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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
703/732

703 また少し輪が広がる

 魔導師交流会から数日経って、ウォルトは住み家を訪ねてきたスザクをカフィでもてなす。


「ウォルト、久しぶりだなぁ。ウチのセイリュウと魔法戦をやったんだって?」

「貴重な魔法を教えて頂きました」

「アイツから聞いたよ。俺はウォルトを知ってるから言ってもいいと思ったらしい。すっかり毒気が抜けちゃってなぁ」

「毒気なんて感じなかったですよ」

「語弊があるか。アイツのスッキリした顔を初めて見たんだ。いつも難しいことばかり考えて仏頂面してるから。昔よりは大分マシになってたけど、面構えが一段とよくなってね」

「そうなんですね」

「デルロッチもな。鬼気迫る雰囲気で修練してるよ」

「さらに高みを目指してるなんてさすがです」


 負けないように頑張りたい。


「ははっ。刺激されたのはウォルトもだよなぁ。魔法を模倣されたセイリュウが驚いてた」

「かなり拙い模倣でしたが。セイリュウさんには感謝しかないです」

「『倍化』はセイリュウの師匠が編み出した補助魔法らしい。一子相伝でまずお目にかかれない。パーティーの活動以外で見せることもなかった」

「理論や習得法は口外しません。勝手に覚えた魔法は特に。セイリュウさんは皆の前で見せたので使っていいと判断しましたが」

「まっ、気にしなくていいさ。セイリュウの方が多くを学んだと思うよ。俺は2人とウォルトを会わせたかったから、話を聞いて嬉しくてね」

「交流できてよかったです」


 この先二度とないと思う。


「認識は変わった?」

「なんの認識ですか?」

「魔導師をやっぱり凄いと思ったのかい?」

「思いました」


 カフィをゆっくり飲んだスザクさんは、カップを置いて真剣な表情。


「ウォルトも気付いたんじゃないか?」

「気付くって?」

「魔導師は遙か高みにいるワケじゃない。お前さんの手の届く所にいる」

「そう思ったのは確かです」

 

 あの日交流してそう思った。魔導師の魔法を凌ぎきれたことで自信がついたのかもしれない。調子に乗ったら成長しないから打ち消したけど。

 

「セイリュウの魔法だってそうさ。お前さんが模倣できるってことは、充分魔導師になれる素質アリってことだよ」

「変わらず目指したいと思ってます」

「話は変わるけど、ウォルトは1つの魔法しか使えない魔法使いをどう思う?魔導師じゃないと思うかい?」

「思いません。たった1つの魔法を磨き続けた凄まじい魔導師を知っているので」


 クレスニさんやムスタングさんは、自分が操れる魔法を磨き続けて誰もが驚くような魔法を操る。


「そうかぁ。困ってる若い魔法使いに相談されてね。よければ相談に乗ってくれないか?」

「答えられるかは内容によります」

「彼は1つの生活魔法しか使えないんだ。でも器用でね。魔法を活かして稼げる方法がないかって相談された。金がいるみたいで」

「魔法でお金を稼げるんですか」

「そんな魔導師は嫌いかい?」

「いえ。魔力回復薬も生活費も必要ですから。ただ、魔法で儲かるというイメージが湧かないです。儲けられそうなのは…治癒師と魔力封入くらいでしょうか」

「ウォルトは知らないと思うけど、魔導師は結構稼げるんだよ」

「そうなんですか?」

「もちろん技量による。セイリュウもデルロッチもマルソーも、冒険以外の収入が多いと思う。特に生活魔法は便利だから需要が多い」

「だったら相談する必要がないんじゃ?」

「需要があっても、供給側が飽和状態ってこともある。新人はなかなか仕事をもらえない。商売でいう新規開拓の難しさかな」

「なるほど」

「誰もやってないような仕事に結びつけばいいけど、そう簡単にいかないさ」

 

 ボクが思うに、魔導師だからこそできることは山ほどある。でも、腕がいい人に仕事が集中するのは職人と同じだろう。


「というワケで、ウォルトが思い付く仕事がないか訊きたかったんだ」

「その人が使える魔法はなんですか?」

「『乾燥』だよ」

「『乾燥』を使ってできそうな仕事は……幾つか思いつきます。ただ、儲けられるかはわかりません。依頼する人がいるのかも」

「そうだよなぁ。受注あっての仕事だ。冒険者と同じか」

「たとえばなんですけど…」


 タオルを持ってきて水魔法で濡らす。


「雨が続いたとき、洗濯物を乾かせるだけで助かりますよね。こんな風に」


 さっと『乾燥』で乾かしてみせる。


「商売にできるかもなぁ。ただ、年中通してなら需要はありそうだけど、カネルラは雨が続く日は多くない」

「儲かりませんよね。魔導師にとっては簡単すぎますし、この部屋一杯の服を乾かしても利益はたかがしれていそうです」

「今のスピードで乾かせるなら相当儲かると思うよ。傷んでもない」

「そうでしょうか?素人考えですが、ボクなら乾物作りをやります」

「酒のつまみの乾き物ってことかい?」

「つまみに限りませんが、水分を抜くことで美味しく仕上がる食材は多いです。普通なら時間がかかるので作るのが大変ですが、魔法で時間を短縮できます。調味料作りは特にですね」

「どうやるんだい?」


 台所から保存していた魚を1匹持ってくる。


「東洋には煮た魚を乾燥させて長期保存する風習があって、ボクはしょっちゅう料理に使うので自作してるんですが…」


 魔法でパパッと熱を加えて、乾燥させて粉状に削るまで一気にやってみせる。


「出汁用調味料の出来上がりです」

「もはや手品だ。どうやったのかわからない」

「大袈裟です。ちょっと舐めてみて下さい」

「……美味いな」

「スープに入れてよし、ふりかけてよしで万能です。乾燥保存調味料は、カネルラではあまり使われないので通年で売れるかもしれません。魚に限らずいろいろな素材から作れて、『乾燥』は重宝する魔法です」

「いい案だと思う。とにかく乾燥させればいいのかい?」

「今作ったのは簡易的な調味料で、旨味を最大限引き出すには段階的な乾燥が必要になります。ただ、魔導師なら簡単ですね」


 スザクさんは悩む仕草。


「ウォルトが直接その子に作り方を教えることはできるかな?」

「できますが、口で伝えるだけでも魔導師ならできると思います」

「その子は料理ができそうになくて、モノの出来具合を判断できなそうなんだよなぁ」

「であれば、ボクが行きましょうか」

「いいのか?俺が連れてくるよ」

「説明は直ぐに終わるので。教えて儲かる保証もないし、危険な森にわさわざ来てもらわなくても」

「じゃあ、頼むよ」


 というワケで、スザクさんとフクーベに向かうことにした。





 徒歩移動でフクーベに着いて、直ぐに魔導師と顔合わせ。


「初めまして。スクメールといいます。わざわざすみません」

「初めまして。テムズです。お気になさらず」


 魔法について教えるので、とりあえず変装してきた。頭のおかしな獣人と思われたら話が進まない。スザクさんから紹介されたスクメールさんは、確かにまだ若くて20代に見えるけどどうだろう?

 スザクさんの助言で今日のボクは職人お抱えの生活魔法使いという設定になったので、そのつもりで教える。


「スクメール。まずはテムズに『乾燥』を見せてやってくれないか?」

「はい」


 スクメールさんは見事な『乾燥』を操る。


「テムズ。どうだい?」

「素晴らしいと思います」


 詠唱、効果、速度。どれをとっても素晴らしい腕前。


「じゃあ、教えてくれるかい?」

「はい」


 食材は来る途中でスザクさんが買ってくれたモノを使う。まずは比較的簡単な野菜からいこう。水で戻して使える優れモノ。レーション作りで学んだ手法だ。説明しながら水分を抜いて、いい感じに出来上がった。


「こんな感じです」


 カラカラの野菜を前に、スクメールさんはポカンとした表情。


「あの……最初に軽く乾燥させて、徐々に水分を抜いていくところをもう一度実演してもらっていいですか?」

「はい」


 もう一度やってみせる。


「できました」

「ありがとうございます………。スザクさん。ちょっといいですか?」

「ん?」


 スクメールさんとスザクさんは席を外した。なんだろう?



 ★



 若手生活魔導師スクメールは訊かずにいられなかった。


「スザクさん。テムズさんは…何者ですか?」

「魔法使いだよ」

「とぼけないでください。絶対只者じゃないですよね?あんな魔法見たこともないです」


 無詠唱でかなり微妙な強弱の調整や風まで吹かせていた。普通にあり得ない。


「生活魔法は軽く見られがちですが、戦闘魔法より細かい魔力操作が必要だと云われています。生活魔導師の矜持であり、テムズさんは熟練の魔導師でも困難な魔法を軽々操りました」

「どう思ってもいいけど、俺もテムズもお前さんの力になりたいだけさ。あまり深く訊かないでくれると助かるし、大した問題じゃないだろう?教えられたことをやるかやらないかだけ」

「そうなんですけど……」


 もの凄く気になる…。たった1つ使える魔法を磨いて、『乾燥』だけはベテラン魔導師にも負けないと思っていたのに、軽々と超えるような魔法を見せられると…。


「訊きたいことがあるなら訊けばいいさ。彼はなんでも答えてくれるよ。言えるのはこのくらいかな。言っとくけど、あまり長居はできないぞ」

「…わかりました」


 スザクさんの言う通りだ。テムズさんが何者であっても、僕のタメに来てくれたのは確かで、きっと忙しい魔導師。学ばせてもらわないと失礼になる。貴重な時間だ。


 テムズさんの元に戻って一通り説明を聞くことに。


 …この人は、もの凄い生活魔導師だ。ありとあらゆる食材から効果的に水分を抜いていく。魔法を変化させて、わざと周囲に纏わり付かせたり、逆に強く一瞬だけ魔法を当てたり、絶妙な加減で半生状態を作り出したりとなんでもござれ。


 全てが繊細で見蕩れてしまう魔法操作。『乾燥』は奥が深いと初めて思う。



「美味いっ…!」


 しかも、出来上がった調味料を使ってテムズさんが作った料理がバカみたいに美味い!コレは……商売にできるかもしれない!


「少しは参考になりましたか?」

「はい!充分すぎるほどに!」

「よかったです」


 もっと腕を磨かないとこの人の境地には立てない。でも、真似ることはできると思える。


「僕の我が儘のタメに貴重な技術を教えて頂いて…申し訳なく思います」


 親が長年経営していた店が傾いて、資金繰りが苦しくなった。なんでも売るただの雑貨屋だけど、精一杯働いてきた証を残してやりたくて、立て直すタメに稼ぎたいという僕の我が儘。


 正直に伝えてもテムズさんは嫌な顔1つしない。


「事情はわかりました。自分のタメになるのでお礼はいりませんよ」

「というと…?」

「雑貨屋ということは、食材や調味料も売れますよね?今まで自作してましたが、誰かが作ってくれたらその分他に時間を使えますし、もっと上質なモノが買えるかもしれないので」

「テムズは結局自分で作ってそうだけどなぁ」

「だとしても、多くの人に伝わればアイデアの数も増えて、新たな発想を得たり刺激をもらえます。それに、まだ売れてもないですから」

「ははっ。そうだな。気が早かったか」

「絶対に売ってみせます。貴方を唸らせるようなモノを作るので是非買いに来て下さい」

「楽しみにしています」


 別れの挨拶を交わして、テムズさんは何事もなかったように帰った。残ってくれたスザクさんと話す。


「僕より若いっぽいのに、あんな魔導師がいるんですね」

「世の中は広いだろう。さっきテムズが言ったように、新たな発想や刺激をもらえるってのは幸せだよなぁ」

「はい。本当に」

「お前さんから見ても、テムズってやっぱり凄い魔法使いなのかい?」

「別格です。僕は『乾燥』しか使えません。だから誰にも負けないように腕を磨いた…と自負してました」

「セイリュウも『乾燥』だけはお前さんに敵わないって言ってるよ」

「嬉しいことです。でも、テムズさんは喜んで白旗を振るくらいレベルが違います。まさか戦闘魔法のような使い方まで教えてくれるなんて」

「だよねぇ。俺も驚いたよ」


 テムズさんは、「『乾燥』の用途の幅広さは、生活魔法に区分される魔法の中でも上位だと思います」と様々な活用法を教えてくれた。

 目の周囲の空気だけを一気に乾燥させて目にダメージを与えたり、極限まで乾燥させた空気を吸わせて肺にダメージを与えたりと、誰も思い付かないような固定観念を壊す用途を教えてくれた。

 かなり軽めではあったけれど、実際に味わって効果も知った。生活魔法であっても護身なんかに使える。


「一歩間違えると危険なレベルまで生活魔法を高めることは、普通の魔導師にはできません」

「人一倍努力しないと無理だよなぁ」

「努力は当然として、そうせざるを得なかったんじゃないかと。生活魔法を変化させる必要がある状況に身を置けば習得が可能だと思います。たとえば、僕が冒険者になってSランクを目指すような過酷な状況に」

「そりゃ無茶だなぁ」

「誰もできるなんて思いません。でも、そのくらいじゃないと常識は破れないと思うんです。テムズさんとスザクさんのおかげで目が覚めました。自分の実力を知れたんです。プライドを持ち続けてましたが、実際にやれることは多くないって。上には上がいる。研鑽を積みながら学んだ魔法で親孝行しなきゃ。両親には好き勝手やらせてもらってたので」


 店も継がずにたった1つの魔法を修練してばかりだった。日銭を稼いで暮らすような生活を黙って見守ってくれていた両親には感謝してる。


「おやっさんやおふくろさんには、若い頃バカみたいに世話になった。まだまだ頑張ってもらいたいよ」

「スザクはまぁだSランクになれないのか!?って夫婦揃って怒ってます」

「ははっ。無鉄砲だっただけの若造に、薬草やら回復薬やらを出世払いでツケてくれたおかげで、今も生きてるようなもんさ。金持ちなら金を貸してやれたんだけどね」

「充分すぎるくらい贔屓にしてもらってます。僕も子供の頃からお世話になってますし。店は家族で頑張って立て直しますから安心して下さい」

「俺も、Sランクになって『スザクご贔屓の店』って言ってもらえるよう頑張ろう」


 スザクさんは温厚で義理堅い性格。僕は悪く言う人に会ったことがない。予想しない出会いまで運んでくれた。


「またテムズさんに魔法を教わることはできますか?」

「う~ん。滅多に会えない奴だから難しいけど、お前さんが言ったようにテムズを唸らせるモノを作ったらできるかな」

「テムズさんも思い付かないようなやり方で唸らせたいです」

「時間がかかっても、鼻を明かすような魔法を編み出せばいい。魔導師として負けたくないだろう」

「えぇ。スザクさんも気持ちがわかりますか?」

「俺は魔法使いじゃないけど、アイツに会った魔導師はもれなく言うからね。冗談抜きで全員が」

「よくわかります。超えたいと憧れる魔導師に初めて会いました。刺激されっ放しで」

「言い忘れてたけど、テムズのことは内緒にしてくれると助かる。おやっさん達にもだ」

「なんで言っちゃダメなんですか?」

「目立つのが大嫌いだから。噂が広まると、二度と会ってくれることはないと断言できるよ」

「だったら絶対言いません。もちろん親にも」

「ふふっ。はははっ」

「なにがおかしいんですか?」

「返す言葉も全員同じなんだよ。アイツは本当に凄い奴なんだと思ってね。落とせるならどんな手も使いたい絶世の美女…みたいな存在か」

「それを言うなら、逃がしてはいけない恋人って感じです。この人じゃないとダメだと思えるような。初対面でなに言ってんだって感じですけど」


 たった数時間の交流でわかった。テムズさんと交流できたら、絶対に自分の技量向上に繋がる。そんな凄い魔導師だ。

 それこそ噂の魔導師サバトのよう。誰もが驚く魔法を操って、羨望を集めるのに一切表に出ない。目立ちたがらないところが似てるかもしれないな。

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