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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
712/730

712 気味の悪い男

「なんだ…?」


 動物の森を駆けていたウォルトは、嫌な気配を感じ取って立ち止まった。


 神木の協力を得て森に結界を展開すると、気配のする方角に何者かがいる。ゆっくり移動してるみたいだ。

 住み家に向かうルートじゃない。立ち止まったりうろついていて、進む速度からすると徒歩で間違いない。

 動物の森は保護区。天然の起伏も多く平地が少ない。気配の主は小高い丘を歩いている。

 気になるから接近してみよう。視認できる距離まで近付くだけでいい。気付かれたら気付かれたときに考える。放置していい存在なのかだけ知りたい。


 駆けながら接近すると対象は立ち止まった。距離があるのに魔法で察知されたのか?探知魔力の類は感じない。

 とはいえ、気付かれたなら息を潜めることもない。普通に駆けて接近してみると、立っていたのは人間の男性…のようだ。


 断言できないのは、大量の黒い羽虫に身体を覆われたかのようで、顔や身体が見えないから。辛うじてこちらを覗いているといった感じで、遠目でわかる異質さは死神に憑かれたかのよう。


「やぁ」


 やはり気付いていたらしく、声をかけてきた。


「貴方はサバトじゃないか?そうだと嬉しい」

「察しの通りサバトです。貴方は?」


 この男の目的は不明。普通なら適当に返答するけど気になりすぎる。どうやってこの状態に陥ったのか興味がありすぎて素直に答えた。


「俺はマレディクスだ」

「こちらが見えてますか?」

「見えてる。そっちからは見えないのか?」

「隙間から姿だけ」

「ということは、呪いが見えてるのか」

「呪い…?」


 呪いって実体化するのか?確かに魔力ではない気がする。深く掘り下げてみたい。


「貴方は噂と全然違うな」

「噂とは?」

「魔導師サバトは、偏屈で会話などできない。接触したら見境なく攻撃して屠ろうとしてくる」

「偏屈ですが、一応会話するつもりはあります」

「俺の呪いに興味を示してくれたのなら、森をうろついた甲斐があった」

「なぜ大量の呪いを一身に受けてるんですか?」


 呪いは必ず身体に影響を及ぼす…というのがボクの知識。しかも決まってよくない方向で。素人でも視認できるような呪いを受けたら、衰弱して死んでもおかしくない。


「最近は呪われることに心地よさを感じてな。もはや呪いは友人だ」


 軽快に喋りながらもやっぱり顔が見えない。黒い霧が竜巻のように身体に巻きついている。


「俺はプリシオンから来た呪術師。けれど、貴方を敵視してない。フィアットに付与した呪術に興味があって会いに来た。魔法を媒介に伝播する呪術は見事で、多くの隊員が命を落とした」

「そうですか」

「俺達の解析が先なら被害を防げただろう。残念でならない。魔法陣と類似している部分に気付いた魔導師がいたのに」


 隠蔽してないから、解析されて当然。


「それにしても…貴方はどう見ても獣人だ。認めなかったら信じてない」

「御自由に。黒い霧を纏って森を歩くという行為に興味があっただけです」

「発見されるまで半日近くかかってる。この森は想像以上に広い」

「体調も崩さず元気ですね」

「呪いを誤解している」

「誤解とは?」

「呪いは、負の感情だったり歪んだ願望で生み出されるモノじゃない。単に強い想いなだけで、恐れることじゃない」


 恨み辛みも、憎悪も殺意も一括りにすれば強い想いか。


「想いの強さが呪いの効果を高め、憎い相手を呪えば最大の効果を発揮する。貴方はプリシオン人が憎かったのか?」

「どうすれば効果的に呪いを伝播できるかを考え、できることをこなしただけです」

「結果、多くの人が命を落とした。満足だったんだな」

「不本意です」

「どういう意味だ?」

「伝播を早期に阻止されてしまったので」

「狙いは呪いを広めて犠牲者を増やすことか」

「目的は無差別の殺戮ではありません。それは愚か者が引き起こした結果で、本命は布石を打つこと」

「話が噛み合わない。あの呪術の、真の目的を教示願いたい」

「呪術に精通する人に言う必要はないと思うんですが」

「ちょっと待ってくれ」


 ポケットからなにやら取り出した。魔石…?いや、宝石か?


 掌に載せると渦を巻くように黒い霧が吸収され、やがて姿が見えた。独特の装飾を散りばめた衣装を羽織る中年の人間男性。


「貴方がなぜ呪印を施したのか理由を知りたい」


 真剣な眼差し。


「呪術返しにより発動するよう仕掛けましたが、よほど愚かでなければ解析されるのが先で、発動することはあり得なかった。狙いは呪印をプリシオンに広く伝播すること」


 早い段階で阻止されてしまったけれど、ボクは呪術を広く行き渡らせたかった。


「解呪法が確立されたら、どこまで広がろうと意味なんてないだろうに」

「そうでしょうか」

「貴方の真意を掴みあぐねている」

「こちらもです。唯一、ボクを帰すつもりはなさそうだということだけはわかります」


 マレディクスの目が濁る。


「敵意はないと言ったはずだ」

「明確に示しているのに?」


 黒い霧が晴れてから強烈に匂う。この男の、突き刺すような敵意が伝わってくる。


「バレたら仕方ない」


 歪んだ笑みを浮かべた。


「お前の呪術で弟が死んだ。フィアットで将来有望だったのに、なんの罪もない人間を標的にした殺人鬼の毒牙にかかって。…身を以て償え。呪いに蝕まれ…悲惨な最期を迎えるがいい」


 奴が手にする宝石のようなモノから黒炎が立ち昇り、ぐにゃりと変形してボクに向かってきた。身を躱すと、まるで空中を泳ぐ蛇のように追跡してくる。接触した木は腐ったように溶けだす。


「ははっ。逃げ回るだけか」


 木々の隙間を駆け回り、迫り来る黒炎を躱しながら観察する。


「お前のような臆病者が、ドラゴンを殺せるはずもない」


 挑発してくるマレディクス。操る黒炎から逃げ続けること数分。急に動きが止まった。


「期待外れだぞ、サバト。誰もが驚くという魔法を見せたらどうだ」

「誰のことを言ってる」

「出し惜しみしていたら死ぬぞ?下らない土産話を持って帰ってやるから早く見せろ」


 舐めた口調が不愉快極まりない。


「そこまで言うなら見せてやる」


 ドン!と『大地の憤怒』を発動させる。3箇所同時に土の槍が飛び出した…けれど、マレディクスは無事。


「ははっ!どこを狙ってる?」


 それぞれ離れた木の根元に発動させた土の槍。コイツは大事なことを忘れているようだな。


「阿呆が」

「……なにっ?!」


 すぅ…と人間の姿が現れる。フード付きのローブともマントとも言えない服を羽織り、土の槍で身体を貫かれた人間が3人。胸を貫かれ絶命している。


「見事な隠形を学ばせてもらった。覗きとは随分趣味が悪い」

「くっ…!」

「6人で逝けば寂しくないだろう」

「…っ!」


 少し離れた場所にいる3人も同時に攻撃した。出会ったときの異様な姿は、コイツらの存在から気を逸らす策だったのかもしれない。


「なぜ気付いた…?」

「逃げ続けながら、なぜか攻撃されなかった箇所がある。姿が見えない仲間に万が一にも当てないよう攻撃するのを避けた。逆に居場所を明かしているとも知らずに」


 駆け回りながら匂いで割り出した場所を攻撃しただけ。なにもできないと侮って高みの見物を決め込んでいたのか、奴らは最期の時まで動くことなく逝った。

 結界魔法に反応がなかったのは、隠蔽の技能や装備の効果だろう。奴らの存在に気付く前に攻撃されていたら正直危なかった。


「仲間を守りたかったのか、それとも死んでほしかったのか?」 

「許さん…。俺は…お前を殺し抜いてみせる…」


 マレディクスは黒炎を纏う。今度は周囲を囲むのではなく、魔力と同様に自分の身体から揺蕩っている。


「この呪いには魔法など通用しない。試してみるか?」

「ククッ」

「なにがおかしい?」

「闇魔法を呪いと言い張るペテンが下らなすぎる」


 闇魔法であることを確信したのは、駆け回りながら小さく『解呪』を当てても一切効果がなかったことと、光魔法と『無効化』では縮小、消滅を確認できたから。

 奴は『浸食』の魔力を変質させて呪いと偽り、複雑に操作している。闇魔法の操作はかなり難しいが、コイツの魔法操作は見事。手足のように操る。躱しながら観察して技法を学ばせてもらった。

 

「…大魔導師様はお見通しというワケか。ふぅぅっ…」


 魔力が膨れ上がり、禍々しく揺蕩う。


「死ねぇっ!」


 多方向から触手のような黒炎が迫る。見事な操作だが、奴の魔法操作は壊滅的に遅い。いかに操作が流暢で命中精度が高くても、致命的にスピードが足りない。躱し続けるのが楽で仕方なかった。


 先に闇魔法を発動する。


死想(メメントモリ)

「なんだその魔法はっ…!?ぐおっ…!」


 発現した大鎌を手にした死神は、奴の闇魔力を無理やり吸収する。吸引を続けて全て身体に収めた。

 

「お前は……闇魔法まで使いこなすか…」


 答えず静かに死神を消滅させる。


「まさか……情けをかける気じゃないだろうな…?」

「理由がない。闇魔法の操作技法を学んだ礼に、お前の質問に答えよう」


 マレディクスに手を翳す。


「…ぐ、あぁぁっ!!」


 腹を押さえて苦しみだした。


「呪印をプリシオンに広めたかったのはなぜか…だったな。身体に呪印が刻まれていれば、プリシオンから来たことを一目で見抜ける。そして、呪いの起点にする。こんな風に」


 コイツは鳩尾付近に呪印が刻まれている。独自に考案した魔力に反応する呪印は、服で隠されていても感覚で捉えられる。あとは、呪印から効果を発動させるだけ。


「呪印はっ……解呪されているはずだっ…!なぜっ…!」

「二段、三段で仕掛けるのは最善ではなく当然。表層の呪印を解呪することにより、隠蔽呪印が刻まれる構造になっていただろう?」


 魔法と複合させた呪印だから可能で、手段を問わず解呪されたら発動する仕組み。ただ、伝播させる性質は呪術返しにより破壊されてしまった。今のボクの技量では、どうしても効果を連列しなければならず、個々に独立させられなかったから。


「お前は……死神かぁっ!」

「なんとでも呼べ。下らない土産話に満足か?もう逝くといい」


 呪いを進行させる。


「があぁぁっ…!痛いぃっ…!助けてくれぇっ…!後生だっ…!」

「呪いは友人とはいい言葉だ。再会を喜べばいい」


 殺しに来たのに殺さないでくれ…なんて捻くれた要求は聞けない。あまりに身勝手すぎる。


「がっ…!……ごぼぁっ……」


 マレディクスは目、鼻、口から大量の血を噴いて倒れた。


 さて、コイツらを土に還す前に溶かされてしまった木を修復しよう。ボクが逃げ回ったせいで派手にやられて申し訳ない。丁寧に魔法で治療する。

 あと、所持品を回収しておこう。宝石にしろマントにしろ面白い素材でできているに違いない。自分なりに研究して次の対処に活かす。


 見事な隠形に今回は肝を冷やした。次は油断しない。


 

 ★



 数日後。プリシオンのフィアット本部で、各部署の責任者を集めて会議が行われた。

 

 本部長兼最高責任者ウーゴが着席して会議が始まる。


「忙しい中、急に集まってもらってすまん。隠密部隊が6人、魔導師部隊からマレディクスが行方不明になっている。足取りとしては、一昨日の夜カネルラに進行しているようだ。しかし任務ではない」


 隠密部隊の長オリバーが白眉をひそめた。俺と同期の頑固爺。深く刻まれた皺のせいで、顔面が岩石のよう。


「直ぐに帰国すると考えているが…」

「無理でしょう。またサバト絡みですね?言い方は悪いんですが、救いようがない」


 諜報・情報収集部隊の長カネチが眼鏡を上げながら嘲笑う。フィアットの頭脳を任される若者は、俺達より20以上若い。


「なんだと…?小僧が…」

「オリバーさん。遠距離監視を得意とする私の部下も、おそらく奴に抹殺されました。…が、その後は奴の危険性を認識して仲間で共有しています。同時に6人も失うとは、隠密は危機感が足りてませんね」

「このガキゃぁ…」

「魔導師がマレディクスってことは、弟の恨みを晴らすつもりだったんでしょう。隠密の6人は、金で協力を頼まれたか同じ部隊の弟と親しかったのか。いずれにせよ浅はかなことに変わりない。誰が見ても愚行です」

「そのうるさい口を縫い付けてやろうか…。頭でっかちの坊っちゃんよっ…!」

「そこまでだ。口論させるタメに呼んだのではない。そんな暇もない。争うのなら出て行け。代わりを呼ぶ」


 ……静かにするつもりはあるようだな。


「国王陛下より我々に箝口令が敷かれているのは周知の通り。サバトの関与と被害について口外しないようにと。だが、当事者であるフィアットの中でも情報が錯綜していて、隊員が勝手な行動を起こしている現状だ。最高責任者として通達する。サバトに手を出すな。一切の調査も認めない」

「うふふっ。随分と弱気な発言ですわねぇ」 


 魔導師部隊の長ランピンは上品に笑う。大ベテランの女性魔導師で、俺やオリバーとほぼ同年代。


「永久にというワケじゃない。一時的だ。隊員が充足されたなら解除する」

「そうだとしても、たった1人の魔導師を恐れすぎではなくて?」

「ランピン。お前のとこの部下がやられてるのに随分な言い草だな」

「あら。マレディクスは、珍しいだけで大した魔導師じゃないもの。闇魔法しか使えないなんて、落ちこぼれもいいところ。おたくの隠密は精鋭だったの?」

「違うわっ!新人に毛が生えたような奴らよっ!」

「なんにせよ、お前達の部下が勝手な振る舞いをする度にフィアットの戦力が低下しているのは事実だ」

「あぁら。耳が痛くってよ」

「…ふん」

「呪術事件でも多数命を落とし、残された隊員の負担が増加している。人材の育成も容易ではない。だからこそ組織として態勢を建て直すまでの通達だ。異存はあるか?」

「ちょっといいでしょうか?」


 挙手したのは戦闘部隊の長グリンガー。フィアット最強の戦士であり頭も切れる男。この男も若くして登用された才能の持ち主。


「なんだ?」

「各部隊がサバトに絡んで、少なからず被害を被っているようですが、幸運なことに我が部隊は無傷です。呪術の伝播にも関わっていない。一度だけで構いません。サバトに接触する許可を頂けませんか?」

「グリンガー…。お前、ウーゴの話を聞いてたのか?」

「輪をかけて怒られるわよ。本部長は堅物なんだから。ふふっ」

「1つの部隊にだけ忖度できないでしょうしね」

「我が儘を申していることは重々承知しておりますが、何卒許可を頂きたく」

「なぜこだわる?」

「フィアットの威厳を保ち、散った仲間達の供養をしたいのです。皆さんも同じ気持ちではありませんか?」

「ふむ…」

「わからなくは…ないわね」

「殊勝な態度…理解はできます」


 俺もそうだが、内心ではサバトの存在が気に食わない。箝口令が敷かれていても、フィアットが呪われて死亡したことや、森で不審死を遂げた事実は知られている。

 記者に事情を嗅ぎ回られたりと面倒で、たった1人の魔導師に振り回されているのが実情。


「サバトと交戦するという意味だな?そして討ち果たすと」

「まさに。陛下から口外無用の指示はあれど、サバトへの不可侵を求められてはいません。違いますか?」

「成功したとて戦力低下を招く可能性がある。リスクを知ったうえで提案しているか?」

「奴が強者であることは理解しています。過信ではなく油断もありませんが、数名失う可能性はあるでしょう。被害を局限するタメに私もカネルラに行きます」

「ならば認めん。最悪の事態を想定するならあり得ない選択だ」

「では、ゲルマンの指揮ならいかがですか?」


 グリンガーに肩を並べる猛者のゲルマン。単純な身体能力と戦闘技術だけならグリンガーを凌ぐ男。そして、残酷非道なことを一切の躊躇なく行う。打倒サバトへの本気度が伺える選択といえる。


「いいじゃなぁい。本気ねぇ」

「やるなら徹底的にやれ」

「サバトの情報を少しでも持ち帰ってくれるなら、なんでも構いませんが」

「本部長。いかがですか?」


 グリンガー以外は、同意半分、興味半分といったところだな。俺を煽っている空気感もある。


 俺とて多くの仲間を屠られて気分は悪い。たとえ奴を刺激した原因がこちらにあるとしても…だ。


「よかろう。人選等はお前に一任するが、出発の日時だけ確実に報告しろ。サバトを討ち果たして帰還させることが使命だ。これ以上陛下の気分を害する報告をさせるなよ」

「かしこまりました」

「他の部署については、サバトに関わらないよう隊員を抑えろ。従わなければ追放や処罰も辞さないと明言していい」

「おぅ…。了解だ」

「いいわぁ」

「わかりました」


 野戦も得意とする戦闘部隊ならば、いかに地形の利を活かす相手であっても確実に仕留めるだろう。対魔法戦術も豊富で、長年に渡りプリシオンを守ってきた実績からも隙はない。


 件の魔導師も年貢の納め時。



 だが…5名という少数精鋭で出発した戦闘部隊は、ついぞ帰国することなく死亡認定される。同時に、フィアットに向けてサバトに対する無期限接触禁止命令が正式に下された。

 行動を知りながら制止しなかった俺と、「部隊の長たる器ではない」と断じられたグリンガーは共に処罰され、陛下より「愚か者が。いつまで奴を侮っている。国防部隊を私物化し、仲間の命を軽んじおって」と叱咤され猛省の日々。即刻牢屋行きとならなかったのは、戦力をこれ以上削れないという事情があっただけ。


 今回、フィアットがサバトに接触を図ってから初の出来事が起きた。過去に一度も戻ることがなかった伝書鳥が帰巣したのだ。

 4羽の伝書鳥に木箱へと繋がる紐が括りつけられており、フィアット本部へと運ばれてきた。カネチを筆頭に中身に興味を示したが、箱に入っていたのは醜い笑みを浮かべるゲルマンの生首。


『次は皆殺しだ』と額に文字が刻まれていて、突然破裂したゲルマンの頭部から散乱した血液により再び呪いが伝播し、フィアットは甚大な被害を受けた。

 血液を直接浴びた者、拭き取った者、部屋にいた者、とにかく凄まじい速度で拡散した。皮膚に付着すれば腐らせ、煙に変化して吸った者を苦しめる。

 とにかく強烈な呪いは上級呪術師でも解呪が困難で、無理に解析しようとした呪術師が数名命を落とす始末。

 やがて闇魔法により呪いを悪性化させていることが判明した。諜報部隊を中心に甚大な被害を及ぼし、事態が完全に収束するまでに要した期間は約2週間。


 我々は、改めてサバトとの邂逅を模索することになる。おかしな話だが、停戦交渉と今後は不可侵である意向を伝えるタメに。

 フィアットはこの数ヶ月で戦力が半減し、育成すらままならない状況。これ以上は危機的状況に陥ると判断された。


 カネルラ国王に仲介を依頼すべく上層部が書状を送ったところ、「サバトは、度重なる貴国の行いで怒り心頭に発している模様。当方為す術なし。彼の者を刺激せぬよう要望し、一切の責を負わないと宣言した。以後は不可侵の誓いを徹底されるべし」との返答。これ以上できることはないと判断し、警戒を解かずただ放置することが決定した。


 数回に渡るサバトと接触でフィアットが得たモノはなにもない。姿形、居住地、操る魔法など、なに1つ知り得なかった。唯一の情報は呪印の記録のみ。呪術師をして、「即効性と殺傷能力に特化した呪術。魔法を高度に融合させていて、解呪は並大抵ではできない」と称された。


 あくまで予想だが、劇薬のような魔導師なのだ。ゲルマンの死に顔は、過去に何度か目にしたことがある。アレは強者との戦闘に昂った表情。サバトと対峙して興奮したまま屠られている。エルフの里で複数同士の交戦であったとしても、奴は強者との1対1を好む男。


 限りなく困難になってしまったが、本音を言えば一度は見てみたかった。


 フィアットにとって仇敵といえる魔導師を。

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