じた違和感…。


「サバトさん…。もし違ったらすみません…」

「なんでしょう?」

「監獄を見て……楽しいとか思いました…?」


 おかしな話だけど、ちょっと興奮しているように感じた。さすがに思い違いだろう…と確認したかった。


「実はそうなんです。恥ずかしながら、監獄を目にするのが初めてで高揚しました」

「そ、そうでしたか…」


 合ってた…。


「一度やってみたかったんです」

「なにを…?」

「脱獄を」


 この人は……なにを言ってるんだろう…?まったく理解できない。脱獄してみたいなんて考える人、いる…?


「許可を受けず監獄から連れ出すということは、脱獄ですよね?だったら、できる限り気付かれず成功するのが最善じゃないかと思ってまして」

「理想ではありますけど…」

「ただ、アムランさん主導の作戦なので、看守や監視を皆殺しにして進みたいのなら止めません」

「私は殺人鬼じゃありません…。闘わずに済むなら、それに越したことはないです」

「そうですか」


 冷静に凄い提案をしてくる…。この人の思考は……私の感覚と違いすぎる…。


 動悸がしてきた…。もしかすると………サバトさんを頼ったのは失敗だったんじゃ…?この先なにが起こるのか…ちょっと怖い…。

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