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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
660/687

660 淑女の嗜み

 フェリペ解呪騒動から数日後。


 リスティアからウォルトに連絡が来た。『住み家に連れていって!』と言うので、空間を繋げてご招待。


「ウォルト!久しぶり~!」

「久しぶり。また大きくなったね」

「でしょ!」


 抱きつかれたら成長がよくわかる。背が伸びて体重も増えてるなぁ。リスティアは長い時間滞在することはできない。とりあえず花茶だけ淹れよう。


「フェリペの件、事前に連絡しなくてゴメンね」

「気にしなくていいよ。教団内部の揉め事には介入できないんだろう?」

「そうなの。私の予想では王城関係者にも信徒はいる。どこで話を聞かれてるかわからないから連絡できなかった。私はまだしも、アルバレスに危険が及んだらいけない」

「なるほどね。アルバレスさんとはどうやって連絡を?」

「手紙が来た。1番安全な手段だから。読んだら直ぐに隠滅したよ」

「教団はそこまで油断できない組織なのか」

「実態を掴みきれてないけど、いざとなったら実力行使も辞さないみたい」

「それは王族側もだろう?」


 聖騎士や信徒という戦力に対抗して、暗部や騎士を動かすことができる。互いに争いは避けたいはず。


「そうだね。カネルラの信徒はさほど過激じゃないけど、中には教団が国政を牛耳ろうとした国もあるんだよ」

「凄いな」


 国民総出で神を崇める国でも作ろうとしたのか?


「ココは安全に話せるから気が楽!フェリペの解呪は教団で話題になったみたい。見知らぬ生贄を捧げて解呪したと思ってる信徒が多いみたいだけどね。さすがウォルトの魔法!」

「たまたまだよ。解呪したところであの人はずっと問題を抱えていきそうだ。余計なお世話だろうけど」

「私宛にフェリペからも手紙が来た。感謝の言葉が綴られてたよ。『王女様とサバトの関係を羨ましく思う』って」

「羨ましい?」

「ウォルトと友達になりたかったんじゃないかな」

「言ってることが理解できないから無理だね」


 ボクとフェリペさんは価値観が違いすぎる。他人同士の当たり障りない会話が関の山。友人にはなれそうにない。


「フェリペは教団で変わり者扱いされてるみたい。でも、友人を大切にしたり普通だと思うな」

「確かにアルバレスさんのことを大切に思っていたね」


 ボロボロのアルバレスさんを目にした時だけ感情を露わにした。その時、初めて人らしいと思えたんだ。


「昔から感情を表に出さないらしいよ。だから誤解を受けやすくて敵が多いみたい。でもいい奴なんだって手紙に書いてた。派閥内では、解決するタメの生贄にアルバレスを推す声もあったけど固辞したって」

「そうか」

「ウォルトには関係ないよね」

「当然の選択だ。フェリペさんの人間性は長く付き合ってこそわかるのかもしれない」


 ボリスさんも最初は親しくなれないと思っていた。手合わせで腹を割った話を聞いてから幾分か印象が変化して話しやすくなったけど。


「面倒事を押しつけたみたいでゴメンね」

「気にしてないよ。教団の体質や信徒を多少なりとも知ってタメになった。普通に暮らしてたら絶対に関わらない」

「あとね、話は変わるけどもう1つお願いがあって」

「なに?」

「宮廷魔導師にロベルトって指導者がいるの。サバトに会いたいんだって。クウジから仲介をお願いされた」

「宮廷魔導師がボクに?」

「クウジの兄弟子にあたる魔導師で、元々王都の冒険者ギルドで魔導師部門を統括してたのをクウジが引き抜いたの。サバトとクウジが知り合いだって気付いてたらしくて、会ってみたかったんだって」


 いろんな魔導師に会って、魔法について話してみたいから断る理由はない。魔導師を統括するライアンさんの弟子なら素晴らしい技量だろう。ただし…。


「ボクの素性を秘密にしてくれるかな?」

「信頼できると思う。誠実な人柄で口も固い。魔導師としての実力はよく知らないけど、ロベルトが来てから宮廷魔導師はいい方向に変わった」


 リスティアには悪意を持つ者を見抜く目があるとアイリスさんは言った。この子の資質はボクも疑う余地はない。


「会ってもいいよ」

「本当に大丈夫?」

「話してみたいし、興味はある」

「クウジが頼んでたら了承してくれた?」

「本人に会うのはいいけど、紹介された人には会わない」

「そうなんだ」

「ボクはクウジさんのことが嫌いだ。あの人は獣人を蔑む人種で、たまに遭遇する輩となんら変わりない。ただ、師匠思いで技量の高い魔導師なのは知ってるし、魔法の話くらいならできるけどね。リスティアを信用する」

「ありがと!」

「驚かせないよう武闘会の格好に変装しておこうか」

「その辺はウォルトに任せるよ。来る日が決まったら連絡するね。ウォルトは私に頼みたいこととかないの?」

「別にない……いや、お願いしたいことがあった」

「なになに?!」


 あるモノを渡してもらうようお願いする。喜んでもらえるといいけど。



 その後はまったり会話しながら過ごしてリスティアを部屋まで送ることにする。魔法で空間を繋げて…。そうだ。いつも指摘されるから言っておこう。


「ウォルト、またね!」

「リスティア」

「なに?」

「最近、立派な淑女に成長してるね」

「ふふっ。心がこもってないなぁ~。女性にお世辞を言ってもすぐバレるんだよ~?特にウォルトの場合はっ!」

「お世辞じゃないんだけど」

「まぁ、その内嫌でも言うことになるから待ってて!ウォルトは嘘を吐けないから!じゃあね!」


 笑顔のリスティアは、空間の割れ目を通って自分の部屋に帰った。凄い自信だ。その時を楽しみに待とう。



 ★


 

 次の日。


 カネルラ王城では王族女性陣によるお茶会が開かれていた。会場はいつもリスティアの自室。


「いつ見ても綺麗ね」

「とても今が昼とは思えません」

「何度見ても不思議です」


 私の部屋にはウォルトがくれたプレゼントの魔法の星空を映し出してる。3人とお茶を飲むときは毎回リクエストされるから。

 この星空を見ると、ジニアスやエクセル、ハオラもぐっすり寝てくれるみたいで、知らない内に王族の平穏な日々に貢献してくれてる親友の凄さ。


「ナイデル様も心が震えたと言ったわ」

「ストリアル様ならどうでしょうか?」

「あの子は空想家(ロマンチスト)ではないから、どうかしら?反応は読めないわね」

「アグレオ様は、見たらしばらくぼ~っとしていそうです」

「あの子は感受性が強いけれど、細かいことに気を配れないところがある。理解できずぼんやりしそうね」


 すっかり嫁姑で仲良くなったね。王族の女性陣といえば、跡目争いが勃発して血生臭い関係を築いてる国もある。今のところカネルラは無縁。妃の関係性うんぬんより、王子、王女が仲良くできているのが大きいと思う。


「リスティア。教団で不思議なことが起こったと聞いたけれど、彼が関係してるの?」

「実はそうなの」


 お母様やお姉様達は、国内で不思議なことが起こった噂を耳にすると、ウォルトが絡んでるんじゃないかと思って私に確認してくる。

 私も行動を全て把握してないけど、訊けば答えてくれる。結果、ほとんどの噂にウォルトは絡んでない。ただ、あり得ない噓のような噂に関係してることがある。


「あまり危険なことに首を突っ込まないようにね。教団は不透明な組織よ」

「わかってる。でも、信徒もカネルラ国民だから」

「だからこそ複雑なのだけど」


 フェリペもアルバレスも国民の1人。王族に関わってはいけないとわかっていながら助けを求めるなら見過ごせない。


「お父様も薄ら気付いてるだろうけど、なにも言われてない」

「読み切っているのよ。彼の魔法を認めてからは、より理解が深まっている気がする」

「やっぱりそうかな」


 最近のお父様は、『サバトがなにをしても驚かない』というスタンス。内心は読めない部分もあるけど、『理解できないのだから、悩むだけ無駄』と思ってそう。気になることは直接訊いてくると思う。


「ところで、皆にお願いがあるの。ウォルトから頼まれたんだけど」

「珍しいわね」

「なんでしょう?」

「できることなら協力します」


 テーブルの上に硝子の小瓶を3つ並べる。ウォルトから受け取ったモノ。


「お父様達には内緒にしてもらっていい?」

「いいわよ」

「もちろんです」

「誰にも言いません」

「大したことないお願いだから、身構えずに軽い気持ちで聞いてね。まず、この瓶に入ってるのは整髪料なの」

 

 3人がピクッ!と反応した。


「ウォルトが調合して艶と張りが出るんだって。でも、お母様やお姉様の髪質がわからないから、汎用に使える配合にしたらしいの」

「気になるわ…」

「えぇ。とても…」

「是非もないです…」


 予想通り食いついてるね。


「ちなみに、私の髪質には詳しいから専用で作ってくれたのがコレ。ちょっと使ってみるね」


 薄く掌で伸ばして毛先に軽く塗ってみる。しばらく浸透させてから見てもらう。


「凄いわ…」

「光沢がある金色に…。しかもサラサラです…」

「手触りも最高で、少しの癖もないです…」

「使うとこんな感じなの。もしよかったら、使った感想を聞きたいんだって。あと、おかしな成分は入ってないけど、髪質に合わないと判断したら使わないでって」

「ウォルトはなぜ急に?」

「前に髪を艶々のサラサラに乾かす魔法の話をしたの覚えてる?」

「えぇ」

「凄い魔法だと思いました」

「毎日お願いしたいくらいです」

「お母様達が褒めてたって教えたら、嬉しかったみたいで作ってくれてたの」


「ちょっとでも役に立てば」って笑ってた。王城には腕のいい薬師がいるのを知ってるから、必要ないっていう勘違いなんだな。ウォルトにとっては、整髪料にしても薬にしても、調合して作るモノは全部同じくくり。普通は分業だってわかってない。


「早速使ってみるわ」

「湯浴みの後に使わせて頂きます」

「楽しみすぎです」

「明日にでも効果を教えてね」




 次の日は、朝から明らかに皆の様子が違った。夕食後にまたまた私の部屋に集合。


「リスティア。言うまでもないと思うけれど」

「うん。見てわかった」


 3人の髪はいつもと全然違う。艶々の仕上がり。


「驚きしかなかったのです。仕上がりもそうですが、とてもいい香りがして心が落ち着きます」

「汎用品なんて信じられません。売り出したならカネルラ中の女性が群がりますよ」

「とりあえず好評でよかった!お父様とお兄様にも!」

「なぜわかるの?」

「昨夜はかなりイチャイチャしたでしょ!朝食のとき、婚姻を結んだばかりの頃みたいな雰囲気醸してた!カネルラ王族の結束を強めるのに一役買ったね!」

「ハッキリ言われると恥ずかしいわね…」

「いいことだよ!私は嬉しい!」


 末永く仲良くしてほしいから。

 

「ところで、ウォルトに髪質を伝えたらもっといい整髪料ができるかしら?」

「できると思う。頼んでみようか?」

「頼みたいわ。式典や会食の特別なときに使いたい。でも、彼の気分を害さないかしら?」

「ちゃんと確認するけど、モノづくりが趣味だから喜ぶと思うよ」

「そうなのね。ところで、どう伝えればいいの?」

「皆の髪の毛を1本ずつもらえる?あと、好きな匂いとか教えてくれたら、よりいいかな」


 皆の要望を記憶しておく。寝る前にお願いしてみよう。


「リスティア。強欲な望みだけれど、肌の保湿液と…白髪染めもお願いしてみてもらえるかしら…?」

「いいよ。頼んでみるね。お姉様達の分も?」

「「お願いします!」」


 3人とも綺麗だし、「気にすることない」って言いたいけど、王族の妻として努力を欠かさないことを知ってる。

 要人に会ったりするとき、著しくお父様達やカネルラの品位を落とすような存在であってはいけない…と、お母様達は常に自分を磨いてる。容姿を磨いて美しく保ち、教養を高めて夫を支える影の努力は私にとってのお手本。

 あと、女性は誰しも『若くありたい』という願望があるらしくて、焦燥に駆られるらしいけどまだ実感がない。早く大人になってウォルトを悩殺したいと思ってるくらいだから。


「この整髪料は世に広めるべきだと思うの。多くの女性に幸福が訪れる」

「私もそうなればいいと思うし、製法は教えてくれたよ」

「本当に欲がないわ」

「ただし、工程や素材が多いのと、魔法を使って効果を高めたりしてるから普通の職人には作れないと思う」


 ウォルトが書いてくれたメモを見せる。


「…頭が痛くなりそう」

「もはや伝説の錬金術では?」

「とんでもなく手間がかかってますね」

「試行錯誤しながら作って、覚えたら二度目以降は直ぐできるって言ってた」


 自称平凡なウォルトが作るモノは非凡。


「素晴らしい腕を持ちながら、限りなく狭い世界で振るっている。そんな者が他にもいるのなら陽の目を浴びてほしい。彼に出会ってから強く思う」

「ウォルト以外なら喜んでくれるかも」

「リスティア。貴女もそうよ」

「私が?なんで?」

「素晴らしい才覚を持ちながら、父と兄の影に隠れて生きている。もっと広い世界に羽ばたくべきだと思うわ」

「自分ではそう思わない。大層な目標もないよ。どこかで女王になってウォルトに仕えてもらいたいけど、女王じゃなくてちょっと人に仕えてもらえる立場でもいいし」


 あとはウォルトを悩殺することくらい。


「ココだけの話をするわ。リスティアは…ウォルトが好きなの?」

「好きだよ」

「1番好ましい男性?」

「もちろん。断トツで。でも、私は恋愛とかよくわからないの」

「いいのよ。その歳で世の全てをわかっていたら異常なのだから」

「お母様とお姉様に訊きたいんだけど、恋とかすると『この人の子供を生みたい』とか『駆け落ちしてでも一緒にいたい』って思う?そこまでの気持ちをウォルトに感じたことないの。ずっと一緒にいてほしいとは思うけど」


 3人とも首を傾げて悩んでくれてる。


「私の場合は、ナイデル様の子孫を残さなきゃという使命感が強かった。ストリアルが生まれてから愛情が徐々に強くなった気がするわ。柵が外れたというか」

「私も王妃様と同様で、エクセルが生まれてホッとしております。単純に愛だけに身を任せることはできなかったのです。今でもふと不安になることがあります」

「私は結構楽観的でしたね。成るようになれって感じで。アグレオ様が庶民になればいいのに、って思ってましたから」

「あははっ。それはいいね!お兄様も市政の勉強になったはず!」


 相談できる相手がいるっていいことだ。三者三様でいいんだよね。私とウォルトの関係も、無理に型にはめることはないと思えるよ。

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