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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
72/688

72 初めての冒険

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

 連れ立って獣の楽園に入ると、まず『夜目』の魔法で視界を確保して進む。元々ボクらは夜目が効くけど、視界は明るいに越したことはない。

 しばらく進むと広場のような場所に出た。マードックが言うには、1階層の魔物出現エリアとのこと。ボクは獣の楽園については文献の知識程度しか知らない。今日は教えてもらおう。


「ココの魔物は基本的にゃ動物の森に出るヤツと一緒だ。見た目も動きも力もな。違うのはとにかく硬ぇ」

「お前でも倒せないのか?」

「2階層までならイケる。前に試したことあっからな。けど、そっから先は厳しい」 

「そうか。想像以上の物理耐性だ」

「早速、魔物のおでましだ。まずは黙って見てろ」


 現れたのは森にも棲息するハウンドドッグ。吠えながら突っ込んでくる。

 マードックの言う通り、速度や体型に違いがあるようには見えない。魔物は接近してマードックに襲いかかった。


「オラァッ!」


 手甲を装備したマードックの拳が、まともに頭部を捉えた……のに、魔物はすぐに起き上がって再び襲いかかってきた。結局倒すのに3発の打撃を要した。


「ほぼ全力で殴ったぜ。普通のハウンドドッグなら3発どころか3割だ」

「よくわかった。次は試しにボクが闘ってみてもいいか?」

「いいぜ。『身体強化』を試すんだろ?」

「あぁ。魔物の魔法耐性を確認しておきたい」


 過去に獣人の魔法使いが存在しなかったのが事実だとすれば、検証するのはおそらく史上初。魔道具を持ち込んだ者もいたが、大した成果は得られなかったと云われてる。


 次の魔物は直ぐに出現した。今度はフォレストウルフ。マードックと代わって『身体強化』を身に纏い、魔物の攻撃をひらりと躱して魔力を乗せた拳を打ち込む。


「ウラァッ!」


 フォレストウルフはしばらく悶えていたが、動きが止まりやがて消滅した。どうやら、魔法に対する耐性は低いみたいだ。


「なるほど。魔法には弱いのか。だったら闘いようはある」

「んなことできんのはお前だけだ。死んだ奴らもあの世で羨ましがってるぜ。ガハハ!」

「そんなことないだろ。とりあえず両手を貸してくれ」

「あん?こうか?」


 両手を差し出したマードックの手甲に触れると、淡く光を放つ。


「付与魔法か…?」

「そうだ。しばらく手甲が魔力を帯びたままになる。楽に闘えるはずだ。足にも付与するか?」

「いらねぇよ。…お前……いや、なんでもねぇ。どのくれぇ保つんだ?」

「ハッキリ言えないけど1時間は持続する」


 その後、再度出現した魔物をマードックは一撃で屠った。3割程度で殴ったらしいから通常通りの戦闘ができるとみていいだろう。



 ★



 両手を見ると手甲は変わらず魔力を纏ってやがる。俺が…想像してた以上かもしれねぇぜ。


 魔法を付与する時の流れるような動き。いつ魔法を発動させたのかすらわからねぇ。息をするように操りやがる。

 持続時間も桁が違う。普通は数分保てば上等だ。時間単位で持続できると言いやがった。


 コイツは…もしかすんじゃねぇか…。


【獣の楽園】は地下に潜るタイプのダンジョン。2階層まで進んでもキツさなんて感じねぇ。順調すぎて欠伸が出そうだ。このままの勢いで突破できるか?


「…ちっ!!」


 仕掛けに嵌まったワケじゃねぇのに、急に地面が崩れた。デケぇ穴の中に下の階層の地面が見えてっけど、落ちたらただじゃ済まねぇ高さ。


「よりによって落とし穴かよ!」

「こんな罠もあるのか。初めてだ」


 えれぇのんびりしてやがるが、コイツの華奢な身体で衝撃に耐えられんのか?つうか、人に構ってる場合じゃねぇ。


 受け身の体勢をとったところで、ウォルトが空中で詠唱する。


『風流』


 風が俺らを包んでふわっと着地する。


「今の魔法はなんだよ?!」

「『風流』だ。冒険者なんだから知ってるだろ?誰でも使える」

「お前っ…!そんなワケねぇだ……。まぁ、いい…」

「さっきからなんだ?そんなことより、周りが凄いことになってる」

「あん…?…ちっ!『魔物部屋(デモンズ)』か!?」


 魔物が俺らを取り囲んで唸り声を上げてやがる。『魔物部屋』はダンジョン罠っつうヤツで、大量の魔物が密集した空間に放り込まれる。

 いきなり転移させられたり、扉を開けたら御対面だったり無駄に種類が豊富な初見殺し…ってな。


 今回の『魔物部屋』は、ゆうに100匹はいやがる。魔法の力を借りてっから1匹ずつなら大したことねぇが、一斉に攻撃されっとマズイぜ。くそったれが。


 面倒くせぇけど1匹ずつ倒すしかねぇな。傷は後でコイツに治してもらえばいい。


「マードック。ココはボクに任せろ」

「んだと…?」


 示し合わせたように魔物達が跳びかかってきた。


「ボクに近づけ!」

「おぅ」


 言われた通り背中合わせにくっついた瞬間…。


『火焔』


 俺らを円で囲むように天井に届かんばかりの巨大な火柱が上がる。とんでもねぇ熱量。


「なんだぁ!?」


 ウォルトが続けて『風流』を発動して風が巻き起こった。放射状に広がった炎が全方位の魔物を焼き尽くして断末魔の叫びが響き渡る。


「ギィヤァァッ!!」

「グガァァッ!!」


 炎が消えたら魔物の姿は跡形もねぇ。


「上手くいってよかった。驚いたな」


 何事もなかったように平然と笑ってやがる…。コイツ……なんなんだ…?


「お前……どうやってそんな魔法を…」

「さっきからどうしたんだ?魔法使いなら誰でも詠唱できるだろ?ボクは魔法が使えるだけの獣人だ。驚くことじゃない」


 ダメだコイツ。話にならねぇ。

 


 

「お前は黙って見てろ!」


 4階層はウォルトを休ませて1人で突破してやる。こうでもしねぇと出番がねぇ。1つも面白くねぇ攻略が終わると、5階層に進む前に休むことに決めた。


「マードック。体力はどうだ?」

「問題ねぇ。魔法のおかげで、いつもの戦闘と変わりねぇからな」

「役に立ってるならよかった」


 ヘラヘラ笑うコイツになんつっていいのか浮かばねぇ。


 まさか、ココまでイカレた魔導師とは思ってなかった。予想の遙か上をいってやがる。マルソーとは比べもんにならねぇ。

 魔法の威力、種類、操作、詠唱の速さ。どれをとっても俺の知る限り最高の魔導師だ。並ぶ奴はカネルラにゃいねぇ。


 普通の魔導師なら、魔力がなくなるほど詠唱してやがるのに、回復薬を飲むどころか余裕な顔して家から持ってきた茶を美味そうにすすってやがる…。

『ダンジョンで飲むお茶はうみゃ~』とか言いそうなツラが腹立つぜ…。緊張感なんぞ微塵もありゃしねぇ。



 ちっと休憩して目的の5階層に降りる。


「史実通りなら先人達の最高到達地点だ。気合いが入るな」

「お前を見てっと気が抜けるぜ」


 顔に『この先に魔物はいるかニャ?』って書いてんだよ。余裕ぶっこきやがって。わかるけどよ。


「ところで、コカ・トーリスの羽根を採取するのが目的だろ?姿とか知ってるのか?」

「おぅ。鳥の魔物みてぇだ。結構デカくて美味そうだとよ」


 マジで美味そうならとっ捕まえて焼いて食ってやるぜ。


「……他には?」

「他…?」

「他の特徴は?なにかあるだろ?」

「ねぇ。それしか知らねぇ」


 なに言ってんだコイツ?充分だろ。


「素材を持って帰っても、違う魔物だったらどうするんだ?そもそも羽根はどうやって採取すればいいんだ?今までの魔物は倒したら消滅してる」


 言われてみりゃ…そうか。


「……そこまで考えてなかったぜ。ヘヘッ!」

「ヘヘッ!じゃないだろ!お前はそんなだからバッハさんの時も女だって気付かな……まぁいい」

「バッハ…?言いてぇことがあるならハッキリ言えや。気になるだろうが」

「その話はとりあえず置いとく。ちょうど魔物も現れた」


 さぁ、いよいよだぜ。


 どんな奴が来ても知ったこっちゃねぇ。ごちゃごちゃ考えずに全部ぶち殺せばいい。5階層にいなけりゃ…6階層に進むだけだ。


 獣人が誰も進んだことねぇ場所にな。


「…っしゃ!コイツらを叩き潰せば焦って出てくるかもしれねぇ。さっさと出やがれ鳥公がっ!」

「…鳥の獣人に怒られそうな発言だな」


 俺らは素手と魔法で魔物を討伐する。けど、肝心の『美味そう鳥』は現れる気配がねぇ。やっぱ眉唾だったか。


 急に鳥の鳴き声が響く。


「クェェェェッ!!」

「「なんだっ!?」」


 上を見るとウォルトの倍近くありそうな鳥が見下ろしてやがる。匂いもなくいきなり現れやがった。

 橙色の翼を広げて、相当デケぇけど見た目は鷹や鷲ってヤツに似てんな。猛禽類ってヤツか。確かにまぁまぁ美味そうだ。


「もしかしなくてもコカ・トーリスか」

「魔法で墜とせるか?」

「倒す方法とか?」

「知らねぇ」

「だろうな。訊いてみただけだ。まずはボクが行く」

「おう!」


 まずウォルトが『火炎』で撃ち落としにかかるが、素早く躱されちまった。けど、魔法に驚いた顔してやがる。


「…クァァ」


 興奮した鳥が口を大きく開けた。キィィン!と口ん中が光ってやがる。なんだありゃ?


「クエェェェッ!!」


 ジロリと俺らを睨んででっけぇ火球を吐いた。ウォルトが素早く『魔法障壁』を展開して防いでも、脇を熱風が吹き抜ける。


「熱っちぃな!!」


 熱さにやられて「ヘッ!ヘッ!」と舌を出す。『氷結』をかけられて涼しくなった。


「助かるぜ。聞いてた話と違うぞ。大して強くねぇって話だったんだがな。まともに食らったら間違いなく死んでたろ」


 マルソーの野郎、フカしやがったな。


「他の魔物と一緒で、このダンジョンに現れるのは強さが違うんじゃないか?」

「あぁ、そうかもしれねぇな。…っつうことは、吐く炎も強さも割増しってことか」

「まだ羽根の入手方法もわかってないけど……そんなこと言ってる場合じゃないかもしれない」


 羽根のことはすっかり忘れてたぜ。まぁ、余計なことを考える必要はねぇ。


「ぶっ倒してそっから考えようぜ。手に入らなきゃ謝りゃいいだけだ」

「そもそも採りに来たのは内緒なんだろ?言う必要あるのか?」

「ガハハハッ!細かいこと言うんじゃねぇ。とにかく負けんのだけは勘弁だぜ。ぶっ倒してやらぁ!」

「ボクも同意見だ」


 負けず嫌いの俺らは、巨鳥と対峙して獰猛な獣の顔で嗤った。

読んで頂きありがとうございます。

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