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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
65/707

65 俺でも魔法使いになれますか?

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

 アニカとオーレンにとって久しぶりに冒険の予定がない休日。


 私とオーレンは揃ってウォルトさんの住み家を訪ねた。


「いらっしゃい」


 修練しにきたワケでもないのに、ウォルトさんはいつもの如く笑顔で出迎えてくれる。1人で行こうと思ってたけど、オーレンは相談したいことがあるらしくて同行してきた。

 ちなみに、オーレンが私のお姉ちゃんにフラれた理由については結局教えてない。教えてやるつもりもない。

 

「久しぶりだね。最近も忙しいの?」


 熱いお茶をすするウォルトさん。


 熱い料理を食べれない人のことを『猫舌』と表現するくらい猫は熱いモノが苦手だと云われてるけど、ウォルトさんは平然と熱々のお茶を飲む。『熱々だニャ~』とか言いそうな顔で。


 猫と猫人の舌は違うのかな?もしくは迷信?


「ランクが上がってクエストに時間がかかるようになったんです。疲れ切って帰って寝るだけの日もあります」

「大変だね。身体は大丈夫?」

「私は元気が取り柄なんで問題ないです!」

「休みの日に住み家まで来るのは辛くない?ボクは嬉しいけど、無理してるんじゃ…?」

「「無理はしてないです!」」

「最近はどんなクエストをこなしてるの?」

「色々あるんですけど……そうだ!俺達ムーンリングベアを討伐できました!他の冒険者の力を借りたんですけど」

「かなりギリギリだったけど、修練の成果は出せました!」

「ムーンリングベアを倒したなんて…。強くなったね。日頃の修練の賜物だよ」


 褒めてもらえて凄く嬉しい。強敵と冷静に闘って倒すことができたのは、ウォルトさんと修練したからだし、もっと言えば命を助けてもらったから。



 ★



 近況を語ったあと、オーレンが相談したかったことを伝える。


「ウォルトさんに相談したいことがあります。俺の魔法適性についてなんですけど」

「オーレンの魔法適性?」

「魔法は視えるんですけど、詠唱できないと自分では思ってます。けど、実際のところはどうなのか知りたくて」


 以前から自分に魔法の適性がないのか知りたいと思っていた。アニカに頼ることなく、自分で剣に魔法を付与できるようになるだけでも冒険に役立つ。

 もし適性があるなら魔法を覚えて能力を伸ばしたい。ウォルトさんに無理だと言われたら素直に諦められる。


 アニカがポンと肩に手を乗せてきた。


「きっと適性ないよ!エロ剣士だし!」

「うるさいな!エロいかは関係ないだろ!男は全員そうなんだよ!」


 勢いで「ウォルトさんもだ!」と言いいかけて思い留まる。数秒後、アニカにぶん殴られる未来が見えた。


「確かにオーレンの魔法適性は調べたことなかったね。早速だけど調べてみようか」

「私も見てていいですか?」

「もちろん」


 アニカは興味津々な様子。ウォルトさんは俺の両手をそれぞれ握った。アニカに怖い顔で睨まれてるけど、別に役得でもないから無視する。


「今から調べるよ。なにか感じたら教えて」

「わかりました」


 なにも感じないからしばらく黙っていたけど、少し経って気付く。


「えっと…両手から温かいなにかが身体に流れ込んでくるような…。微かにですけど。身体が熱くなってきました」

「うん。オーレンは魔法の適性があるよ」

「ホントですか!」


 マジか!ラッキーだ!


「ただ、付与魔法が使えようになるにはかなりの修練が必要だと思う。ボクにわかるのはココまでだよ」

「充分です!今のでなにを確かめたんですか?」

「オーレンの体内に魔力を流したんだ。感じるまで量を徐々に増やしながらね。魔法適性がない人は、大量に流しても魔力を感知できない。魔力を感じられたということは、魔力を操る器官がきちんと働いてるってことだよ。アニカ、ちょっといいかい?」

「はい!」


 ウォルトさんは同じようにアニカの手を優しく握る。


 手が温かくて気持ちいい…。ウォルトさんに肉球はないけど、掌が柔らかくて動物の肉球みたいにプニプニしてる…。


 …ってとこか?アニカの顔に書いてる。ちょっと気持ち悪い。


 頬を赤らめるアニカをニヤニヤしながら見ていると、『余計なこと言うなよ』と一睨みされたので目を逸らして誤魔化す。


「すごく温かいです…」

「今のでオーレンに流した魔力の10分の1くらい。なのに普通に反応できているアニカは、魔力に敏感で扱いも上達しやすい。オーレンが魔法を操るには、アニカの10倍とは言わないけど魔力を操るための器官を揺り起こさなきゃならない」

「俺が魔法を操れるかようになるかは修練次第ってことですね!」


 やる気出てきた!やればできる!


「修練すれば使えるようになるから心配はいらないよ」

「なんで言い切れるんですか?」

「ボクが師匠に適性を調べてもらったとき、オーレンに流した倍以上の魔力を流されるまで気付かなかった。だから、オーレンの方が魔法の適性がある。アニカもそうだけど、ボクから見たら才能の塊だ」


 また出た…。ウォルトさんの異常に低い自己評価には師匠の存在が大きく関わっている。


 魔法の師匠から「お前のような魔法使いは世の中にゴマンといる。ゴミ屑みたいな魔法使いがな。調子に乗るなよクソ雑魚が」と言われ続けて今に至るらしい。

 めちゃくちゃ口が悪く感じたけど、むしろ柔らかめに表現してると笑った。貶してくる言葉に毎回ちょっとだけ変化があるらしい。

 師匠しか魔法使いを知らないウォルトさんは評価を真に受けてる。自分が魔導師だと名乗ったりしないし、魔法に関して自分ができることは皆ができると思ってるみたいだ。


 ウォルトさんの師匠はどれほど凄い魔法使いなのか?とにかく凄いらしいけど。


 その後、魔法の基礎を教えてもらう。アニカにも「日頃の修練を補助してくれないか?」とお願いしてくれた。

 そうこうしている内に夕食の時間を迎えて、談笑しながら美味な夕食に舌鼓を打った。



 ★



 遂に勝負の時が来た!


 夕食と入浴を終えて部屋に戻ったアニカは、アニマーレで買ってきた服に着替えて臨戦態勢を整えていた。私の服装を見たオーレンの感想は…。


「似合ってないことはないけど、なんていうか…地味だな」

「黙らっしゃい!この服は…私とギルドの皆さん…そして勧めてくれた人の気持ちが込もった戦闘服なんだ!唐変木のオーレンにわかるはずもない!」

「そこまで言うか。まぁいいや。撃沈しても骨は拾ってやるから心配すんなよ」


 ふっと鼻で笑うオーレンにムカッときた。


「オーレン…。アンタはそんなだからお姉ちゃんに……ってそんなことはどうでもいいのよ!」

「そこまで言ったら最後まで教えろよ!俺はなにを言った!?やらかしたのか?!」

「お姉ちゃんは「オーレンのこと好きだったのに…」って言ってた」

「じゃあ俺が思い出して謝れば…」

「このすっとこどっこい!そんなワケあるか!千載一遇のチャンスを逃したんだアンタは!それは遠くに置いといて……行ってきます!」

「ご武運を…」


 肩を落とすオーレンを尻目に、ウォルトさんの元に向かう運命のドアを開けた。



 ウォルトさんはいつものごとく机に向かって研究している。最近は新薬の開発に力を入れていて、新しい魔力回復薬を作ろうとしてるみたい。少しずつ歩み寄ると鼻を鳴らした。私を見てウォルトさんの動きが止まる。


 サマラさんと一緒に選んだ清潔感のある白いブラウスは、胸元を少し開けて膝丈よりちょっとだけ短いスカートと合わせた。踵の高い靴を履いて、スタイルもほんの少しだけ背伸びしてみた。


「いつも同じ服なので、ちょっとオシャレな格好をしてみたいと思って買ったんです!変ですか?」


 我に帰った風のウォルトさんは、少し思案した後で答える。


「すごく似合ってると思う…。えっと…可愛いと思う。あっ、じろじろ見てゴメン!」


 ……やった!


「もっと見ていいですよ♪」

「アニカはオシャレすると、全然印象が変わるんだね。…あっ!普段が可愛くないワケじゃないよ!正直…ドキッとしたなぁ…」


 駆け出したい気持ちを堪えて心の中で叫ぶ。


 やったぁ~!やりましたよ、ギルドの皆さん!サマラさん!ウォルトさんに可愛いって言ってもらえました~!!嬉しいぃ~!!

 オーレンが言ったように、もしかしたら地味かも…と思ってた。でも…サマラさんを信じてよかったぁ~!!


 その後は、落ち着かない様子のウォルトさんの横にちょこんと座って、笑顔を見せながら一緒に研究を進めた。



 ★



 時は遡って、アニマーレでサマラがアニカと別れた直後。アニカの去り行く背中を見つめていたサマラは内心ほくそ笑んでいた。


 アニカ、頑張って!そして、ウォルトは……私の力を思い知るといいよ!


 ウォルトの好みに合致して、それでいてアニカの魅力を最大限発揮できる服を勧めた。アニカは私を信じて買ってくれて、この時点で私達の目論見は成功間違いなし!

 どちらかというとウォルトは地味な服装を好む。露出が激しすぎるのはダメだけど、少しあったほうがいい。パンツよりもスカートが好きだから、爽やかな色で纏めるべし。


 言い出せばキリがないけど、完全にウォルトの好みは読み切ってるからね。だからアニカはウォルトをドキドキさせるはず!自信がある!

 同じ好意を寄せる者としては、敵に塩を送るような行為だけど、後悔はまったくない。なぜならアニカは私が初めて出会った同士だから。


 小さな頃からウォルトを好きだと言っても誰も認めてくれなかった。腹立つけど、わかってくれたのはマードックだけ。

 女友達は口を揃えて「趣味が悪い」とか「ひ弱で気味が悪い」とか言ってウォルトの内面を見ようとしなかった。それがずっと悔しかったんだよね。


 今日アニカに会って、ウォルトを驚かせる服を選んでるなんて夢にも思わなかったけど、気付いたあと嬉しかった。アニカを見てると、まるで昔の自分を見ているようだったから。

 同じだと思った。ウォルトの優しさと温かさが好きだと言ったのは噓じゃない。


 わかる~。わかりすぎるんだよね!「私もだよ!」って言いたくなった!


 普通はあり得ないかもしれないけど、ウォルトのことを語り合えたら盛り上がったはず。アニカは私と似たような性格だと思う。

 ライバルとして見てくれるかな?あの娘は素直で真っ直ぐ。目の前に突然現れた可愛い友達で……強力なライバルだ。燃えるなぁ~!


 ウォルトをドキドキさせてほしい!赤面させるくらい!心から願ってるしきっと大丈夫!

 アニカの性格からしてお礼を言いに来るかもしれない。もし来たら聞いてみよう。「優しい白猫の獣人はどんな反応をしたの?」って。


 負けないように自分を磨いてその時を待とう。アニカには、もう少しだけ自分の気持ちは黙ってていいかな。今回は手助けしたからそのくらいはいいよね?


 ふふっ!アニカとウォルトを驚かしてやるぞ~!そしてその時は…。


「恨みっこなしだからね!!」


 笑顔で店に戻った。

読んで頂きありがとうございます。

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