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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
716/727

716 現実問題

 今日はウイカとアニカが住み家を訪ねてきてた。


 更地での修練を終えて、食事中にウォルトは意外なことをお願いされる。


「ウォルトさん。一緒にリンドルさんの治癒院に行ってもらえませんか?」

「いいよ」

「はやっ!内容聞いてませんよ!?」

「2人の頼みだからね。今日は断る理由もない。なにかあったの?」

「リンドルさんとラットさんが泊まりがけで旅行に行くらしくて、治癒院の片付けをやりたいんです!リンドルさんは相変わらず1人で切り盛りしてるから、相当散らかってるんですよ!」

「お世話になってるので、いない間に片付けようかってアニカと話してました。でも、薬とか勝手に動かすとわからなくなったりしそうで。リンドルさんは全部似たような瓶に入れてるんです」

「薬に詳しいウォルトさんがいてくれると心強いです!」

「役に立てるといいけど」

「本当に忙しくないですか?」

「大丈夫。片付けるのは好きだし、ラットに恩を売っておこうと思って」


 出不精鼠が旅行に行くなんて珍しいこと。ゆっくり楽しんできてもらって、次に会ったとき話してみよう。他でもない姉妹の頼みだし、力になりたい。


 というワケで、早速フクーベに向かう。

 



「コレは…やり甲斐があるね」


 リンドルさんの治癒院に到着した。ウイカが預かっている合鍵で中に入ると、待合室は綺麗。

 ただ、診察室と備品庫のような部屋はかなり散らかってる。診察室はまだマシだけど、備品庫は酷い。薬が溢れていたりと衛生的にもよくない。


「一気にやっちゃいましょう!」

「そうだね」


 3人で片付け開始。


「『清潔』も上達してきました」

「まだまだですけど!」


 2人の魔法でテーブルや床の汚れが落ちていく。修練の成果がよくわかる。 


「ウォルトさんは、薬の中身がわかりますか?」

「わかるよ」


 見た目でわからなくても、容器の蓋を開けて匂いを嗅ぐと判別できる。紙があったので、薬の名前を容器に貼っておこう。リンドルさんはわかると思うけど念のため。

 

「片付いてきたね」

「3人いると早い!」

「治癒院を切り盛りしてると、片付ける時間もないのかな?」

「リンドルさんは、患者がいる内は院を閉めないので、夜中まで仕事してることもあります」

「なかなか雇いたいと思える治癒師がいないみたいで!でも、私とお姉ちゃんは毎回勧誘されてます!」

「2人が働いてくれると助かるはずだよ。ボクなら雇いたい」

「「えへへ…」」


 引き続き診察室を片付けていると、ドアがノックされた。 


「おぉい、リンドル。おらんのかぁ~?あいたたっ…」


 お爺さんのような声。話し方からすると常連っぽいな。


「もしかして、今日から休みって言ってないのかな!?」

「そういえば、張り紙してなかったかも。ちょっと行ってくるね」

 

 ウイカが対応に向かって、直ぐに戻ってきた。


「常連のトキさんだった。やっぱり休みだって知らなかったみたい」

「あちゃ~。どうしよ~?」

「急に腰が痛くなったんだって。とりあえず痛みだけでもとれたらいいみたいだから、私治療してみるね」

「私も手伝う!」

「ボクも手伝うよ」

「助かります」


 ウイカとアニカは顔見知りだろうけど、ボクは謎の獣人。…ということで、とりあえずテムズさんに変装してみた。


「トキさん。横になって下さい」

「すまんのぅ、ウイカ。あいたたっ…」

「治療しますね」


 ウイカは腰に手を翳して治癒魔法を発動した。しっかり患部に効いてる。


「ふぅ…楽になったぞい。そこの兄さんは誰じゃ?」

「私達の知り合いで、同じ治癒師見習いです」

「アーネスさんです!今日は掃除の手伝いに来てくれてるんですよ!」

「そうかそうか。リンドルは忙しさにかまけて散らかしとるからのぅ。はっはっ」


 いつも通りテムズでよかったけど、なぜアーネスさんの名前を?


「終わりました。トキさん、どうです?」

「痛みがとれた。助かったぞい。お代はいくらじゃ?」

「治癒師じゃないので、お金はもらえません」

「そうはいかん。いくらかもらってくれんと」

「お礼したかったら、今度リンドルさんに渡してください。リンドルさんからもらいますから」

「そうさせてもらおうか。また頼むぞい」

「お大事に」


 トキさんは軽い足取りで帰った。


「ウォルトさん。私の治癒魔法どうでしたか?」

「見事だったよ。一点に集中して効かせてたね」

「えへへ」


 またドアがノックされる。


「リンドル姉ちゃ~ん!」

「子供っぽいね!今度は私が行ってくる!」


 アニカが子供と一緒に帰ってきた。


「転んで血が出た!」

「しかも腫れてるじゃん!おもいっきりコケたね~!椅子に座って!」


 アニカが膝に治癒魔法をかける。これまたお見事。


「ありがとう!もう痛くない!」

「気を付けて遊びなよ!」

「うん!」


 元気に飛び出していった。きっとまた怪我するだろう。でも、子供にとっては普通のこと。


「ウォルトさん!私の治癒魔法はどうでしたか!」

「申し分ないよ。アニカもさすがだね」

「えへへ」

「アニカ、今日は休みだって表に張り紙しておこうよ。掃除が進まないから」

「そうだね!でも、急に休みって知ったらガッカリしないかなぁ?リンドルさんがいい加減だって思われたりして!」

「確かに。わざわざ遠くから来る人もいるもんね」


 ちょっと提案してみよう。


「急遽リンドルさんが休んで、見習いしかいないけど、それでもよければ治療する…って書くのはどうだい?」


 さっきのトキさんみたいに、痛みがとれるだけでいいならボクらでも対応できそう。


「判断は患者にお任せってことですね」

「嫌なら他の治癒院に行けますし、気を使わなくていいかもです!貼ってきます!」


 貼り紙を終えて掃除を続けていると、患者が次々やってくる。ウイカとアニカの対応からすると、ほとんど顔見知りっぽい。


 そんな中、特に多いのが…。


「ウイカちゃん。ありがとう」

「気を付けてくださいね」

「アニカちゃん。助かったよ」

「大した治療じゃないです!大袈裟ですよ!」


 指を切ったとか、ちょっと膝を打ちつけた軽症の若い男性。鼻の下を伸ばした患者に、静かに待っていた女性患者達が厳しい目を向ける。


「いい加減にしなさいよ!そんな怪我は唾でも付けときゃ治るっての!下心が見え見えよ!」

「リンドルがいないからって、チャンスと思うんじゃない!」

「恥ずかしくないワケ?!痛みを堪えて待ってる人がいるでしょ!」

「逆に嫌われてしまえ!」

「うぉっ…!」


 一斉砲火を浴びて、逃げるように治癒院から出て行く男性達。2人とお近づきになりたいだけなのか。言い返さなかったってことは事実だろう。


「男ってのは困った生き物だよ。ところで、お兄さんは初めて見る顔だね」

「初めまして。アーネスといいます」  

「治癒魔法使えるの?」

「少しですが」

「私達の先輩なんです」 

「尊敬しまくりの!」

「私はアーネスに診てもらいたいな。転んで打ちつけた肘が痛むの」

「ではこちらへ」


 女性の左肘には大きな傷痕がある。治癒魔法で塞いだ痕だ。


「ちょっと診ます」


『浸透解析』すると、骨がまだ繋がりきってない。綺麗に折れてるな。


「骨折で、怪我してまだ日が浅いんですね」

「来るのは2回目だよ。肘が伸びなくて、無理に伸ばすと痛いの」

「では、治療します」


 折れた骨の断面は綺麗に接触してる。処置が適切だったんだな。コレなら接合を促進するだけでいい。魔力は3種混合が効果的だ。ついでに傷痕も綺麗に消しておこう。


「治療が終わりました。どうですか?」

「痛みが綺麗になくなったよ……って、傷も綺麗に消えてるっ!?」

「よかったです」

「ちょっ…!アーネス、凄すぎない?!」

「タダの見習いです」


 ざわつく患者達。どうしたんだろう?


「ふふっ。今からは3人で一緒に診ましょう。アーネスさんにばかりお願いできません」

「協力して治療しましょう!」

「そうだね」


 火傷だったり切り傷だったりと患部の状態は様々だ。姉妹と協力して治療を進める。


「アンタ達、リンドルより腕がいいんじゃないの?」

「もはや立派な治癒師じゃねぇ」

「いえいえ!3人揃ってやっと治癒師1人分くらいです!」

「ホントに無償でいいの?」

「いいんです!」


 そんなこんなでどうにか治療を終えた。…と思っていたら、また訪問者が。


「邪魔するぞ」


 ノックもせず入ってきたのは、立派な口髭を蓄えた人間の男性。


「表の貼り紙を見た。お前達、無資格のくせに治療しているのか?」

「はい」


 ボクが事情を説明する。


「なるほどな。患者優先の志だけは評価してやるが、お前達がやっているのはれっきとした違法行為だ」

「報酬を受け取らなければ、自家製薬の使用と同じく個人的な治療になると認識してます」

「受け取っていないという証拠は?」

「ないので証明はできません」


 受け取っていないという証拠を示すのは、受け取った証拠を示すより遥かに難しい。手元になにもないのだから。


「ふん。治癒師界隈に迷惑をかける疑わしい行為は慎め。直ぐに止めるなら、今回だけは見逃してやらんでもない」


 上から目線な物言いが癪に障る。断じて違法なことはやってない。


「治療するのにお前の許可がいるのか?」

「なんだと…?お前は、誰にモノを言っているかわかっているのか?」

「知ってほしいなら名乗れ」

「いい度胸だ、若造が。医療ギルドにケンカを売って治癒師になれると思うなよ」


 医療ギルドは、治癒師や薬師の資格を認定したりと、医療全般を統制してると聞いたことがある。


「ギルドにケンカを売るとどうなる?」

「どれだけ技量が優れていようと治癒師として認定することはない。人格に問題がある奴など治癒師として論外だ。お前達の顔は覚えたぞ」


 ボクにとってはどうでもいいこと。でも、ウイカやアニカは困るな。特にウイカは治癒師を目指してる。コイツの記憶を消して、通りに捨て置いたら万事上手く治まるだろうか?


「アーネスさん。気にしなくていいですよ」

「医療関係者には、自分は偉いって勘違いしてる人が多いんです!この人もそうですね!」

「最近は治癒師になることにこだわってなくて、形式上の治癒師にならなくていいと思ってます」

「権力に潰された人に沢山会いましたから!必死に学んだのに、さらにゴマをすらなきゃなれないなんて、バカバカしくてやってられません!」

「生意気な小娘共がっ…!貴様らは絶対に治癒師にしてやらん!」


 2人ともハッキリ言うなぁ。


「自分の身体すら治せない奴が、治癒師を選ぶ立場とは笑えない」

「なんだと…?」

「後遺症か知らないが、お前の右足と左腕は痛むんだろう?わざとらしく世間の同情を引いて楽しいか」

「貴様ぁっ…」


 これ見よがしに、入ってきたときから見せつけている。


「古傷を不幸かのように見せつける奴に、治療してもらいたい者などいない」

「治療を知らない青二才がっ…!貴様になにがわかるっ!」


 ボクはキャミィに褒められた魔法の幅だけは自信がある。本当に酷い傷なのか確かめてみたい。


「仮にお前の傷を治せたらどうする?」

「はっ!土下座でもなんでもしてやろう!お前の言うことをなんでも聞いてやるとも!」

「二言はないな?」


 手を翳して『麻痺』で男を動けなくする。


「コレは『麻痺』…!?なにをする気だっ!?」

「治療に決まってるだろう。怖じ気づいたか?だったら今すぐ解いてやる」

「ぐっ…!やってみろ!」


 ウイカとアニカには傍で見ていてもらう。男を横たわらせて、まずは患部の『浸透解析』から。


「下手な治療で右肘の骨が変形してる。左足は、脛の骨がズレたままで治癒魔法を付与された。どちらも杜撰な治療の結果だ」

「ぐっ…」

「今から治療する。喚いて舌を噛むなよ」

「なに?!」


 魔力のメスで肘の肉を切る。やっぱり騒ぐので『沈黙』を男の顔に展開した。治癒魔法で出血と痛みを抑えているのに、耐性が足りてない。


 変形してる部分を目視しながら2人に教える。


「この部分が変形してる。適当に治癒魔法を付与するとこうなるという典型的な悪い例だ。削って元の形に戻さなきゃならない」

「焦って治療すると後遺症が残るんですね」

「治療は丁寧かつ慎重に、ですね!」


 可能な限り手早く終わらせて治癒魔法で閉創した。喚き疲れたのか男はぐったりしている。


「足も一気に治療するよ」


 脛の肉を切り裂いて骨まで到達した。ズレて繋げたのか、骨に明らかな段差があったりと綺麗に修復されてない。


「形を整えよう」


 骨を切断、研磨してから継いで魔法で閉創。脂汗まみれの男の麻痺を解除して確認する。


「治療は終わりだ。まだ痛むか?」

「…お前は……何者だ…?」

「答えないならいい」


 治療について詳しく2人に教えることができた。貴重な実験台としての協力に感謝しよう。

 

「肉を切り、骨を削って魔法と併用で治療するとは…。どこでその技術を学んだ?」

「さぁな」


 結果も答えず一方的に話す奴と会話する必要を感じない。『睡眠』で眠らせ、さらに『混濁』で記憶を飛ばしておく。掃除が終わるまで診察台に載せておこう。



「ふぅ。やっと終わりましたね」

「スッキリしたぁ!」


 診察室も壁から床までピカピカに磨き上げた。後は、死んだように眠るこの男をどうするか。

 

「ちょっと連れて行ってくる」


 男を背負って向かったのは衛兵の詰所。「酔っ払いが道で寝てました」と引き渡した。対応してくれたのがボリスさんじゃなかったから。

 治療した横柄な男はガルドという名前らしい。衛兵が名前を呼んで発覚した。ギルドの顔役か、衛兵の世話になるタチの悪い治癒師のどちらかだろう。


 治癒院に帰ると2人が待っていてくれた。


「どうなりましたか?」

「衛兵が保護してくれたよ」

「長年の痛みがとれて、喜んでるんじゃないですか!」

「記憶を飛ばしたから、ウイカやアニカのことは覚えてないはず。安心してほしい」

「大丈夫ですよ。本当に治癒師の資格にこだわってないので」

「そんなことより、ウォルトさんが物騒なことを考えてる方が心配でした!」

「下手すると息の根を止めてましたよね?」

「考えてはいた」


 2人には思考を読まれてるから隠す意味がない。


「手を汚すようなことをしなくていいんです」

「気が済むんでしょうけど、他のやり方もありますし!」

「最終手段だと思ってた。今回はボクの提案のせいで絡まれてしまったから。浅はかでゴメンね」


 姉妹の未来を奪われるワケにはいかない。


「たまたまそうなっただけです。実際、私とアニカはウォルトさんから治癒魔法を教わるだけで満足してるんですよ」

「治癒師になるには足りないよ」

「い~や!今日だってオジサンの鼻を明かしましたよね!ウォルトさんから学ぶ治療魔法は高度なんです!」

「そんなバカな」

「バカじゃありません。ウォルトさんは勘違いしてます」

「なにを?」

「ウォルトさんは、今までに治療を失敗したことがありますか?」

「山ほどあるよ。昔は治療すらままならなかった」


 怪我を治そうと魔法を詠唱しても一向に回復せず、苦しさから集中すらできずに失敗していた。少しずつ学び、何千何万回と詠唱して今に至る。きっと普通の魔法使いの何倍もの修練をこなしてきた。


「私が言ってるのは他人の治療です。人付き合いが増えて、治療を頼まれたり自主的にやったりしてますよね?失敗しましたか?」


 そう言われると…。


「今のところ失敗はしてないかな」

「普通ならあり得ません!治療が全部成功するなんて神業です!御存知のとおり治癒魔法って万能じゃないですから!」

「ボクでもできる治療だからだよ」

「そこがポイントです!ウォルトさんの治療魔法の幅は、自分が思ってるより広くて、困難な治療も可能なんですよ!」

「さっきの男性を診て、なぜ杜撰な治療を放置してるんだ?って疑問に思いませんでしたか?」

「思った。なんで放置していたのか理解に苦しむ」


 同情されたがりとしか思えない。


「治療で骨が曲がったり変形するのは普通なんです!治癒師は、出血を止めたり痛みを和らげることを優先して、後遺症のことまで考えません!」


 優先なのは理解できなくはない…けど。


「時間がかかっても完治を目指すのが治癒師の仕事じゃないかな?」

「理想はそうです。でも、本当の意味で患者に寄り添う治療ができる治癒師なんて、一握りしかいません。治癒師の数に対して患者が多すぎるのも問題なんです」

「ウォルトさんみたいに一度の治療で完治させられる人は少ないんですよ!」

「そこらの治癒師より、ボクの方が技量が上だってことになるね」

「「そうです」」

「う~ん…」

「納得いきませんか?」

「でもそうなんです!」

「きっとそうなんだろうね」

「「えっ?!」」


 冗談を言ってないことくらいわかる。2人は信じられる友人。


「ボクの治療知識は、文献と自分の経験から学んだ。治癒魔法は、師匠をはじめキャミィやドワーフからも教わって修練で形にした。でも、治療が上手くいっているのは運よく成功してるだけだよ」

「ウォルトさんの治癒魔法の結果は、運なんかじゃないです」

「そうですよ!的確な魔法を使って理論的に治療してるじゃないですか!」

「いや、運だよ。生兵法で、腫瘍なら消滅を確認して傷は治ったのを目視で確認するくらい。根拠は1つもないし、最後まで責任も持ってない」 


 医者や治癒師が長年かけて積み上げてきた治療の知識や経験の恩恵をボクも享受させてもらってる。ただ、誰かのタメに知識を蓄えたワケじゃない。間違えを正されることもない無責任な治療ばかり。


「ウォルトさんって真面目ですよね」

「違うよ?」

「真面目です!しかも、完璧主義っていうか!」

「いや、不真面目だよ?」

「適当なことをやりたくないから、気軽に他人の治療は請け負わないし、治療するなら完治を目指して努力してます」

「我が儘なのに真面目です!」

「ボクが真面目かは置いといて、適当な治療はしたくないんだ」


 ボクは、幼少期から怪我をしまくって身体中傷だらけだった。でも、治療してくれたハルケ先生に心底感謝してる。

「傷が目立たないようにしてほしい」という子供の無茶な願いに応えてくれた。結果として傷が残ったことは問題じゃない。「きっと消えない」と言いながら、丁寧で誠実な治療に心を救われた。


 ボクにとって最高の治癒師はハルケ先生。実際は医者だし、ステファニアさんのような治癒魔法も使えないけど関係ない。他人を治療するなら先生のように真剣に向き合う。真面目とかじゃなく、尊敬する人を見習いたいだけ。


「信念は治癒師向きなのに…」

「性格はまったく治癒師に向いてないんだよね~!」

「変な獣人でゴメン」


 3人で笑い合う。


「ところで、なんでボクの偽名にアーネスさんの名前を使ったんだい?テムズでよかったのに」

「今日来てくれた常連の患者さんは、ウォルトさんに治療してもらったことをリンドルさんに話します。絶対です」

「テムズは軽薄だと思われてて、私達姉妹と一緒にいたらまた節操なしだと勘違いされかねません!リンドルさんはチャラい男が嫌いなんで!」

「なるほどね。ありがとう」

「ラットさんにはバレるでしょうね」

「けど、なにも言わないよね!ラットさんの性格はわかる!」

「そうなのか?」

「ウォルトさんの友達ですから」

「リンドルさんの話を聞く限り、わかりやすい人だと思ってます!」


 アイツの思考も読みやすいのか。ボク的にはわかりにくいと思うけど。


「ラットさんと話してみたいよね」

「ウォルトさんが頼んでも難しいっぽい!」


 その通りで、頼んでも基本的に無理。男同士なら初対面でも多少話すけど、女性とは頑なに話したがらない。リンドルさんと親しくなったのは、おそらく向こうからの一方的なアプローチだと予想してる。


「話すには、アレしかないかなぁ」

「だね!」

「アレってなんだい?」

「決まってるじゃないですか」

「私達がウォルトさんの恋人になれば話してくれそうです!興味が湧くでしょうし!」

「恋人ができたら紹介しろとは言われてる。でも、話しても一言二言だと思うよ」

「ウォルトさんはわかってませんね!」

「なにが?」

「仲良くなりたいんじゃなくて、ウォルトさんの親しい人達に認めてもらいたいんです。特別な存在だって」


 2人まとめてハグをする。


「いつもありがとう」


 なんでボクなんかを好いてくれてるんだろう。好意を伝えられる度に心がじんわり温かくなる。


「ふふっ。自虐的なところも好きですよ」

「どこが好きかなんて正確に答えられる人はいません!強いて言うなら理由はコレ…ってだけです!」


 胸に顔も埋めたまま2人は答える。


「ボクが女性に好かれるなんて、昔は考えたこともなかった」

「好かれたいと思ったこともないんですか?」

「友達がほしかったけど、好かれることはなかったね。サマラとヨーキー以外には」

「私達がいます」

「ウォルトさんは、大人になってから魅力が増したんですよ!」

「気付いてくれてありがとう」

「妙に素直ですね…」

「いつもなら「魅力なんかない」って言ってるはずなのに…!」

「ボクに魅力がなかったら、君達が変わった人間だと思われるかもしれない。ちょっとくらい魅力があるはず」

「ウォルトさんは成長してます…」

「成長を見届けますからねっ…!」


 強く抱きついて、胸に顔を擦りつけてくる2人の頭を優しく撫でた。


 心境の変化が成長かはわからない。ただ…人らしくなれてる気がしてる。皆が言ってることが少しずつ理解できるようになってきたから。

 触れ合って修練して会話して、食事してたまに一緒に寝る。笑って困って怒って悩むのも嫌じゃない。他人からずっと無視され続けてきた獣人に魅力を見出してくれた友人達。


 この先関係が変化するんだろうか。より親しくなって恋人になるとか、逆に疎遠になってしまうとか。あるいは絶交されてしまうかもしれない。最悪、敵になる可能性だってある。


 神頼みなんて柄じゃないけど…もう友人は増えなくていい。子供の頃のように新たな縁の繋がりなんて望まない。ただ心を許せる人達と一緒に時を刻んでいけたら。



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