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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
63/706

63 善は急げ

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

 フクーベの街。


 受注したクエストを早朝からこなして、正午前に帰宅したアニカは部屋で頭を悩ませていた。

 最近ウォルトさんの家に行けてない。私のウォルトさん成分が不足している。暦を見ればもう2週間はウォルトさんの住み家に行ってない。

 パーティーランクが上がったことで、受注できるクエストが増えたのは喜ばしいけど、クエストの内容も難度が上がって達成するのに時間がかかるようになった。長いときは、移動も合わせて早朝から暗くなるまでかかることもある。


 オーレンと話し合って週に1、2日は休むように決めてるけど、装備の手入れや道具の買い出しも必要なので休みの度に住み家に行けない。

 万全の態勢で冒険に臨むタメに必要なことだから手を抜くつもりはないし、しっかりクエストをこなして尊敬するウォルトさんに少しでも追いつく仕方ないことだって、頭では理解してるつもりなんだ~け~ど。


「わかってるけど…ウォルトさんに会いたいんだよぉ~!手料理も食べたいんだよぉ~!うぉ~!!ちくしょ~!」


 自室のベッドで枕に顔を突っ伏したまま隣の部屋のオーレンに聞こえないように叫ぶ。もはや声になってない。

 足をバタバタさせながら、ひとしきり不満を吐き出して落ち着くと仰向けに寝そべる。気持ちを切り替えよう。他になにかやりたいことはないかな。


 冒険者になってからというもの、ほぼ修練とクエストをこなす日々。フクーベで見かける同年代の女性はオシャレな格好をして男性とデートしたり青春を謳歌している。


 ふと気付いた。私…フクーベに来てから冒険用の装備以外の服を着たことない。ガバッと上体を起こす。


 ダメだっ!!女としてどうなの?!


 両手で頭を抱える。冒険者としての日々が充実しすぎて、女性らしいことをしてないことに気付く。化粧もしなければオシャレにも気を使ってなかった。信じられないくらい優しいウォルトさんでも、こんな無精女に内心呆れているんじゃ?


 自己嫌悪だ…。最近貫頭衣による胸チラ作戦を敢行し、ちょっと赤面させたくらいで調子に乗ってた。ただ、サイズも合わされてしまったしあの手はもう使えない。

 ちょっと待って…?貫頭衣の件もはしたない女だと思われてるかもしれない…。スケ三郎さんにスケベって言われてムッとしてたし…。


 しまったぁ~!私はアホかぁ~!!


 自分のアホさ加減が恥ずかしくなって、頭を搔きむしり髪の毛も爆発。1人で悶えているとドアがノックされた。


「アニカ。昼飯できたぞ」


 私達は炊事や洗濯を当番制にして役割分担してる。今日はオーレンが当番。


「すぐ行く」


 身なりを整えて居間に向かう。食卓にはオーレンが作ってくれた昼食が並んでいた。意外に思われるけど、オーレンは私より料理が上手い。

 向かい合って座り、「頂きます」と食べ始める。作ってくれたのは魚料理。味付けもしっかりしてて、文句なしで美味しい……んだけど。


「ウォルトさんの料理が食べたい…」

「いきなりかっ!いくら俺でもヘコむぞ!ウォルトさんの料理に比べると雲泥の差なのは認めるけど」

「オーレンは私より料理上手いよ。この料理も美味しい」

「じゃあ、なにが不満なんだよ?具体的に言ってくれ」

「う~ん…。オーレンはウォルトさんじゃないことかな」

「無理だろ!そもそも獣人ですらないし!」

「あと、足が臭い」

「料理と関係なくない?!」


 無駄口を叩きながら昼食をとり終えて、ウォルトさんにもらった花茶を飲みながら一息つく。


「この花茶、美味いよな。【注文の多い料理店】でも似たようなのが売られてるらしいけど」

「あの店の料理は美味しい。ウォルトさんと同じくらい」

「お前の基準は全部ウォルトさんだな…。まぁ、あの人はなんでもそつなくこなすからな。誰かさんと違って」

「誰かさんって…そんなに自分を卑下しなくてもいいんじゃない?」

「俺じゃねぇよ!!お前だよ!」

「…わかってるよ。どうせ…私は冒険しかできない破廉恥アホ娘よ!うわぁ~ん!!!」

「ど、どうしたんだよっ?!」



 ★



 いきなり泣き出したアニカに面食らったオーレンは宥めて話を聞いた。


「つまり…ウォルトさんから『冒険のことしか頭にない破廉恥でオシャレにも気を使わないダメ女』だと思われてる…ってことか?」


 アニカはコクリと頷く。


「本人に聞いてもいないのに考え過ぎだろ。あの人はそんなこと思ってないって」

「…なんでそんなこと言えるのよ。オーレンも思ってたんじゃないの?たまにはオシャレぐらいすればいいのにって」

「まぁな。まだ15なのに冒険ばっかで洒落っ気ないとは思ってる」

「やっぱり!今まで彼女もいたことないオーレンがそう思うってことは、きっとウォルトさんも思ってるよ!」

「彼女いたかは関係ないだろ!」

「どうでもいいことは置いといて……とにかく私は悩んでるのよ」

「納得いかねぇ…」

「オーレンがお姉ちゃんにフラれた理由も……とりあえず置いといて、訊きたいことあるんだけど」

「なにそれ?!なんで言うのやめた?!すげぇ気になるんだけどっ!?」

「私は…生まれ変わることにした。だから頑張ってオシャレしてみようと思う。まずは女性らしい服を買いに行く。どう思う?」

「なぁ!俺がフラれた理由ってなんだよ?!教えてもらってないんだよ!」

「うるさいなぁ。オーレンがあんなことさえしなければ上手くいってたかもしれないのに……って、そんなことはどうでもいいのよ!」

「よくねぇよ!あんなことってどんなこと!?俺は一体なにをしたんだ!?」

「よし!善は急げ!ちょっと買い物してくる!」

「ちょっと待てって!!アニカ!」


 騒ぐオーレンを完全に無視して家を飛び出した。




 10分ほど走って冒険者ギルドに到着すると、人気受付嬢であるエミリーさんから情報を得るタメに受付へと向かう。

 幸い今日のギルドは混雑している様子もなく、カウンターに立つエミリーの前に移動すると先に話しかけられた。


「アニカちゃんじゃない。どうしたの?今日はクエスト終わったんじゃなかったの?」


 人気受付嬢のエミリーは、まだ20歳を過ぎたばかり。ふわっとした栗色の髪をセミロングにして笑顔が可愛い癒し系の女性。

 誰もが認めるオシャレ女子で、普段もクエスト絡みでお世話になってる。私が知る限り最もオシャレな女性。


「仕事中にすみません。エミリーさんをオシャレ番長と見込んでお願いしにきました!私に…女性に人気の服屋さんを教えて下さい!」

「オシャレ番長かは知らないけど…。ちなみにどんな服を買いたいと思ってるの?」

「私に似合いそうな服ならなんでもいいです!できれば男性にドキッとしてもらえそうな服がいいんですけど」

「ほぅ…?」


 エミリーさんの目がキラリと光る。


「アニカちゃんに似合って、男をドキッとさせる服…。そうね…。幾つか候補の店があるわ…」


 会話が耳に入ったのか、受付の同僚や女性冒険者が集まってくる。


「聞き捨てならないわね…。アニカちゃんが男にウケる服に興味を持つなんて」

「もしかして…見せたい人が出来たの?」

「そうなんです!なのでオシャレをしてみたいくて!あっ!ちなみにオーレンじゃないです」


 少しだけ恥ずかしいけど、集まった皆は微笑んでくれる。


「よし!今は仕事も余裕があるし、アニカちゃんのタメに皆で考えるわよ!」

「「「「おぉ~!」」」」

 

 エミリーさんのかけ声で拳を突き上げる女性一同。


「皆さん…ありがとうございます!」


 ペコリと頭を下げる。いつも可愛がってもらって本当に有り難い。オーレンは男だからか女性陣には可愛がられてないもんね。



 女性陣による話し合いが幕を開けた。


「だ、か、らぁ~!アニカちゃんには落ち着いた色より明るい服が似合うって!若さを活かして活発な感じで迫るのがいいんだって!」

「違うわ!アニカちゃんは見た目はまだ幼いけどスタイルは中々のモノよ。ギャップを活かさない手はない。だからこそ大人しめの色がいいの!」

「い~や!意外に派手な服の方が冒険者の服との違いを鮮明に感じられていいと思う!」


 なぜこんなことになってしまったのか。ギルドの一角で女性達による大論争が巻き起こっている。お互いに胸ぐらを掴まんばかりの勢い。

「オシャレな衣料店を教えてほしい」と言ったのに、いつの間にか「どんな服がいいか?」という議題にすり替わってる。


 でも、勉強になるから全ての意見に真剣に耳を傾けて頷きながらメモする。「ふぅ…」と息を吐いて、エミリーさんが口を開いた。


「色々意見はあると思うけど、1つ忘れてるわ」

「「「「なにを?」」」」

「アニカちゃんの想い人の好みよ。今までの話はあくまで私達女性の意見。男性をドキッとさせるならまず相手のことを知らないと」

「「「「確かに……」」」」

「アニカちゃん…。その人のこと教えてもらっていい?もちろん言える範囲で」


 皆が私に注目する。周りの若い男性冒険者達の視線も感じる…。チラ見されてるような…。ちょっと恥ずかしい。


 どこまで話していいのかな。皆さんは真剣に考えてくれてるし、ちゃんと言わなきゃだよね。


「えっと…その人は年上で、優しくて凄く格好いいです」

「「「「「ふんふん!」」」」」

「真面目で、この間ちょっと胸の開いた服を着たら赤面してて可愛かったです」

「「「「「うんうん!!」」」」」

「冒険者じゃないんですけど…強くて温かい人です…」

「「「「「くぅ~っ!甘いっ!」」」」」


 聞き耳を立てていた男性冒険者達は、肩を落として溜息をつくとギルドを後にした。女性陣だけが残される。なんだったんだろう?


「あと、コレは絶対に内緒でお願いしたいんですけど…」

「「「「「もちろん!」」」」」

「その人は……獣人です」


 女性達は顔を見合わせて頷いた。


「それなら【アニマーレ】に行くのがいいと思う。獣人の店員さんもいるし、獣人受けする格好に詳しいんじゃないかな」

「ありがとうございます!」


 1人1人に丁寧にお礼を告げて、場所を教えてもらいアニマーレに向かった。



 ★



 エミリーと同僚のアネッサは、走り去るアニカの背中を目で追いながら優しい眼差しを送る。

 

「アニカちゃん。上手くいってほしいよね」

「いい娘だもん。きっと大丈夫じゃないかな」

「できることがあれば助けてあげないと」

「エミリーとアネッサ。さっき話してた分はきっちり残業してもらうからな」


 振り向くとギルドマスターが仁王立ちしていた。


 あははは…と、苦笑いで誤魔化そうとした2人だったが、誤魔化せるはずもなくしっかり残業させられてしまった。

読んで頂きありがとうございます。

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