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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
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618 ビスコさんからの誘い

 ある日の昼下がり。


「ご馳走になった」

「ご馳走さまでした」


 住み家で互いに料理を披露して、一息ついたウォルトとフクーベの料理人ビスコ。


「今日も美味かった。味の薄い肉料理に南蛮由来の調味料を合わせてくるとは。絶妙だったよ」

「ビスコさんこそ。西洋と東洋の合作料理を作り上げたのが凄いです」


 ニヤリ…と互いに不敵な笑みをこぼす。ビスコさんと批評し合うと、なぜか悪ぶった顔になってしまう不思議。


「忙しくてなかなか来れなかったが、やっぱり君の料理を食べると新たな発想が生まれる」

「ボクも流行や新たな技法が知れて嬉しいです」

「ところで、今度フクーベで面白そうなことが開催される。それに君を誘いたい」

「面白そうなこと?」

「カレーって料理を知ってるか?」

「名前だけは。香辛料をたっぷり使ったスープのような料理らしいですね」


 美味しいらしいけど、作ったことも食べたこともない。


「近々料理人達がカレーの出店を出す催しがあるんだ。祭りの一環だけど競い合いでもある。君も参加してみないか?」

「売り上げを競うんですか?」

「そうなる。金額設定や使う食材は自由で、最終的に多く売り上げた出店が勝つ」

「ボクは料理人じゃないので店を出せません。客としてなら行けますが」


 参加して作ってみたい気持ちはある。料理の優劣はよくわからないけど、沢山の料理人の技術や味付けを学べる機会。なにより出店は楽しいことを知っている。

 ただ、多くの料理人が参加するはずで、数にも限界があるだろう。素人が参加するような枠はないはず。


「店を経営してる料理人が3人推薦すれば、素人でも参加できるんだ」

「推薦してくれる人…。厳しいですね」

「俺の他に料理人の知り合いは?」

「いません。ビスコさんやリゾットさん達だけです」

「そうか。料理人以外だと…商人でもいいんだが」

「なぜ商人が関係あるんですか?」

「商業ギルドが今回の主催者なんだ。カレーに使う香辛料を売りたがってる。出店を選考するのも商業ギルドだ」


 出店で食べてもらい家庭でも作ってもらう算段か。それだけカレーは美味しいということ。興味がありすぎる。


「だったらなんとかなるかもしれません。頼んでみないとわかりませんが」

「やる気はあるのか?」

「出店が好きなのと、作りたい欲はあります。プロの料理人に勝てるとは思いませんが、カレーと料理人の技術を知りたいのもあって」

「俺の作ったカレーでよければ、食べてもらおうか」



 それから待つこと1時間弱。ビスコさんの作ったカレーを食べて衝撃が走った。


 この料理は美味しい…。何種類もの香辛料が見事に合わさって、深い味わいでコクのあるスープ。肉や野菜とも抜群が相性で香りも食欲をそそる。辛味が強いけど嫌な辛さじゃない。身体を温めて鼻に抜けるような辛さ。流行しそうな料理だ。


「基本的な食材と調理法で作った。まだ独自の味付けじゃない」

「充分すぎるほど美味しいです。作り甲斐がありますね」


 香辛料の組み合わせ次第で味が無限に広がる可能性を感じる。一流の料理人達は、この料理をどう進化させるのか気になって仕方ない。そして、自分はどこまで美味しく作れるのか。出店とはいえ、魔法武闘会と同じくらい興奮する。末席でもいいからやってみたい。


「皆は独自に手を加えてくるはず。俺も研究しているんだ。是非会場で会おう」

「参加できたらその時はよろしくお願いします」


 参加要項や注意事項が書かれた紙と、ビスコさんの署名だけ書かれた申込書を受け取り、推薦してもらえるかお願いするタメに一緒にフクーベへと向かう。






「もちろん推薦させてもらう」


 ランパードさんに事情を説明したら笑顔で署名してもらえた。


「頼み事をするときしか顔を出さなくてすみません。ありがとうございます」


 現金すぎる行動だという自覚あり。


「俺の方が酷いぞ。君には散々世話になっているのに、一度も森に行ってないんだ。協力できることならなんでも言ってほしい」

「旦那さんは忙しいから仕方ないだろ。そんな堅苦しいことは抜きにして、アタイに新作はあるんだろうね?この間のは解いちまった」

「もちろん持ってきたよ」


 作っておいた知恵の輪をキャロル姉さんに渡す。急に訪ねたのに聞きつけて顔を出してくれた。


「何個繋がってんだい…。どんどん難しくなってるじゃないか」

「難易度を上げないと面白くないだろう?姉さんが解くからだよ」

「アタイのせいかい」

「ははっ!キャロルが持ってる知恵の輪は、難しいのに面白いと評判だ。ウチに卸してほしいくらいだ」

「卸すのは無理ですが、その評価は嬉しいです」

「当日暇があれば俺も食べに行く。頑張ってくれ」

「獣人を舐めてる奴らを驚かせてやりな」

「素人だから無理だよ。あと、参加できても変装するつもりなんだ」

「相変わらず目立ちたくないのかい」

「見向きもされないと思うけどね」


 獣人の料理人というだけで悪目立ちすること必至。ランパードさんと姉さんに別れを告げて、次に向かうはタマノーラ。目的はナバロさんに推薦してもらえないかお願いすること。仕事中なのに快く対応してくれて、事情を説明すると笑顔で署名してくれた。


「開催されるのは知ってた。喜んで推薦させてもらうけど、あのランパードさんと名前が並ぶなんて恐れ多いなぁ…。僕で認めてもらえるだろうか」

「ナバロさんで認められないなら参加しなくていいです」


 確かにランパードさんは大きな商会を束ねる大商人だろう。でも、ナバロさんも素晴らしい商人。商会の規模は違っても、この人の仕事や商才を過小評価するなら商業ギルドは見る目がないと断言する。


「その時は、タマノーラの祭りでボクの作ったカレーを食べてもらえませんか?」

「それはいいね」

「あと、気が早いんですが香辛料を仕入れてもらいたいんです。参加できないとしてもカレーは作るので」

「わかった。必要なモノを教えてほしい」


 現時点で判明しているモノと、他に使ってみたい香辛料の取り寄せをお願いする。


「仕入れの量は少なくていいです。このくらいで…」

「その辺りは僕に任せてくれないか。予測には自信がある。支払いはいつでも構わないよ」


 ボクの料理をよく知るナバロさんに任せたら安心だ。


「わかりました。他にもお願いしたいことがあって」

「なんだい?」

「店にある香辛料を見せてもらえませんか?」


 今日のカレーに使われていた香辛料の内、匂いや味で判別できたのは半分くらい。全く知らない香辛料もあった。少しでも知識を増やしたい。


「ランパード商会に行った方が種類も格段に豊富だと思うけどいいのかい?」

「知らない店員に気を使ってしまうんです。次々に知らない人が現れるのも苦手で」


 フクーベに住み始めた頃、興味があって大きな商会で買い物したとき、たった一度で『ボクには無理だ』と悟った。色々と勧められて自分のペースで品定めできず、買いたくないモノまで買って後悔した苦い記憶がある。

 雑貨を見たかったのに、なぜか薬草や包帯を買って帰ったなぁ。見た目の怪我が酷かったからだと思うけど、話術と勢いで断れなかった。気疲れと自己嫌悪が大商会に行った思い出。だからといって嫌いなわけじゃなく、ボクの性格に合わないというだけ。今なら要らないモノは要らないと断れると思う。ただ足は向かない。

 

「仕方ないことだよ。規模が大きいほど専門的な分野はそれぞれ分業制になる」

「理解してますが、落ち着いて話ができないのが嫌なのでナバロさんにお願いしたくて」

「わかった。店頭に並べてない在庫も全て見せるよ」

「ありがとうございます」


 全ての香辛料を見せてくれて、少しずつ味見もさせてもらえた。幾つかは料理に使えそう。


「かなり助かりました」

「気になる香辛料は持って帰って試せばいい。代金は後でいいから」

「いいんですか?」

「些細なことさ。思い立ったら直ぐにやりたい性格なのは知ってるからね」

「有り難いです。せめてものお礼に…」


 棚に陳列されている包帯に治癒魔法を付与したり、食材に『保存』を付与させてもらう。


「そこまでしてもらったら代金はいらないよ」

「ダメです。対価は大事だと教わったので」

「だよね」


 ナバロさんと別れて、全速力で住み家を目指す。早く作ってみたくて仕方ない。




 その日の夜。事情を説明して作ったカレーを試食してもらえないかお願いしてみたら、4姉妹揃って住み家に来てくれた。


「こ~れ~は、うまいっ!」

「美味しいです。パンにも合いますね」

「初めて食べるけど、美味しいですね~!」

「美味しいよ」

「ニャ!」


 シャノは食べてないけど、興味があるのか皆が食べる様子を眺めてる。お代わりまでしてくれた皆は満足した表情。


「ふぅ~!ごちそうさま!お祭りで売ったら人気出るよ!」

「そうかな?」

「祭りの楽しみが増えました。私達も手伝います」

「大変になると思います!」

「手伝い兼ねてダイホウから家族で食べに行こうかな~。たまには大きな祭りに行くのもいい」

「ボクは人間に変装するけど、それでもいい?」

「それじゃ無理。まだ兄ちゃんの魔法のことは教えてないから」


 ダイゴさん達には言ってもいいと思ってるけど、チャチャ的にはまだ早いらしくて、伝えるタイミングは任せてる。ボクとしては堂々とカズ達やララちゃんに魔法を見せてあげたいんだけどな。


「まだ出店できると決まってないし、忙しくならないと思うよ。もしダメでも料理人のカレーに興味があるから食べて研究してみたい」

「兄ちゃんが出せなかったらダイホウの祭りで作ってよ」

「出ても作るよ。とりあえず、食べてみてこうした方がいいっていう改善点はあった?」

「私はもっと辛い方がよかった。好みだろうけど、辛いと食欲が湧くよね!」

「濃い味なので、野菜や肉はもっと大きくていいと思います。子供向けなら柔らかく煮込んだ方がよさそうですけど」 

「パンに付けて食べたいので、もう少し粘り気があったら嬉しいです!いくらでもイケます!」

「香辛料が苦手な人には、もう少しまろやかな配合もありかも」


 沢山の意見をもらって色々な味を考えるのが楽しい。万人に好まれる料理なんてないけど、1つの料理でここまで可能性を感じるのは初めて。


「ウォルトさん!手伝うので早速作ってみませんか!」

「アニカさんは食べ足りないんですね」

「ち、違うよっ!『まるで飲み物みたいだった』なんて思ってないから!」


 まるで飲み物…。結構量があったと思うけど…。


「アニカは太らないから凄いよね~。冒険で動きまくってるとはいえ」

「昔からそういう体質で、身長も伸びなかったけど太らないから羨ましいです」

「お姉ちゃんも同じじゃん!お母さんに似たんじゃないかな!私と違ってチャチャは背が伸びたよね~。もう追い越された!」

「私はまだまだ成長します。油断させませんよ」


 4姉妹はどんな組み合わせで遊びに来ても仲がいい。誰がいてもいなくても変わらないからボクはとても気が楽。


「皆はケンカとかするの?」

「1回もしたことない。珍しいかもね」

「私は友達とケンカしたことがないです。アニカともしたことないよね?」

「ないと思う!言い合ったりした記憶がない!」

「私はカズ達としょっちゅうケンカしてるけど」

「でもさ、仲はいいけど私達には大きな火種があるんだよね…」

「白い炎が…」

「身を焦がす…」

「でも、決して嫌ではない…」


 シャノと一緒に首を傾げる。言ってることが意味不明だ。


「皆はケンカしても仲直りできるさ」

「ウォルトの性格だと、仲違いしたら『まぁいいか』ってそれっきりでしょ」

「ケンカするような友達がいないけど、その可能性は高いかな」

「そんな悲しいこと言うニャよ~」

「私達が相手にニャりますよ」

「ケンカしても仲ニャおりしましょう!」

「ニャ~んてね」


 妙に猫感を出してくる…。なにかを暗示しているかのように…。……まさか。


「もしかして…火種ってボクなのか?」

「「「「正解!」」」」

「参ったな…。皆が仲違いする火種にはなりたくないよ」

「仲が悪くなるなんて言ってないじゃん。火種って燃える切っ掛けでしょ?」

「そうです。ウォルトさんのおかげで、すっごく仲良くなりました」

「全部ウォルトさんのおかげです!」

「ホントにそう。むしろ感謝してる」


 なにが言いたいのかボクにはわかりそうにない。でも、噓じゃないのはわかる。


「とにかく、やるからには勝ってよ!皆で応援行くから!」

「頑張って下さいね」

「私は食べまくって売り上げに貢献します!」

「売り子は任せてよ」

「まだ決まってないんだけど…」


 もし店を出せたら、売り上げを気にするより沢山の人に食べてもらいたい。だから、別に無料でいいんだよなぁ。


「ダメだからね」

「ちゃんと代金はもらいましょう」

「他の人からすると反則です!タダでお腹が膨れるなら誰も他のは食べません!」

「お金を払うと正直に文句も言えるから、兄ちゃんはその方がいいよね?」


 思考を読まれてるな…。でもその通りだ。


 3人目の推薦人として、ボクの代わりにナバロさんが商業ギルドに申し込んでくれることになってる。もし出せることに決まったらやれるだけやってみよう。

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