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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
718/727

718 加護を与えられし者

 早朝のカネルラ王城。


 揃って朝食をとった王族一同。部屋へ戻ろうとするリスティアを、廊下でナイデルが呼び止めた。


「リスティア。昨夜はどうなったのだ?」

「なにが?」

「とぼけるな。クラインの件だ」

「外に出てないからわからないよ」

「お前は部屋にいなかっただろう」

「ずっといたよ。お父様が出ちゃダメって言ったでしょ」

「む…」


 カマをかけても親子だからバレる。私も下手な芝居を打たせてもらうことにしよう。お互い様だよ。


「行ってたら言えることもあるけど、行ってないからない」

「ダナンが休むと聞いたが」

「英霊もたまには休みたいよ。身体を酷使しすぎじゃないかな。じゃ」

「ちょっと待て!」


 待たない。話せることがないから。


 ダナン達からどんな報告を受けたか知らないけど、昨日の出来事を知ってるのは暗部くらいだと思う。暗部だったら遠くから見守ってくれていたかも。

 ただ、お父様の反応からすると、疑ってるだけで私が現場にいたことは知らない。暗部を動かさなかったのか、シノやサスケがウォルト絡みだから黙ってくれているのか。


 …そうだ。訊いておこう。


「お父様」

「なんだ?」

「クラインが蘇っていたらどうするの?」

「王城に招いて話すつもりだ」


 自分から行けばいいのに。でも、混乱が起きるかもしれないね。


「根掘り葉掘り訊く?」

「場合による。クラインは話すことをよしとしないかもしれん」

「そうだよね」

「ダナン達の話を聞けただけでも貴重だというのに、クラインと会話できたならより正確な歴史を知ることにも繋がる」

「カネルラの歴史は改竄されてないけどね」


 他国なら多々あることでも、カネルラではない。歴史書は、王族主導ではなく有識者が記してきたから正確な歴史。多少の誇張くらいしか感じない。

 

「調査にはいつでも協力するよ。外出さえ許可してくれたら」

「考えておこう」


 

 ★



「語り明かしてしまったな」

「いつの間にか朝を迎えておりました」


 ダナン達とクラインは、ケイン達の住まいで夜通し会話した。


 戦争当時のことも含め、過去から現在まで知りうることを語り合い、忌憚ない会話で胸の内を互いに吐露した。

 仲間達はそれぞれ泣き笑い、クライン様は我々の言葉に耳を傾け微笑まれた。会話しながら徐々に記憶が蘇ったようだ。


「己が蘇るなど誰にも想像できはしない。シャガテにより新たな生を受けたのなら納得できるが」

「稀代の魔導師と、傑物と呼ばれる王女様のおかげなのです」

「リスティアは賢い。とても童とは思えん。ウォルトも凄まじい魔導師なのだな」

「操る魔法は全てが規格外であり、死者ですら感動を覚えます。宮廷魔導師を遙かに上回る技量を備えております」

「アイツの魔法は桁違いです」

「ウォルト。やる」


 ケインやムバテも言わずにはおれぬか。


「獣人の魔導師と、過去に類を見ない女傑が同時に生まれた。そんな時代に蘇ったことを嬉しく思う。たとえ一時であっても」

「やはり…戻られるですね」

「我の居場所はあの時代の王城にしかない」


 クライン様は、人が生まれるは天命であるとの思想の持ち主。困難な時代であれ、平和な時代であれ、生まれ落ちた時代で懸命に生きることが尊いと生前から説いていた。

 故にこの時代に己の席はなく、速やかに天に召されるべきだと胸の内を吐露された。思考回路がウォルト殿に似ており、他人には限りなく優しいが、己のことに関しては納得できねば強情な御仁である。


「ただ、我が儘にて少々暇をもらう。現代の王都を見物させてもらおう」

「御意」


 クライン様は顔に布を巻きつけ変装を施した。両の目だけが見えている状態。容姿がナイデル様に瓜二つであり、王都に余計な混乱をきたす可能性を危惧してのこと。


 我らは城下町を並び歩く。


「ダナン。我ではなく、お前達が目立っているな」

「申し訳ありませぬ」


 顔を隠した男と取り巻きの甲冑達。隠密行動などできるはずもなく。


「はははっ。しかし、城下町に活気がある。いつの時代も国民の笑顔はいい」

「キシックへの王都移転は、クライン様の案だったのですか?」

「リバゴの案だった。今でも美しい景観を保っているのは彼奴のおかげか」


 リバゴ殿は戦争勃発当時の宰相。非常に頭の切れる御仁であり、かつ情にも厚かった。幾度か意見が衝突したが、いつも優れた折衷案で話を纏める策士であった。


「そこのお兄さん」

「ん?我のことか?」

「1つ試しに食べてみないかい?美味しいよ」


 屋台の女主人に声をかけられた。


「あいにく腹が満たされていてな。なんという食べ物なのだ?」

「知らないのかい?珍しいねぇ。コレはね…」


 主人と楽しそうに話し込んでいる。こんなクライン様は初めて目にする。


「騎士が一緒にいるってことは、お偉いさんかい?」

「案内してもらっているだけなのだ」

「そうかい。まっ、カネルラじゃ関係ないさ。王族も国民も、美味いモノを食えば同じ顔するだろ」

「はははっ。それはそうだ」

「いい男だから1つあげるよ。後で食べな。美味しけりゃまた頼むよ」

「かたじけない」


 もらった串焼きを持って歩く。


「いかんな」

「なにか気になることがございましたか?」

「国民と交流しては決意が揺らぎそうになる。手前味噌だが、カネルラはよい国だ」

「仰る通りです」


 その後も我々は王都見物を続けた。市場から闘技場までゆったりと。

 

「見物が楽しくて仕方ない」

「左様ですか」

「皆に最後の我が儘を言わせてくれ」

「なんなりと」

「無理なら断って構わない。現国王ナイデルとの謁見は可能であるか?」

「お任せ下さい」

「返答が早いな。簡単なことではないだろう。相手は国王だ」

「私には断られる想像ができませぬ」

「ははっ。そうか」


 足並みを揃えて王城へ向かう。


「皆は知らぬと思うが、我が逝ったときの王都は今よりかなり狭かった。王都全体でこの城下町の範囲ほど。発展した証だ。感慨深い」

「暮らしやすいと評判なのです」

「以前の王都はどうなのだ?」

「今はフクーベと名を変え、微かに面影が残る都市であります」

「そうか。動物の森から運ばれていた澄んだ空気が懐かしい。ダナンは、よく釣りを楽しんでいたな」

「今でもたまに楽しんでおります」


 今回も世話になってしまったウォルト殿の住み家に顔を出さねばいかん。カリーも不満げにしている。



「さぁ。懐かしい王城に辿り着いたぞ」

「少々お待ち下さい」


 立哨している騎士にボバン殿を呼んでもらうよう頼むと、間を置かず現れた。


「皆様お揃いで、いかがなさいました?」

「ボバン殿、こちらの御仁は…」


 クライン様の事情を説明する。


「なんとっ…!」

「今代の騎士団長殿。事前の許可もなく、急な来訪を詫びたい」

「お気になさいませんよう…!陛下に伺って参りますので、しばしお待ち下さい!」


 さすがにボバン殿も動揺している様子。足早に城内へ向かった。

 

「精悍な男だ。かなりの猛者であろう」

「ボバン殿はグリアムを上回る強者であります」

「お前達とは少々認識が異なるかもしれん。戦争が終結して、グリアムはさらに強者へと変貌を遂げた」

「存じ上げませんでした」

「生涯不敗を誓い、鬼気迫る鍛錬で己を高めたのだ。先に逝ったお前達への懺悔あったように思う」

「左様でしたか。ですが、彼奴は思い込みが激しいのです。我々が懺悔など求めるはずもなく」

「あの野郎、もっと鍛えておけばよかった…なんて勝手に勘違いしてやがったな。関係ないってのに」

「グリアム。格好つけすぎ」

「はははっ。お前達の言葉を聞いたなら、彼奴の眉間の皺はもっと浅かったやもしれん」


 ボバン殿が戻ってきた。


「ダナン殿。陛下は他国の使者と謁見中でした。今しばらくお時間を頂ければとのことです」

「ありがとうございます。クライン様、いかがなさいますか?」

「執務を急がせてはならない。国王の責務は誰より知っている。手を煩わせるは不本意。我らは縁がなかった。立ち去ろう」

「お待ち下さいっ!陛下は貴方様との謁見を望んでおられますゆえっ!」

「光栄だが、我らの邂逅は互いの心を乱しかねないと知りながら望んでしまった。会えぬは天の思し召しであろう」

「今しばらく猶予を頂けませぬか!」

「我は現国王陛下に猶予を与えるような立場ではない。生者の都合が優先されて然るべき。失礼する」


 凜としたクライン様の態度にダナン殿は口を噤んだ。私からも確認してみる。


「お会いせずともよろしいのですか?」

「謁見は国の命運を左右する重要な職務。既にナイデルの心を乱してしまったかもしれぬ。己を恥じているのだ」

「かしこまりました」


 ボバン殿に深く礼をして王城をあとにした我々は、集合墓地へと移動した。




「王都を散策し、心が満たされた。連れ回してすまなかったな」

「我々騎士一同にとって、夢のような至福の時間でありました」

「そう言ってくれると助かる。では、帰るとしよう」


 やはり……心変わりはないのだな…。


「クライン様」

「なんだ?」

「我々は……多くの土産話を持ってそちらに参ります。しばしお待ち下さい」

「あいわかった。楽しみにしている」


 クライン様は、1人1人と言葉を交わす。


「ケイン。また泣いているのか?」

「笑っています…。肩の震えが止まらないだけでっ…!」

「ムバテはいつも通りだな」

「陛下。元気で」

 

 全員と会話を終えたクライン様は、胸元から魔石を取り出した。

 

「ウォルトが魔法を込めてくれたのだ。魔力と共に、精一杯の心を込めたと微笑んでいた」

「御仁は……誰より優しい魔法を操るのです」

「そうか。さすがはカネルラが生んだ大魔導師サバト。一度は目にしたかった」


 クライン様は優しく微笑む。


「蘇って学んだ。この世には、どれだけ時が経とうと変わらぬモノがある。我とお前達の関係のように」

「仰る通りかと」

「会えてよかった。願わくば、また相見えよう。今よりも未来で、またこの国で共に笑おう」


 クライン様は魔石を握る。


「では……さらばだっ!」


 魔石が砕けると同時に、美しく煌めく魔力がクライン様を包み込んだ。


「…クライン様っ!!」


 名を呼んでも答えない。ただ、我々を見て微笑んでいる。


「ダナン…!バカみたいに笑えっ…!わかってんのかっ…!?」

「貴様こそっ…!泣いてどうするっ…!」

「笑顔っ!忘れてるっ!」


 クライン様の姿が薄れて……やがて光の粒子のように霧散した。


 全員が言葉もなく立ち尽くす。


 私は……上手く笑えていた自信など微塵もない。



 ★



 カネルラ王城。


 謁見を終えたナイデルは、ボバンからクラインが王城から去ったことを告げられた。


「申し訳ありません…。私では引き止めることが叶わず…」

「仕方あるまい。クラインの意図も理解できる」


 国王の責務を知るからこそ身を引いた。俺でも同じ行動をとっている。会って話したかったのが本音だが、決して興味本位ではない。国王としての矜持、心構えなどについて語り合いたかった。


「クラインが蘇ったということは、サバトが噛んでいるな」

「間違いないかと」


 ならばリスティアから話を訊くとしよう。クラインの行方についても掴めるであろう。


 夕食の後に部屋に戻ろうとするリスティアを捕まえた。


「本日、蘇ったクラインが謁見を申し込んできた」

「会えたの?」

「いや。使者との謁見を邪魔したくないと姿を消した。どうすればクラインに会えるか教えてくれ」

「なんで私に訊くの?」

「英霊の蘇りにはサバトが絡んでいるはず。それ以外に考えられない。クラインにはダナンが同行していたと聞いた」

「確認してみるね」

「頼む」


 リスティアは就寝前に部屋を訪ねてきた。


「お父様。ダナン達から話を聞いたよ。サバトにも」

「返答は?」

「クラインは、もう逝ってしまったみたい」

「なにっ!?」

「本当は意識を取り戻して直ぐに逝くつもりだったけど、ダナン達と1日だけ王都で過ごして、満足して逝ったって」


 邂逅のチャンスは一度きりであったか。


「あまり国民と触れ合ったら決意が揺らぐ。カネルラはいい国だって笑ってたみたい。最後は笑って別れたって言ってた」

「そうか」


 現世に満足してくれたのなら嬉しい限りだが、貴重な機会は失われてしまった。


「お父様。ちょっと訊いていい?」

「なんだ?」

「クラインに会えなくて残念?」

「うむ。会ってみたかった」

「なんで謁見が終わって直ぐに捜索しなかったの?」

「ボバンからクラインの言葉を聞いて次の執務にとりかかったからだ」

「クラインは集合墓地で逝ったって。騎士の皆としばらく言葉を交わしたらしいから、探していれば間に合ったかもしれないよ」

「そうだとしても後の祭りだ。今さら結果は変わらない」


 リスティアの表情が変化する。


「お父様、調子に乗ってるんじゃない?」

「なんだと…?」

「急いで捜索すれば発見できたかもしれないよね。貴重な会話ができる機会を棒に振った。会えるかはクライン任せで、自分は椅子に座って待つだけなんて、さすが国王陛下だよ」


 意図はわからないが、明らかな嫌味を浴びせてくる。


「クラインは国王の責務を誰より理解している。だからこそ邪魔をせぬよう身を引いた。俺はクラインの心中を理解できる。我々には通ずる想いがあるが、お前にわかるはずもない」

「それはそうだよ。私は国王じゃない。ただ…お父様がクラインの気持ちを理解できるって言うなら、子孫として声をかけるべきだった。激動の時代で……誰より苦悩した先祖に対する慈悲の心はないのっ!?」


 俺に射貫くような視線を向けて声を荒げる。


「慈悲とはなんだ?」

「クラインを労ることに決まってる。私じゃダメなの…。悔しいけど…心の機微を想像はできても真の意味でわかってあげられない!お父様にしかできないのに……なんで会うタメに最大限努力しなかったのっ!?」


 過去に見たこともない怒り。ルイーナに抱かれたジニアスが泣き顔になっている。


 今はリスティアの言葉に耳を傾けよう。この子が感情を露わにするほどの真っ直ぐな想いを聞かねばならない。


「クラインは、国王でありながら加護の力も併せ持っていた!私にも理解できる部分がある!国王は無慈悲な判断も下す必要があるでしょ?!でも……加護の力を与えられた者は、無慈悲な行動や決断に苦しみを伴うんだよ!目の前の者を救えって…救ってやらなきゃって酷く心が締め付けられる!」


 初耳だ。俺の父の世代には加護の力を与えられた者はいなかった。今代にもリスティアしかいない。


「私やクラインは…選択がどんなに正しくて、大義名分があったとしても…無慈悲と思える決断を前にすると身を切るような想いに苛まれるの!」

「知らなかった」

「私は王女だからいい!お父様が責任を請け負ってくれるから!でも、クラインは国王で……カネルラを……多くの傷付いた国民を背負ってた!心の負担は計り知れない!加護の力を与えられた者にしかわからない苦悩があったはず!」

「そうか」 

「今まで誰にも言ったことがないし、もしかするとクラインは同情を望まないかもしれない!この苦しみは、私だけの可能性だってあるっ!」

「そうやもしれん」

「ただ、私はずっと前から思ってた…。クラインこそ本物の傑物だって…。私なんかじゃない!そんな傑物だって人間なのっ!血族だけはわかってあげなきゃ…!」


 リスティアは俯いて肩を震わせる。


「お前はクラインが蘇ったと確信していたのだろう?なぜ俺に会うべきだと強く進言しなかった?」

「私が言うべきことなの…?」

「俺は神ではない。言われなければわからぬこともある。むしろ、人心の掌握はお前の方が長けている。責めるならば甘んじて受けよう。だが、言葉で伝えることを怠ってはならない。それでも俺が聞き入れぬなら、愛想を尽かそうと反旗を翻そうと好きにしろ」

「……そうだね。私の我が儘で、間違ってた。勝手なことばかり言ってごめんなさい。部屋に帰るね」


 リスティアは顔を見せることなく部屋を出ていく。


「ナイデル様。お掛けになってはいかがですか?」

「…あぁ」


 ルイーナからソファに誘われて隣に座る。


「私は、あの子の親であるのに知らないことばかりだと実感致します」

「俺もだ」

「齢11にして…誰にも理解されない悩みを抱えていたのですね…。あの子は、これから先どう成長するのでしょう。見当もつきません」

「誰にもわからぬことだ。ただ、平坦な道は歩まぬだろう」

「波瀾万丈でしょうか」

「リスティアが望むならそうなる。簡単に周囲に飲み込まれたりしない」

「自らの行く道を選択できるということですね」

「うむ。あの子にはそれだけの能力があり、今も磨いている。時代の波に飲まれるか、乗りこなすか、あるいは阻止するか。望むように立ち振る舞うだろう」


 魔導師サバトと縁を結んだことで、リスティアは年相応の少女になった。サバトの存在がなければ、嫁ぐまで有能な王族として重宝されていただけだったかもしれぬ。今日の件でも、激しく意見などせず達観していただろう。


 以前のリスティアは、喜び以外の感情をほとんど表に出さなかった。サバトという理解者を得てから変わり始めたのだ。感情を押し殺す与し易い王女ではなく、才能を如何なく発揮する油断ならない傑物へと成長している。


「リスティアがクラインに特別な感情を抱いていたことも初耳でした」

「加護の力を授かった者にしかわからぬ苦悩が畏敬の念を抱かせたのだろう」

「少しでもクラインの心の痛みを和らげ、安眠を願う気持ちが慈悲なのでしょうか。リスティアにとっては至極当然の思考で、だからこそ執務を優先したナイデル様の行動は理解できなかったのですね」

「その通りかもしれんが、クラインに俺の慰めなど不要だ」

「というと?」

「苦悩の日々を送ったとしても、傍には支える者達がいた。決して孤独ではなかったはずだ。王妃や王子、宰相から騎士団、彼を支えていた者は少なくないはず」

「その通りかと」

「苦悩に苛まれながら使命を果たし、次世代に繋いだなら俺はこう思う。静かに眠らせてほしいと。王位を継承し、譲渡するまでの過程には数えきれない喜怒哀楽がある。後継者に託したなら、全てから解放されたい。ルイーナだから言うが、俺はその頃には満身創痍だろう」

「微力ながら支えさせて頂きます」

「充分支えられている」


 ルイーナの肩をそっと抱き寄せた。


「其方が女王だとして、未来の国王から「お前は悩みながらよくやった」と言われたいか?」

「…腹が立ちそうです。どの立場でモノを言っているの…?と」

「そうだろう。苦しみを分かち合い、慰める資格があるのはダナン達のように同じ時代を生きた者だけ。俺とクラインは、互いに気に掛けても兄弟や夫婦とは違う。双方が騒ぎ立てることを望まない。我らにしかわからぬこと」

「ふふっ。ナイデル様とリスティアは、やはり似ています。想いは違えどクラインを尊重しているのですから」

「む…。そうか」


 …やはり会ってみたかった。リスティアの言葉通り、捜索していればあるいは…。


 だが、直ぐに逝ったクラインの遺志を尊重する。現世への介入は最小限に留め、己のいるべき場所に帰る。長く滞在すれば羨望や不平不満も生まれ、彼はそれをよしとしない。

 先人騎士達が会えたならそれだけでいい。俺がクラインと同じ状況なら、子孫よりボバンやシノに会うことを望む。短い時間であっても、共に時代を駆けた戦友と語りたい。


 子孫には同様の存在がいると信じるだけ。


「クラインの墓を参ることにする」

「よろしいかと」

「リスティアを誘うとしよう」

「私も同行致します」


 せめてもの慈悲の心を持って祈りを捧げよう。あの子の憂いが少しでも解消されるといいが。

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