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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
704/732

704 Sランクパーティー(仮)

「ウォルト!探検するぞっ!」

「いくよ~!わたしたちについてきて~!」


 ウォルトは予期せず臨時で冒険者パーティーを組むことになった。


 ボクの少し前を元気に歩く2人は、兄のパットと妹アミーの兄妹。年齢は10才と8才で、さっき森で出会ったばかり。


 鍛錬で森を駆けていたら子供の話し声が聞こえて、気になったので接近してみた。



「アミー!怖くないか!?」

「ぜんぜん!だいじょうぶ!」

「そうか!怖くなったら言えよ!」

「お兄ちゃんこそ!」

「俺は怖くない!」

「でも、ちょっとおなかすいた」

「ちょっとくらい我慢しろ」

「わかった!」


 どう見ても軽装で水筒しか持ってない。兄のパットが手に持っている折れた木の枝は、武器のつもりなのかな?


「よし!行くぞ!」

「ちゃんとかえりみちおぼえてる?」

「バカにするな!俺を信じろ!」


 兄妹は森の奥へと進んでいく。ボクは姿を消してこっそり付いていくことにした。危険だから止めるべきだとわかっているけど、トゥミエで蛍を探しに行った少年時代のボクらを思い出して、彼らの冒険を見守りたくなってしまったから。なにか起これば絶対に助けると心に誓って追跡することに。


 大きな声で話していれば、魔物や獣を呼び寄せる可能性が高い。案の定、間を置かずに魔物と遭遇した2人。


 フォレストウルフ1頭が唸って威嚇してくる。


「こ、この野郎~!かかってこいっ…!」

「おにいちゃん!にげようよっ!」

「お前だけ逃げろ!」

「やだぁ!みちわからないもん!」


 枝を片手に立ち向かうパット。アミーは震えて背中に隠れてる。


「グルル……ガルァッ!」

「うわぁぁっ!」


 牙を剥いて跳びかかったフォレストウルフより早く2人を抱えて跳び退く。両脇に1人ずつ抱えた。


「離れるよ」


 一気に加速してフォレストウルフから逃げ切る。かなり離れた場所で2人を地上に下ろした。


「2人とも怪我はない?」

「う、うん…」

「だいじょうぶ…」

「ボクはウォルト。見ての通り獣人だ」

「俺はパット」

「アミーだよ」

「パット、アミー。魔物に立ち向かうのは勇敢だと思う。だけど、君達じゃ勝てない。直ぐに逃げなきゃダメだ。死んでしまうよ」

「うん…」


 しょぼんとしてしまう兄妹。魔物の怖さは知ってくれたと思う。


「もしかして、ボクは邪魔してしまったのかな?本当は倒せたとか?パットは強そうだし」

「そ、そんなことないけど…」

「アミーを守る姿は格好よかった。まるで冒険者みたいだったよ」

「そ…そうだろ!俺は大きくなったら冒険者になるんだ!」


 男の子だなぁ。目に力がある。


「それは凄い。実はボクも冒険者なんだよ」

「ほんと?!ウォルト、ぼうけんしゃなんだ!」


 冒険者証を見せる。


「Eランクだけどね」

「かっこいい~!おにいちゃん、ホンモノのぼうけんしゃだよ!」

「大したことない!俺はSランクになるぞ!」

「凄いなぁ。だったら、今日だけでもボクとパーティーを組んでみないか?いつか自慢させてほしい。ボクはあのパット達とパーティーを組んだことがあるって」

「いいけど…ウォルトは闘えるのか?!」

「闘えるよ。Sランクみたいに強くないけどね。あと、魔物から逃げれるくらいは足が速い。さっきみたいに君達を逃がすことはできる。君達より森の知識もあるし、組むのは森を出るまででいいよ」

「おにいちゃん!アミーはウォルトがいてくれるほうがいい!」


 パットは悩み中。


「……わかった!でも、俺がリーダーだ!勝手な行動はするな!」

「しないよ。早速だけど、お腹空いてないかい?」


 携行していたパンを2つに分けて差し出すと、美味しそうに食べてくれた。近くに果実も生っていたのでデザートに採って食べさせる。

 

 兄妹が腹ごしらえを終えて今に至る。前を歩くパットに訊いてみよう。



「パット。探検するのはいいけど、目的があるのか?」

「内緒だ!俺に付いてくればいい!」

「そうか。頼もしいリーダーだ」

「それに、森を歩いてたらサバトに会えるかもしれないな!」


 驚いたな…。こんな小さな子までサバトを知ってるのか…。


「サバトに会ってどうするんだ?」

「凄い魔導師だから、パーティーメンバーに誘う!俺がSランクになったら組んでくれって!そして…一緒に世界一の冒険者パーティーを目指す!」

「それは…荷が重いと思うよ…」

「ウォルト。なんか言ったか?」

「なんでもない。アミーも冒険者になるのかい?」

「わたしはね~、さいきょうのおよめさんになる!」

「最強のお嫁さん?ピンとこないなぁ」

「こわいんだよ~!まいにちダンナをぶんなげるの!」


 ……最恐?


「とりあえず森の探検を続けるぞ!」


 初めこそ勢いがあったけど、子供の体力が続くはずもなく…。


「暑い…。きつい…」

「のどかわいたぁ~…」


 2人の水筒は既に空になってる。近くに川がないので、ボクの水筒に入ってる花茶と飲める木の実果汁で喉を潤してもらう。


「ウォルトはもの知りだな」

「すごい!」

「森に詳しくないと、水たまりの泥水を飲んだり、獣の血を飲んで喉を潤すことになるからね」

「うっ…」

「森に来るなら、ある程度勉強してからがいいよ」

「…わかったよ!」


 パットは不機嫌そうに歩き出した。偉そうな物言いに聞こえたかな。でも、大袈裟じゃなく本当のこと。森に来たばかりの頃は、魔法もろくに使えなくて、魔物に襲われて何度も死にかけてる。

 圧倒的弱者だったからこそ、怪我で動けなくなったらどうするか?喉が渇いたら?お腹が空いたら?行くべきか逃げるべきか?魔物を効果的に倒す方法は?食べれる草なのかそうじゃないのか?コツコツと知識を貯めて選択肢を増やしてきた。


「おにいちゃん。もうかえろうよ~。アミー、つかれたぁ~」

「まだ帰らない!」


 口にしないけど、パットには探検する目的があるっぽい。ずっとなにかを探しながら歩いてる。


「パパもママもおこってるよ?」

「うっ…」

「疲れたなら、アミーはボクがおんぶしようか?」

「いいの?!ありがとう!」

「待てっ!俺がおんぶする!」

「大丈夫かい?」

「任せろ!リーダーだからな!アミー!来い!」

「うん」

「……うぅっ!」


 しゃがんだパットの背中にアミーが乗ると立ち上がれない。2人は体格差があまりないから厳しそうだ。

 

「うぉ……ぉぉおおっ!」


 気合いで立ち上がったパット。よろめきながらも歩き出す。


「はぁっ…はぁっ…!」

「おにいちゃん。だいじょうぶ?」

「大丈夫にっ…!決まってるだろっ…!軽いぞ…!」


 かなり頑張ったけど、10分と保たずにパットの足が止まった。

 

「パット。メンバーとして意見を言うよ」

「はぁっ…はぁっ…。なんだ?」

「ボクはアミーを背負っても素早く動ける。遠慮なく指示してくれ。ボクらはパーティーだから、協力したいんだ」

「…よし!ウォルトがおんぶしてくれ!」

「わかった」


 アミーは軽いけど、いざというとき両手が使えるようしっかり紐で括っておこう。


「ウォルトはいいにおいするね~!」

「そうかな?毛皮は綺麗にしてるつもりだけど」

「準備はいいか?また進むぞ!」


 パットは元気を取り戻してずんずん進む。周囲を警戒しながら少し後ろを歩いていると、背中からアミーが小声で話しかけてきた。


「ウォルトはやさしいから、ないしょのことおしえてあげる」

「それは嬉しいな。ボクも内緒にするよ」

「わたし、ちょっとだけうまれるまえのきおくがあるんだよ」


 生まれる前?前世ということかな。


「どんな記憶があるんだい?」

「ぼうけんしゃだったの」 

「昔から冒険が好きだった?」

「わかんない。おぼえてるのは、なかまといるのがたのしかったことと、みんなしんじゃったこと。ほかにもあるけど」

「思い出すのは辛くない?」

「なんかね、じぶんのきおくじゃないみたい。でも、むかしのわたしだってわかる。ふしぎでしょ?」

「不思議だね。アミーはどんな冒険者だったの?」

「マルスってなまえで、かっこよかった」

「男だったのか。モテたのかな」

「たぶんね!ウォルトはしんじてくれるんだね」

「ボクは転生(シャガテ)を信じてる」


 転生前の記憶がある人に初めて会うけど、ダナンさんやシオーネさんのように復活を遂げた先人を知ってるし全然あり得る。むしろ、あるだろうとしか言えない。


「わたし、このもりにきてうれしくなったの。へんなかんじ」

「王都の冒険者だったのかもしれないね。昔はフクーベ付近に王都があったんだ」

「へぇ~!しらなかった!」

「おい!しゃべってないで、お前らも探せ!」

「探してるモノを教えてくれたら一緒に探せるけど、言ってくれないとさすがにわからないよ」

「…テルク草を探してるんだ」


 薬草の一種で、森でも滅多に見掛けない珍しい素材。万能で効果の高い薬を作れる。


「生えてる場所は知ってるよ」

「ホントか?」

「嘘なんか言わない。ただ、ボクの知ってる所は遠い。時間がかかるけど行ってみるかい?」

「う~ん…。遠いのか…」

「ボクが2人を運べば早く着くよ」

「どのくらいで?」

「採ってココに戻ってくるまで1時間くらいかな」

「おにいちゃんがきめていいよ。リーダーだから」

 

 パットは腕を組んで思案してる。


「ウォルトに頼む」

「わかった。運んでる間に身体を休めて体力を回復してくれ」


 2人をまとめて背負い、全力で駆け出す。


「うわぁぁっ…!」

「ウォルト、はやぁ~い!」

「2人は周りに魔物がいないか見張っててくれないか。駆けるのに集中するから気付かないかもしれない。教えてくれると助かる。君達の目が頼りだ」

「わかった!」

「まかせて!」


 右に左にと魔物を見かけたら教えてくれる。結構なスピードで駆けてるのに、遠くまで見通す2人は目がいいな。

 

 遭遇しないように森を駆け続けて、テルク草の自生する場所で2人を下ろした。


「この辺りに生えてるよ」

「よし。アミー、探すぞ」

「うん!」

「ウォルトは疲れたろ。ゆっくり休んでていいからな。無理するな」

「わかった。ありがとう」


 兄妹は手分けして探し始めた。全く疲れてないけど、リーダーの優しさに甘えるとしよう。パットもまだ幼い年齢なのに、薬草を判別できるなら凄い。静かに待ってみよう。


 しばらくして……。

 

「なぁ、ウォルト。本当に生えてるか?」

「生えてる。今も見えてるよ」


 わかってなかったんだな。


「どれがテルク草か教えようか?」

「いや!大丈夫だ!自分で探す!」

「ウォルト~!コレでしょ~!」

「違うよ」

「ウォルト!この草じゃないか?!」

「違うよ」


 2人は次々採って確認してくるけど、どれも違う。結構時間がかかりそう。でも、達成感を味わってもらいたいから黙って見守る。


「葉っぱの形は大体こんな感じって言ってたよな…。そういえば…白い花が咲くって言ってた気がするぞ…」

「ってことは……コレかな~!」

「アミー、正解だよ」

「やったぁ~!」


 アミーが手に持っているのはテルク草で間違いない。


「やったな!持って帰るぞ!」

「うん!……あれ?!もうかれちゃってる!?なんで~?」

「テルク草は土から抜くと直ぐに萎んでしまうんだ。水筒に水が入ってない?ちょっとでいいんだけど」


 2人の水筒に残った水を合わせて、摘んだばかりのテルク草を挿して紐で軽く固定する。少量で充分だけど、魔法でこっそり水を足して保存しておこう。


「コレで大丈夫。帰るまでは保つよ」

「ありがとぉ~!」

「ウォルト。ありがとう。教えてくれて助かった」

「どういたしまして」


 役に立てたかな。パットが認めてくれた気がするし。


「じゃあ帰ろうか」

「う…。俺、もう少し冒険したい…」

「わたしも!」

「無事に帰れなかったら、楽しかったことも摘んだテルク草も全部なかったことになってしまうよ。君達のパパとママも悲しむ」

「それは嫌だな…」

「かえろう!」

「走って探して魔物と遭遇して、ボクらは協力してやり遂げた。充分だと思う」


 テルク草を探してたってことは、この子達は誰かを想ってこの森に来てる。初めて会ったときのリスティアと同じだ。親とか友達かもしれない。きっと大切な人のタメに森にやってきた優しい兄妹と思い出を作りたくなる。


「パット、アミー。帰る前に一緒にやりたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「なぁに?」

「コレは魔石だよ。1つずつ握ってもらっていいかい」

「貸してくれ」

「もったよ!」

「そのままこの木に触ってくれないか」

 

 2人が木に触れると、青々とした葉が広がって次々蕾が開いていく。『成長促進』を込めた魔石の力。


「なんだコレ!すごい!」

「ふしぎ~!どうなってるの~?」

「もう少しそのままで」


 やがて花が萎んで実が付く。熟れた果実を2人に渡した。


「蜜がたっぷりで美味しいよ。皆で食べたかったんだ。今日はお疲れさま」

「…本当だ!美味い!」

「すっごくおいし~!あまいね~!」


 お酒は飲めないから、森の恵みで仲良く乾杯。一心不乱に食べる姿が子供らしくて可愛い。

 

「ところで、2人はフクーベから来たの?」

「そうだよ!」

「じゃあ、街の入口まで送るよ」


 準備といってもまた背負うだけ。フクーベまで一気に駆け抜けよう。今日だけの臨時パーティーとはいえ、楽しい一時を過ごせた。いつかまた会えたら、成長した2人の姿を見てみたい。

 

 

 ★



「パトリック!アメリア!どこに行ってたのっ?!説明しなさい!!」


 フクーベに戻った兄妹は、家に着くなり母に叱られていた。


「森に探検に行ってた」

「家を抜け出してまた冒険者の真似事をしてたの?!アミーも一緒だったのねっ?!」

「うん!たのしかった!」

「楽しかったじゃないわよ!危ないことをするなって何回言えばわかるの?!私達がどれだけ心配したか…!」

「ママ!コレあげる!」


 アミーはテルク草を挿した水筒を手渡す。


「おばあちゃんにのませて!おにいちゃんとやくそうをとってきたの!」

「知っていたのね…。ただの草なんか採ってきても騙されないわよ!」

「ちがう!テルクそうだもん!」

「子供に薬草がわかるって言うの?!言い訳は見苦しいわっ!」

「ホントだもん!」

「ブリジット。そうカッカするな」


 父親のドスフェルトが間に入る。


「冒険なんて子供のやることじゃないわ!一歩間違えたら命に関わるのに…!しかも、貴族がそんな理由で死んだりしたら笑われてしまう!」

「そうだとしても、今回は母さんを想っての行動じゃないか。こうしたらどうだろう?2人の摘んできた草がテルク草じゃなかったら、危ないことをした罰としてしばらく外出禁止。ブリジットがいいと言うまで」

「いい案ね。パット、アミー。いいわね?」

「いいよ」

「わたしもいい!」

「冒険者でも滅多に発見できない薬草なのに、子供だけで採ってこれるはずないわ。どうせ森に遊びに行っただけでしょ」

「違うよ。仲間が教えてくれたから採れたんだ」

「そう!たすけてくれたの!」

「俺はリーダーだから仲間を信じてる。テルク草だよ」

「わたしもしんじてる!」

「はいはい!冒険者ごっこの話はもう沢山よ!嘘だったら許しませんからねっ!誰かぁ~」


 ブリジットは呼びつけたメイドに水筒を手渡し、鑑定を依頼するよう指示した。


 


 2時間ほど経って、メイドから報告を受けるブリジット。


「奥様。先程お預かりしたのは、テルク草で間違いありませんでした。薬師が速やかに調合して大奥様に処方されるとのことです」

「なんですって…?」

「ママ。嘘じゃないんだって」

「ほらぁ!やっぱりほんものだった!」

「どうやらそうみたいね…」

「ブリジット。今回は大目に見よう。ただし、今後2人だけの冒険は禁止とする。仲間に助けられるのではなく、助けることができる人間に成長してから行くんだ」

「わかったよ、パパ」

「こんどはウォルトをたすけてあげなきゃね!」

「はぁ。貴方は甘すぎる。絶対にまた行くわよ。なんで貴族なのに冒険なんかしたいのか理解に苦しむわ」

「そう言うな。与えられるばかりで不自由ない生活がつまらない気持ちは理解できなくはない。ときに、ウォルトとは誰だ?」

「俺達の仲間だよ。森でいろいろ助けてくれたんだ」

「やさしくて~、あしがはやくて~、かっこいいねこなの!」

「はいはい。冒険の話はもうお腹いっぱい。とにかく今日はゆっくり休みなさい。うるさく言わないから」


 子供達を部屋に帰らせたドスフェルトは、執務を終えてから母親の元へ向かう。



「母さん。体調はどうだい?」

「薬が効いてくれたのか、かなり楽になっています。稀少な素材をくれた人に感謝しなければなりませんね」


 少々厄介な病に罹っていた母親は、高齢も相まって最近ずっと床に伏せていた。特効薬を作るのに必要なテルク草が入手できず、効用の劣る薬を服用しながら経過観察中だったが、冒険者ギルドに依頼しても中々入手できなかったのに、子供が素材を持ち帰るとはまさに青天の霹靂。


 ドスフェルトはベッドの横に置かれた椅子に腰を下ろす。


「実は、パットとアミーが採ってきたんだ。お婆ちゃんに飲ませてって」

「本当に…?嬉しいけれど信じられないわ…。動物の森にしか生えないと云われていたんじゃなくて…?あの子達だけで採ってきたと言うの…?」

「祖母想いの腕白で、嬉しいやら困るやらだ。迷い子を見過ごせなかった人のいい冒険者に助けられたようでね」

「その方には深く感謝しなけれぱ…。ファルフィ家として手厚い礼をしましょう。誰かわかっているの?」

「名前だけ。ウォルトというらしい。優しくて足が早くて格好いい猫だとアミーが笑っていた。猫って意味がわからないが………母さん?神妙な顔してどうした?」

「……ドスフェルト。お礼は私に任せて頂戴」

「え?」

「なんて奇遇…。可愛い孫を助けてくれて、私まで助けられるなんて…。彼は私の知人であり、我が家にとっての恩人よ」

「恩人とはどういう意味だい?」

「以前バンデッドが病に罹ったとき、素材を譲渡してくれた人物です。ただし、このことは他言無用。いいわね?」

「確かに恩人だけれど、なぜ内緒にする必要が?」

「彼は目立つことを嫌うの。そして、彼はドスフェルトの礼を受け取らないと断言できます!なぜなら貴方が貴族だから!友人である私に任せて頂戴!動けるようになったら直ぐに会いに行きます!」


 母さんも貴族だよね…?と言いたい気持ちを抑え、なぜ母が異常に張り切っているのかドスフェルトは推察した。


 唯一思い付いたのは…。


「母さん…。不義を働いてないだろうね…?」

「んまっ!なんて下劣なことを口にするのっ!あり得ません!彼は貴方より若いのよ?!」

「まさかと思うけれど…若いツバメを飼って…」

「まだ疑っているのね…。バンデッドに尽くし…共に歩みながらファルフィ家を支え…貴方達を立派に育て上げたこの私を…不貞妻だと罵るのですね!?ケンカを買いましょう!望むところです!徹底的にやりますとも!えぇ!」

「じょ、冗談に決まってるだろう。元気になったみたいでよかった。じゃあ…」

「まだ話は終わっていませんよ!待ちなさいっ!こらっ!」


 逃げるように部屋を出たドスフェルトは、煽り続ける母親の声を背中に感じながら自室に戻った。



 後日、無事にお礼を渡した旨を母シャルロッテから聞くことになる。ドヤ顔をする母になにを渡したのか問うたところ、「珍しい茶葉と、最近出版されたお薦めの小説」との返答を得て、選定した理由を自画自賛な様子で語られた。

 どうやら趣味が合う友人らしく、満足した表情の母を見たドスフェルトは、日頃の言動から相手の嗜好を気にするのは怪しい…と感じたものの、夫一筋かつ融通が利かない性格だと知っているので口を噤んだ。

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