705 準ずる者
オーレン達と共に、久しぶりにフクーベのギルドにやってきたウォルト。
「久々に一緒にクエストやりませんか?」とオーレン達が誘ってくれて、Eランクのクエストに付き合わせるのは悪いと思いながら、ウイカとアニカに押し切られる形でやってきた。
「そろそろ師匠を辞めようとしてませんか?」
「一生師匠ですからね!忘れないで下さい!」
…と、勘繰られてしまった。約束したから辞めるつもりはないけど、他の魔導師や剣士に師事するのを止めるつもりもない。ボクはホーマさんのように皆を見守るような師匠でありたい。
ギルドに入って掲示板に貼られたクエスト票からやってみたいクエストを選定していると、男が声をかけてきた。
「お前ら、一緒にクエストやるか?手伝ってやるぞ」
「ありがとうございます。でも、今日は自分達だけで行こうと思ってるんで遠慮します」
「…けっ。そうかよ」
オーレンが断ると、男は不機嫌そうに離れていく。
「親切で言ってるのかな?」
「ウイカとアニカ目当てです。アイツらは女癖の悪さで有名なんですよ。美人とか可愛い子がいるパーティーに声をかけて回ってて、俺達は何度も断ってるのにしつこいんです」
「2人が可愛いからだね」
「「でへへ…」」
「平気で痴漢紛いのことをやるって悪評が立ってます。打ち上げで無理やり酔わせたり、ダンジョンで意味もなく身体を触ってきたりとか」
「事実なら酷いな」
「一応先輩でBランクなんですけど、ウォルトさんと一緒のクエストに援護はいらないから頼む理由がないです」
「確かに」
皆はボクが受注できるレベルのクエストを一緒にこなしてくれる。気を使ってるワケじゃなく、ボクがどうこなすかを見たいらしい。毎回感心してくれて嬉しいやら恥ずかしいやら。
「このクエストをやってみたいな」
選ぶのはボクの希望が優先。皆は既に何度もこなしてるから、どれでもいいって任されてる。今回は『メタルリベールの捕獲』をやってみよう。
「おい」
また声をかけられて振り向くと、さっきの男がいた。傍には装備を身に付けた男達がいて、パーティーメンバーだろうという予想。
「お前、コイツらのなんなんだ?」
視線からするとボクに訊いてるな。
「パーティーメンバーだ」
「はっ。お前だろ?石とか草ばっか集めて小銭稼いでる獣人ってのは」
言い方はさておき、間違ってはいない。
「ソイツらにおんぶに抱っこで恥ずかしくねぇのか」
「どういう意味だ?」
「1人の時はせこせこ稼いで、たまにデキる奴と組んだらイキがる。まぁまぁのクズだな」
「お前は誰のことを言っている?」
ボクはイキがったことなんてない。イキがるような行為は大嫌いだ。
「ウチのメンバーに難癖つけるのはやめてくれませんか」
オーレンが前に出る。表情では読み取れないけど、怒っている匂いをさせながら。
「オーレンっつったな。若造に忠告しといてやるよ。冒険者を続けたいなら、メンバーはちゃ~んと選べ」
「言われるまでもないです。全員大切で最高のメンバーなんで」
「注目されてるからって調子に乗ってっと痛い目見ることになるんだよなぁ。誰も助けてくれなくなってよぉ、野垂れ死んじまうとかな」
「その時はその時です。冒険者やってると、いつ死ぬかなんて誰にもわかりません。それに、その言葉はそのまま返します」
男は眉をひそめる。
「誰に言ってやがる。生意気なクソガキが…。夜道を歩くときは気をつけろ…」
「忠告ありがとうございます。面倒くさいんで、今後は俺達に絡まないでくれませんか」
「んだと…?」
「嫌味ばかり言って楽しいですか?貴方達には助けを頼まないんで安心してください」
「偉っそうに…!後悔するなよ。亜人なんぞと組んで、獣臭ぇガキ共がよ!」
言葉にブワッ!と総毛立つ。
「なんだ猫野郎。やるってのか?」
胸倉を掴もうとして、動くのをやめた。一瞬で剣が眼前に振り下ろされている。動いていたら間違いなく斬られてた。
剣を振った男は無言でボクを見つめてくる。
「ちょっと!ギルドで剣を抜くなんて、なにを考えてるんですか!?冒険者同士の私闘は禁止されています!資格を永久に剥奪されますよ!」
見ていたのか受付からエミリーさんの声が聞こえた。
「ちっ…。命拾いしたなぁ、亜人」
「プライドだけは一丁前か。今のに反応すらできないくせによ。獣ってのは、危機管理だけは上等ってのは嘘っぱちだな」
「お前、長生きできないアホだぜ。今斬られといた方が楽に死ねたぞ?」
「やめろ…。行くぞ…」
下卑た笑みを浮かべながら男達はギルドから出て行った。
「ウォルトさん。大丈夫ですか?」
「ありがとう、オーレン…。ボクのタメに怒ってくれて」
「当たり前ですよ。アイツら、あんな感じで下らない嫌味ばかり言って絡むのもあって、ほとんどのパーティーから疎まれてるんです。実力はあるのに性格が最悪だって」
「私達もずっと無視してて、気にしないで下さいって言いたいけど…」
「無理ですよね~!知ってます!」
「ありがとう」
理解のある友人には感謝してもしきれない。そして決めた。ボクは1人で受付のカウンターに向かう。
「エミリーさん。おはようございます」
「おはようございます。…ウォルトさん。今回は相手が止まってくれましたけど、次はわかりません。会話は聞こえませんでしたが、冒険者らしく状況を踏まえて堪えるべきところは堪えて下さい。オーレン君達もいるんですから」
「ボクの冒険者登録と記録の抹消をお願いできますか」
「……なぜですか?」
「辞める理由を答える必要はないと思うんですが」
「まさか……揉め事を起こすつもりじゃ…?」
「どうですかね」
「…っ!オーレン君達!ちょっと来てっ!」
エミリーさんに呼ばれて3人が来てくれた。
「ウォルトさんが冒険者を辞めるって言ってるの。止めなくていいの?」
「ウォルトさんが決めたんならいいです」
「仕方ないですね」
「予想通りです!」
「きっと一時の感情だよ?!止めないとお互いに後悔するんじゃないの?!」
薄ら思ってたけど、エミリーさんはお節介な人だ。
「ウォルトさんはしません。俺達もしません。性格はよく知ってますから」
「感情で動いたからって後悔する人じゃないです。むしろ感情に従わない方が後悔するので」
「残念なのは間違いないけど、もやもやした気持ちのまま冒険者を続けられる人じゃないよね!」
本当に…彼等とはずっと付き合っていきたいと思う。頑固で偏屈なボクは、こうと決めたら曲げたくない。多角的で柔軟な思考が皆無の石頭。理解を示してくれてどれほど有り難いか…。
「エミリーさん。抹消をお願いできますか」
「本当に後悔しないんですね…?」
「もちろんです」
「……承りました。しばらくお待ち下さい…」
少しだけ気が晴れる。前途が明るい冒険者の友人に気を使わせるのが嫌で、彼等が気を揉むような存在になりたくない。冒険者になる前からそう思っていたのに、ボクはこの身で味わうまで甘えてしまった。
「処置が完了しました。記録の削除に関する手続きも全て完了しています」
「お手数かけました」
最後に冒険者証を返納する。
「ウォルトさん。貴方と冒険するときの3人は本当に楽しそうでした。忘れないで下さい」
「忘れません」
言われるまでもない。皆よりボクの方が楽しかったし、そんなパーティーの形を我が儘で崩してしまうことも理解してる。
「余計なお世話だと思いますが、やられたらやり返す精神では敵を増やします。感情のコントロールを心掛けると今後生活しやすくなるかと」
「大きなお世話です」
「え?」
「ボクは貴女のことを知りません。貴女もボクのことを知らない。だからなのか、助言が1つも響かなくて、知った風な口を叩かれるのは不愉快なだけです」
「なっ…」
「もしかして、さっきボクを助けたつもりなのでは?貴女は仲裁すらしてない。ギルドの規則を大声で告げただけで」
「そんな言い方って…」
「一方的に態度を改めろと言われても納得できません。今後は双方の話を聞く努力をすれば丸く収められるんじゃないかと。余計なお世話だと思いますが」
エミリーさんは基本的に害のない人間で、善行と思ったことを迷わず実行する人だと思える。この予想が合っているかはわからない。
ただ、説教じみた言動は面倒。少なくとも今日はこの人やギルドに迷惑をかけてない。本気で斬られかけただけだ。絡んできたのは向こうなのに、ボクが堪えれば丸く収まっていた…とでも言いたげな発言が全てを物語ってる。
問題を解決する気は毛頭なくて、人間至上主義か高ランク冒険者を擁護する立場。物事を決めつけて、解決できないのにそれっぽいことだけ口にする、自己陶酔が好きな面倒くさい人種。
「…御忠告ありがとうございます」
「忠告なんてしてません。お世話になりました」
アルビニさんの件では機転を利かせてくれてお世話になった。その時の感謝だけは伝えておこう。
カラン…とドアベルが鳴って、顔を向けると知り合いが入ってきた。
「珍しい奴がいるじゃねぇか」
目が合ったのはマードック。マルソーさんと一緒だ。
「暇すぎてクエストでもやりに来たんか?」
「冒険者はたった今辞めた」
「がはははっ!まぁ粘ったほうだろ。とっくに辞めちまってておかしくねぇ」
「お前の言う通りだ」
「約束忘れんじゃねぇぞ。辞めてようが関係ねぇからな」
「忘れてない。どうせ肩書きなんか意味ないだろ」
「それだけだ。じゃあな」
「あぁ」
ボクらはギルドを出る。
「オーレン。ウイカ。アニカ。相談もなしにパーティー脱退を決めてゴメンね。冒険者に誘ってくれたのに」
「別にいいです。冒険にはこれまで通り一緒に行けばいいし、気を使われるのが嫌なのはお互い様なんで」
「私はウォルトさんが怒った瞬間に全てを悟りました。凄くないですか?褒めてもいいです」
「い~や!お姉ちゃん、私はマードックさんの登場まで読めてたからね!予知夢並みに!褒められるべきっ!」
「嘘つくな!わかるワケないだろ!」
「『い、いきなりですか?!』ってアホ面したオーレンにはわかるまい!」
「それは認める!辞める発言に一瞬だけ驚いた!直ぐに飲み込めたけどな!」
「アンタは全然ウォルトさんのことがわかってない!バカめ~!」
「なんだとぉ~?!」
笑いに変えてくれる皆には頭が上がらない。我が儘を通すことを…申し訳なく思うことだってあるんだ。大切な人達限定だけど。
「今日はこの後どうする?ウォルトさんに俺達の冒険に付き合ってもらうか?」
「ゴメン。必ず埋め合わせをするから、今日は解散でもいいかい?」
「わかりました。また住み家に行きます」
「今日は気が済むように過ごして下さい」
「なにをやっても、やり過ぎ注意ですよ!」
「うん。ありがとう」
皆と別れて、奴らの痕跡を探ることにする。
ボクを…亜人と呼んだ奴を探す。
『亜人』とは『人に準ずる者』という意味であって、人間以外の人族に対する蔑称。エルフも獣人もドワーフもだ。一部では異人とも呼ばれているらしい。
人間に似ているけれど異なる者……人間の真似をする者……いわゆる人間モドキという意味で使われる。人間至上主義が生んだ忌まわしい言葉だとガレオさんから習ったけど、面と向かって投げつけられたのは初めての経験。悪意しか感じなかった。
どうやら有名人のようなので簡単に見つかりそうだと思っていたら、遠くから見つめる視線に気付いた。剣を振り下ろした男が建物の壁にもたれて立っている。
ゆっくり近付いて声をかけた。
「亜人と呼んだ奴はどこにいる?」
「……お前、何者だ…?」
「獣人だ」
「不気味な奴だ…。気色悪いな…」
「自分の顔を見て言え」
ずっと苦虫を噛み潰したような顔をしている奴に言われたくない。
「アイツに会って……どうする」
「もういい」
答えないのは想定済み。質問から浅い情報を魔法で読み取った。自力で探してみるか。
「お前……雑魚のフリをしてなにを考えている…?」
「フリ?したこともない」
「仲間に手を出すつもりなら……容赦しないぞ…」
「こっちの台詞だ。吐いた言葉は二度と飲み込めない。忘れるな」
まずは情報を集めるとしよう。奴の性格からすると……花街のリタさんから訪ねてみよう。
★
日が暮れて、夜を迎えた。
「ハッハ~!尻の軽い女だったぜ!「いやんいやん」ってうるさいったらねぇ!」
「……いい加減にしろ。真っ直ぐ歩け…」
「うっせぇ!女とヤって気持ちよくなってなにが悪いってんだ!」
「下らんな…」
「根暗野郎がっ!冒険者ってのはモテんだ!有名税ってヤツだぜ!逞しくて素敵~…なんて直ぐに騙されやがる!バカ女ばっかりだ!」
「飲み過ぎだぞ…」
「偉そうに説教すんじゃねぇよ!俺とやるってのか?!」
酒場で引っ掛けた女とヤっていた仲間を迎えに行った男は、酔いが回った仲間に肩を貸しながら家に送り届けるタメに歩き、街外れの夜道で人影を見つけた。
「……あん?ありゃぁ、昼間の猫野郎か…?」
「…そのようだな」
人通りのない夜道に白い毛皮に包まれた顔だけ浮かんでいる。身体は黒いローブでよく見えない。アイツだ。
「テメェ……雑魚冒険者が俺になんか用かっ!?」
「おい…。あまり大声を出すな…。人が集まるだろうが…」
「お前は黙ってろ!この玉無し野郎がっ!」
肩を貸していた腕を振り払って、ふらふらと猫人の元へ歩み寄る。仲間ながら面倒くさい奴だ。
「おいっ!亜人っ!弱っちいくせに、女とヤるのだけはいっちょ前かコラァ!テメェ、随分と女受けがいいみたいだなぁ?あのメスガキ共を騙くらかして、おこぼれに与ろうって魂胆だろうが!気に入らねぇんだよ!1発…いや、死ぬほど殴らせろ!この猫野郎が………ごぼぁっ!」
殴りかかった仲間が、突然膝から崩れ落ちた。腹を押さえて痙攣している。
「黙れ…。酒の匂いで鼻が曲がる…」
打撃か…。かなり速いな。
噂ではモノクルを着けた妙な猫人の低ランクがいて、有望な若手に取り入って乞食のようなことをしている…と噂されていたが、実際は違う。
ギルドで対峙して感じた。本気で剣を振り下ろさなければ仲間は攻撃されていたと。コイツは剣に反応できなかったのではなく、反応したから動かなかった。目が合ったほんの一瞬だけ感じた強者の雰囲気。まるっきり話が違うと思えた。
ピクリとも動かなくなった阿呆をよそに、獣人に訊く。
「獣人って奴は、やり返さないと気が済まない阿呆ばかり…。お返しするタメに闇討ち紛いまでするか…。執念深さだけは筋金入りだ…」
夜道に気を付けろと啖呵を切ったのが気に食わなかった…ってとこだろう。そして夜道で待ち伏せた。下らないガキの発想。
「ククッ。なにももらっていないのに、お返しなぞすると思うか?」
「亜人と呼ばれたことが気に食わず頭にきたのなら…バカバカしい選択だ…」
「正解で、不正解だ」
おかしな返答から間髪入れず一気に間合いを詰めてきた。相当なスピードだが…。
「容赦しないと言ったぞ…。舐めた猫め…」
酔っ払いを倒したことに満足して去ればいいモノを…。見られた口封じでもするつもりか。上位冒険者を侮る獣風情が。
素早く剣を抜いて袈裟斬りを放つ。完璧に捉えた。死んだとしても先に仕掛けたコイツが悪い。れっきとした正当防衛になる。
「……なにっ?!」
確かに斬った……はずなのに一切手応えがない。
「ぐがぁあぁっ…!!」
気付けば俺の右腕が肩口から切断されていた。剣と共に地面に落ちる。獣人は無傷。
「お前ぇっ…!なにをっ……したぁっ…!」
「二度も斬られた返礼だ」
「ぐぅぅっ…!同害報復っ…!初めから俺が標的だったのかっ…!」
なにをされたのかわからない…!斬ったのは幻影だったのか…!?刃物の類の攻撃ではなかったはずっ…!
なに1つ理解できない内に俺は腕を失ってしまった…!今ならまだ治癒師に繋げてもらえるかもしれないがっ…!
「仲間に手を出すなら容赦しない…だったな。そっくりそのまま返してやる…。友人に危害を加える気なら許さない。お前も含め、仲間とやら全てだ…」
この猫は……イカレてやがるっ…。異常者だっ…!
「逆恨みも甚だしいっ…!脅しにいちいち目くじらを立て、挙げ句闇討ちとは卑怯の極み…!」
「お前の理屈など知らない。言われっぱなしで黙っている奴を好むなら、1日中人形に話しかけていろ」
「こんなことをしてタダで済むと思うなよっ…!牢にぶち込まれて臭い飯を食いやがれっ…!」
「ククッ…。他人の飯を心配するくらいなら、腕を失ってどうやって飯を食うか考えた方が有意義だろうに」
「この…クソ亜人がぁっ…!」
「吠えるな。クソ『無能者』」
人間は、エルフのように魔法に長けることもなく、獣人のような力強さもない。ドワーフのような器用さも持たず命も短い。
圧倒的な数の多さしか取り柄がない…と、亜人から付けられた蔑称を浴びながら俺は意識を失った。
★
数日後。
フクーベの冒険者ギルドではある話題が広まっていた。
「オーレン君。『暁の鷲』が活動を休止するらしいわ」
受付嬢のエミリーは『森の白猫』に伝える。
「理由はなんですか?」
「不明だけど、酷い怪我を負ったみたい。しかも全員。命に別状はないけど、まともに動けないって」
「俺達も油断しないように冒険します」
この話を聞いてから、私の心はずっとモヤモヤしている。確認してみようかな。
「……ねぇ。オーレン君達はなにか知ってるんじゃないの…?」
「なにかって?」
「ココだけの話、彼等は冒険で怪我したんじゃなくて、何者かに襲われたかケンカの線が濃厚みたい。あくまで噂だけど」
「Bランク冒険者数人に大怪我をさせるような者…ですか。集団かもしれませんが、命に別状ないなら直ぐ捕まりそうですね」
「そうよね…。うん…」
性格には難ありの冒険者揃いだけど、実力は折り紙付きだった。困難な依頼もこなして、素行さえよければAランクも狙えると云われていたのに、内臓に深いダメージを負ったのが2人、利き腕切断が1人、四肢の粉砕骨折が1人と、いずれも冒険者として再起不能と思われる酷い怪我を負った。
治癒師のおかげで命は助かったけど、殴られたショックなのか数日の記憶が失われていて、冒険者としての明るい未来なんてもう望めない。
「もしかして、ウォルトさんを疑ってますか?」
「……そう……なのかな」
話の流れからそう捉えるのが普通だよね。皆の恩人だと言ってたから、一応柔らかく訊いたつもりなんだけど。
「否定も肯定もしません。というか、できません。本当になにも知らないんです」
「変なこと訊いてゴメンね。あまりにタイミングがよすぎて」
「いえ。逆に訊きたいんですが、ウォルトさんにできると思いますか?」
「できないと思うわ」
話しやすくて知的な低ランク獣人冒険者。こなすクエストは薬草採取や鉱石採取ばかり。そしてオーレン君達の恩人。
それが私の知るウォルトさん。普通に考えたらBランクの冒険者に敵うはずない。返り討ちにされて大怪我を負ったのなら納得できるけれど。
「私の考えすぎよね」
「じゃあ、このクエストを受けたいんですが」
「承りました。気を付けてね」
「はい。ありがとうございます」
クエスト票を受け取ると、3人はギルドから出て行く。
さっき…一瞬だけ3人の表情が同調した。「できないと思う」って言ったとき、ほんの少しだけ険しくなった。やっぱり無関係じゃないのかな…?
もしウォルトさんがBランク冒険者すら倒せる隠れた強者だと仮定すると…マードックさんも強者だと知っているから対等に話しているとか…?
だとしたら、低ランクのまま薬草や鉱石の採取ばかり受けるのはおかしい。いくら優しげな人でも獣人だし、目立ちたいはずだから。
……はぁ。邪推はやめよう。ウォルトさんはもう冒険者じゃない。
大きなお世話だとハッキリ言われて地味に傷付いた。最初は腹が立ったけど…穿った見方でも指摘は間違ってないし、彼を下に見た独りよがりな助言だったのは反省した。
よかれと思っても、相手に届かなければ意味なんてない。ただの自己満足で終わり。私はお節介なギルドの受付嬢で、彼はただの獣人。もう気にかける必要すらないんだ。




