64 邂逅
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
ギルドで女性陣に勧められた衣料店アニマーレにやってきたアニカ。
オシャレな服とか買ったことないけど…私は今日から生まれ変わる!教えてくれたギルドのみなさん…行ってきます!
気合いを入れて店のドアを開ける。入店を知らせるベルが鳴り、店内に入ると色とりどりの服が並んでいる。
おぉ~!めっちゃ服がある!
辺りを見回して店員を探してみるけど、休憩中なのか数名の客らしき人影しか見えない。とりあえず…自分で選んでみよう!気に入るのがあったらそれでいいし!ウキウキしながら服を物色することにした。
ダメだぁ!全っ然わからない!
一通り店内を見て回ったけど、どの服もオシャレに見えるし、どれも自分には似合わないような気がする。そもそも、世間の流行を知らないのにどれがいいとかあるワケない。
知識のなさに絶望にも似た感情を抱きつつあった時、声をかけられる。
「服を探してるの?」
声のした方を向くと獣人の女性が立っていた。濃紺の毛皮を纏って長い髪の間から覗くピョコッと立った耳。容姿は誰もが認めるであろう美女で、モデルと思うほどスタイルも抜群。立ち姿に見蕩れて言葉を紡げないでいると、さらに話しかけられる。
「もしかしてゆっくり選びたかった?ごめんね」
申し訳なさげに少しだけ首を傾げた獣人の女性。我に返って両手を振りながら慌てて否定する。
「いえ!服を買いに来たんですけど、どんな服を買っていいかわからなくて迷ってたんです!」
簡単に事情を説明する。私は冒険者であること。冒険しかしてこなかったので、服の流行や善し悪しが全くわからないこと。ギルドの皆に教えてもらってアニマーレに来たことを。
「そうなんだ。私も手伝うから一緒に考えてみない?」
「いいんですか!?すごく助かります。私はアニカといいます。よろしくお願いします」
名乗ったあと獣人の店員が微笑んで告げる。
「かしこまらないで。私は店員のサマラだよ。よろしくねアニカ。あっ、前もって言っておくけど、私に勧められたからって無理して買う必要はないからね。自分がいいと思ったら買って」
「わかりました!気に入ったら買います!」
私みたいな若者にも気を使ってくれて、きっと信頼できる店員さんだ!
「じゃあ見てみよっか」
「はい!お願いします!」
「アニカは、どんな服を探してるの?」
「私に似合うのならなんでもいい…と思ってたんですけど、どれも似合わないような気がしちゃってて」
「なるほど。じゃあ、まずは私が見立ててみるね」
「お願いしていいですか?」
「もちろん。コレが私の仕事だからね!アニカは可愛いから選び甲斐がある!」
サマラさんは、沢山の服の中から私に似合いそうな服を選び始めた。可愛いと褒められて照れ臭くなりながらも、純粋に嬉しく感じていると…。
「この辺りが似合うと思うけど試着してみない?」
「試着してもいいんですか?」
「もちろんだよ。大きさとか微妙に合わない可能性もあるし、着てみた方がいいよ」
「わかりました!」
服を受け取って試着室に飛び込む。着替えてからシャッ!とカーテンを開けた。
「どうでしょうか?」
「いいね!活発な感じで似合ってる!次いってみよう!」
早着替えショーが始まった。サマラさんが選んだ服を次々に着ては脱ぐを繰り返す。「いいね!」「いい感じ!」「ちょっと違ったかも」と正直に評価を下してくれる。
そうして、私達は徐々に打ち解けていった。一通り選んでもらった服に着替え終える。
「なんとなくですけど、服の選び方がわかったような気がします!サマラさんのおかげです!」
「アニカが服に興味を持ってくれたなら嬉しいよ」
「それで、コレとコレを買いたいと思います」
「無理してない?最初に言ったけど気を使わなくていいんだよ?」
「使ってません!本当に気に入ったんです。お金も使い道がないのでずっと貯めてましたし!」
アニマーレに来てよかった。
★
この娘ホントに可愛いなぁ。素直だしすっごい好感持てる!
朗らかに笑うアニカを見てて、なにか言いたいことがありそうだと感じた。単なる私の勘だけど、顔に書いてる。
「他にも訊きたいことあるんじゃないの?」
「実は…オシャレして会いに行きたい男性がいるんですけど」
「うん」
「その人は…サマラさんと同じ獣人なんです。よかったら獣人の男性が好きそうな服を教えてもらえませんか…?」
「もちろんいいよ!私の意見でよければ!」
「ありがとうございます!助かります!」
「そういうことなら気合い入れて選ばなきゃね!」
パッとアニカの表情が明るくなった。責任重大だね。店員として腕の見せ所だ。気合い入れなきゃ!
知り合ったばかりだけど、素直で可愛いアニカの恋路を応援してあげたい。人を魅了するにはまず相手を知るところから。幾つか質問することにしよう。
「その獣人ってどんな人?オラオラ系?」
「完全に逆で、優しくて紳士です。獣人ぽくないみたいな」
いきなり意外だね。獣人にそんな奴いるんだ。
「じゃあ派手じゃない方がいいかも。年齢とかわかる?」
「21歳って言ってました」
「ふんふん。じゃあ、落ち着いた服じゃなくてよさそう。その人って肌の露出とか好きそうかな?」
「多分ですけど、露出が多い服だとちゃんと見てくれないと思います。恥ずかしがり屋なので」
本当に獣人か怪しいレベルだね。アニカの勘違いとか……ないか。
「獣人の男は露出が多いほうが好きだけど、そういう獣人もいていいよね。他に、なにか好きなモノとかありそう?」
「料理を作るのが好きです。…って、服と関係ないですね」
「そうでもないよ。家庭的な感じを好む人かもって予想もできるし。思い付くことがあったらなんでも言ってみて!」
相手がどんな獣人でも好みを見定めてみせる!アニカのタメに!
「わかりました!え~っと、獣人にしては細身でシュッとしてます!」
「うん」
「私が冒険者になりたての頃に、動物の森で命を救われたんですけど、出会った頃から優しくて!」
「へぇ~。いい人だ」
「その人は猫の獣人なんですけど、もの凄く知的で博識だし、単純に凄いと思います!」
「うん?」
「フクーベに住んでないんですけど、昔は住んでたこともあるみたいです!」
「んん…?」
「あと、信じられないくらい優しくて温かい人です。私は人間でもあんな優しい人に会ったことないです!」
「んん~ん…?」
「あとは…」
「アニカ、ちょっと待って!」
思わず手で制する。まさかと思うけど……。
「なんでしょうか?」
「私の推測だけど…その人って、喋り方も丁寧で優しかったりする?」
「すごく穏やかに話します」
「人に優しいってことは…街から離れたところに1人で住んでて、もてなし上手とか?」
「すごい!当たってます!」
「猫の獣人ってことは、たまに『お茶うみゃ~』って顔をするとか?」
「よくしてます!ズバリです!」
「とんでもなく優しいからか、対照的にゴリラみたいな風貌で傷だらけの獣人が友人にいたりして…」
「まさに!サマラさんて予言者なんじゃ!?」
「あくまで予想なんだけど、その獣人って…もしかして白い毛皮じゃない?」
「恐いくらい当たってます…。まさに予言!」
さすがに確信した。相手は私の幼馴染みだ。アニカの想い人はウォルトということで間違いない。
だったら訊かなきゃ。
「その人のどこが好きになったのか言える範囲で教えてくれないかな?無理だったら言わなくていいよ」
★
意外な質問に戸惑ったけど、問いかけたサマラさんの表情は真剣。
「私は…その人に命を救われて、励まされたから冒険者に戻れました。その後も、何度かお世話になる内にいつの間にか好きになってたんだと思います。本当に優しくて温かくて…。初めて人を好きになったので上手く言えないんですけど…」
サマラさんの目を見つめながら伝えると、真っ直ぐに私を見てくる。なぜか誤魔化すようなことを言ってはいけないような気がして、思いの丈を素直に話した。
黙って聞いていたサマラさんは、ふわりと微笑んで自信満々に言い放つ。
「話を聞いて私はピンときたよ!絶対その人にドキッとしてもらえる服がある!」
「本当ですか!」
「私に任せなさい!」
サマラさんはニシシ!と笑った。
買い物を終えると、サマラさんは店の外まで見送ってくれた。購入した服を片手にスッキリした顔で感謝の気持ちを告げる。
「今日はありがとうございました!この服を着て会うのが今から楽しみです!必ずドキドキさせてきます!」
「その意気だよ。絶対喜んでもらえるから信じて。ダメだったら文句言いに来ていいからね♪」
「そんなことしません!でも、もしそうなったら第2弾の作戦を考えるんで協力してもらえませんか?」
「いいよ。必要ないと思うけどね!」
凄い自信。コレは…イケる気しかしない!
「またお会いできたら嬉しいです!こっちが忙しくて無理かもですが…」
「そう遠くない内にまた会えると思うよ。そのときはよろしくね♪」
「よくわかりませんけど、こちらこそよろしくお願いします!」
深々とお礼して帰ろうとしたとき、1人の獣人が現れた。
「よぉ、サマラ。仕事終わったんなら俺と遊んでくれよ。ヘヘッ」
ヘラヘラしながら灰色の毛皮を纏う虎の獣人が近づいてくる。
「何度も言ってるけどお断り。まだ仕事中なんで」
「つれねぇな。遊んでくれたら俺のよさがわかるのによぉ」
「私は知らなくても大丈夫。帰ってくれる?」
冷たい笑顔で対応するサマラさん。でも鈍そうな虎男も引かない。明らかに困ってるね。
「ちょっとくらいいいじゃねぇか。お高くとまっててもいいことねぇぞ……って、なんだお前?」
サマラさんと虎男の間に割って入る。そして、虎男に笑顔で告げた。
「そんな強引な口説き方じゃ女性にモテませんよ。貴方は今までモテたことないと思いますけど」
「ウルセぇなっ!!乳臭ぇ人間のガキは引っ込んでろ!」
私の肩を掴むと、邪魔だとばかりに振り払った。
「はわぁっ!あっ、服がっ!」
大きく転んで、飛ばされた買い物袋から中身が出てしまった。2人で選んで買ったのに……許せない!ぶん殴ってやる!
中身を元に戻して虎男に目を向けると、サマラさんの姿が消えた瞬間、虎男の腹に深々と拳が突き刺さっていた。
「グァァッ…!」
声にならないのか立ったまま悶絶している。狼の目に変化してるサマラさんは虎男を睨みながら告げる。
「お前……私の友達になにしてんの…?」
「が……あ…っ!テ…メェ…!」
「黙れ」
グッと拳を深く突き入れて、虎男の上半身がくの字に折れた。
「があぁぁ…っ!!」
「二度と私の名前を呼ぶな。それとも…今すぐその臭い口を利けなくしてやろうか…?」
睨むサマラさんの目が言っている。本気でやると…。背筋が凍るような目に虎男は力なく頷いた。
「アニカ、ごめんね。せっかくかばってくれたのに」
虎男がいなくなった後、座り込んだままの私に苦笑しながら話しかけてくれる。
「凄いです!動きが全然見えませんでした!護身術とかやってるんですか?!」
サマラさんはまた苦笑い。変なこと言ったかな?
「身内に冒険者がいるからちょっと教えてもらってて」
「ほぇ~!美人で強くて優しくて、もう憧れまくりです!」
「褒めすぎだよ」
「あと、私を友達って言ってくれて嬉しかったです!ありがとうございます!」
いい人だぁ~!本当に友達になりたいなぁ!
「アニカがよかったら、私と友達になってくれない?」
「いいんですか!?嬉しいです!こちらこそよろしくお願いします!」
やった!めっちゃ嬉しい!
「そろそろ仕事に戻らなきゃ。またね!」
「はい!今日は楽しかったです!」
お互いに見えなくなるまで手を振りながら笑顔で別れた。
読んで頂きありがとうございます。