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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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684 グラシャンと鳥人

 早朝からリリサイドとドナ親子が遊びに来てくれた。


「えぇ~?!シャノたち、もりにかえったの~!?」


 シャノ達と遊びたかったドナが驚いてる。


「そうなんだ。会わせてあげられなくてゴメン」

「ううん!もりであうのがたのしみ!」

「大きくなった皆とまた会えるよ」

『きっと逞しく生きているわ』

 

 リリサイドのフォローもあって、すんなり受け入れてくれた。ドナは昼ご飯まで勉強することに。リリサイドは馬の姿のまま更地で日向ぼっこ。芝に寝そべって尻尾がパタパタ動いてる。


「…むぅ~。のこったニンジンはぁ~…3本!」

「正解」

「やっぱり!」


 ドナはリリサイドとも勉強しているみたいで、知識が身に付いてる。応用問題でもしっかり解ける柔軟さ。


 …と、玄関のドアがノックされて、開けるとシエッタさんが立っていた。


「また来た…。迷惑じゃない…?」

「迷惑なんかじゃないです。今日は友人がいるんですが、大丈夫ですか?」

「相手がよければいい…。人に慣れてきたから…」

「では、中へどうぞ」


 居間でドナとご対面。


「おねえさん、だれ?」

「私はシエッタ…。貴女は…?」

「ドナだよ!…はねがはえてる!すごい!」

「そう…?」

「そらとべるの?!」

「少しなら…」

「すご~い!とんでみて!」


 興味津々な様子のドナ。シエッタさんはちょっと困った顔してる。


「大丈夫ですか?」

「子供に満足してもらえるかしら…」

「みたい~!」

「ドナは鳥の獣人に会うのが初めてなんです。飛ぶのは少しで構いません」

「うん…。外に行こう…」


 勉強を中断して更地で飛ぶことに。3人で向かうと、横たわるリリサイドを見たシエッタさんが動きを止めた。


「なぜ…?グラシャンがいる…」


 一目でわかるのか。馬とは違う特徴がどこなのかボクは知らない。声に反応したリリサイドが目を開ける。ゆっくり立ち上がってシエッタさんを見つめた。


「私は…シエッタ…。ディートベルクから来た…」


 無言のままチラッとボクを見たリリサイドは、人型に変身し…だあぁぁっ!

 急いで住み家から貫頭衣を持ってくる。見ないようにしながらドナに頼んでリリサイドに渡してもらう。


「ウォルト、へんなの!」

「いいから頼む!」


 布が擦れる音がして、服を着たのがわかった。


「ウォルト。もういいわよ」


 ちゃんと着てる…。よかった。


「私はリリサイド。出身は言わなくてもわかるわね」

「もちろん…。カネルラで会うなんて…思わなかった…」

「グラシャンを知ってるのね」

「山奥で暮らしてたから……何度か会ってる…」

「なんて名前かわかる?」

「唯一知ってるのは…バダマ…」


 リリサイドが大きく溜息を吐く。


「あのお喋り、まだ生きてるのね」

「知り合いなのか?」

「腐れ縁よ。人族で例えると、幼馴染みって感じかしら」

「おかあさん!そんなことより、とぶのみたいっ!」

「はいはい。シエッタ、お願いしてもいいの?」

「下手だけど…頑張る…」


 シエッタさんが上空を飛行する。別に下手じゃないと思うけど、鳥の獣人的には満足いかないのかな。


「ふぅ…。こんな感じよ…」

「すごい~!ドナもとびたい!だっこしてっ!」

「えぇ…?危ないわ…」

「とぶの~~!」

「落としても大丈夫だからお願いできない?言うことを聞かなかったり、暴れたりしたら直ぐに投げ捨てていいわ」

「わ、わかった…」

「ドナ。空では大人しくしなさい。シエッタに迷惑をかけたら、二度と飛ばせない」

「あい!」


 シエッタさんがドナを抱えて空を飛ぶ。満足そうなドナと、戸惑う表情のシエッタさんは対照的。リリサイドと並んで見上げる。もしドナが落ちてきたら魔法で柔らかく受け止めよう。


「まさかディートベルクの獣人が現れるなんて思わなかった」

「最近知り合ったんだ。魔法に精通してる人で」

「珍しいわね。ゆっくり話してみようかしら」


 ディートベルクの話もできていいかもしれない。


「シエッタ~!ちゅうがえり~!」

「無理…。ドナが落ちる…」

「えぇ~?!やりたい!」

「言うことを聞きなさい…。リリサイドに言うよ…」

「はわっ…!もういわない!」

「いい子ね…」


 会話は丸聞こえ。ドナはボクと同じで注意されたことを直ぐに忘れてしまう。精神年齢が同等。




「おもしろかったぁ~!」

「つ…疲れた…」

「ドナに付き合ってくれてありがとう。助かったわ」

「昼ご飯にしましょう」

 

 リリサイド達には丹精込めて育てたニンジン料理を。シエッタさんにはニンジンと魚を使った煮物を作った。


「美味しい…。ウォルトは凄い…」

「おいしいよね~!」

「相変わらず美味しいわ」


 食事を終えたドナは昼寝。ベッドで大の字になって爆睡中。シエッタさんとリリサイドと3人で会話する。


「グラシャンと獣人が親子って…どういうこと…?」

「ドナは森に置き去りにされてた。私が拾って育てただけ」

「そう…なのね…。ドナは私と同じ…。育ての親は…人間だったけれど…」

「どの辺りで暮らしていたの?」

「ニヤク山の…中腹あたりよ…」

「ということは、親は(かげ)魔導師ね」

「そう…。表舞台から追放された魔導師だった…」

「何人か見掛けたことがある。もれなく痩せ細って、死んだような目をしていた」

「目標も生き甲斐もなくなるから…。街に住めば追放者だと軽蔑されて…隠遁せざるを得ない…」

「ディートベルクは獣人の捨て子も多いわね。私も何人も見掛けた」

「あの国はおかしい…。魔法を使えなければ…なに1つ評価されないのだから…。獣人は…底辺だと教えられた…。子を育てることすら困難かもしれない…」

「グラシャンも似たようなモノよ。どこに行っても化け物扱い」

「バダマが言っていたけれど…グラシャンには2種類いて…人への復讐に燃える者と…無視して暮らす者がいる…。貴女はどっち…?」

「私は前者。でも、どうしていいのかわからず国を出た。今でも人族は憎い。誰かさんのおかげで幾分かマシになったけれど」


 リリサイドがボクを見る。初耳の個人的なことを聞いていいんだろうか?人族にはボクも含まれてるし。


「ドナに…本当の親のことは…?」

「理解力が上がってきたから、最近伝えた」

「なんて言った…?」

「気になるの?」

「私は…親同然に育ててもらって…本当の子供じゃないと言われたとき…ショックだった…。どうすればいいのかわからなくて…いないほうがいいんじゃないかって…。でも…しばらくして慣れた…。師匠の態度が全然変わらなかったから…いてもいいんだって…」

「ドナは「おかあさんはおかあさん!」って笑ったわ。早めに伝えるつもりだったけど、少しだけ怖じ気づいていたのは内緒よ」

「ふふっ…。そう…よね…。親だって緊張するはず…」

「もちろんするわ。「やだ!」とか言われてもどうしようもないし」


 う~ん…。


「ウォルト、どうしたの?険しい顔して」

「いや…。どんな形の家族がいてもいいと思ってたけど…」

「泣いてるの?」

「え…?」


 いつの間にかこぼれそうになっていた涙を指で拭う。会話を聞いていてシャノ達のことを思い出してしまった。たとえ種族が違っても家族になれる…って教わった気がする。そう思ってていいのかなって…。心に沁みた。

 

「ゴメン。ボクの気が楽になっただけで」

「よくわからないけど、悩みがあるなら吐き出しなさい。話くらい聞くから」

「私でもいい…」

「もう大丈夫。でも、相談させてもらうかもしれない」

「いつでもいいわよ」

 

 友人に恵まれてるのに相談しないのは、単純に人に悩みを打ち明けるのが苦手だから。


「訊くのが遅くなったんですが、シエッタさんはなにか用があったのでは?」

「特にない…。飛ぶ練習を兼ねて…休憩しにきた…」

「そうでしたか。ゆっくりできませんね」

「今休んでる…。帰るときに獣人の力を操作してほしい…」

「今日はやめましょう。川に墜落したと聞きました」

「ファルコは……余計なことを言う…」


 しまった…。恥ずかしかったのかな。


「『身体強化』も付与できますよ。里に戻るまで切れることはないです」

「魅力的な提案だけど…獣人の力の方が気になる…。慣れてみたい…」

「ファルコさんがいるときにしましょう。森で動けなくなったら危ないので」

「むぅ…」

「魔物に襲われて研究できなくなってもいいんですか?」

「…わかった。『身体強化』をお願いしたい…。師匠の魔力で…」

「わかりました」

「ひるねおわり~!あそぶ~!」


 ドナが起きてきた。


「ダメよ。また勉強しなさい。遊ぶのはそのあと」

「えぇ~?!さきにあそんじゃだめ?!」

「私の言うことが聞けないの…?」

「はわっ…!べんきょうする!」

 

 貼り付けたような氷の微笑み…。さすがドナの性格を知り尽くす母親。


「ウォルト…。リリサイド…。私が教えてもいい…?」

「ボクは構いません」

「いいわよ」


 ドナがどの程度学んでいるかを伝える。


「理解した…。じゃあ…ドナに問題…」

「あい!」


 黙って聞いてるけど、シエッタさんは教えるの上手いなぁ。難易度も適切だと思う。


 ただ…。


「わかった!うまにけられてしんだのは…ゲスまどうしが2人で、クソまどうしが5人!」

「正解よ…」

「やったぁ~!」


 問題文に悪意を感じる…。リリサイドが笑ってるからいいか。


 優しい口調ながら結構厳しいシエッタさんは、1時間程度みっちり教えた。


「つかれたぁ~!もうむり~!」

「このくらいにする…。ドナは賢い…。さすがウォルトの弟子…」

「ドナはウォルトのでしなの?!…でしってなに?」


 とりあえず、ちゃんと勉強したのでまた更地で遊ぶことに。




 ドナが大好きな落下遊びの準備は整った。


「私は…やりたくない…。危ないのよ…」

「だいじょ~ぶ!ウォルトがまほうではねかえす!」


 ドナを抱いて上空で待機してるシエッタさんに声をかける。


「いつでも離していいですよ~!」

「シエッタ!はなして!」

「はぁ…。わかった…」


 笑顔のドナが落下してくる。弾力のある魔法陣で受け止めると、高く跳ね上がった。


「きゃはははっ!」

 

 上空で待機していたシエッタさんは、慌てながらもしっかり受け止める。


「ねっ!だいじょうぶでしょ!つぎいくよ!」

「わかるけど…心臓に悪い……こらっ」


 腕から抜け出したドナが勝手に落下して、器用に回転したり身体を捻りながら戻っていく。

 同じ場所に戻らないからシエッタはあちこち動き回って大変そうだ。受け損なっても魔法で拾うから問題ないけれど。

 

「たのしかったぁ~!」

「はぁ…。はぁ…」

「またあそぼうねっ!」

「そうね…」

「ドナ。遊んでもらったからちゃんとお礼を言いなさい」

「シエッタ!ありがとう!」

「こちらこそ…。ドナのおかげで…飛ぶのが上手くなった…」

「こんどは~…かけっこでしょうぶ!」

「ふふっ…。そうね…。頑張るわ…」


 ドナの頭を撫でるシエッタさんは、母親のような表情。子供好きなのかな。

 

「ドナ…。リリサイドの言うことをよく聞いて…お母さんを大切にするのよ…。感謝を忘れてはいけない…」

「うん!」

「大きくなったら…ディートベルク人の魔導師に気を付けなさい…。ろくな男がいない…」

「わかった!ディートベルクね!ディートベルク!」


 教えるにしても極端な気がする…。


「シエッタさん。もしかしたらいい人間がいるかも…」

「いないわ…」

「いない。シエッタに同意」 

 

 即答されてしまった。あの国の魔導師は、よほど獣人やグラシャンを差別しているんだろう。


「…そうだ。ドナ、スケさん達は元気かい?」

「げんき!ウォルトがこないっておこってた!」


 当分顔を出してないから、心配されてるかもしれない。


「ドナ達と一緒に帰ろうかな。ボクはスケさん達に会いに行く」

「いこう!スケさぶろうたちとあそぶ!」

「ドナはやめなさい。遊ぶのは明日でいい」

「えぇ~?だめ…?」

「…仕方ないわね。少しだけならいいわ」

「やったぁ~!」


 ちょっと甘いところも母親だなぁ。修練場に移動する前に、疲れた様子のシエッタさんを見送る。約束通りお師匠さんの魔力を模倣して『身体強化』を付与した。


「本当に凄い…。魔力が師匠そのもの…。私にはわかる…」

「この程度のことは誰でもできますよ」

「記憶することすら困難なはず…。ウォルト…また…」

「はい。お待ちしてます」


 軽やかに飛び去った。短時間で飛ぶのが上手くなってる。


 修練場に向かおう。



 ★



『ウォルト~!久しぶりじゃねぇか、コノヤロ~!』

「ご無沙汰してます。顔を出さなくてすみません」

「スケさぶろ~!ほねぬきやる!」

『しょうがねぇな!こい!』


 ドナとスケ三郎さんは早速遊び始めた。


「スケさん、お久しぶりです。皆さん変わりはないですか?」

『大丈夫だ。生まれたばかりの猫と住んでいたらしいな』

「はい。無事に旅立ちました」

『世話は大変だったろう。ミーリャとオーレンから聞いていた』

「最高の日々でした」

『そうか』

『可愛かっただろうね~』


 スケ美さんやスケ六さんも含めて、皆で久しぶりに会話を楽しむ。リリサイドも自然に輪に入ってる。今はボクよりこの場所に来てるだろうし、こういうのはいい。


 今日は魔法の修練は必要ない。ただ楽しく話して帰ろう。

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