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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
71/689

71 【獣の楽園】

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

 フクーベの酒場で、4人の冒険者が酒を酌み交わしながら談笑している。

 フクーベの冒険者ギルドでトップクラスのAランクパーティー【ホライズン】のメンバーはクエスト終わりに打ち上げを敢行していた。


 フクーベのギルドには、冒険者の最上位であるSランクパーティーは存在せず、Aランクも3組だけ。その内の1組であるホライズンは、狼の獣人マードックの所属するパーティーである。


 パーティー構成は、戦士2名と盗賊(シーフ)と魔導師がそれぞれ1名で計4名。前衛である戦士にはマードックとパーティーのリーダーでもあるハルト。後衛にシーフのシュラ、そして魔導師のマルソー。

 マードックを除いた3人は人間で、年齢も全員20~27歳と若く、フクーベのギルド内で最も勢いのあるパーティー。


 今日は、ギルドに依頼されて隣国との国境近くにあるダンジョンまで稀少なアイテムを採取に行った帰り。

 移動も含めて2週間以上かかったため、明日から数日は休みにしようと決めて、「今日は皆で飲もう」というリーダーの意見に賛同して酒場に来た次第。



 ★



「くぅ~。やっぱ地酒が一番だぜ!」

「マードックは酒ならなんでもいいんだろ?」


 勝ち気な表情で話すのは、細身だが引き締まった体型で、いかにも俊敏そうな印象を与えるシーフのシュラ。

 主に罠の解除や斥候をこなす彼は、マードックより1つ年下の最年少。そんな口振りをマードックは大して気に留める様子もなく答える。


「わかってねぇな。地の酒は染み渡んだよ。他のじゃこうはいかねぇ」

「ホントにわかってんのかよ?怪しいな」

「飲めない俺には全く理解できない」

「マルソーはそうだよな」


 メンバー唯一の下戸である魔導師のマルソー。最年長であり、下戸だが真面目な性格で反省会や慰労会には顔を出す。魔導師としての知識と技量は本物で、過去には若くして王都の魔法武闘会で準優勝したこともある。


「俺はどこの酒もそれぞれのよさがあっていいと思うな」


 冒険先で飲む酒は、美味かったり不味かったりだがそれも含めて楽しい。


「ハルト。酒の話はとりあえず置いといて、次に受けるクエストは考えてんのか?」

「特に考えてない。皆はやりたいクエストがあるか?」

「オレはなんでもいいぞ。マードックは…あるわけねぇか」

「うるせぇよ」

「マルソーはなにかあるか?」

「あるにはある。だがクエストじゃない」

「なんだよ?気になるな」

「魔道具の素材が欲しい。魔力を増幅するのに使う道具なんだが」


 マルソーは自分で魔道具を製作していて、専業にすれば食うに困らない腕前。


「マルソーの魔法が強化されるならパーティーのタメになる。クエストでなくとも構わない。手伝うぞ」

「気持ちは嬉しいんだが無理だ」

「どういうこった?意味がわかんねぇから、最初から話せや」

「マードックの言う通りだ。理由を聞かせてくれ」

「まず、その魔道具を作るのに必要な材料というのは、コカ・トーリスという魔物の羽根だ」

「聞いたこともないな」

「古い文献に出てくるんだが、カネルラで棲息が確認されているダンジョンは1箇所しかない」

「あん?どこだよ?」

「【獣の楽園(ディーキー)】だ。だから無理なんだ」


 俺達は納得の表情を浮かべる。



【獣の楽園】は、動物の森に所在するダンジョン。存在はカネルラ建国以前から確認されており、遙か昔から国民に知られているものの誰一人として攻略はおろか最深部に到達したことすらない。

 理由は不明だが、ダンジョンには獣人しか入ることができず、その他の種族は分け隔てなく入口で見えない壁に弾かれてしまう。


 ダンジョン内には獣型の魔物が跋扈しており、厄介なことに全ての魔物が物理耐性に特化していて異常に硬い。ゆえに魔法を使うことができない獣人とは相性が悪く、階層が進むごとに強力になる魔物にどれ程強い獣人でも窮地に追い込まれてしまう。


 古くはカネルラで選りすぐりの精鋭50人以上で挑んだ記録が残されており、5階層まで進んだとされているが生還した者は半分にも満たなかったという。

 過去、何百何千という獣人の強者達が、踏破を目指したり修行の場に選んだりと様々な想いで挑んできたが、【獣の楽園】はそれら全てを飲み込んで静かに在り続けている。

 現在でも全容について想像すらつかない世界に存在する難攻不落のダンジョンの1つ。



「オレらじゃ無理だな~」

「そもそもマードックしか入れない」

「何遍か行ってっけど、俺だけじゃ2階層が限界だ。死ぬ気で3階層ってとこか」

「コカ・トーリスは5階層より先で現れるらしい。だがこの情報も眉唾。あくまで文献によると…だ」

「魔道具を作った奴はどうやってその魔物を倒したんだよ?【獣の楽園】は5階層が最高到達地点と云われてる」

「他の国にはコカ・トーリスが現れるダンジョンがあるらしい。滅多に遭遇しないが、強さはさほどでもないらしくてな。だから、カネルラ以外では稀少でも作れる国がある」

「カネルラで作るには、他の国から素材を仕入れるか、【獣の楽園】で倒して採取するしかないってことか」

「そういうことだ。だから無理だとわかっている。夢物語みたいなことを語ってしまって悪い」

「いいさ。勉強になった」


 いつか入手できるチャンスがあれば、マルソーに渡せるといいが。


「マードック。急に黙り込んでどうしたよ?変なモノ食って腹でも痛いのか?」


 シュラの冗談を無視してマードックが訊く。


「マルソー。その魔道具を作ったら強くなれんのか?」

「どういう意味だ?」

「いいから答えろ。お前はかなり強くなんだろ?」

「あぁ。魔法の威力も上がるし消費する魔力も抑えられるから、間違いなく冒険の幅は広がる」

「そうかよ」


 なにやら考え込んでいるマードックに確認する。


「まさか採りに行こうと思ってるんじゃないだろうな?」

「バカ言え。俺も命は惜しいぜ。修行に行くっつうんなら別だけどな。そこまで阿呆じゃねぇ」

「それを聞いて安心した。お前ならやりかねない」

「確かに!デカい図体で心配ばっかかけるからな!」

「余計なことを言わなければよかったと思ったぞ」

「お前ら…人をなんだと思ってんだ?」

「脳筋だろう」

「戦闘狂ってヤツか」

「馬鹿だな」

「…テメェら!!」


 その後も酒を酌み交わして俺達は別れた。



 ★


 

 それから数日後。マードックは動物の森に向かう。早朝から荷物を背負ってウォルトの住み家に到着した。

 早朝から畑仕事に精を出す一風変わった猫の友人は、マードックに気付くと笑顔で挨拶を交わし家に迎え入れる。



「久しぶりだな。こんな朝早くに来るなんて、どういう風の吹き回しだ?」


 冷たい水を淹れて対面に座ったマードックに訊くと、一息で飲み干して口を開く。


「お前に頼みたいことがあって来た」

「その荷物と関係あるのか?」

「あぁ。いきなりで悪ぃが、俺と一緒に『獣の楽園』に行ってくれねぇか?」

「獣の楽園に?なんでだ?」


 当然の疑問を口にすると、マードックはおおよその経緯を説明する。


 パーティーメンバーの魔道具作りに必要な材料を採取したいこと。その材料は、カネルラでは『獣の楽園』の5階層より先でしか入手できないことを。


「アソコの魔物はとにかく硬ぇ。けど、魔法を使えるお前となら進めるかもしれねぇと思ってな」

「そういうことか」

「大体、駄目元で来たんだ。断っても構わねぇぞ。マジでヤベぇからな」


 お茶をすすって答える。


「いいぞ」

「やっぱ無理か…って、今、なんつった…?」

「行こうって言ったけど、やめるのか?」

「いいのかよ?かなり危ねぇ橋を渡ることになんぞ」

「危険だって知ってるけど、実際やってみなきゃわからないだろ?それとも、死ぬ目に遭っても先に進むのか?」

「そんなことはねぇ。…なんつうか、お前は普通じゃねぇな」

「誘いに来といて酷い言い草だな。けど、借りを返せるかもしれない」

「借り?」

「サマラに会わせてくれた借りを返すいい機会だ。役に立たなくても怒らないでくれると助かる」


 ボクが一緒にダンジョンに潜ったことがあるのは、師匠とリスティア、そしてアイリスさんだけ。冒険する目的でダンジョンに行くのは初めて。


「んなことしねぇよ。いつ行く?」

「いつでもいい。今から準備して行ってもいいぞ。時間も早いし」

「なら、さっさと行くぞ。今日は偵察になるかもしれねぇけどな」

「わかった。支度するから少しだけ待っててくれ」

 

 断って席を外した。

 


 1人になったマードックは思案する。断られても仕方ねぇと思って来たのにあっさり決まったな。

 けど、アイツの魔導師としての実力は未知数だ。不安は拭えねぇ。俺の予想じゃマルソーと同じくれぇの実力はあるはず。5階層まで行けるかは、やってみねぇとわからねぇ…か。


 ウォルトは直ぐに戻ってきた。


「準備できたぞ。行くか」

「あぁ」



 ★



 ウォルトの住み家から歩くこと1時間程。獣の楽園の入口に到着した。


「思ったより近い場所にあるな」

「こんぐれぇの距離は誰でも余裕だろ」


 獣人は歩くのも速いから人間なら軽く倍以上かかる。それでも息を切らすこともない。


 眼前にそびえる入口は、一見なんの変哲もない洞窟にしか見えない。其の実は多くの獣人の命を飲み込んできた魔洞。


「ボクは初めて来た」

「何遍来ても嫌な気配しかしねぇ」


 マードックは手甲を装着しながらそんなことを言うけれど、ボクは意見が違う。


「むしろ優しい波動みたいなのを感じるぞ」

「はぁ?!マジで言ってんのか?」

「嘘でこんなこと言わない」


 流れ出る癒やされるような気配。治癒魔力のような不思議な波動を感じるけど、今は言い争っても仕方ない。準備を終えて入口に並び立つ。


 入口を見つめたまま口を開いた。


「マードック。お前と一緒に冒険するときが来るなんて想像もできなかった」


 マードックも目を合わせずに答える。


「俺もだ。お前から誘われる予定だったんだがな」


 ククッ!と互いに笑いが漏れた。


「じゃあ、行くか」

「あぁ。行くぜ!」

読んで頂きありがとうございます。

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