719 王女と初対面
本日は、リスティアがウォルトの住み家を訪問中。
「許せないのっ!色黒で、無理解で、スカしたカネルラ国王に失望したっ!!」
酔ってもいないのにくだを巻くリスティア。飲んでいるのは花茶のはず。
怒りの矛先は、父親であるナイデル国王陛下に向けられていた。
「あはははっ!めっちゃ面白い!自分の親をそこまで言う?しかも国王でしょ」
「ナイデル国王は、民に寄り添う人格者って言われてますよね」
「見たことないけど、結構イケメンって聞いた!」
「不作だったら税を減らしてくれたり、国民に優しい国王って思ってました」
「皆はわかってない!ただの我が儘ジジイだよっ!外面ばかりよくて着飾ってるのっ!」
実は、先に4姉妹が遊びに来ていて、リスティアとはもちろん初対面。どちらも「会いたい」と言ってくれたから、一緒にお茶を楽しんでいる。
リスティアは直ぐに4人と打ち解けた。全員に呼び捨てにしてもらうことを望んで、リスティアも気を使わないと言い切った。
そんなリスティアは、クライン国王の一件で陛下と意見を違えたらしい。クライン国王に会おうとせず、天に召されたと聞いても悔いている様子がなくて気に入らないみたいだ。
「ウォルトは裏でいろいろやってると思ってたけど、昔の国王まで蘇らせてるとはね~」
「蘇らせてはいない。正気に戻る手助けをしてるだけで」
「クライン国王は、カネルラでは知らない人がいない有名人です。ウォルトさんから見てどんな人でしたか?」
「あまり話せなかったけど、1つ1つの言葉に強い意志を感じた。騎士に勝る強さと、慈悲の心を併せ持って、思慮深く国民を牽引する国王に見えたね」
「私もクラインに会えてよかったの!誰ともしたことない話ができたから!黙って聞いてくれて包容力があったぁ!」
「まるで親子に見えたよ」
「凄く物分かりのいいお父様って感じだった!国王としても、親としても経験値が違いすぎるね!圧倒的にお父様の負けっ!器が小さすぎるっ!」
相当バカにしてるなぁ。クライン国王は、崩御したとき65歳を超えていたはず。単にナイデル国王より経験を積んでいるからじゃないだろうか。まぁ、文句は親子だからこそ言えること。ボクも母さんには強く言ってしまう。
「でもさ、リスティア!ナイデル国王も国民の声に耳を傾けるって言われてるよ!器が大きいって!」
「アニカ、甘いよ。さっきも言ったけど、格好つけてるから外面はよく見えるだけ。実際は、ただ色黒で凛々しく見えるだけだから!」
凜々しさと肌の色は関係ないと思う。しかも、アニカは外見の話はしてない。
「リスティアの言う通りだとしたら、国民は騙されてるってことにならない?」
「違うのチャチャ。騙してはいない。いつでも国民の幸福を優先する国王なのは本当。でも…とにかく格好つけるんだよね!見栄っ張りっていうか、『俺はカネルラを俯瞰している』みたいな空気を漂わせて国民を惑わせるの!さすが国王…って感心させちゃう!」
『惑わせる』は『騙す』とは違うか。
「溜まってるねぇ。リスティアって、親子ゲンカとかしたことないんじゃない?」
「言い合いはするよ」
「ぶん殴ってみれば?スッキリするかもよ」
「やっぱり?いつかやってみたいと思ってるの」
サマラは過激な提案をして、リスティアも乗ってる。殴って気が済むなら手っ取り早いけど、怒りというより不満だろうから解決しない気がする。
ボクが思うに、殴るという行為は怒りをぶつける表現方法。
「やり返されるだろうから鍛えたほうがいいよ。相手は男だし、リスティアは小さいから舐められる。護身術とかやってる?」
「訓練はしてる」
「だったら闘えるでしょ。とにかく先手必勝ね。力で勝てないなら、まずタマを潰して弱らせる。大抵の男は動けなくなるから」
「わかった!いきなりタマ狙いね!」
「やると決めたら躊躇は厳禁。潰す気でやるの」
タマって…。親子ゲンカでやることじゃない気がするな…。
「私も親とケンカしたことないよ。言い合いすらしたことない」
「ウイカは優しそうだもんね」
「そうじゃなくて、私は身体が弱かったから両親が凄く優しかったの。でもウォルトさんのおかげで冒険者になれた。今は元気だから、いつかやってみたい」
「わざわざケンカしてみたいの?」
「いつも優しいってことは、なにかしら我慢してたんだと思う。親子だから本音を聞いてみたい。普通に話しても教えてくれなそうだから、言い合えばポロッとこぼしたりして。そう思わない?」
「う~ん…。お父様は、身内には気持ちを隠さない人だから。言わないだけっていうのは多いけど」
「結局、親子だからわかりあってるんだね」
「よく言えばそうかな」
ウイカの性格だと、ケンカしなくても教えてくれそう。アーネスさんやウィーさんの想いは、今なら遠慮なく言えるんじゃないだろうか。
「私はお姉ちゃんと違ってお母さんとばかりケンカしてた!大体、両親のどっちかが止めてくれるよね!リスティアも王妃様に止められるでしょ?」
「アニカの家庭とは違って、お母様は静観してくれる。基本的に言いたいことを言わせてくれるの。凄く優しい人だよ」
「へぇ~!いいお母さんだ!」
「女性王族は言いたいことを言えない国が多いから、お母様はフォローしてくれる。時々お父様にも意見するし。もちろん私が言い過ぎたら怒られるけど」
「王妃様、いい人だね!噂も聞かないから新鮮!」
「お父様が政務に集中できるのは、お母様が王族を上手く治めてるから。お姉様達といい関係を築いて、ジニアスもしっかり育ててる。知られてないけど、お母様の功績は凄く大きい。王妃がお母様じゃなかったら、お父様は何回か倒れてると思うよ」
「かなりの愛妻家って言われてるよね!だから王妃様も支えたくなるじゃないかな!」
「愛妻家なのは本当。側室とか一切興味ないし、お母様に愛情を注いでる。世界でも珍しい国王かな」
「ナイデル国王が女性人気あるのわかるね!」
「アニカ、それホント?!お父様が女性に人気なんて嘘だよね?!どこがいいのっ?!」
「フクーベでも「優しくしてくれそ~。側室になりた~い」って冗談はよく聞くよ!悪い噂がないし、大切にしてくれそうだって!」
「側室も大切にするとは思う。まずないだろうけど……若い側室に浮かれた顔したらぶん殴る理由にはなるね!のぼせるな!ちゃんとしろって!」
その場合、リスティアが王妃様の努力を水泡に帰す。
「リスティアって、兄ちゃんと親友になっただけあって似てるね」
「そうかな?チャチャが思う似てるところってどこ?」
「大事なことを言うのが苦手なところ。兄ちゃんの場合、訊かないと言わない。だからこっちが勝手に読み取ることにした。今じゃバレバレ。リスティアもわかるでしょ?」
「大体わかる!」
そうなのか…。
「リスティアの場合は、隠すのが上手かったり、強い意志で言わないって決めてない?だから誰にも気付かれない。家族にも」
「うん。気を使わせたくないの」
「逆効果だと思う。今回みたいにハッキリ言ってみたら?知ってたら国王も動いてくれたんじゃないかな。兄ちゃんと知り合ってから思うんだけど、知っておけば先手を打てるし、そうしないと止めるのが難しい人っているよね。リスティアがタダの王女ならいいけど、兄ちゃんと親友ってだけで違うってわかるから」
「そう?」
ボクと親友だとタダの王女じゃない…?そんな理屈は成り立たないような…。
「皆、私のタメにいろいろ考えてくれてありがとう。急に来たのに嬉しい」
「私達も会ってみたかったから嬉しいよ。ウォルトから親友って聞いたときは『なんで?』って思ったけど、なんか納得した!」
「また妹が増えたみたいで嬉しいな」
「だよね!モンチャに続き妹が増えた!」
「アニカさん!いい加減にしないと怒りますよっ!リスティア!私をお姉ちゃんだと思っていいからね!」
「ありがとう!すっごく嬉しい!姉が一気に4人も増えちゃった!」
立場も種族も違う5姉妹。面白いなぁ。
「おかげさまで、お父様に対する気持ちも落ち着いた。あと、教えてほしいんだけど、ウォルトは私をセクシーって言ってくれないの。どうしたらいい?皆はスタイルがよくて羨ましい」
「なぬ?ウォルト、ちょっと冷たいんじゃないの?」
「嘘はよくないと思って」
「リスティアは大人びてますよ」
「でも、ボクが色気が凄いって言ったら変態だと思わないか?」
「う~む………リスティアにセクシーはまだ早いかもしれません!」
「一部だけを見て言わない!誤解される!」
「兄ちゃん、リスティアは背伸びしたいんだよ。褒めて伸ばすことは大切だからね」
「そもそも褒め言葉なのかな?よくわからないんだ」
リスティアは早く大人になりたくて言ってるんだろう。でも、色気は感じないから言わない。
「チャチャと同じで将来性に期待だね。リスティアも白猫同盟に入る?」
「白猫同盟ってなに?」
「ウォルトを好きな女性の集まり。誰が恋人になるか勝負してるんだよ」
「へぇ~!ウォルトは魅力的だからね!う~ん…」
「リスティア。ボクに気を使わなくていいんだ。即答していいよ」
「気を使うような仲じゃないでしょ。ウォルトのことは好きなんだけど、恋愛とかよくわからないの。とりあえず保留でいい?」
「いいよ。いきなり言われて困るだろうし。リスティアなら皆も納得だと思って訊いただけ。王族だからって、獣人と番になっちゃいけないとかないよね?」
「ないよ。あっても私には関係ない!」
「あははっ!強っ!ウォルトはなにか言うことないの?」
「ボクもリスティアのことが好きだよ。ただ、リスティアと同じで恋心じゃない」
友人としての好きだ。
「わかってないなぁ~。リスティアは恋心じゃないなんて言ってないじゃん。わからないって言ってるの」
「同じ意味じゃないか?」
「全然違うよ」
「ふふっ!サマラ、ありがとう。ウォルトは、私と恋人になるなんて考えたこともないでしょ?」
「考えたこともない」
「私もない!今はそれでいいの!」
「うん」
「前から言ってるけど、3年以内には悩殺するからね!の~さつ!その時に同じことを言えるか…楽しみだね!」
「言えると思うよ」
4姉妹から一斉に責められる。どうやら言ってはいけなかったみたいだ…。
「そろそろ帰ろうかな。結構長居しちゃった」
「リスティア。気を使わずにいつでも来なよ」
「私達が泊まっててもいいからね」
「愚痴くらいなら聞くよ!」
「憂さ晴らしって大切だから」
「ありがと!今日は来てよかった!愚痴らせてもらって楽になったよ!」
「ボクもいつでも聞く」
解決できなくても、話を聞くことくらいできる。
「ウォルトにはいつも聞いてもらってる。頼りにしてばかり」
「リスティアの悩みはボクには解決できないけど、手伝えることがあれぱ言ってほしい」
「なんで解決できないって言い切るの?」
「本質を掴みきれないからね。たとえば、今回の件でリスティアが不満なのはなぜかわからないんだ。ナイデル国王には交流を求めなくていい気がする」
「国王にしかわからない苦悩を分かち合って、少しでもクラインを労ってほしかったの」
「気持ちはわかるよ。でも、ボクはリスティアに会えたことで充分だと思う」
「そうかなぁ?」
「聡明なクライン国王は、自分が置かれた状況を理解して、君や先人達と会えたから憂いはなかったんじゃないか」
「ウォルトは子孫に会いたいと思わない?」
「ボクは思わない」
ボクに似て力の弱さで苦労してたりしたら、申し訳ない気持ちになる。自分の子供までならなんとかしてあげられると思うけど。
「でも、リスティアのように会いに来てくれたら嬉しいと思う。自由に動けない王族なのに、とびきり賢くて可愛い子孫が来てくれたら嬉しいさ。喜びが表情に現れていたよ。ナイデル国王は会えなくて残念だろうね。貴重な機会だったのに」
「そっか!やっぱりお父様は残念な国王なんだね!」
「いや…。それだと意味が変わって…」
「ウォルト!部屋まで送って!」
…まぁいいか。陛下とは面識もないし。
リスティアを部屋に送り届けて、また居間に帰ってきた。
「リスティア、いい子じゃん。全然王族っぽくないし」
「出会ったときから変わらないんだ」
「巷では天才って言われてますけど、普通の女の子に見えました」
「凄い努力家なんだ。人に愛されることと、頭脳明晰なのは天賦の才だと思うけどね」
「将来めっちゃ美人になりそうです!」
「ボクもそう思う。母親の王妃様も美人だ」
「また会えるかなぁ?キャミィもそうだけど、妹感がいいんだよねぇ」
「きっと来てくれるよ」
誰とでも分け隔てなく接するリスティアは、ボクとは正反対で人を惹きつける力がある。精霊にすら愛された才能なのか、その才で精霊すら惹きつけたのか。どちらにしても魅力に溢れる王女。
最近では感情が昂ぶることが増えた気がして、それだけ気を許してくれているということ。また友人達と交流の輪を広げてくれると嬉しい。
★
王城に帰ったリスティアは、しばらくしてナイデルの部屋を訪ねた。
執務を終えた国王は、今日も今日とてルイーナと肩を寄せ合っていた。ジニアスは安らかに眠っている。
「お父様。ゴメンね」
「なぜ謝る?」
「お父様の事情を考えずに勝手なことばかり言って。反省してるの」
「なんのことだ?」
「クラインの件だよ。お父様は残念なんだよね。それがわかった」
「…確かに残念ではあったが」
「器が大きい。さすが民に慕われる国王だよ。色黒で凛々しいって評判らしいね」
「色黒…?なにが言いたいのだ?」
「お父様が調子に乗っても仕方ないと思った。自分は国民の……特に女性人気があるって知ってたんでしょ?」
「お前は……なにを言っているのだ?」
「側室になりたいって女性も多いんだって。でも、私は言っておいたよ。お母様一筋だから無理だって。優しくしてくれそうって勘違いさせるのは、程々にしたほうがいい」
「意味がわからん!クラインの話からなぜそんな話になる?!」
「久しぶりに国民の意見を傾聴したの。そうしたら、お父様が国民女性を惑わせてる疑惑が出たから釘を刺しにきた」
「ありえん!意味不明だ!」
「ネタは挙がってるんだよ。種族も職業も違う国民女性4人の意見を聞いたんだから」
「たった4人だろう?!統計ではないではないか!」
「その考えはよくないね。今回の意見は王都民からじゃない。色黒で相当なイケメンって噂が地方まで流れてる」
「俺はあずかり知らぬことだ!」
「どうでもいいけど、若い女性にうつつを抜かして浮ついてたらぶん殴るからね」
「いい加減にしろっ!ありもしないことを並べ立ててどういうつもりだっ!」
「今日はそれだけ言いたかったの。じゃあね」
リスティアは部屋から出て行く。ナイデルは黙って背中を見送った。
「なんなのだ一体…」
「ナイデル様」
「む…?」
「私は側室を抱えることは反対致しません。世界に目を向ければ、カネルラが珍しいのですから」
「ルイーナまで…!そんなつもりはない!」
「ふふっ。わかっております。リスティアなりの冗句であり、仲直りしたいという意思表示だと私は思いました。ほんの一部だけ本音なのでしょう」
「どの部分だ?」
「浮ついていたら殴る、というところです。私の立場を慮って伝えに来たのですね。母として嬉しく思います」
「女性を惑わすろくでもない国王だと言われたがな…。事実と大きく異なるぞ」
「あの子もナイデル様が好漢でいらっしゃると認めているのです。憂いを増やせば苦労する、という意味かと」
「なるほどな…。だが、突拍子もないことを言い出すものだ」
「一概にそうとは言えません。ナイデル様の側室になりたいと思う気持ちは理解できるのです。レイのように貴族や王族ではないのに籍を入れた前例もあり、しかも悪い噂も聞かないとなれば憧れて当然といえます」
「俺にはわからぬ。まるで立場だけを評価されているようで」
「ふふっ。女性は誰しも姫のような扱いに憧れるのです。いつまでも凛々しくいて下さいませ」
「む…」
後日、ナイデルとルイーナ、そしてリスティアでクラインの墓を参った。
初めて目にする棺の中には、クラインの亡骸が戻っていて、リスティアの祈りと共に閉棺され再び埋葬された。




