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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
67/706

67 獲物と狩人

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

「いいだろう。ただし、ウォルト殿に迷惑をかけるな」

「やった!父さん、ありがとう!」


『動物の森』の伝説である銀狼(フェンリル)のギレンは、まだ幼さの残る1人息子ペニーの願いを聞き入れていた。ペニーが、友人であるウォルトの家に泊まりに行きたいという願いを。



 銀狼は『森の守護者』として代々語り継がれてきた存在だったが、いつしか存在を忘れられ今ではすっかり未知の怪物扱いされている。それでも銀狼達は森の奥深くで静かに動物の森を見守ってきた。


 元々、個体数が少ない銀狼の中で最も若いペニーは、まだ銀狼として充分な強さを持たず、もう少し成長するまではと大事に育ててきたのだが、過去に助けられた恩ある獣人と再会して友人になったという。

 獣人ウォルトのことは知っている。以前、ペニーから森で迷ったところを保護してもらったことを聞き、他種族とはいえ礼を言わねばと会いに行ったところ、非常に知的かつ温厚な獣人で人柄に好感を持った。


 彼はペニーが銀狼であることすら気付いていない風だった。ただの狼に見えたであろうに、人語を解することに驚いているように見えなかった。不思議な獣人。

 最近悩んでいた節々の痛みも、先日ペニーが持ち帰った薬で改善されたこともあり、頭が上がらない。銀狼に効く薬をどうやって作ったのか疑問だが…。


 ペニーが友達(ウォルト)に会いに行くこと自体は、やぶさかではない。ただ、いかんせん里から彼の家までは距離があり、移動中に強大な魔物に遭遇して万が一のことがあったら…と、親バカと言われようと心配で仕方ないのだ。


 しかし、ウォルトとの再会はペニーに影響を与えているようで、銀狼として成長するタメの訓練もサボらなくなり、「色々なことをちゃんとやるから会いに行かせてほしい」と言ってきた。

 やることをやって言われては断れず、今日は久しぶりに宿泊を許可した次第。笑顔で感謝を述べて、一目散に駆けていく息子の後ろ姿を見送りながら隣に並ぶ妻のパースも目を細める。


「あの子は、よほどその友達が好きなのね」

「あぁ…。少しウォルト殿が羨ましくもある」

「あらあら」



 ★



 森を疾走するペニーは、真っ直ぐウォルトの家を目指していた。


 今日は一緒になにをしようか考えながら駆ける。ときどき休憩を挟んでいたけど、はやる気持ちを抑えきれず途中からは休みなく突き進む。


 そうして駆けること1時間くらいでウォルトの住み家の近くまで移動してきた。


 よ~し!あと少しだ。


 ラストスパートに入ろうとして何者かに見られているような気配に気付き、木陰に素早く身を隠す。


 なんだ…?相手の姿は見えないけど、間違いなく近くに潜んでる。匂いはするのに音も立てず姿も見えない。


 コイツ…狩人とかいう奴だな。弓や武器で獣を狩ることを生業とする者がいるとウォルトが教えてくれた。


 ペニーは狩人に狙われているこの状況をどう打破したものかと思案する。迂闊に飛び出せば格好の的になるのは目に見えているし、狩人の潜む場所も特定できてないから攻撃することもできない。


 


 しばらく膠着状態が続いたが、ペニーは先に動くことを決意する。


 早くウォルトに会いたい。ようやく許可をもらって遊びに来たのに、こんなことで貴重な時間を使うことになると思ってなかった。要するに、諦めない狩人に段々腹が立ってきた。

 普通の獣なら根負けして飛び出した時点で狩人の思うつぼ。だが、ペニーはあえて姿を晒す作戦に出る。

 武器が飛んできてもいいように神経を尖らせておく。すると、前方の草むらからシュンと音を立てて矢が飛んできた。


 避ける素振りもなく、矢が発射された場所を確認して毛皮がうっすら銀色に輝く。矢が命中した…かと思われたが、矢尻は刺さることなくキン!と金属音を響かせて毛皮に弾かれた。


 次の瞬間、ペニーは矢が発射された草むらに駆け寄り、憎き匂いの元に跳びかかる。伏せて潜んでいた狩人は為す術なく押さえ込まれてしまった。


「噛み殺してやる!」


 頭に血が上っているペニーは、狩人の首筋に剥き出しの牙を突き刺そうとした瞬間、あることに気付く。


 コイツから…ウォルトの匂いがする。


 友達の匂いで冷静さを取り戻し、押さえつけている狩人に話し掛けた。


「もしかして、ウォルトの知り合いか?」

「…えっ?!狼が喋っ…た?な、なに?」

「お前は白猫のウォルトの知り合いか?」


 のしかかったまま再度確認する。


「そうだけど…」

「もしかして…チャチャか?」

「…なんで狼が私を知ってるの?」

「俺はペニー。狼じゃなくてウォルトの友達だ。お前のことは聞いたことがあるんだ。俺を狩ろうとしないなら離してやる」

「そういえば、兄ちゃんの友達に人語が通じる狼がいるって聞いたことある…。冗談だと思ってたけど…。私はもう狩らない」


 脱力してチャチャから離れると、チャチャは立ち上がって謝る。


「兄ちゃんの家に行ってきた帰りなの。獣の気配を感じたから狩って帰ろうと思って…。ゴメンね。兄ちゃんの友達って知らなかったから」

「会うの初めてだからな。ウォルトの知り合いを傷付けなくてよかった!」

「ありがとう。今から兄ちゃんのところに行くの?」

「久しぶりに泊まりで遊びに来たんだ」

「いいなぁ。羨ましい…」

「そうなのか?」

「私も泊まってみたいな…。でもな…」


 なんで悩んでるか知らないけど、だったら泊まればいい。


「チャチャも一緒に泊まろう!沢山いたほうが楽しい!」

「…そうしたいけど、父さんがなんて言うか…」

「大丈夫!俺も最初は父さんに内緒で泊まったんだ。帰ってからめちゃくちゃ怒られたけど。でも、ウォルトといると勉強になるし楽しいぞ!」


 チャチャは「う~ん…」と首を捻る。


「家に戻って許してもらえばいい。俺の父さんなんか薬までもらって世話になってるから許してくれたんだ」


 チャチャは『それだ!』という顔をして、「ありがとう。またね、ペニー」と足早に去った。


 なにが「ありがとう」なんだ?よくわからない。


 ペニーはウォルトの住み家を目指し再び駆け出した。



 ★



 ウォルトは、遊びに来てくれたチャチャとお茶を楽しんだあと冒険者達の墓地の周囲を整えて花を供えていた。


 彼等の命日には花を飾るのが自分なりの弔いであり、忘れないタメに続けている決まり事でもある。


 祈りを捧げて家に戻ろうとしたとき、ペニーの匂いを嗅ぎ取る。訪ねてきてくれたことを嬉しく思っていると、尻尾をバタつかせながら全力で駆けてくるペニーの姿が目に入った。


 立ち止まって待つ。


 どんどん姿が大きくなる…けど、一向に減速する気配がない。ペニーは全速力のまま跳びついてきた。


「ウォルト~!」


 危ない!と感じて瞬時に『身体強化』を身に纏い全力で受け止めると、グラつきながらなんとか勢いを殺すことに成功した。


「久しぶりだな!元気だったか?」


 尻尾を振り回して笑顔を見せる。


「久しぶりだね。ボクは元気だよ。ペニーは逞しくなったんじゃないか?」

「へへん!ちゃんと鍛えてるからな!」


 立ち上がったペニーの体長はボクより一回り小さい。前に保護したときは身長の半分くらいだった。どこまで成長するか知らないけど、このままいくとボクより大きくなるのは間違いなさそうだ。


 ペニーは笑いながら予想もしないことを口にする。


「さっきチャチャにも会った!」

「えっ?!ペニーはチャチャに会ったことないよね?」

「ないけど、狩人が俺を狩ろうとしてきたから反撃したら、ウォルトの匂いがしてチャチャだったんだ」

「それは……無事に済んだのかい?」

「お互い無傷だぞ。チャチャのことは聞いてたからな。ウォルトのおかげだ。ちょっと危なかったけどな!」

「ありがとう。ホントによかった…」

 

 2人は大事な友達。友人同士が怪我でもしたら辛すぎる。力量から察するに、ペニーが手加減してくれたのだろう。感謝しなければ。


「ウォルト!今日泊まってもいいか?」

「もちろん。一緒にご飯を食べよう」

「やった!チャチャも来るかもしれないしな!」

「チャチャが?」

「泊まりたいって言ってた!誘ったんだ!」

「そっか。でも、どうだろう?」

「どうしたんだ?チャチャが泊まるの嫌なのか?」


 ペニーは首を傾げる。


「違うよ。ボクは嬉しいけどチャチャは女の子だからね」


 ペニーは首を傾げてるけど、見ず知らずの男の家に女の子を泊まりに行かせる親はいない。ボクなら行かせない。


「なぁ。ウォルトの身体の周りでふわふわしてるのはなんだ?」

「ふわふわ?もしかして…ペニーは魔力が見えてる?」


 ボクの魔力が見えてるか試してみよう。


「緑っぽいのが見えるぞ。魔力っていうのか?」


 間違いない。『身体強化』の魔力が見えている。魔法を使う魔獣も存在するから可能性はある…のか?ペニーは…もしや魔狼?でも、魔狼は独自の言語を操ると云われてる。やっぱり違うような気がする。


「ペニーは魔法って知ってるかい?」

「魔法?それってどんなの?」

「炎や氷を出したり傷を治したりするんだけど」

「…あっ!もしかしてこういうヤツか?!ウゥ~!」


 低い声で呻るとペニーの毛皮が輝きを放つ。魔力のように見えるけど、ボクの見立てでは魔力とは違う。

 光沢を帯びたペニーの毛皮が浮き上がり、一瞬強い光を発したかと思うと、少し離れた場所に雷撃が落ちた。初めて見るけど凄い威力だ。


「これならできるぞ!魔法か?!」

「魔法みたいだけど、ちょっと違うかな」

「じゃあ、魔法ってヤツを見せてくれ!」

「いいよ。まず炎を出してみようか」


 上に向けた右の掌から炎が発現すると、ペニーは大興奮。


「すっげぇ~!!」


 尻尾を振り回して駆け回る。喜んでくれて嬉しい。


「こういう魔法もあるよ」


 左手に多重発動で水の球体を浮き上がらせる。


「ウォルトってなんでもできるな!」

「そんなことないよ」

「俺もできるかな?」

「やってみないとわからないけど、修練すればできると思うよ」

「ホントか?!」


 さっきの雷撃を見る限り、ペニーは魔法に似たモノを操る。であれば、おそらく不可能じゃない。それにしても、本当に魔狼のような気がしてきたけどどうなんだろう?


 その後は、しばらくペニーと魔法を修練して夕食までの時間を過ごした。


「面白かったぞ!」

「そっか」


 魔法を使えるようにはならなかったけど、なんとなく理解できたらしい。それだけで凄いことだと思う。ボクより才能がある。


「そろそろ夕食にしよう。ペニーは肉がいいよね?」

「いいのか?嬉しいけど別にウォルトと同じ飯で大丈夫だ」

「いい肉が手に入ったんだ。チャチャがくれたんだよ」

「やるな!チャチャ!」


 すぐに調理を開始して、ペニーは待ちきれないといった様子で居間をウロウロしている。

 そうこうしていると、玄関のドアがノックされて対応に向かう。誰も訪ねてくるような時間じゃないけど?ドアを開けるとリュックを背負った笑顔のチャチャが立っていた。


「忘れ物でもした?」

「ううん。兄ちゃん、私も泊まっていいかな?」

「もちろんだよ。でも泊まって大丈夫?両親に心配かけるんじゃ」

「今日は大丈夫。ちゃんと父さんに許可もらったから」

「そっか。ちょうど今から夕食を作るところなんだ。チャチャから貰ったカーシでね。さぁ入って」

「お邪魔します」


 居間に戻るとペニーが駆け寄ってきた。


「チャチャ!泊まりにきたのか?!よかったな!」

「うん。ペニーのおかげだよ」

「なにもしてないけど俺のおかげか!今日は楽しくなる!」


 その後、3人で晩ご飯を食べて夜は他愛のない話をしながらゆっくり過ごした。


 狩人と獲物という最悪の出会い方をしたペニーとチャチャはすっかり打ち解けて、今日は同じベッドで眠ると言う。


 ペニーにとっては予期せず友達が増えた最高の1日になったみたいだ。

読んで頂きありがとうございます。

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