表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフの魔導師  作者: 鶴源
60/690

60 猫の尾を踏む

暇なら読んでみてください。


( ^-^)_旦~

「巷で噂の【騎士の亡霊】を知っているか?」


 カネルラ城内の騎士控室で休憩していたところ、騎士団長ボバンに急に訊かれた唯一の女性騎士アイリス。


「………」


 怖い話が苦手なのでとりあえず聞こえないふりをすることにしたけれど、団長はしつこく話しかけてくる。


「カネルラが戦争に巻き込まれた時、身を呈して王族と民を守り抜いた勇敢な騎士がいた。手厚く葬られたが、自分が死んでしまったことに気付かず亡霊となって周期的に姿を現すらしい。今年はその年にあたるそうだ」


 ありがちな話だ…と思いながらその先にちょっとの興味を示した。


「偉大な先人ですね。その騎士殿は王都のどこに出没するのですか?」

「王都には出没しない」

「では、王族を守るタメに現れるワケではないということですね」

「理由は不明だ。その昔、王都はこの場所ではなかったことを知っているか?」

「もちろん知ってます」


 カネルラの王都は過去に起こった戦争で大きな打撃を受け、一度焼け野原と化している。その後、国民が力を合わせて街を造り誕生したのが今の王都。


「だったらわかるな。以前の王都がどの辺りに存在していたのか」

「以前の王都の所在…。……まさか」

「そうだ。フクーベ周辺に出没するという情報がある。正確には、動物の森(アツマレ)にだ」

「現れると…民に被害が出るのですか?」

「過去の事例では目撃されただけで被害はない。しかし今回もそうとは限らん」

「確かにそうですね。ところで、なぜそれを私に?」

「騎士の亡霊がお前の知り合いに出会ったら面白いと思ってな」


 ウォルトさんが騎士の亡霊と出会ったと仮定してどうなるか?


 当然、相手がどんなタイプの亡霊かによる。王を守りたいという行動をとるだけで被害はない可能性もあるけれど、死霊の中には悪意を持って生者に危害を加える、いわゆる悪霊も存在するので一概には言えない。

 騎士の先人が悪霊になったなどと考えたくはないけれど、可能性がないとは言い切れないし、そうなればやはり討伐するしかないだろう。


 きっとウォルトさんは光属性の魔法を操る。『昇天』もその1つで、光魔法は主にアンデッドに対して強力な効果を発揮する。

 戦闘にならなければウォルトさんの性格からして、揉め事に発展することも考えにくい。相手がアンデッドであっても仲良くできそうな気さえする…。


 結果、どう転んでも心配いらないだろうと結論づけた。



 ★



 月の綺麗な夜。


 住み家で花茶をすすりながら佇むウォルトは、ある出来事について回想していた。それは、師匠がスケさん達を魔物のスケルトンから意思ある骨に戻した時のこと。


 あの頃のボクは、まだ魔法もろくに扱えず修練相手としてスケさん達が師匠に選ばれた。今は修練場となった洞窟でスケルトンに襲われた師匠は、どうやってただの骨に戻したのか?

 今まで深く考えたことがなかったなと思い、記憶を辿って欠片を繋いでみる。


「今からコイツらの中にある魔物成分を抜く。そうすれば生前の意思を取り戻す。黙って見てろ、ボケ猫」


 師匠は自慢気に言い放ち、襲い来るスケさん達に手を翳した。スケさん達はガシャンと崩れ落ちたものの、しばらくして立ち上がった時には正気を取り戻してボク達に話しかけてきた。腹立たしい師匠のドヤ顔と、凄く驚いたことを覚えてる。

「魔物成分を抜く」と簡単に言ったけど今ならわかる。あれは魔法だ。無詠唱で魔法を使っている師匠の姿と発した魔力色をハッキリ覚えている。


 魔法を発動するとき、属性や効果に応じて魔力が色を変える。炎なら赤系、水なら青系といった具合に。

 同じ属性であっても上位と下位の魔法では微妙に色が変化したりする。ただし、赤から青のように系統が大きく変化することはない。

 記憶を辿ると師匠は白い魔力を身に纏っていた。あの頃のボクは気にも留めなかったけど、今なら光属性の魔法を使ったのだろうと推測できる。


「この色で間違いないと思う」


 ポツリと呟いて、記憶を頼りに師匠が付与した魔法と同色の魔力を身に纏う。ここから先は様々な手法で発動までの道程を探求する必要がある。


 魔力色を視認し、知る色であれば相手が詠唱しようとしている魔法を特定できる。それを逆手に取ってまず魔力色を記憶し、色を寸分違わず完璧に再現して身に纏うことで逆算的に魔法を覚えることができる。ボクの予想では、多くの魔法使いがこの方法で魔法を習得しているはず。

 もちろん魔力を再現するだけでは魔法を習得できない。使いこなすには研鑽を積む必要があって、あくまで最低限の必須条件。


 この技法を使って、師匠が見せてくれた魔法のうち幾つかを自力で習得した。師匠が急に姿を消したので仕方なく編み出した苦肉の策でもある。

 あの魔法を習得することは可能だと思うけど、見たのはたった一度。さすがに今すぐ理解して使いこなすことはできない。



 ★



 動物の森のとある場所。


 漆黒の毛皮を身に纏う巨馬と、槍を片手に騎乗する全身を漆黒の甲冑で被われた何者かの姿があった。


「…ハヤク…イカナイト…」

「ヒヒン…」


 甲冑を身に纏う何者かが無機質な声で呟くと、鐙で巨馬に合図を送り、馬は嘶いて駆け出す。木の間を縫うようにして軽やかに疾走する漆黒の巨馬。


 だが、しばらく駆けたところで巨馬の動きが止まる。どうやら集団で尾行されていたらしく、いつの間にかハウンドドッグに取り囲まれていた。魔物は威嚇しながら囲みの範囲を徐々に狭め始める。


「マモノカ…。タオス…」


 ジリジリと距離を詰めていた魔物達が一斉に跳びかかる。


「ギャッ!!」


 一瞬だった。騎乗したまま振り回された槍によって全ての魔物が胴体を両断され息絶える。後ろから襲いかかった魔物は巨馬に蹴り殺された。


「イソガ…ナイト…」


 両断した魔物を気にする様子もなく、巨馬と何者かは先を急ぐ。



 ★


 

 夜も更けてそろそろ就寝だと考えていたウォルトは、眠る前に月を見たいと住み家の外に出た。

 今夜は雲も少なく満月でかなり明るい。輝く月を見上げながら、夜の冷たい風に毛皮が靡いて心地いい。


 ファ~ッ!と薄い舌を出しながら欠伸をして、家に戻ろうと歩き出した瞬間、異変に気付き耳が反応する。


 なんだ…?こんな時間に蹄の音……が近づいてくる。


 音のする方へ目を向けると、木の間から黒い巨馬と跨がる甲冑が飛び出してきた。


「ヒヒ~ン!」


 速度を緩めることなく脇目も振らず突っ込んでくる。視界に捉えた甲冑が抑揚なく呟いた。 


「ネコカ…。ジャマダ…」


 甲冑は騎乗したまま槍を振り下ろす。右手を翳しながら躱して即座に詠唱した。


『破砕』


 衝撃波が巨馬と甲冑を襲う。


「グウゥッ…」


 体勢を崩したものの落馬する程のダメージを与えられなかった。足留めには成功したようだが続けて詠唱する。


『疾風』


 馬と甲冑をまとめて斬り飛ばすために両手で十字の風を飛ばす。しかし、巨馬が俊敏な動きで躱すとボクに向き直った。


「ネコガ…マホウ…?」


 甲冑が呟いたことよりも別のことに気を取られていた。


「顔が…ない…?」


 突然の攻撃に面食らって気付く余裕がなかったけど向き直った巨馬には顔がない。首の途中からと言ったほうが正しいかもしれない。本来顔のあるべき箇所には、黒い瘴気のようなモノが揺らめいている。


 コイツらがアンデッドであることは匂いでわかる。どちらからも生者の匂いが感じられない。けれど、こんな姿をした魔物に遭遇したことはなく話すら聞いたことがない。


「ネコガ…。ジャマヲ…スルナ…」


 再び突進してくる巨馬。横に躱そうとしたところに振りかぶった槍が迫る。


「くっ…!『硬化』」


 腕を交差して受け止めたものの、衝撃を殺すことができず吹き飛ばされた。空中で回転して上手く着地すると、一旦思考を落ち着かせて状況を整理するタメに深呼吸する。


 邪魔をするなと言ったのか?この魔物の目的はなんだ?


「ネコノクセ二…ウケトメルトハ…。コシャクナ…」


 考えを巡らせていたところに、隙を突いて一瞬で間合いを詰めてくる。今度は馬上から無数の刺突を繰り出してきた。全て躱すのは無理だと判断して魔法で防御する。


強化盾(イージス)


 魔方陣のような模様が刻まれた半透明の盾が発現する。『強化盾』は物理攻撃を防ぐ魔法。術者の力量にもよるけど、余程の衝撃を受けない限り破壊されることはない。ただし、魔法は一切防ぐことができない。


「ムゥッ…!」


 魔物の槍は『強化盾』を貫くことはできず、勢いそのままに大きく弾かれた。巨馬の突進も同じく『強化盾』で受け止める。

 とりあえず話が通じるか問いかけてみよう。甲冑は言葉を発しているし、意思疎通が可能な気がする。


「お前達はなにが目的なんだ?どこかへ行こうとしてるのか?」

「ネコフゼイガ…ジャマスルナ…」


 眉間に皺を寄せる。さっきから猫を馬鹿にしたような口振りが癪に障るけれど、努めて冷静に語りかける。


「目的は知らないけど、街に向かうつもりなら止めなくちゃならない」

「オレハ……オウトへ…イク…」

「王都へ?なぜ?」

「モウイイ…。ダマレ…」


 槍の穂先に光が集まり、展開した『強化盾』に向かって再度刺突を繰り出してきた。


「くっ…!」


 光の正体に気付いて咄嗟に身を躱した。槍は『強化盾』を貫通して、ボクが立っていた場所に突き刺さる。躱していなければ直撃していた。


「『闘気』を…なぜ魔物が…?」


 しかと覚えている。アイリスさんと手合わせして、力を身をもって知った。カネルラ騎士が身に纏う『闘気』と同じだ。


「ネコノブンザイデ……カワスカ…」


 眉間に深い皺が寄り、ブチッ!となにかが切れた音が頭に響く。


 堪忍袋の緒が切れた。さっきから祖先(ネコ)を侮辱するような発言をなんとか堪えていたけど、度重なる侮辱に腸が煮えくりかえる。

 獣人は己の種族の祖先に敬意を払いながら生きている。とにかく野蛮な獣人でも同様。人間でいう神への信仰心に近いかもしれない。


 魔物に祖先を馬鹿にされ続けて……黙っていられるほどお人好しじゃない。

 

「何様のつもりか知らないが、さっきから猫を舐めたようなことばかり…」


 ローブを脱ぎ捨てモノクルを外し、『身体強化』を身に纏い魔物に向かって駆け出す。


「コシャクナ…」


 魔物も迎撃態勢を整えるが、ボクが間合いを詰める方が速い。接近して跳び上がり甲冑に向けて詠唱する。


『凍砕』


「ヌゥゥ……ゥ…」


 甲冑は凍りつき動きを止めた。


「ウラァァッ!!」


 間髪入れずに胴体に向かって全力の回し蹴りを叩き込むと、甲冑はヒビ割れて腹に大きな穴が空いた。華麗に着地して穴を見て気付く。


「実体がないのか…」


 鎧に空いた穴の中にはなにもない。がらんどうだ。実体のない魔物のようだが、最早そんなことはどうでもよかった。

 

「そうか…。だったら塵も残らないよう粉々にして……天に還してやる…」


 ボクは凶暴に嗤った。

読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ