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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
671/689

671 アスレチック魔導師

 今日はウイカとアニカが魔法の修練に来てくれた。それに加えて…。

 

「ウォルト。お久しぶりね」

「久しぶりだな」

「お久しぶりです、サラさん。マルソーさんも」


 数少ない知り合いの魔導師である2人も来てくれた。まずは飲み物でもてなす。


「ね、ね、猫がいるぅ~!しかも沢山~!」

「ニャ?」

「か、か、か、かぁ~ぃぃ~~!」


 サラさんは「可愛い」って言いたいのかな?飲み物そっちのけで交流してる。そういえばモフモフ好きだったな。マルソーさんも苦手ではないようで、膝に乗ってきたりしても平然としてる。


「俺は自分が動物に嫌われるタイプだと思ってた。懐いてくれると可愛いな」

「ニャッ!」

「この子達はあまり人を知りません。でも、ちゃんと人を見ているはずです」

「そうか」


 シャノ達の事情を説明して、他言しないようお願いしておく。


「任せといて!絶対に言わない!私は動物愛護派だからね!」

「俺は言う必要性を感じない」

「ありがとうございます」


 人心地ついたところで魔法の修練をやろうと外に出た。




「あのぉ~…。サラさんとマルソーさん…?」

「なに?」

「どうかしたのか?」

「なんでそこにいるんですか?」

 

 2人はボクと向かい合うウイカとアニカの横に並んでる。


「アニカ達と一緒に修練するからだけど、なにか問題ある?」

「その通りだ」


 まさかと思うけど…。


「確認なんですけど…2人に魔法を教えてくれるんですよね?」

「違うわ。今からウォルトの指導を受けるの」

「その通り」


 おかしなことを言ってる。


「ボクが2人に教えることはないです」

「前にも言ったと思うけど、私やマルソーはウォルトと互いに高めあいたいの」

「よく理解するには、ウォルト君の思考を感じる必要があるんだ。逆も然り」

「なるほど」


 一理あるな。ボクの修練を知ってもらえば足りないところを教われるだろうし。


「では、修練を始めます。今日は部分的な魔法操作の修練を2人に教えたいと思うんですが、いいですか?」

「もちろんよ。部分的ってどういう意味?」

「まず簡単にお見せします」


 膝を曲げてその場で跳びあがり、片手を空に伸ばした。


「すごい!」

「どうやってるんですか!?」


 空中を掴んでぶら下がってるように見えてると思う。スッと手を開いて地面に下りた。


「魔法だと思うけど、魔力は隠蔽してないね。どうやったらぶら下がれるかなぁ?」

「なにも掴んでるように見えなかった!私には箱型か板状に成形した『強化盾』を掴む方法しか思いつかない!」

「ほぼ正解と言ってもいいよ」

「近いということは『強化盾』かな?」

「うん!今回の修練内容と関係あるはず!」


 あれこれ意見を出し合えるのが仲良し姉妹の強みだ。ボクは2人の推測を聞くのが楽しくて、意外な発想を授けてくれることも多い。しばらく活発に意見交換していた。


「私達から見えなかったってことは、間違いないね」

「うん!決まり!」

「わかったの?」

「ウォルトさんの行動は、限りなく小さな『強化盾』を利用してます」

「おそらく指先に小さく発動させてぶら下がってました!」

「大正解だよ。完璧に当てられたね」

「「やったぁ!」」


 実際に掌を見せて実践する。指先の皮一枚に沿わせるような『強化盾』を展開した。


「この魔法を空中に固定してぶら下がったんだ」

「発動箇所を局限してるから気付かれないです」

「5つをピンポイントに展開するってことですね!」

「そうだよ。2人の『強化盾』の技量は既に申し分ない。この手法を覚えたら幅が広がる」

「「はい!」」

「ボクの場合、筋力も鍛えてるんだ」


 さっきの要領で魔法を発動して腕だけで上空に昇ってみせる。大きく飛び移るように横移動したりして、身体を鍛えられるから一石二鳥。


「アニカ、早速やってみようよ」

「うん!やろう!」


 姉妹は自分達だけで試行錯誤して魔法を習得しようと努力する。以前は基礎から丁寧に教えていたけど、自然に聞かれることが少なくなって、どうしてもわからないことがあったらヒントを求められる。

 最小限しか頼らず学ぼうとする姿勢が素晴らしいと思うし、だからこそ師匠ではなく友人として助言や手助けしてあげたくなる。


「まずは小さく発動しなきゃだよね」

「それが難しいんだよ~!どうしても大きくなる!」

「肝心なのは魔力量の調節かな?でも、硬度が下がったら意味ないかも」

「今回に限ればぶら下がるのが可能な量に調整して試すのはアリじゃないかな!その方が上手くいくかも!」


 納得いくまで、そして魔力が尽きるまで何度も繰り返し詠唱してる。本当に努力家の姉妹。


 魔力補充だけがボクの出番。やりたいからこのくらいは許してもらおう。



 ★



 私はマルソーとひそひそ話。


「ねぇ、マルソー。できる?」

「無理です。両手を交互に動かしながら、指先だけに魔法を展開するなんて考えたこともありません。繊細すぎます」

「だよね。コレが普通の修練ってどうなのよ。ウイカとアニカはとんでもない魔導師に成長するんじゃないの?まぁ、なってほしいんだけど」


 今だって魔力操作が目に見えて向上してる。明らかに上達速度が異常。師匠が師匠なら弟子も弟子だ。姉妹が修練に熱中してる今の内にウォルトに訊いてみようかしら。


「ウォルト。今の魔法は多重発動になるの?」

「多重発動ではないです」

「数個を同時に発動しているのに?」

「多重発動の定義に詳しくないんですが、ボクの認識では多重ではなく魔法の分割です」

「なるほどな。同じ魔法を多数発動するのではなく、場所を違えて同時に発動しているだけ」

「マルソーさんの仰るとおりです。必要ならアニカ達に教えるつもりなんですが…」


 ウォルトが顔の前で掌を開いて、人差し指の先だけに極小の魔法陣を浮かべた。この時点で理解不能。印も詠唱もなしでできっこないのよ。あくまで魔導師の常識に照らし合わせるとね。


「この魔法操作は魔導師なら簡単にできますよね。1つの魔法を発動するだけなので」

「えぇ」


 無理だけど!でも、話を合わせないと進まない。ウォルトは中指、薬指、小指、親指と順番に魔法陣を浮かべる。


「コレだけなんです」

「なにが?」


 純粋な疑問が口をつくわ!


「ボクが教えられるのはこの程度です。今の操作だけでもあらゆる方法がありますよね?発動の時間差を利用したり、順次展開するだけだったり。多重発動でも可能です。そんな風に魔法の幅を広げるような方法を教えたいんです。友人から褒めてもらえた魔法の幅だけは長所だと思っていて、彼女達に伝えたいので」

「随分偉そうな友人ね」

「エルフの凄い魔導師です」


 私の予想だと、ウォルトの性格を知ってて上手く褒めただけだと思うけれど。


「お2人は簡単にできると思いますが…」


 軽く跳び上がったウォルトが、今度は宙に立って止まる。もしかしてだけど…。


「足の裏から『強化盾』を発動してるの…?」

「はい。手のように上手く発動できませんが、常に修練しています」


 階段を歩くかのように違和感なく空中を歩いてる。淀みない動きはまるで手品のよう。


「魔導師には「そんなことしてなんになる?」と笑われてしまうでしょう。ただ、ほぼ独学であっても修練して今のような魔法使いになれたので、余すことなく伝えて次の師匠に師事してもらいたいと思ってます」

「そうなのね。とにかく知ることを教えてあげて」

「そのつもりです」


 私が姉妹だったら他の人に師事するなんてあり得ないけどね。追いつかない限りは。ウォルトのことが好きなワケだし。


「ウォルト君の思う最も複雑な魔法操作を俺達に見せてくれないか」


 ゆっくり空気階段を降りてきたウォルトにマルソーが訊いた。気になったのかな。


「わかりました。せっかくなのでウイカとアニカにも見てもらいます」


 修練の休憩時間に見せてくれると言う。最も複雑な魔法操作…ねぇ。ウォルトに限ってはどんなモノか想像もつかない。




「今からボクが最も難しいと思う魔法操作を見せます」

「「お願いします!」」


 ウイカとアニカに声をかけて、いよいよ見せてもらうことになった。静かにウォルトの魔力が高まる。いつ見ても美しい魔力は煌びやかで惚れ惚れする。


「この修練はボクが考えました。『弾幕(バラージュ)』と呼んでいます」


 ウォルトが大きな円を描くように両手を動かすと魔法陣が発現した。


「できました」


 え?


「魔法操作って…コレだけ?」

「笑われるかもしれませんが、終わりです」


 ウォルトは苦笑い。どう見ても普通の魔法陣…よね。確かに普通の魔導師に比べたら格段に発動は速いけど、ただそれだけに見えた。毎回驚かせるウォルトらしくないというか…。大きさも普通だし、違うことといえば魔法陣にしては妙にカラフル。


「ねぇマルソー。なにか気付いたり…」


 話しかけながら顔を見たら、マルソーの顔が青ざめてる。というより、血の気が引いて白くなった顔。


「君は……いや、確かに複雑だな」

「恥ずかしながら、ボクにできる今の限界です」


 無理やり持ち直したのがわかる。本当に気付いてるの…?


「ウォルトさん。どこが難しいんですか?」

「ちょっとわかりません!」

「教えようか。近くに来てくれる?」


 姉妹は両脇からウォルトにくっついた。


「そういうことじゃなくて!」

「「えぇ~?」」


 ふぅ~ん。好かれるのはウォルトもまんざらでもないのね。正常な成人男性の反応。


「見てほしいのは魔法陣なんだ」


 3人で近くに寄る。かなり近くで確認してもピンとこない。マルソーはわかってるみたいで、あえてなのか近付かない。


「おかしなところはなさそうなのに、この魔法陣を見てると違和感がありますね。なんでだろう?」

「ウイカの言う通りで、見てると思考が混乱するような感覚になるわ」

「凄くカラフルな魔法陣なのはなんでなのかなぁ………あぁぁぁっ!わかったぁ~!」

「アニカ、わかったの?!」

「うん!この魔法陣、めっちゃ凄い!」


 後輩に先に見抜かれるなんて私もまだまだだわ。悔しいけれど今は興味が勝る。


「どういうことか教えてもらっていいかしら?」

「はい!え~っと、わかりやすいのはどこかな?……この部分を見てください!」


 アニカが指差したのは魔法陣の色の継ぎ目。よく見ると……薄~く切れ目がある。四角形の切れ目…?目を凝らすと1箇所だけじゃない。もの凄く細かい四角が…集合してる…?……まさか。


 注意深く魔法陣全体を観察して違和感の正体に気付いた。コレは…人の為せる魔法なの…?信じられない……。

 

「私もわかった。この魔法陣、無数の魔力を同時に展開して作り上げたんだね」

「そう!パズルみたいに細かく分かれてて、隙間なく同じ魔力が隣り合わないように配置されてる!だから凄くカラフル!」

「色の数からすると、最低でも4種は同時発動で…違う色は魔力の混合で作ってると思う。多重発動と複合魔法を同時に操作してるんだ」

「魔法陣の術式も掛け合わせる技法だから、めちゃめちゃ複雑な操作!神業すぎ!発動まで1、2秒だったよ!」


 この子達の言う通りだ…。弾幕みたいに細かい魔力が集合して魔法陣を構成してる。たった1つの魔法陣を、何百という魔力のブロックを組み合わせて発動するなんて…。神業すぎて笑えないし、誰も想像すらできない。ぶっ飛びすぎてる。

 ウォルトが微笑んでるのは、露ほども自慢気じゃなくて『大正解だニャ!』と言いたそうな顔ね。


「ウォルトさん。この魔法陣はちゃんと効果も発動しますか?」

「もちろんするよ。しないとタダの曲芸になってしまうからね」


 でしょうね…。信じられないけど。


「答えは言わないで下さい!今からお姉ちゃんと考えて当てるんで!サラさんとマルソーさんは、わかってても内緒にして下さいね!」

「わかったわ…」

「あぁ…」


 もちろんわかってないけど。多分マルソーも。議論する姉妹と、傍で微笑みながら会話を聞いてる白猫師匠。


 こっちは離れてまたコソコソ話す。


「マルソー…。私、いよいよ笑えないんだけど…」

「度肝を抜かれたとか、そんな生易しいモノじゃありません。理解した瞬間に衝撃が全身を駆け巡りました。彼は怒るかもしれませんが……もはや人外の魔法です」

「答えはわかってるんだけど、ウォルトのことを本当に黙っていていいのか悩むわ」

「気持ちはわかります」


 アニェーゼ師匠なら笑って受け止めるのかな。今度会ったら言ってみよう。


「久しぶりに…魔導師をやめたいと思いましたよ」

「本気?」

「本気でしたが、時間が経つにつれ燃えてきてます…。会う度に刺激をもらえるのは魔導師として幸せなことでしょう」

「私もそう思う。そんな幸せを他の魔導師にもお裾分けしたいと思うのよね」

「ウイカやアニカがそうするでしょう。ウォルト君は興味がなくても、後継者がいるだけでカネルラ魔導師の未来は明るい」

「そういえば、マルソーは昔から女性差別しなかったわね」


 昔から無愛想だったけど、男女の別で態度を変えたりしなかった。


「体力や筋力を比べるなら女性が劣るかもしれませんが、冒険者には力強い女性も多い」

「そうね。男勝りは沢山いる」

「魔法もそうです。女性が劣る明確な答えがないのに蔑む理由がありません。理論的じゃない」

「そんな理解があるマルソーに…女性魔導師紹介しようか?」

「揶揄うのはやめてください」

「揶揄ってないわ。前はマルソーのこと誤解してたの。デキる魔導師の典型って感じでさ。でも、交流してそうじゃないってわかったから堂々と紹介できる。どう?嫌ならいいけど」

「…考えさせてください」


 マルソーは真面目で性格が固い。でも、理解力に優れてるから女性魔導師と対等に話せて長く付き合っていけそう。やせてるけど容姿も普通だし。


「了解よ。ちなみに、ウイカとアニカは無理だから」

「俺をバカにしすぎです。わかってないのはウォルト君だけでしょう」

「ふふっ。だよね」


 いつの間にか姉妹に挟まれて楽しそうに会話してる。修練は辛いのが当たり前なのに、同じくらい楽しんで魔法の修練をしてるのはカネルラじゃこの子達だけじゃないかな。

 姉妹揃って凄い魔導師に成長するのは疑いようもない。初めて見たときに感じたまま。さらに最高の師匠が傍にいるんだから。

 カネルラ魔導師の歴史に残る大魔導師姉妹になる。生きてる内に見れたら最高ね。


「マルソー。私達もやり方聞いとく?」

「そう思ってました。姉妹にも負けたくない」

「あと、お礼になるような魔法の知識をウォルトに教えてあげてね」

「また俺ですか?サラさんも考えてください。毎回心苦しいんですよ。与えられた知識に釣り合わない知識を教えて心底喜ばれるのが」


 マルソーが魔法の基礎知識を伝えると、子供のような顔で聞いてくれるのよね。ちょ~っとだけ罪悪感が生まれるのは確か。


「いいじゃない。ウォルトは喜んでるんだから。簡単でしょ?」

「そこまで言うなら今回はサラさんに任せます。俺は一切喋らないのであしからず」

「ひどっ!こらっ!」


 スタスタと歩いて行ってしまった。真面目魔導師め…。やっぱり紹介するのやめようかしら…。

 仕方ない…。こうなったらやってやろうじゃないの!ウォルトは凄い魔導師だけど、完全無欠ってワケじゃない。知らないことも沢山ある。1人で全てを抱え込めるほど魔法は甘くないんだから。

 大魔導師アニェーゼ師匠の弟子として、そして魔導師の先輩として、サラ姉さんの魔法講座を聞かせてあげよう!


 ちょっと反応が怖いけどね!

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