7 回復薬の効果
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
美味な食事を終えたあとは、ちょっと一休みしてウォルトさんと一緒に傷の回復具合を確認することにした。
動いてもまったく痛みを感じないから治ってると思ってるけど…。
「ドキドキします…」
顔は強張ったまま緊張の面持ちで胸に手を添えて深呼吸する。多分がっつり残っているであろう傷痕を見るのは勇気がいる。
そんな気持ちを察してくれたのか、ウォルトさんから切り出してくれた。
「出来る限りの治療はしたけど、傷が深かったから痕が残ってる可能性が高い。もしそうだとしても、仕方ないと思えるかい?」
当然のこと。わかっていて訊いてくれてるんだ。
「大丈夫です!私は命が助かっただけで万々歳です!」
「じゃあ、包帯を解いてみるよ。本当に覚悟はいいかい?」
「はい!ひと思いにやっちゃって下さい!」
私が発した若干ヤケクソな声に頷いたウォルトさんは、ゆっくり包帯を解いてくれる。
強がってみたものの…やっぱり怖い。ギュッと両目を瞑って眉間に皺が寄る。『もし大きな傷痕が残ってしまったら…』なんて余計なことを考えてしまう。
冒険者になるとき覚悟してたつもりだったけど、いざその時を迎えると複雑な気持ちになるなんて…我ながら意志が弱いにも程があるなぁ。
左目、手、脚、そして腹部に巻かれた包帯が、スルスルッと解かれていく感触。やがて全ての包帯が解かれた。
「うん。傷はしっかり治ってるみたいだ」
深く深呼吸したあと、恐る恐る瞼を開いて自分の身体を隅々まで見る。
「…………えっ?!」
想像とあまりにかけ離れた光景に驚きを隠せない。
「傷痕が……ほとんどない?」
よ~く目を凝らして見れば、薄ら傷痕は残ってる。逆に言うとそこまでしないと判別できないほど目立たない。ほんのり皮膚の色が違うような気がする程度。こんなことって…あり得るの…?
決して浅い傷じゃなかった。傷を負った私自身が一番理解してる。オーレンほどではないけど魔物の爪で肉を削られた。激しい痛みに襲われたからこそ鮮明に覚えてる。
だから…ウォルトさんが回復薬を使って治療してくれたとしても、この短期間ではよくて傷が塞がっている程度だと考えてた。ただ、現実は予想を遥かに上回っていて、傷はほぼ完治してる。まるで魔法のように。
信じられない…。
言葉を紡げないでいるとウォルトさんが口を開く。
「治療は上手くいったみたいだけど、やっぱり傷痕が気になる?」
「それは…そうなんですけど…」
「少しだけ痕が残ってしまったね。もっと早く治療できていればより目立たなかったと思うんだけど…。ゴメンね…」
ハッと気付いて慌てて否定する。
「違います!ウォルトさんのせいじゃないですし、傷痕が残っていることに驚いてるんじゃなくて、むしろ逆というか…」
「逆?」
ウォルトさんは首を傾げる。
「あれだけの傷を負って、この程度しか痕が残っていないことに正直驚いてます」
なるほど、と合点がいった様子。
「回復薬もよく効いたみたいだし、君達は若くて回復が早い。そのおかげかな。傷痕を残さないタメには早く処置するのが重要なんだ」
「そうなんですね。実は、ウォルトさんって森の賢者なのでは?凄いです!」
色々と獣人らしくないように思えるけれど、本当に賢くて優しい恩人…?…いや、恩猫人だ。「大袈裟だよ。ほとんど師匠の受け売りだし。けど、森の賢者か…。もし実在するなら会ってみたいね」と微笑んでくれた。
★
次の日は、約束通り回復薬の作り方を教わることに。
材料を採取するタメに少しの間家を離れるので、オーレンに留守番を頼もうと事情を伝えたら…。
「アニカだけズルいぞ!俺も行きたい!」
「ズルいって…」
既に元気を取り戻しているオーレンは駄々をこねだした。気持ちはわかるけど、受けた傷は私より酷かったんだから大人しくしてほしい。
ウォルトさんが優しく告げる。
「心配だから今日までは安静にしておいてくれないか?回復薬についてはオーレンにも作り方を教える。約束するよ」
「…わかりました」
お世話になっているウォルトさんに優しく諭されては無理は言えない。オーレンはどうにか大人しく引き下がった。
「ちゃんと大人しくしときなさいよ」
ジト目で告げた。長い付き合いだから思考が手に取るようにわかる。この様子だと、大人しくしているとは思えない。
「どっかの食いしん坊が薬草を全部食っちまって、結局覚えきれなかったって結果にならないよう祈っとく」
「子供みたいなことを…」
やっぱり私だけ行くことが納得いかないのか、子供のようなことを言い出した。しかも嫌味のように食いしん坊だと暴露して。事実だけど腹立つ!
呆れてモノが言えないでいると、ウォルトさんが遠慮がちに訊いてくる。
「アニカは食いしん坊なのかい?さっきので食事は足りた?まだ食材はあるから足りなかったら遠慮しないで言ってくれていいからね」
真顔で胃袋を心配されて恥ずかしさで顔が赤くなる。
量が物足りなかったのは事実……なんだけど、『コイツは…絶対あとでぶん殴る!』と心に決めて、元気になったオーレンの笑い声が響く部屋を後にした。
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