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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
643/715

643 団欒

 銀狼レクスと出会った翌朝。ウォルトは今日が皆にとっていい日になるよう願いながら朝食を作る。


 ネネさんから教えてもらった『料理は心を込めて作る』を実践してる。英気を養ってもらいたい。7人で仲良く食事していると、ウイカが訊いてきた。


「ウォルトさんは、宮廷魔導師の魔法披露を見に行かないんですか?」

「行かないつもりだよ。3日後だっけ?シャノ達はもうしばらく住み家にいてくれそうだし、遠出したくないんだ。皆は行くんだよね?」

「はい。しっかり見てきます。いい場所がとれるといいんですけど」

「貴重な魔法が見れるといいね」

「どんな魔法を見たか教えます」

「ありがとう」


 話を聞けるだけで嬉しい。


「私とチャチャは魔法を見てもわかんないから行かないけどさ、感想楽しみにしてるからね!カネルラの最高峰って魔法がどんな魔法だったのか!」

「そうですね。ウイカさんやアニカさんが見れば答えがハッキリ出ます」

「チャチャの言う答えってなんだい?」

「まだ内緒。けど、兄ちゃんに関係あるよ」

「ボクに?」

 

 全然ピンとこないけど、皆はわかってる雰囲気。相変わらず鈍いのはボクだけか。


「話を変えて悪いけど、ウォルトに言っときたいことがあるんだよね」

「なに?」

「私達を大切に思ってくれるのは嬉しいけどさ、過保護はダメだよ」

「どういう意味だ?」


 過保護に扱ったことなんてない。


「昨日…レクスだっけ?殺す気だったんでしょ?なにも悪さしてないのにさ」

「シャノ達やペニー達を攻撃すると言ったからね」

「でもさ、それだけじゃん。殺されるほどのことじゃなくない?」

「サマラの理屈はわからないけど、ボクにとっては充分な理由だ」

「心配するのはわかる。でも、大抵の奴は口だけでなにもしないんだよ」

「そうだとしても、過去にボクのせいで酷い目に遭った友人がいる。繰り返したくないんだ」


 マルコやメリッサさん…そして、まだ子供のセナを悲しませてしまった。あんな気持ちは二度と味わいたくない。


「そっか。私が言いたかったのはそれだけ」

「ボクからもサマラと皆に言っておきたい」

「なに?」

「ボクは、たとえ君達の友人であっても同じことをする。無意味に威嚇したり人を脅すような言動が嫌いで、冗談でも聞き流せないんだ」


 相手を追い込んで反応を楽しむ…という極めて悪趣味な行為だと思ってる。なにが楽しいのかわからない。


「そんな奴は私達の周りにいないから大丈夫」

「1つ教えてほしいんだけど、ボクって直情的すぎるのか?」

「そんなことない。獣人の男ってほとんどがそうだし」

「…そうか」

「どしたの?急に黙って」

「アイツらと同じかと思うと、ちょっと複雑で」


 ティーガやシルバと大差ないってことだ。アイツらみたいになりたくないけど、所詮は同じ獣人か…。


「誰のことを言ってるか大体わかる。でも全然違うよ。同じ獣人だから似てるトコもあるってだけで」

「サマラさんの言う通りで、ウォルトさんはカバロやケルスとは違います!」

「そうだといいけど」


 アニカやウイカも、トゥミエでろくでもない顔見知りに絡まれて知ってる。同類だと思われたくはない。


「ウォルトさんは自分から絡まない人ですから!横暴な態度もとりませんよね!」

「知らない人と積極的に絡みたくない性分なだけだよ」

「そうじゃなくても、他人に「オラオラ~」とか言ってる姿が想像できないです!見たら私は笑っちゃうかも!」

「あははっ。自分でも似合わないと思うよ。肩で風切って歩くようなこともできない」

「見たいですね~!」

「嫌いな言動の1つだから、見せるのは無理かな」

 

 ボクじゃなくなってしまう。


「俺達はウォルトさんの性格を知ってます。だからなんとも思わないんですけど、自分が他人にどう見られてるか気になったりします?」

「一応気にしてるよ」

「強く見られたいとかですか?」

「いや。不潔だと思われたくないのが1番かな。あと、毛並みが乱れてだらしないと思われてないかとか」

「そう思われるのは嫌なんですね」

「獣人には不潔な男も多いんだ。何日も平気で風呂に入らなかったりする。だから体臭が強かったりして」

「「わかる~」」


 サマラとチャチャはよく知ってるはず。


「マードックは意外なことに綺麗好きなんだよね!不細工のくせに!」

「顔は関係ないと思う」

「い~や!あるね!不細工な奴ほど臭い傾向があるから!全身から嫌な匂いがする!」

「息とかも臭いですよね」

「チャチャの言う通り!多分内臓が腐ってるんだよ!」

「それはもはやアンデッドだ」


 動く死体の魔物がいて、ゾンビと呼ぶらしい。幸運なことにまだ遭遇してないけど、腐臭が激しいみたいで遭遇したくない魔物第1位。


「ウォルトさんの毛皮はお日様の匂いがします。いつもアニカと話してて」

「畑仕事や修練で日光を浴びてるからかもしれないね」

「心が落ち着く匂いで、似てるようでストレイさんとは匂いが違うんですよね」

「そうかな?ウイカでも違いがわかるなんて、ボクって実は結構匂ってる?」 


 人間のウイカでも違いが嗅ぎ分けられるくらいに……と、4姉妹が揃って目を逸らしてる。ウイカは『やってしまった!』って顔してるけど、なんなんだ?

 

 …あっ。気遣ってくれてるのか。


「ボクが臭いなら正直に言っていいよ」

「臭いワケないじゃん!ウイカの言う通りで、ストレイさんとは違うけどいい匂いだよ!」

「ウイカはいつ気付いたの?」

「えぇ~っとぉ、いつだったかなぁ…?ハッキリ覚えてないです」

「アニカも思ってたりする?」

「違うのは私も知ってました!」

「チャチャ、なんで皆は目を逸らしてるんだ?」

「わかんないけど、たまたまじゃない?」

「そんなバカな」


 動揺してるような匂いが漂ってるんだよなぁ。まるで後ろめたいような。理由が気になるけど深く追求しても困らせるだけか。サマラは、子供の頃父さんに抱きついて一緒に昼寝してたから違いを知ってると…思うけど…。


「もしかして、皆は父さんとハグしたの?」


 同時にビクッと反応した。今回はわかりやすいな。だったら納得できる。


「ま、まぁそうなんだけどさっ!」

「た、たまたまそういう機会があっただけで!」

「ふ、ふわっとして、もふっと~!」

「せ、背中だから!ストレイさんの背中ね!」

「なんで動揺してるんだ?皆がモフモフとハグ好きなのは知ってる」


 父さんの毛皮は魅力的に映るだろう。ボクとは毛量も長さも違う。母さんは可愛がってる4姉妹だからモフるのを許したんだろうし、父さんも嫌じゃなかったと思う。


「ウォルトさん。多分、皆さんは誰とでもハグをすると思われたくないんです。誰にでも抱きつくような尻軽な女だって」

「そういうことか。思わないけどね」


 ミーリャはさすがだなぁ。女性目線だと直ぐに気付くのかもしれない。

 

「私はオーレンさん以外とハグはできないです。他人だと心が安らぐどころか嫌悪感を感じちゃって。でも、オーレンさんの家族とならハグできる…かもしれません」


 4姉妹はミーリャの言葉に激しく頷いてる。近しい人なら抵抗が少ないかもしれない…か。


「俺はネネさんとハグできそうにないけどな」

「お母さんはお父さん以外の男をゴミだと思ってるから、触られたら激怒しますよ」

「ゴミはさすがに言いすぎだろ」

「本人が言ってるんで。お父さんがいなくなってから、命知らずが何人かアプローチしたんですけど、しつこい人は殴られたり骨を折られてました」

「まったく笑えねぇ…」

「お母さんを見る卑しい顔が気持ち悪くて、私は痛快でした。自信満々で口説いてたのに、帰るときは泣きながら命乞いして」

「ネネさんの強さを知ってるからマジで怖ぇ…」

「「ふざけるな」って何度も断ってるのに、「ホントは寂しいんだろ?」とか「無責任な旦那より幸せにしてやる」なんて言われたら怒りますよね。私も傍にいるのに。お母さんを格好いいと思ったし尊敬してます」


 ネネさんの気持ちはわかる。あの人はスケさんに一途で、貶めたりふざけた提案が許せなかったんだ。きっと小さかったミーリャの気持ちも汲んでる。

 

「お母さんに触れて無傷で済んだのは、私の知る限りではウォルトさんだけです」

「ボクは何発も殴られてる。会う度に怒られるし」

「でも無傷ですよね」

「まぁ、打撲くらいかな」


 でも、かなり痛かった。治癒する前は痣になってたなぁ。


「こら、ウォルト!人妻の身体に触れちゃダメでしょ!」

「ただの手合わせで、触るつもりはないんだ」

「兄ちゃんって大人の魅力に弱いんだね」

「弱くないと思う。ネネさんは強くて魅力的な女性ではあるけど」

「ネネさんは美人って聞いてます。好みの容姿なんですか?」

「容姿の好みは自分でもよくわからないなぁ」

「じゃあ大好きな胸が大っきいんですか!」

「恥ずかしいから言っちゃダメなやつ!」


 その後もなぜか責められて、ご飯も冷めてしまいそう。なんとか宥めて矛を収めてもらおうと奮闘してミーリャもフォローしてくれた。なにが引き金で責められるかわからない。怒られるようなことはしてないのに。


「やっぱり皆でご飯食べるのは楽しいよね!そういえば、ウォルトは約束覚えてる?私達の部屋を作ってくれるって」

「もちろん。そう遠くない内にできそうな気がしてる」

「マジでっ?!やったね!」

「ちょっとだけ成果を見てもらおうかな」

 

 集中して魔力を錬る。空間魔法に精霊力を掛け合わせて、『仮想空間』の実体化を目指す。師匠の文献を読み返したり、試行錯誤して少しずつ形にしている最中。


 魔力を解放して魔法を発動した。


「すごぉ~!居間が広くなった~!」

「まだこのくらいだけど」


 居間を倍程度に拡張するのが精一杯。


「ありゃ?元に戻った」

「もの凄く魔力を消費するんだ。離れならもっと色々できるんだけど」

「お師匠さんの付与魔法に干渉するからですね」

「ウイカの言う通りだよ。師匠の魔法から逃れたり、反発するように展開してるからもの凄く疲れる。ただ、鍛錬にはもってこいなんだ」


 あの手この手で無理やり拡張しているのが現状。師匠に鍛えてもらってる感覚。

 

「部屋ができたら私とお姉ちゃんはここに住むけど、オーレンはどうすんの?」

「俺は今の家にミーリャと住む。ロックもいるかもな」

「そっか。アンタはウォルトさんのご近所さんになりたくないんだもんね~!仕方ないかぁ~!」

「無理して森に住む必要はないよ」

「俺は一言も言ってないです!アニカ~…いい加減にしろよっ!」


 アニカの冗談はわかりやすくて助かる。オーレンはいつも本気で怒ってるし。


「ボクとしては、フクーベに誰か住んでてくれると行きやすくて助かるよ。オーレンがいてくれるなら心強いなぁ」

「いつでも遊びに来て下さい!アニカと同居すると嫌なことが多いです!愚痴を聞きますんで!」

「ふざけるのは顔だけにしろ!恩人に噓を吹き込んで…。この世から抹殺してやる!」

「言い出したのはお前が先だろうが!やれるもんならやってみろ!」

「ケンカは食事の後にしないか?止めはしないから」

「「ぐぬぬぬっ…!」」


 どうにか止まってくれたものの、テーブル越しに睨み合う2人。


「ねぇ、ウイカ。オーレンとアニカっていつもケンカしてるの?家でもこんな感じ?」 

「家では普通です。住み家だとウォルトさんに止められるのを楽しんでる節がありますね」

「アニカだけな!俺は違うぞ!ウォルトさんに迷惑はかけたくない!」

「別に迷惑じゃないよ。いつも楽しい。誰かと食事して楽しいと思わせてくれたのも君達だ」

「ウォルトと私達は家族みたいなモノだからね!」

「ボクもそう思ってる」


 サマラ達も思ってくれてるなら嬉しい。


「へぇ~!じゃあさ、私達が家族だとしたらそれぞれどの立場?ウォルトが一家の主として、こうだと嬉しいっていう理想ね!」

「そうだなぁ…」


 …………。


「さぁさぁ、どうなの?」

「…皆が兄妹かな」

「適当に誤魔化そうとしても無駄だよ!顔に出てるんだからね!」

「気持ち悪がられそうだから、言いたくないんだよ」

「そんなこと言わないって!」

「匂いで年齢を当てたときは変態って言ったろ」

「今度は絶対言わないから!気持ち悪がらないし!だから教えてよ!」


 全員頷いてるけど、ホントかなぁ?


「あくまでボクの理想像だけど」

「どんとこい!」

「ボクが家主だとして、サマラとウイカとアニカとチャチャは……4人全員が番。オーレンが弟で、ミーリャは妹だね」


 絶対にあり得ないけど、コレがボクの理想。4姉妹の中に母親や姉のようなタイプはいない。知人で選ぶとすればキャロル姉さんか。

 必然的に全員が番か娘か妹になるけど…ボクとしては番であってほしい。ミーリャはオーレンの恋人だからあり得ないけど。そして、誰か1人を選べない。カネルラは一夫一婦制じゃないことも加味したあり得ない希望。

 

「ふぅ~ん…。そうかぁ~…」

「そうくるなんて…」

「ウォルトさんらしいというか!」

「んん~~?んふふっ…」


 てっきり「選ぶなら誰か1人にするべきでしょ!この女好き獣人!」って責められると思ってたのに、なぜかスルー。噛み合わないというか、責められたり喜ばれる基準がわからない。


「ちなみにツッコんで聞いちゃいます!第1夫人は誰ですか!」

「そこまで考えなかったけど…」


 皆の目が妙にギラついてる。ということは、花街の時と同じで張り合ってるな…。返答には細心の注意が必要。


「えっと……全員が第1夫人だね」

「そんなワケあるかぁ!いくら一夫多妻でも順位はあるでしょうよ!幼馴染みは理解力抜群なの忘れてない?!」

「差はあるはずです。私の匂いとかスタイルが好きだって言ってくれたのを覚えてますよ。そうですよね?」

「当然たわわ感は上位にランクしますよね!だって、目が離せないくらい大好きなんですから!今日もチラ見してましたし!」

「伸び代も考慮すべきだよ。未来の私は、魔法で見た未来予想図も超えるつもりだから」


 すっごく詰め寄られる。いや、追い詰められる。圧が半端じゃない。なぜか冷や汗が出てきた。どう答えても被害は不可避な気がする。こんな重圧は初めてだ…。

 この状況を打破するには……4姉妹には一度も使ったことがない技能を繰り出すしかない。基本的に選択肢にはない戦術。


 その名も………逃走!


「あっ!子猫達にご飯をあげるの忘れてた!ちょっと食べさせてくる。皆はゆっくり食べてていいから」

「あっ!こらっ!待てっ!逃げるなっ!」

「答えてからでも間に合います!」

「あまり時間がないんですよ!」

「兄ちゃん!止まらないと撃つよ!」


 台所に作り置いてたご飯を手に、なんとか住み家を出て猫小屋に駆け込む。ふぅ~…。過去最高に焦ったな。


「ニャ~?」

「ちょっとね。予想しないことが起こったんだ」


『そんなに慌ててどうした?』とシャノに心配された。皿に載せたご飯を床に置くと、子猫達もシャノも勢いよく食べてくれる。


 この子達と同じで、4姉妹に順位なんて付けられないし、適当なことは絶対に言いたくない。心情を伝えたところで納得してくれるだろうか。戻ったら「まぁ、そんなのどうでもいいか」って話になってることを祈ろう。


 でも、逃げたのは男らしくなかった。真面目に考えて、普通に答えるだけでよかったのに。かなりの難題ってだけで。4姉妹は仲良しだけど全員負けず嫌いだ。負けたくないんだろうけど、誰が上とか下とかはない。


 しばらく猫小屋で思案してみたものの、結局結論は出せずに住み家に戻ることに。中に入ると皆は帰ってしまったようで、テーブルの上には「ごちそうさま。美味しかったよ。あと、困らせてゴメンね」と書かれたメモが残されてた。


 皆から逃げた挙げ句、呼びつけた皆の見送りもせずになにやってんだボクは…。久々に自己嫌悪。

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