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モフモフの魔導師  作者: 鶴源
602/690

602 デトックス

 早朝はあいにくの雨だったけれど、早い内に上がって蒸し暑くなった。


「シャノ。今日は暑いね」

「ニャ~…」


 ウォルトは住み家の影で横たわるシャノに話しかけた。気怠そうに『暑い…』と鳴いて森に向かう気配もない。少し体調が悪いっぽいから、消化にいいモノでも作って食べてもらおうか。


 虫の鳴く声だけが響く中、近場の結界に誰かが入ってきた。地中に沈めているから、魔導師以外には気付かれないと思ってる。住み家の角から覗くと、帯剣した知らない人間の男性2人が近づいてくる。若く見えるけどどうだろう?


「よかった。人がいた」

「ホッとするな」


 とりあえず対応する。


「なにか用ですか?」

「話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」

「構いません」


 背が低い方の若者が口を開いた。久しぶりに丁寧な話し方をする者に会う。最近森に現れるのは横柄な奴が多い。


「ココは動物の森のどの辺りでしょうか?不覚にも迷ってしまいまして」

「どこから来たんですか?」

「王都からです」

「王都に戻られるなら、方角はあっちです」

「ちなみに、ココから1番近い街はどちらでしょうか?」

「フクーベです。方角はあっちですね」

「なるほど。ありがとうございます。助かりました」


 2人はペコリと頭を下げる。


「よかったら休憩していきませんか?」

「え?」

「喉も渇いているのでは?飲み物を出します」

「いいのですか?」

「我々は助かりますが…」

「大したモノは出せませんが、それでもよければ」


 久しぶりに礼儀正しい人間に会って、なんだか嬉しくなって引き留めてしまった。最近は輩にしか絡まれてなかったから、匂いの爽やかさが際立ってる。


「お言葉に甘えます」

「助かります」


 住み家に招いて椅子に座って待ってもらう。知らない人の気配を察知したのか、シャノは小屋に行ったっぽい。飲み物は水でいいらしい。


「ふぅ…。最高に美味いです」

「生き返ります。水筒の中身も空になってしまって」

「遠慮せず飲んでください。水には困らないので」

「帰り際に少し分けてもらえないでしょうか?」

「いいですよ」

「ありがとうございます。それにしても…立派な家ですね。森に住んでらっしゃるなんて」

「ボクの持ち家ではなくて、住み込みで管理してるだけなんですが」

「そうでしたか」

「空腹ではないですか?なにか作りましょうか?」

「いえいえ!そこまでして頂くのは申し訳なさすぎます!」

「さすがに!」

「遠慮はいりませんが、せめて糧食はいかがですか?」


 趣味で作り置きしている糧食を手渡す。


「…美味いです!ホントに糧食ですかっ?!」

「うんまっ!こんなの初めて食うっ!」

「口に合ってよかったです」


 フクーベの孤児院に新作のレシピを提供するために日々研究している成果かな。いい勢いで食べてくれる。


「腹も膨れました…。満足です」

「不思議ですね…」

「水を飲むと腹持ちがよくなる糧食なので。料理には敵いませんが」

「なにからなにまでありがとうございます。申し遅れましたが、僕はリューゲンといいます」

「自分はゼノックです」

「ボクはウォルトといいます」

「なぜ見ず知らずの我々に親切にして下さるのですか?」

「最近、森で出会うのは輩が多かったので。貴方達は違うと感じました」

「それは

大変ですね。サバト騒動のせいだと思います」

「ところで、ウォルトさんは冒険者ですか?立派な剣が置いてあります」

「はい。1年経たない新人なんですが」

「僕等も冒険者ではありませんが、まだ駆け出しで」

「ある意味仲間ですね」


 この2人からは、スザクさんほどではないけど爽やかな風のような匂いがする。でも確かに冒険者ではなさそうだ。


「ご馳走になりました。ゼノック、そろそろ行こう」

「そうだな。ウォルトさん、ご馳走さまでした」

「王都に帰るのなら道案内しましょうか?」

「方角を教えて頂いたので充分です」

「明日までには帰らないとマズいので、早く出ます」

「鍛錬でココから王都まで往復したりするので、気にしなくていいですよ」

「す、凄いですね!」

「自分らは相当歩きましたよ?!」


 なぜか尊敬の目を向けられて、それならばと一緒に向かうことに。冒険者らしく剣を背負って行く。


「駆けていきますが、準備はいいですか?」

「はい」

「付いていきます」


 駆け出すと宣言通り付いてくる。


「速いっ…!」

「付いていくのがやっとだ…!」


 かなり抑えてるけどちょっと速かったか。視認されないよう自分に『鈍化』を付与する。このくらいでいい感じかな。


 30分ちょっと駆けて、2人のペースが落ちたところで軽く休憩する。


「んっ…んっ!ぷはぁっ!」

「水が美味いっ!」

「このペースで大丈夫ですか?4分の1近くは進みましたが」

「イケます!」

「気合い入ってます!」


 ふと気付く。…この匂いは。


「魔物に囲まれました」

「囲まれた…?おわっ!」

「いつの間にか魔物がっ…!」


 お馴染みのフォレストウルフが、5…いや、6匹。


「俺達が闘います!」

「任せてください!」

「ボクも余裕がありますよ」

「いえ!カネルラの民を守護するのは我々の使命です!」


 スラッと抜いた剣には、カネルラ騎士団の紋章が刻まれている。鞘に収められた状態では気付かなかった。冒険者ではないと言ったけど、2人は騎士だったのか。道理で礼儀正しいはずだ。軽装なのは任務中ではないからだろう。


「フゥッ!」

「セイッ!」


 洗練されていい動きだと思う。


「…っ!木が邪魔だっ!」

「狭いなっ!うおっ!?」


 茂る木のせいで剣を振る間隔が狭かったり、地面には根が張り出していたり、獣が掘った穴があったりと足場も悪い。対応しきれない経験不足が露呈してる。


「ぐあっ…!コイツ…!」

「シッ!」


 リューゲンさんの腕に噛み付いた魔物の首を斬り飛ばす。


「助かりました!」

「森は足場が悪いので、動き回らず待ち受けて突くか、小さく斬りつけると効果的です。一撃にこだわると危険です」

「なるほど!」

「確かに!」


 直ぐに戦術を修正して闘う2人は、ボクのような新人冒険者の意見にも素直に耳を傾け、確かな実力もある。ボバンさんやダナンさんはしっかり後進を育てているんだなぁ。


 その後は2人で倒しきった。


「ウォルトさんの助言が効きました」

「偉そうに言っただけで、倒したのは貴方達です。さすがでした」


 怪しまれないよう『治癒』の魔石を使って2人の傷を治療する。持参した回復薬も渡して使ってもらう。


「助かります…。実戦経験豊かな冒険者には敵いませんね…」

「自分らの準備不足に気付かされます…」

「落ち込むことはないと思います。森に住むと嫌でも覚えざるを得ない知識で、自分の弱さを知っているから備えが必要です。大切なのは今後に活かすことだと思います」

「ウォルトさん…」

「その通りですね…」


 その後も駆けては休むを繰り返し、少しずつ王都へ近づく。大休止では倒した魔物を捌いて料理した。といっても簡単に焼き料理だけど。


「美味いっ!貴方はなんでもできますね!」

「本当に凄い!美味すぎます!魔物なのに美味いなんてっ!」

「食料を現地調達できるのは冒険の特権です」

「もっと勉強します!」

「自分達も負けないように!」


 この2人なら直ぐにできるようになるだろう。出会ったばかりの獣人冒険者の意見を取り入れようとする柔軟な思考の持ち主だ。結局6時間ほどかけて王都に到着した。


「今日はありがとうございました!コレ、俺の家の住所です!王都に来たら是非寄って下さい!」

「自分も一緒に住んでます!その時は酒と肴を驕りますんで!本当にありがとうございましたっ!」

「またお会いしましょう」


 東門に向かう2人を見送る。疲れ切っているだろうに、最後まで前向きに全力で走りきった。年齢を尋ねたら彼等はボクより少し若い。

 これから強く精悍な騎士に成長するんだろう。カネルラ騎士の清々しさを感じさせてくれた2人に感謝しつつ帰路についた。



 ★



 明くる日の早朝。カネルラ騎士団の訓練場には着替えたテラの姿があった。


 いつものごとく一番乗り…と思いきや、珍しく先客がいる。ゼノックとリューゲンの2人は私の同期だ。


「おはよう!2人とも珍しいね!」

「たまにはな」

「早めに来て鍛えようと思って」

「へぇ~。今まで来たことないのに、どういう風の吹き回し?」


 好きな子でもできて、やる気をアピールする気かな?


「昨日休みだったんだよ」

「気合いが入る出来事があってな」

「なにがあったの?」

「2人で動物の森に行ってさ」

「魔物を相手に腕試ししてみたかったんだ」

「気持ちはわかるよ~!」


 私達は実戦経験に乏しい。なんでもやってみたいんだよね。実際ウォルトさんに頼んでダンジョンに行ったのも貴重な体験ができた。


「実際に魔物と闘ってみると、知らないことばっかでさ」

「無知で無謀だって自覚したよな。それに、いろいろ学んだ」

「いろいろ?」

「闘い方とか心構えとか。準備の大切さもか」

「まずは己を知ることからってこともだよな」


 よくわからないけど苦笑いしてる。


「ところで、誰かに教わったの?」

「まあな。森に住んでる冒険者の獣人なんだけどさ、めちゃくちゃいい人だったんだよ」

「失礼だけど驚いたよな。俺らと大差ない新人って言ってたけど、そうは見えなかったし、冷静で格好よかった」


 …ん?


「動物の森に住んでる…獣人…?」

「森で迷ってたら、遠いとこに一軒家があったんだ。場違い感凄かったけど」

「水や食料を分けてくれて、いい人だったよなぁ。大恩人だよ」


 んん…?


「あのさ…そこに着くまで相当さまよったんじゃない…?」

「一昨日の夜から半日以上だから…相当歩いた。遠すぎて建ってた場所は覚えてない」

「当てもなく森で野宿してな。それもいい経験になった」

「どうやって帰ってきたの?」

「その人に道案内してもらって、一緒に走ってきたんだよ」

「速かったよなぁ。それでも俺達に合わせてくれてるのか余裕そうだった。6時間走って息も切らさないんだぞ?獣人が凄いのか、あの人が凄いのか」


 出会ったのはウォルトさんで間違いなさそう。けど、余計なことは言うまい。


「やる気が出たなら、とりあえず訓練しようか。私と手合わせお願いできる?」

「おぅ。俺は気合い入ってるぞ。実戦をこなしてきたからな!」

「テラには負けないぜ」

「へぇ。そこまで言うなら見せてもらおうじゃないの!」

「あのさぁ…俺が勝ったら今度デートしてくれよ」

「いいよ。負けないから」

「それはそれでどうなんだ」


 負けられない…。私の方が先に教わってるんだ!


 

 ★



 夜更けにウォルトの住み家を訪ねてきたのはダナンとカリー。2人を見たシャノが毛を逆立てて警戒している。


「シャノ。2人はボクの友人だよ。カネルラの英霊なんだ」

「ニャ~!」


 カリーが前に出てシャノに顔を近づける。


「シャ~ッ!」


 何度引っ掻かれても動じない。おそらくカリーの『なにもしない』という意思表示。さすがお姉さんだ。しばらく暴れて疲れたのか、シャノは部屋の隅で丸くなる。同じ空間にいてくれるってことは理解してくれたと思うことにしよう。


 ダナンさんにお茶を淹れて差し出す。カリーはボクの傍に座ってゆったりモード。


「いつの間にか猫と同居されているとは」

「身籠もっている間だけなんですが」

「そうでしたか。今日はお礼をお伝えしに来ました」

「お礼?なんのですか?」


 心当たりがない。


「先日、騎士団のリューゲンとゼノックを鍛えて頂いたのでしょう?」

「鍛えてはいません。王都まで共に駆けただけで」

「テラから聞いたのです。貴方に教わって2人の意識が変わっていたと。食料や水まで分けて頂き感謝しておりますぞ」

「自分でも珍しいと思いますが、手助けしたいと思ったんです。礼節を重んじる騎士の素晴らしさを再認識しました」


 人間っぽいことを思ったのは、ガレオさんの影響かもしれない。礼儀の大切さをしつこいくらいに教えてくれた。


「まだまだ若造ですが、そう思って頂けたなら幸いです。しかし、お灸を据えましたぞ」

「なぜですか?」

「詳しく確認したところ、準備不足にもかかわらずこの森で野宿するという無謀な行為にでていたのです。命があったからよかったものの」

「それは危険ですね」

「いかに素晴らしい才能があろうと、死んでしまっては意味がありませぬ。だからこそ貴方にお礼を言いたい。援護して頂き助かりました」

「お気になさらず」

「ニャ~」

「ブルル」


 気付けばカリーとシャノが寄り添っていた。あんなに警戒していたのに。


「森で暮らしていると、滅多に出会えない人や動物に会えます。騎士団の2人もそうです」

「ウォルト殿は街で暮らすつもりはないのですか?」

「今はないです。街のいいところが思い浮かばなくて」 


 騒々しくしょっちゅう絡まれ、なにより臭い。トゥミエくらいの田舎なら住めると思うけど。


「意外にないですな」

「街に住んでいた頃より、この森に来てからの方が出会いに恵まれています。だから、二度と住むことはないかもしれません」


 なぜか縁ができるのも、この場所に住まわせてくれた師匠のおかげ。


「ウォルト殿。騎士になる気はありませんか?」

「希望以前の問題で無理ですよ」

「騎士の精神があれば、老若男女も種族も問いませんぞ」

「命令違反する未来しか見えません。気ままで指示に従わない猫人騎士です」

「ニャッ!」

「そうだね」


 シャノに『それでこそ猫!』と言われた。騎士団は統率が重要な組織で、指揮官の意図を体現する必要があるだろうけど、とにかく命令に沿った行動ができない自信あり。


「残念ですな。訓練の見学だけでもお越し下さい」

「見学には是非行ってみたいです」


 騎士の闘気術には興味がある。まだ目にしたことのない技能を見れるかもしれない。


「いつなら都合がよろしいでしょうか?」

「可能ならいつでも構いません。それこそ明日でも」


 興味があるのは2人に出会った今だから。行くなら早い方がいい。時間が経ったらきっと行くことはない。


「では、明日共に王都へ行きませぬか?」

「わかりました。人間に変装はしますが、急に見学をお願いしていいんですか?」

「貴方なら構いませぬ。ボバン殿も…」


 話の途中でダナンさんの背後から忍び寄ったカリーが兜を噛んでスポン!と外す。首無し騎士はゆっくりテーブルに突っ伏した。


「ニャッ!?」

『話が長いのよっ!』

『急にどうしたの?』

『お喋り爺は放っておいて、リリサイドのところへ行きましょう。会いに行かないといい加減怒られそう』

『あぁ。そうか』

  

 シャノにもリリサイドとドナに会いに行くか訊いたら、珍しく『行く』と答えた。ダナンさんは来客用のベッドに寝かせて、カリーが相当離れた壁際に頭部を置く。


『地震でも起きて勝手にくっついたらたまらない』

『さすがにないと思うよ』


 外に出て夜の森を3人で駆ける。シャノは漆黒の闇に紛れて格好いい。




『いらっしゃい』


 リリサイドとドナの住み家を訪ねると、夜遅いのに歓迎してくれた。寝ているドナを起こすつもりはなかったけど、ボクらの気配に気付いたのか目を覚ました。準備してきたニンジンも渡す。保存魔法陣を備え付けてあるからいつ食べてもいい。


「シャノ…。ドナといっしょにねる…?」

「ニャッ」

「しょうがないなぁ…。シャノはこどもだからね…。ドナはねむくないけど…」

「ニャ~?」

  

 やっぱり眠そうなドナはシャノと寄り添って眠り、カリーと馬型のリリサイドが座って静かに話してる。

 あえて内容を聞くことはしない。ゆっくり話してもらいながら、この隙に住居の中を掃除したり、付与している魔法の効果を確認しておこう。引き続き2人が快適に暮らせるように。



 ★



 カリーはリリサイドと『念話』で話し、開口一番、意外な事実を告げられた。


『少し前に、ウォルトの住み家でディートベルクの王宮魔導師と遭遇したの。グラシャンだと直ぐに見破られたわ』

『まさかの遭遇ね。どうなったの?』

『いきなり魔法で攻撃されて、ウォルトが助けてくれた。かなり危なかったけれど』

『運がよかったわね』

『えぇ。3人いて、その内1人が1級魔導師。残りは2級以下だった』

『1級魔導師がカネルラに…?目的はサバトね』


 あの国の魔導師には位があって、特級魔導師を頂点に1級、2級魔導師が控えている。高位の魔導師が国外に出るにはそれなりの理由がいるはず。とにかく封建的な国だというのはグラシャンでも知っている事実だ。

 自国で編み出した魔法の流出は徹底的に防ぎ、他国の魔法を探り研究することに余念がない姑息な国家。


『その通りよ。庇ってくれたウォルトがサバトだと気付いて魔法戦になった』

『それで?』

『赤子の手を捻るように呆気なく逝ってしまった。彼がいなければ私は死んでいたかもしれない。奴らはグラシャンが不死身じゃないことを知っている。ただでやられるつもりはなかったけれど』


 グラシャンにも闘う術はある。何頭ものグラシャンを屠ったアイツらは知っているだろう。


『ディートベルクの1級魔導師に対するウォルトの評価は?』

『奴らは新人に違いないですって。可笑しいでしょ』

『ふふふっ。その言葉だけで気が晴れる…。本人には他意がないとしてもね…』

『勝手な話だけど、思い上がった魔導師に鉄槌を下してくれた気がして胸がスッとした』

『言動もそうだけど、ウォルトは魔法を通じて人を見てる。獣人だから舐められたんじゃない?』

『えぇ』


 ウォルトを相手に魔法戦を挑み、舐めてかかるのは自殺行為でしかない。圧倒的に格上の大魔導師に新人魔導師が挑むのと同意だから。白猫の大魔導師はどう思ったのか訊いてみようかしら。


 掃除や魔法付与で動き回るウォルトに『念話』を飛ばす。


『ウォルト。ディートベルクの魔導師と遭遇してどう感じた?』

『…ん?奴らは魔力だけは磨かれてたよ。ただ、人の話も禄に聞かず殺傷力の高い魔法を乱発する上に、魔道具に頼るような魔導師ばかりだったのが残念だ。先進国の魔法が見たかったよ』


 ディートベルクは、世界に名を轟かせる魔導師を多数輩出する国家。戦力として魔法を効果的に操る術を模索している。私も遭遇した経験があるけれど、常に不思議な杖や魔道具を持ち歩いていて、戦闘では強力な魔法を繰り出してくる。

 大抵のグラシャンは逃げるのが精一杯なのに、ウォルトにとっては脅威ですらなかったのね。自慢の魔法は一切通用せず、相手は絶望を感じたに違いない。

 相手の顔が見たかった。グラシャンに対して行ってきた所業を、初めて己の身を以て味わったのは因果応報ね。


『あの国には、もっと凄い魔導師がいるわ』

『奴らは新人だっただけで、腕のいい魔導師ばかりだろうね。そうでなければ魔法先進国なんて恥ずかしくて言えない』

『貴方ならいつか会えるでしょう』

『そうかな?その時は魔法が見れるといいけど』


 ウォルトは地位や役職に一切興味がない。あるのは相手自身と魔法に対する興味だけで、立場や下らない優劣に囚われない。魔法と言動を見て、客観的ではなく個人的に相手が尊敬に値するか否かを判断する。凄いと感じたら赤ん坊でも尊敬するでしょう。


『グラシャンとディートベルクの関係は知らないけど、困ったらいつでも言ってほしい』

『そうさせてもらうわ』


 話し終えるとまた忙しく作業を始めた。


 私はやっぱり貴方が好ましいのよ。

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