68 2人の作戦
暇なら読んでみてください。
( ^-^)_旦~
ペニーとチャチャが仲良く泊まった翌朝。
朝食を食べて満腹になったチャチャとペニーは、お腹が落ち着いたら2人でやってみたいことがあるらしい。
「上手くいくといいけど」
「俺達ならやれる!」
なにやら、昨夜寝る前に話したことを試したいみたいだ。
★
就寝前に仲良くベッドに横たわって会話していたときのこと。
「チャチャ!今日は楽しかったな!一緒に泊まれて嬉しい!」
「私も友達になれて嬉しいよ。それに、ペニーのおかげで泊まりにこれたからね」
チャチャは、ペニーの毛皮を撫でながらそんなことを言う。
「なんで俺のおかげなんだ?」
「私の父さんも兄ちゃんの薬で病気が治ったんだよ。それで「お世話になったお礼に家の掃除とか料理をしてあげたい」って言ったら今日だけ泊まるのを許してくれた。結果なにもやれてないけどね」
「そうなのか。チャチャは女だから泊まれないかもってウォルトが心配してたけど、来てくれたら嬉しいって言ってた!」
「来てくれたら嬉しい…か。兄ちゃんはいい獣人だよね」
「いい奴だ!俺の友達だからな!」
ペニーの頭を優しく撫でながら、チャチャが心配そうな顔をする。
「どうしたんだ?」
「兄ちゃんは優し過ぎてたまに心配になる。いつか魔物とかに襲われて酷い目に遭うんじゃないかって…。狩りも下手だし…」
「確かにそうかもな。よし!俺とチャチャでウォルトを守ってやろう!」
「どうやって?」
「チャチャは狩りが得意だし、俺は駆けるのが速い。いいところを合わせれば怖いものなしだ!」
「どういうこと?」
★
ウォルトは2人がやろうとしていることを見守る。
なにをしたいのか見当もつかないけど、どうやら更地で試すみたいだ。「ボクも手伝おうか?」と声をかけたら、『遠くで見守る係』に任命されて、言われた通り離れたところに立っている。
「ペニー、準備はいい?」
「いつでもいいぞ!」
チャチャが弓を片手にペニーの背に跨がると、ペニーは元気よく駆け出した。チャチャを乗せたくらいでは負担にならないみたいだ。
疾走する速度を上げていくペニーの上でチャチャは弓を引き絞り、狙いすまして矢を射ると、事前に印を付けておいた木に見事命中した。
「おぉ!凄い!」
思わず拍手する。かなりのスピードで疾走しているのに正確に的を射抜いたチャチャの技量は凄い。信じられない弓の技量だ。2人の姿を見て、ちょっとだけ知り合いの騎士と騎馬を思い出したのは内緒。
「もっと速くても大丈夫か?」
「まだイケるよ」
「よぉし!いくぞ!」
更に速度を上げたペニーの上でチャチャは立て続けに2本の矢を射る。どちらも標的を捉えたことを確認して標的の元へ向かう。
「すごいなチャチャ!俺はこんなに動きながら攻撃は当てれないぞ!」
「ペニーの駆け方がいいからね。速いのに揺れが少なくて凄く狙いやすいよ」
互いに褒め合って笑顔になり、チャチャがペニーの毛皮を優しく撫でると尻尾を振りながら気持ちよさそうに身を任せている。
「凄かった。初めてとは思えない連携だったよ。でも、なんで急にこんなことを?」
「ウォルトが心配だからだ!ウォルトは優しいから、獣とかに襲われたときは俺達が助ける!」
ペニーが笑うとチャチャも笑顔で頷いている。胸が温かくなった。ボクのことを心配して、協力してできることを考えてくれたのか…。心配をかけて悪いことをしたなぁ。
「ありがとう。でも心配いらないよ。最近は獣や魔物に襲われても倒せなかったことはないんだ。狩りは下手だけどね…」
「えっ!?」
「そうなのか?!」
よほど意外なんだな。特にチャチャは魔法を使えることを知らないから当然の反応といえる。
「だから危ないことをしなくてもいいんだよ。気持ちは凄く嬉しいけど」
「ウォルトは優しいから、嘘を吐いてるんじゃないのか…?」
「確かに…。兄ちゃんは優しすぎる獣人だからね」
ボクは優しくないんだよなぁ。自分達を危ない目に遭わせないよう嘘を吐いてると思ったんだろう。実際に見てもらった方が早いか。…というワケで、ボクと違って優しい友達に提案する。
「心配ならボクと手合わせしてみるかい?それでも心配なら護衛をお願いするよ」
「手合わせってなんだ?」
「簡単に言うと『相手の強さを見るための勝負』かな?」
「ウォルトと勝負するのか?!やってみたい!」
「それは…いいのかな?兄ちゃんがいくら獣人でも、武器も持ってないし…」
「心配しなくても大丈夫だよ。じゃあ、チャチャをペニーの背中から下ろせたらボクの勝ちで、2人の攻撃がボクに当たったら負けでどうかな?」
「それでいい!絶対当てるからな!」
ペニーは大はしゃぎだけど、チャチャは『いいのかなぁ?』って顔をしてる。
「弓を使うのは、危ないからやめたほうがいいよね?」
「大丈夫だから気にしなくていいよ」
言ってる意味が理解できてないみたいだけど、チャチャは賢いから始まったら直ぐにわかってもらえると思う。
獣人だから凄く驚かれるかもしれないけど、黙っていてもいずれバレる気がするし、チャチャとは長い付き合いをしていきたいから、伝える良い機会だと思う。
「じゃあ、始めようか」
「よし!やろう!」
★
ペニーに跨がったまま兄ちゃんと向き合う。
やっぱり無理がある気がする。弓で兄ちゃんを攻撃するなんて…危なすぎるよ。撃ちたくない。
素早く離れたペニーが囁いた。
「チャチャ。ウォルトは魔法ってヤツを使うからな。油断するなよ」
え…?
「魔法…?」
「来るぞっ!!」
兄ちゃんは10歩以上離れていた距離を、一瞬で無にする速さで詰めてきた。私を捕まえようと手を伸ばしてくる。
「はやっ…!」
ペニーが跳び退いて距離をとってくれた。私もどうにか身を捻って手を躱せた。
「さすがだね。ペニーは速いなぁ」
「ウォルトもな!思ったより速くて驚いた!」
『惜しかったニャ!』とか言いそうな顔で笑ってる。 私はちょっとじゃなく驚いた。兄ちゃんの動きが速かったのもそうだけど、身体の周りに緑色のオーラのようなモノが揺らめいている。
前に街で見たことがある。確かに魔力だ。ペニーの言う通りで…兄ちゃんは魔法を使えるの…?
獣人なのに魔法を使えるなんて…。
「チャチャ!ボーッとするな!また来るぞっ!」
再び駆け寄った兄ちゃんの手が私を掴もうと迫る。
「うわっ!はやっ…!」
躱した身体を支えるようにペニーが動いてくれたので落ちるのは免れた。危なかったぁ。
「今のは惜しかったなぁ」
「チャチャ、大丈夫か!?こっちも攻撃しないと勝てないぞ!」
それはそうなんだけど…。
「でも…兄ちゃんが怪我したら…」
「気にするな!ウォルトは矢が当たっても魔法で治せるから大丈夫だ!」
そういう意味なら納得だけど、人に向けて矢を射るのは覚悟がいる。しかも、相手が兄ちゃんだからなおさら。私が悩んでる気配を察したのか兄ちゃんは苦笑い。
「チャチャ、ゴメン。矢を受けても痛くないから大丈夫だって言えばよかったね。見た方が早いから、ボクに矢を当ててみて」
「う、うん…」
ビクビクしながら言われた通り軽く矢を放つと、身体に当たった瞬間に弾かれてしまった。ペニーは「俺と同じだ!」と喜ぶ。
「魔法で防御してるから刺さったりしない。だから当てられたら負けなんだ」
「そうなんだね」
魔法って凄いな。でも、そうとわかれば…。
「ペニー。さっきは助けてくれてありがとう!2人で兄ちゃんに勝とう!」
「そうこなくっちゃ!今度はこっちから行くぞ!!」
弓を構えると全速力でペニーが駆け出す。一定の距離をとって兄ちゃんを中心に円を描くように疾走すると、慌てずに目で追ってくる。兄ちゃんは冷静だ。
狙いを定めて挨拶代わりに矢を射った。軽やかに矢を躱した兄ちゃんは、距離を詰めようとしてきたけど…。
「うっ…!」
足を踏み出した先に、私は既に二の矢を放ってる。獲物の動きを見越して放つ狩りの手法だけど躱されてしまった。かなり反応が速い。
「今のは危なかった…。ボクの行動を予測して撃ったのか…」
「兄ちゃんはホントに強いんだね…」
お互いに驚いた表情を浮かべる。
「いいぞ、チャチャ!俺も手伝う!」
ペニーの身体が光を纏い、兄ちゃんを見た瞬間、小さな雷撃が落ちて土煙が舞う。ペニーも凄い!
「よし!やったか?!」
風で視界が晴れると兄ちゃんの姿はなかった。いつの間にか少し離れた場所に立ってる。余裕で躱したっぽい。
「2人とも凄いなぁ」
「ウゥゥ~!!避けられた!やるなっ!」
「兄ちゃんも凄いよ。でも…私達も負けない!」
兄ちゃんが強いのはもうわかった。でも、純粋に負けたくない!
★
一進一退の闘いが繰り広げられる。互いに決め手に欠け、膠着状態が続く中でウォルトが口を開いた。
「ボクの力はわかってもらえたんじゃないか?もう手合わせやめようか?」
2人を倒したいワケじゃない。目的はボクを心配する必要はないことを伝えたいだけ。
「なに言ってんだ!俺達は絶対に勝つ!なぁチャチャ!」
「そうだよ!兄ちゃんが相手でも負けたくない!」
相手が誰であれ闘い始めたなら負けたくない。獣や獣人だけの本能だ。ボクもそうなので気持ちはよくわかる。
なにやら話し合ってるけど、遠すぎて会話は聞き取れない。話は直ぐにまとまったみたいだ。
「一気に決めるぞ!チャチャ!」
「よし!いくよ!ペニー!」
ペニーが駆け出すのと同時に雷撃の反応を感じ取った。しかも複数。魔法使いでも難しいことをやってのけるペニーは凄い。
広範囲に幾つか展開して当てにくると予想して、発動する瞬間に回避しようとその時を待つ。
「シッ!」
チャチャの放った矢が集中を阻むかのように迫り、最小限の動きで躱した。
「ウォォォン!」
ペニーの咆哮と同時に3つの雷撃がボクを取り囲むように落ちた。さっきとは威力も桁違いの雷撃。けれど、そのどれもがボクを狙ってない。
直ぐに理由に気付いた。爆音で耳が聞こえない。土煙で視界も塞がれた。コレがわざと外した雷撃の狙いか。2人の策に嵌まってしまった。
土煙から飛び出すのを待っているのか?それとも逆に飛び込んで来るのか?
舞い上がった土の匂いが充満して、周囲の匂いも嗅ぎ取れなくなって八方塞がり。目を閉じて魔法を展開する。
『周囲警戒』
土煙を覆い尽くす程の巨大な魔法陣が地面に現れた。詠唱したのは自身の周囲に警戒網を張り巡らせる魔法。
視覚や聴覚が効かない状態であっても、周囲の地形や魔力反応、人の姿まで鮮明に感知できる。普通なら視界の悪い洞窟のような場所で使用するけど、感覚が失われた今は特に効果的。
土煙の外からチャチャとペニーが飛び込んできた。ボクの立つ位置すら予測していたのか。
「よし!もらったぞ!」
「私達の勝ちだよ!」
ボクに向かってチャチャが矢を放とうとした瞬間…。
『風流』
「うわぁぁっ!!」
「きゃあぁぁっ!」
竜巻のような暴風に巻き込まれて、チャチャとペニーの身体が空高く舞い上がる。『風流』を操作して落下する2人をふわりと着地させた。
夢でも見ていたかのような表情でキョトンとしている2人に笑顔で話し掛ける。
「チャチャをペニーから下ろしたから、今回はボクの勝ちだね」
チャチャはペニーから下りている。言われて気付いたのか悔しさを爆発させた。
「うぅ~っ!悔しい~!魔法って反則だぁ~!!」
「俺も悔しい!けど最高に楽しかった!」
満足そうなペニーと悔しさを隠せないチャチャ。こうしてボクらの手合わせは終わった。
読んで頂きありがとうございます。