707 じっくりコトコト
揃って遊びに来てくれた4姉妹に料理を振る舞うウォルト。
「うんまぁ~い!!」
「もの凄く濃厚で美味しいです!!」
「なんというか複雑な味がします!美味しい~!!」
「やっぱり兄ちゃんは天才料理猫だよ!!」
いつもなら「大袈裟だよ」と言ってるところだけど、今日の料理にはちょっと自信があった。皆の反応だけでボク的には大満足。
「「「「おかわり!」」」」
「沢山食べて」
ウキウキで台所に向かい、仕込みから完成まで1週間かけて作ったスープ料理を皿によそっていく。
肉や野菜、魚介類を形がなくなるまでひたすら煮込んで作るスープがあるとビスコさんから聞いた。1杯分だけ住み家に持参してくれて、食べたら目が飛び出るほど美味しかった。
ビスコさんに負けじといろいろな具材で作り、納得できた完成品を皆に食べてもらった。濃厚で複雑な出汁が効いたスープは、味を整えてソースにも使える。
居間に戻って、花茶を飲みながら食べ進める皆の様子を眺めていると…。
「ウォルト…。私達を太らせるつもりじゃないよね…?」
「思ってもいないよ。サマラは太らないだろ」
「この料理は危険です…。栄養満点すぎる味がします…」
「沢山の食材を煮込んでるからね。栄養はあるよ」
「アニカにもっと胸を大きく育ててほしい…と熱望するメッセージが隠し味ですね…!」
「誤解だっ!」
「兄ちゃんは私の成長した姿を早く見たいんだね…。毎日食べたら大きくなれそう…」
「成長した姿は見たい」
褒められてるのはわかる。仕事や冒険で疲れた身体には栄養が必要。少しでも回復の手助けになるかな。
結局、寸胴一杯に作った料理をたった4人で食べきった。
「く、苦しいっ…!お腹が破れそうっ…!」
「もう食べれません…。アニカはどう…?」
「満腹になったよ…!ウォルトさんの予想を超えられなかったのが悔しい…!」
「アニカさんは…軽く私の3倍は食べてますけど…」
ぐて~っと脱力する4人。後片付けがてら飲み物を淹れてこよう。
「ちょっと待った…。後片付けは私達でやるから、飲み物だけお願いできる…?」
「わかった」
カフィや紅茶を淹れてから居間に戻って差し出す。
「ふぁ…。もう眠くなってきたぁ…」
サマラは欠伸してる。他の皆も眠そう。
「ベッドは準備してるよ。シーツも干したてで気持ちよく寝れると思う」
「いやっ!今寝たら朝まで起きない自信がある!時間がもったいない!」
「そっか。無理はしないでくれ」
「皆で話していればお腹が落ち着くと思います」
「お題はチャチャに任せるね!満腹でなにも考えられないから!」
「アニカさんがそこまでなのは珍しいですね。じゃあ…兄ちゃんが食べた中で1番美味しかった料理はなに?」
「1番美味しかったのは…母さんが作ったカーユかなぁ」
「意外かも」
「秘伝のスープを除くと、唯一食べたことがある手料理だね」
「ストレイさんの料理は?」
「父さんの料理はどれも文句なしで美味しい。ボクの身体を作ってくれた最高の料理だ。いつでも食べたいと思うよ」
お袋の味のように心に残る料理こそ最高で、どんな高級料理も敵わないと思ってる。懐かしさで心が温かくなったり、震えるような料理には太刀打ちできない。ボクにとっては、父さんの料理全般と母さんが心を込めて作ってくれたカーユ。
「私にとってはウォルトさんの料理が最高です!実家の料理より好きです!」
「評価は嬉しいけど、大袈裟じゃないかな」
「冒険の疲れも癒やしてくれて、沢山の思い出があります!お母さんの料理も好きですけど、ケンカしてたことばかり思い出すんですよ!」
「そうなのか」
「ふふっ。よくご飯を食べながらケンカしてたね。懐かしいなぁ」
「アーネスさんは料理しないの?」
「お父さんは一切しません。カネルラでは女性が料理を作るが一般的ですから」
「ストレイさんやウォルトさんは少数派です!」
「父さんの場合は、やらざるを得なかっただけだと思うけど」
母さんの料理が壊滅的だったから必然的にそうなった。
「でも、料理人には男が多いから、ボクも珍しくないんじゃないかな」
「体力の問題だと思います。一日中暑い中で鍋を振ったりするのは女性には厳しいんじゃないでしょうか」
「なるほど。そうかもしれない」
「私は余裕でできるけどね~。鍋とか重いと思ったことない」
「私もできますよ。毛の問題さえなければ」
サマラとチャチャは筋力も体力もある。でも、暑さに耐えられるかな?
「ウォルトが魔法で冷たい服を作ってくれたらいいんだよ」
「心を読むね。作ったことあるからできるよ。作ろうか?」
「いいの?助かる!」
「直ぐにできるよ」
「私もお願いしたいです」
「冒険で暑いとき助かります!結構走り回るんで!」
「私も狩りで使いたい。汗が目に入ったりすると集中できないから」
「じゃあ、4人分作ろうか」
魔力糸は沢山作ってる。4人分くらいは余裕で編めるし、肌着のように服の中に着るタイプにすれば面積も小さくて済む。
「離れに行って織ってくるよ」
「ちょっと待った!なにか忘れてない?」
「…忘れてた。酒と肴を出してから行こう」
「違~う!服を作るならまず採寸からでしょうが!」
「皆のサイズは知ってるから問題ないよ」
「ふっふっふっ!ウォルトさんは甘いです!」
「兄ちゃんは甘いよ。私は成長してるから測り直したほうがいい」
「そうかなぁ?」
チャチャはわかるけど、サマラやウイカは別に体型が変わってなさそうだけど…。
「なに…?」
「私はどこも成長してないって言いたいんですか…?」
「い、いや…。そんなことないよ…。測らせてもらおうかな」
なにか間違えたっぽいな…。長女と次女にジト目で見られた。
「はい、どうぞ!」
アニカが両手を広げる。
「ちょっと待ってて。採寸用に作った巻き尺を取ってくるから」
「巻き尺は隠してあります!時間かかりますよ!」
「えぇっ?!なんで?」
「必要ないからでっす!ウォルトさんはハグで測れますもんね!」
「そうだけど…」
「さぁ、どうぞ!」
笑顔で待ち受けるアニカ。
どうしよう…。ボクは上着を作るつもりだったから、最低でも肩幅と腰回り、あと…胸回りをざっくり知りたいんだけど……計画を変更するべきか。
「変更しなくていいです!どんと来て下さい!」
「いや、そういうワケには…」
見透かされてるなぁ。腕と首に巻くような冷却スカーフにすれば問題は……。
「ウォルトさん!私はシャツがいいです!どうぞ!」
…思考を完璧に読まれてる。
「ウォルト~。早くやってあげなよ~。後がつかえてるんだから~」
「4人分ですよ?採寸で時間がかかったら大変ですよね」
「兄ちゃん。ガバッといっちゃいなよ」
「…わかった」
覚悟を決めてそっとハグをする。
「どうですか!?」
「う、うん…」
お腹に当たる膨らみが…。アニカはさらに大きくなってるような気がする…。
「気付いてなかったんじゃないですか!測ってよかったでしょう?しっかり覚えてくださいね!」
「うん…」
煩悩が覚える邪魔をしてくるっ…!それでもなんとか記憶した。
「次は私です」
「うん…」
ウイカとハグをすると、特に体型は変わってない。離れると、またジト目で見られた。
「ほとんど変わってませんか…?」
「うん。体型を維持できてるね」
「ちょっと大きくなってるはずなんですけど…」
「う…。ボクには違いがわからなかったよ…」
正確に覚えてる自信があったけど…微妙な変化に気付けなかったか。ウイカは優しく微笑んでくれる。
「意地悪してごめんなさい。ちゃんと覚えてくれてるの嬉しいです」
「よかった。合ってたんだね」
「次は私かな!ウォルト、よろしく!」
「うん」
サマラとハグをする。
「サマラさんにハグするのは特に躊躇いがないよね」
「抱きしめるのが早い気がする!」
「幼馴染みだからですね。誰よりも触れ合って慣れてるから、悔しいけど認めざるを得ないっていうか」
「そうでしょ!でも、皆よりドキドキが減ってるってことだから、私としては複雑なんだけどね!」
サマラは幼馴染みで最も付き合いが長いから緊張しないけど、ドキドキしないワケじゃない。今のサマラはボクの記憶にある少女時代と違いすぎてもはや別人だ。
「私は変わってる?」
「そうだね」
サマラも…微かに胸が大きくなってる気がする…。
「ふふん!アニマーレの皆にいろいろ教えてもらって試してるから!特にチャミライさんが詳しい!」
「私達も冒険者の先輩から聞いてます」
「負けじと実践しまくって、差をつけますよ!」
「兄ちゃん。次は私だよ」
チャチャと触れ合うのは少し怖い。日に日に大人の女性に成長してる。見るだけでわかるほどに。
「ほらっ!兄ちゃん、早くっ!」
ハグすると大きくなったことを実感する。身長もその他も…。
「どうっ?!どうなのっ!?」
「成長してる。測ってよかった」
「でしょ!まだまだ成長するから!」
チャチャの大人の姿は魔法で見たけど、軽く超えそうな勢いだ。未来のことは誰にもわからない…か。
「採寸はできたから、ちょっと織ってくる」
「よろしく!」
…落ち着くタメに『頑固』を使えばよかったんだな。きっと止められたと思うけど。
離れに移動して、魔力糸を使った肌着を織り始める。涼しい服だから目は細かく編まなくてもいい。糸は細くした方が伸縮性もあって、肌触よく涼しくなるはず…。
「すぅ…。すぅ…」
「う、うぅん…」
「ぐぅ…」
「んっ……ん…」
…いまいち作業に集中できない。
理由は4姉妹が傍で寝ているからで、住み家のベッドでゆっくり眠ってよかったのに、離れまで付いてきて楽しく会話してる内に寝てしまった。
時折聞こえる悩ましい声と、暑いのか頻繁に服がはだけてる。ヘソや背中がチラッと視界に入って気になるから、ズレた服を戻してあげたり。
……ダメだ。冷静になろう。部屋の温度は魔法で冷やせばいい。『頑固』で心を揺らさずに作業を続けよう。
皆に惑わされるのは嫌じゃない。4姉妹といるとボクは獣人の男だと再認識する。煩悩も性欲もあって、そう感じるのは特別だからだ。
そんな4人に快適に暮らせるような冷感服を作ってあげたい。機織りは魔法で音を消して作業する。集中した甲斐あって冷感服は静かに完成した。
ちょっと時間がかかったけど納得の出来。皆を起こすのは忍びないから、このまま眠ってもらって帰る前に渡そう。住み家に戻って、眠るまで魔法構築理論を研究しようかな。
「終わった?」
「うわぁっ!」
サマラの声に驚いて、全員むくっと起き上がる。
「もしかして…寝てなかったのか?」
「正解です!皆でウォルトさんにチラ見せアピールしてみました!」
「意外にバレてなかったんですね」
「兄ちゃんは呼吸音とかで見抜きそうだから」
「まったく気付かなかったよ…。びっくりした…」
「できたんなら着てみたいな~」
「出て行くからちょっと待ってくれ」
「後ろ向いててよ。ウォルトは覗かないでしょ。その方が直ぐに手直しできるじゃん」
「まぁ…そうだね」
言われた通り後ろを向く。シュル…っと服を脱ぐ音がいつもより大きく聞こえるような…。意識しすぎてる。
「ウォルト。着たよ~」
「そうか。…ぶっ!」
振り向くと全員肌着のまま。慌てて目を逸らす。
「サマラ!!ちゃんと服を着てから言ってくれっ!」
「だって直に見ないとサイズが合ってるかわかんないじゃん」
「水着より恥ずかしくないです」
「着心地は最高です!すっごく滑らかだし!」
「肌触りがいいですよね。伸びるし動きやすくていい感じだよ」
とりあえず『頑固』の効果が持続していてよかった。凝視するのは悪いから薄目で見ることにしよう。
「ウイカとアニカは氷魔法を使えるから、糸に魔力を流すだけで涼しくなるよ」
「本当ですね」
「涼しい~!寒いくらい!」
「魔力量で上手く調整してほしい。サマラとチャチャには魔石を渡そうと思ったけど、汗をかくと涼しくなるように糸を加工して作ってみた」
「どゆこと?」
「なにも感じないけど」
水魔法をシュッ!と霧状に吹きかけてみる。
「涼し~い!」
「しかも直ぐ乾く!凄いね!」
「乾くときに周りの熱を奪う性質を利用したんだ。肌に影響がないくらい微量で『乾燥』の魔力を編み込んでる。洗っても魔法に影響はないし長く保つよ」
魔力糸は作り方も使い方も無限大。
「見たところサイズはよさそうだね。チャチャは成長してキツくなったら教えてほしい」
「わかった。直ぐに言うね」
「ウォルト~。涼しいタイツも作ってほしいんだけど~」
「目測でいいなら作れる!」
強く言っておこう…。タイツはピタッと肌に吸い付くから動きやすいのであって、サイズを上着より正確に測らないと作れない。ハグと同様の採寸では、下半身を撫でまわす必要がある…。さすがに無理。
「焦ってるね~。おいおい作ってもらおうかな!もっと慣れたらイケるでしょ!」
「街で買った方がいいと思うけど」
「ウォルトに作ってもらったら嬉しいの!」
「そうなのか」
「ウォルトからもらったモノ、大事に使ってるよ。服も装備も装飾品もね」
全員頷いてくれて嬉しいなぁ。作った甲斐がある。
「料理と一緒なんだよ」
「なにが?」
「私達はウォルトが手間をかけて作る料理と同じ。愛情が煮詰まってウォルト好みの女になっていく。もちろん最後は美味しく食べてくれるんでしょ?」
「う、う~ん…」
食べるって表現はいやらしいな…。
「ウォルトは未だに私達と釣り合わないとか思ってない?」
「思ってる」
「私達が釣り合わないとしたらさ、どんな女だったら釣り合うワケ?自分をダメな男みたいに思ってるのに、釣り合うって思われたら嫌だよ?」
「う…。そうか…」
サマラの言う通りだ…。ボクと釣り合うと思われて嬉しい女性がいるはずない。
「好きか嫌いか、単純でいいの。いろいろ言っても、まずはそこが重要なんだから」
単純に考えていいんだったら…。
「そうなると、交流のある女性は皆好きだね」
基本的に嫌いな人と交流できない。つまり、リスティアもテラさんも、アンジェさんやメリルさんも好きってことになる。好きか嫌いかで言うと、好きで間違いない。例外はクーガーさんくらいか。
「なんでよ!?浮気者っ!」
「ヒドい!ウォルトさんは悪い男です!」
「魔法だけじゃ飽き足らず、好きの多重発動してるじゃないですか!」
「兄ちゃんのバカ!!」
一斉に口撃される。
「た、たとえというか、サマラの理屈だとそうなるなぁ…って思っただけで…」
「すっとぼけて!ちゃんとモテ猫の自覚あるんじゃん!ボクなんか…って顔して、あぁヤダヤダ!」
「モテないって!相手はボクのことなんてなんとも思ってないよ!」
「やっぱり油断できません…。ウォルトさんは自分の魅力を充分わかったうえで交流してますね…」
「わかってないよウイカ!むしろないと思ってるんだ!」
「くっ…!その内の何人が巨乳ですかっ…!?全員の可能性が高いし、私より上がいる可能性もなきにしもあらず!」
「アニカの思う基準で交流するか決めてないよ!」
「誰が来ても関係ない。勝つのは私だよ」
「チャチャは凄いなっ!まったくブレない!」
皆は勘違いしすぎてる。今度、知人の女性全員に声をかけて交流してもらおうかな?そうすればわかってもらえそう。
「面白いじゃん。仲良くなれそうな気がする」
「確かにどんな人達か気になりますね」
「仲間かライバルか!選ぶのは相手次第です!」
「わかりやすく全員倒せばいいんですよ」
「倒しちゃダメだよ。全員集まることはないだろうけど、この先会う機会はあるかもしれない」
「最近、私達以外でウォルトに会いに来た女の人っているの?」
「直近だと、シャルロッテさんだね」
「初めて聞く名前だけど、どんな人?」
フクーベの貴族ってことは言ってもいいんだろうか?ボクのことを内緒にしてもらってるから、とりあえずボクもふんわりした情報だけにしておこうか。
「先生の元恋人で、夫を大切にする読書友達というか…」
「ハルケの元恋人で人妻ぁっ?!なんじゃそりゃ!こんな所で本読むだけってことある?!なにしに来てんの?!」
「どういう繋がりですか?!さすがに予想できないです!暇を持て余してる富豪とか?!」
「まさか、人妻の包容力で籠絡されてませんよね!?もう少し待てば私もそうなりますから、騙されちゃダメです!」
「兄ちゃん!むしろ惑わせちゃダメっ!魔法を見せるのは厳禁だよ!」
「勘違いだって!」
聞く耳を持たず盛り上がる一同。ボクって…そんなに節操ない獣人に見えるんだろうか…。誰もハルケ先生の元恋人なんて言ってないし、勘違いされて申し訳なさすぎる。
とりあえず、服を着てもらってから話したいけど…。薄目でいるのも結構辛くて限界がある。身体のラインが出るような肌着を作ったボクが悪いとはいえ。
そうだ。今度シャルロッテさんに会うことがあったら、ちょっと恋愛について訊いてみようか。恋物語を書けるくらいだから経験豊富なんだろう。
でも、長い話になりそうだな…。




